教育訓練給付制度とは、雇用保険の加入者や一定の条件を満たす離職者が、資格取得やスキルアップのための講座を受講する際に、受講費用の一部を国から支給してもらえる制度です。
近年、働き方の多様化やリスキリングの重要性が高まる中、自己負担を抑えて学び直しができる制度として、多くの個人や企業から注目されています。
この記事では、教育訓練給付制度の基本情報から、個人向けのメリット・デメリット、企業視点での活用方法、申請手順や必要書類、注意点までをわかりやすく解説します。
目次
教育訓練給付制度とは国がスキルアップ・資格取得を支援する制度
教育訓練給付制度とは、雇用保険に加入している一定条件の労働者や離職者が、スキルアップや資格取得を目的に講座を受講するにあたって、その費用の一部を国から支給してもらえる制度です。
制度を利用することで、自己負担を軽減しながら専門知識や資格を取得することができ、個人のキャリア形成や将来の就職・転職活動に役立ちます。
教育訓練給付制度が注目されている背景
近年、働き方の多様化やAI・IT化による業務変化に伴い、従業員や求職者が新しいスキルを身につけるリスキリングが重要視されています。
また、転職市場の活性化により、資格取得や専門スキルの有無がキャリア形成に大きく影響するようになりました。
こうした背景から、教育訓練給付制度は個人だけでなく企業からも注目され、スキルアップ支援の有力な手段として活用されています。
教育訓練給付制度を利用できる対象者の基本条件
教育訓練給付制度を利用できるのは、原則として以下の条件を満たす方です。
- 雇用保険に一定期間以上加入していること
- 指定された講座・教育機関で受講すること
対象者や条件は給付金の種類によって異なるため、申請前に自分が対象かどうかを必ず確認することが重要です。
▶内部リンク
https://souken.shikigaku.jp/29616/
教育訓練給付金の種類は3つ
教育訓練給付制度には、大きく分けて「一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金」「特定一般教育訓練給付金」の3種類があります。
それぞれ支給対象者や対象講座、支給額が異なるため、自分の目的や条件に合った給付金を選ぶことが重要です。
ここでは、それぞれの給付金の特徴をわかりやすく解説します。
一般教育訓練給付金
一般教育訓練給付金は、主に仕事に役立つ資格やスキルを学びたい方向けの制度です。
比較的受講費用が低めの講座が対象で、短期間でも利用しやすいのが特徴です。
対象者
一般教育訓練給付金の対象者は、雇用保険に加入している被保険者で、原則として初めて給付金を受ける際は加入期間が1年以上、そうでない場合は3年以上ある方です。
受給するのが2回目以降の場合は、前回から3年以上経過していることが条件となります。
対象講座
一般教育訓練給付金の対象となる講座は、仕事に役立つ資格取得やスキルアップを目的とした指定講座です。
通学や通信、オンライン講座など幅広く対応しており、厚生労働大臣が指定した教育機関や講座である必要があります。
支給額
支給額は受講費用の20%で、上限は10万円です。
自己負担が軽減されることで、比較的手軽に資格取得やスキルアップに挑戦できるのがメリットです。
ただ、その20%が4千円未満の場合は受給できません。
専門実践教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金は、国家資格や高度な専門スキルを習得したい方向けの給付金です。
受講期間が長く費用も高めですが、支給額が大きく、キャリアアップや転職に直結しやすいのが特徴です。
対象者
専門実践教育訓練給付金の対象者も、雇用保険に加入している被保険者に限られます。
原則として加入期間が3年以上必要です。再就職やキャリアアップを目的として専門的スキルを学ぶ方が対象で、過去に専門実践教育訓練給付金を受給していないことが条件です。
対象講座
専門実践教育訓練給付金の対象となる講座は、国家資格や高度な専門資格を取得できるもの。受講期間は1年以上の長期講座が中心です。
実務に直結する内容で、厚生労働大臣が指定する教育訓練施設や講座のみが対象となります。
支給額
支給額は受講費用の50%で、上限は年間40万円です。
最大3年間で合計120万円と決められています。
条件を満たせばさらに追加給付が受けられる場合もあり、高額・長期の専門教育でも自己負担を大幅に軽減可能です。
特定一般教育訓練給付金
特定一般教育訓練給付金は、ITや介護など需要の高い分野の短期集中講座を受講する方向けの制度です。
短期間で集中的に学べるため、スピーディにキャリアアップを目指す方に適しています。
対象者
特定一般教育訓練給付金の対象者は、雇用保険の加入者ですが、加入期間は講座によって異なります。
一般教育訓練給付金の対象講座を短期間で集中的に受講する方も対象となります。
対象講座
特定一般教育訓練給付金の対象となる講座は、ITや介護、ビジネススキルなど需要が高い分野に限定され、厚生労働大臣が特に指定した講座のみが給付対象です。
短期集中型の講座でも給付金を活用できる点が特徴です。
支給額
支給額は受講費用の40%で、上限は20万円です。
短期間の集中講座でも利用できるため、スピーディなキャリアアップやスキル習得に活用できます。
教育訓練給付制度のメリット
教育訓練給付制度を利用すると、自己負担を抑えながら資格取得やスキルアップが可能になります。
ここでは、個人が教育訓練給付制度の利用で受けられる具体的なメリットについて解説します。
学費負担を軽減できる
教育訓練給付制度を活用すると、受講費用の一部を国から支給してもらえるため、スキルアップのための自己負担を大幅に減らせます。
一般教育訓練給付金なら費用の20%、専門実践教育訓練給付金なら最大50%が補助されるため、高額な資格講座や長期の専門講座でも挑戦しやすくなります。
キャリアアップ・転職に有利になる
教育訓練給付制度を利用してスキルや資格を取得することで、現在の職場での昇進や給与アップ、転職活動におけるアピール材料として活用できます。
特に専門実践教育訓練給付金は、国家資格や高度な専門スキルの取得にも対応しているため、キャリア形成に役立つでしょう。
資格取得・スキルアップに直結する
教育訓練給付制度の対象講座は、実務に直結した内容が多く、学んだスキルをすぐに仕事に活かせます。
短期間でのスキル習得や、特定分野に特化した知識の習得にも役立つため、効率的にキャリアアップを目指せるでしょう。
教育訓練給付制度のデメリット
教育訓練給付制度はメリットの多いものですが、誰でも自由に利用できるわけではありません。
ここでは、個人が教育訓練給付制度を利用する際の注意点やデメリットを解説します。
利用条件があり誰でも使えるわけではない
教育訓練給付金を受けられるのは、雇用保険の加入期間など一定の条件を満たす人に限られます。
一般教育訓練給付金は加入3年以上、専門実践教育訓練給付金は加入3年以上など、給付金の種類によって条件が異なります。
条件を満たさない場合は利用できません。
対象講座が限定されている
教育訓練給付制度の対象となるのは、厚生労働大臣が指定した講座や教育機関のみです。
受講したい講座が制度の対象外であれば、給付金は受けられません。
申請や手続きに手間がかかる
教育訓練給付金を受けるには、事前の申請や受講後の修了証明書提出など、一定の手続きが必要です。
書類不備や申請期限を過ぎると給付が受けられないため、手続きの流れを事前に確認しておくことが重要です。
企業が知っておきたい教育訓練給付制度の活用方法
教育訓練給付制度は、個人だけでなく企業にとっても従業員育成の効率化や教育投資の最適化に役立つ制度です。
企業が制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、従業員のスキルアップやモチベーション向上、離職率低下などの効果が期待できます。
ここでは、企業が具体的に制度を活かす方法を解説します。
従業員育成に教育訓練給付制度を活用する
企業が従業員のスキルアップや資格取得を支援することは、業務効率化や組織の競争力向上のために重要な取り組みです。
しかし、研修費用や外部講座の受講料など、従業員教育には一定のコストがかかります。
そこで教育訓練給付制度を活用すると、受講費用の一部を国から支給してもらえるため、企業負担を大幅に軽減しつつ従業員育成を進めることが可能です。
高額な専門講座や長期研修でも、制度を利用することで効率的に教育投資を行えます。
教育訓練給付制度を活用して従業員のモチベーションを高める
従業員は、自分のスキルアップや資格取得を会社が支援してくれると、働く意欲が向上します。
企業が積極的に教育訓練給付制度を活用すると、従業員は自己負担を抑えて必要な講座を受講できるため、安心して学習に取り組めます。
これは、従業員のモチベーション向上やエンゲージメント強化につながり、離職率の低下にも効果があります。
教育訓練給付制度を企業の戦略に沿った教育カリキュラムに活用する
教育訓練給付制度を活用すれば、受講費用の一部を国が補助してくれるため、低コストで戦略に沿った教育を実施できます。
例えば、IT部門ではプログラミングやクラウド関連資格、介護事業では介護福祉士やケアマネジャー資格など、企業の中長期的な人材戦略や事業目標に直結する講座を優先的に受講させることで、制度を最大限に活かせます。
制度を利用することで、費用負担を抑えつつ、従業員に必要なスキルを戦略的に習得させられるのが大きなメリットです。
教育訓練給付金の申請方法
教育訓練給付制度を利用するには、受講前から修了後まで、いくつかの申請手順を正しく行う必要があります。
手続きを間違えると給付金が受けられなくなるため、事前に流れを理解して準備することが重要です。
ここでは、受講前から修了後までの申請の流れや、ハローワーク・オンライン講座利用時の注意点を解説します。
申請の流れ
教育訓練給付金を受け取るための申請は、受講前、受講中、修了後の3段階に分かれます。
それぞれで必要な手続きや注意点が異なるため、段階ごとに整理しておくとスムーズです。
受講前の手続き
受講開始前には、まずハローワークで給付金の事前申請を行います。
必要な書類は雇用保険被保険者証や身分証明書、申請書類などです。
受講する講座が教育訓練給付制度の対象かどうかを確認し、指定の手続きを済ませてから受講を開始することが重要です。
受講中の確認事項
受講期間中は、講座の出席状況や学習進捗を確認しておく必要があります。
一部の給付金では修了要件として出席率や課題提出が条件となる場合があるため、受講中も必要な条件を満たしているか定期的に確認することが大切です。
修了後の手続き
講座修了後は、修了証明書や領収書をハローワークに提出して給付金の支給申請を行います。
提出書類に不備があると給付が遅れたり、受けられなくなる場合があるため、受講証明書や領収書は事前に揃えておくことが望ましいでしょう。
なお、教育訓練給付金申請に必要な書類とタイミングは以下の通りです。
書類名 | 用途 | 取得タイミング |
雇用保険被保険者証 | 被保険者確認 | 受講前 |
身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等) | 本人確認 | 受講前 |
給付金申請書 | 受講前申請 | 受講前 |
受講証明書 | 講座修了確認 | 修了後 |
領収書・受講料明細 | 支給額算定 | 修了後 |
口座情報(通帳写しなど) | 給付金振込 | 修了後 |
教育訓練給付制度を利用する際の注意点
教育訓練給付制度を利用する際には、いくつか注意点しておきたいポイントがあります。
申請手続きや受講の条件、給付の範囲など、確認を怠ると給付金が受けられない場合もあるため、事前に把握しておきましょう。
オンライン講座の場合は受講要件や書類形式を十分確認する
最近ではオンライン講座も増えており、教育訓練給付制度を利用しての受講も可能です。
ただし、オンライン講座には通学型とは異なる特有の注意点があるため、これらも事前に確認しておきましょう。
まず、受講する講座が制度の対象になっているかを事前に確認することが重要です。
また、出席状況や課題提出などがオンライン上でも正しく記録されているかどうかも確認しておく必要があります。
さらに、修了後に提出する受講証明書や領収書がオンライン形式でも正式に受理されるかを、あらかじめ教育機関に確認しておくことも忘れてはいけません。
制度改定や講座指定が変更になる場合がある
教育訓練給付制度は、年度ごとに給付率や対象講座が変更されることがあります。
そのため、受講を申し込む前には、必ず最新の情報をハローワークや公式サイトで確認することが重要です。
制度の改定により、当初予定していた講座が対象外になったり、給付率が変わることもあるため、事前確認を怠らないようにしましょう。
過去の受給履歴や給付額によって制限がある
同じ種類の教育訓練給付金は、過去の受給履歴に応じて制限が設けられる場合があります。
また、高額な講座や長期の研修を受講する場合は、給付金の上限額にも注意が必要です。
受給可能な金額や回数を事前に確認しておくことで、計画的に教育訓練給付制度を活用できます。
個人も企業も成長する教育訓練給付制度を活用しよう
教育訓練給付制度は、従業員のスキルアップや資格取得を支援するための国の制度であり、個人・企業の双方に大きなメリットがあります。
教育訓練給付制度を上手に活用することで、個人はスキルアップやキャリア形成、企業は効率的な人材育成と戦略的教育投資が可能になります。
まずは自分や従業員に適した講座を確認し、必要な手続きや書類を整理して、制度を最大限に活かしましょう。