業務に必要な知識やスキルを学ぶリスキリングは、企業にとって重要な取り組みの一つです。効果的なリスキリングを実施することで、自分自身の成長はもちろん業務の生産性向上も期待できるでしょう。
本記事では、リスキリングを推進するメリットや、実施するときの具体的な流れを解説します。
目次
リスキリングとは?
リスキリングとは、仕事に関する能力を再開発したり、再習得したりすることです。主にITやDX(デジタルトランスフォーメーション)に関するスキルの習得を目指すことが多く、社会の流れに対応するために、従業員に学習の機会を与える企業も増えてきました。
企業が主体となって従業員へリスキリングの機会を提供すれば、業務効率化やモチベーションアップを期待できるでしょう。ここでは、リカレント教育や単なる学び直しとの違いについて解説します。
リカレント教育との違いは?
リスキリングは、リカレント教育とは少し異なります。リカレント教育とは、学校を卒業し就職してから、必要なタイミングで勉強をすることです。リカレント(recurrent)という言葉には、繰り返すや循環するという意味があり、循環教育などとも呼ばれます。
リカレント教育の受け方は人それぞれですが、一時的に仕事を休職して勉強したり、転職のタイミングで大学に通い直したりする人が多いです。
リスキリングの大きな特徴は、リカレント教育とは異なり、働きながら学ぶ点です。基本的には休職したりはせず、仕事と並行して必要なスキルの習得を目指します。会社側から研修という形で学習の機会を与えるケースも多いでしょう。
学ぶ内容が特化されている場合があることも、リスキリングの特徴です。リカレント教育では、自分が興味のある分野の知識や、転職・独立のために必要なスキルの習得を目指すことが多いのですが、リスキリングでは業務効率化やDX推進のために企業が求めるスキルに特化して学ぶケースもあります。
リスキリングは単なる学び直しではない
リスキリングは単なる学び直しではありません。過去に学んだ内容を単純に復習したり、それぞれの従業員が好きなことを勉強したりするのではなく、企業が成長していくための学習であることが前提にあります。
企業側から従業員へリスキリングの機会を提供するなら、どのような知識が不足しているのか、どのようなスキルを習得させたいのかといったポイントを明確にしておくことが重要です。
リスキリングが注目されている4つの理由
リスキリングが注目されている理由としては、DXやAIが浸透してきたこと、労働力が不足していること、働き方が変わりつつあることなどが挙げられます。それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
1. DXやAIの浸透
DXやAIがビジネスの中に浸透しつつあることは、リスキリングが注目されている大きな理由です。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、IoTやビッグデータなどのデジタル技術を活用して、業務改善や新しいビジネスモデルの創出を目指すことを意味します。
社会の変化により、従来の仕組みやシステムが機能しにくくなったこともあり、DXを推進する企業も増えてきました。ただ、多くの企業がデジタル技術に詳しい人材がおらず、DXがうまく進まないという課題を抱えています。
そこで、従業員に対してITやAIに関するスキルと知識の習得を促すリスキリングが注目され始めました。社内で勉強会を開催したり、社外の研修会を利用したりして、既存社員の成長を積極的に促す企業もあります。
DXを推進するためには、今まで学んでこなかった専門知識が必要となるケースも多いため、リスキリングを実施する企業は今後も増えていくでしょう。
2. 労働力不足のカバー
少子高齢化による労働力不足が社会的な問題となっていることも、リスキリングに注目が集まっている理由の一つです。
新しい社員を採用しようとしても、そもそも労働力が不足しており、なかなか応募が来ないケースもあるでしょう。特に高度なスキルや知識を持つ優秀な従業員を、すぐに確保するのは簡単ではありません。
またリスキリングは、労働力不足をカバーするための方法でもあります。今いる従業員に新しいスキルを習得してもらうことで、DX推進や生産性の向上を目指します。
従業員に対してリスキリングの機会を提供することで、モチベーションアップや早期退職の防止も図れます。従業員に長く働いてもらう環境や体制が作れれば、少子高齢化であっても退職による労働力不足を防げるでしょう。
3. 働き方の変化
リスキリングが注目されている背景には、働き方が大きく変化したことも挙げられます。新型コロナウイルス感染症の流行により、オンライン会議やリモートワークを実施する企業が増えました。
クライアントが会社へ直接訪問する機会を減らし、オンライン商談などに変更している企業も多いでしょう。
オンラインサービスやクラウド型システムを導入して、働き方を改善する企業も見受けられますます。このような働き方の変化に対応するためには、デジタルに関連する知識の習得が欠かせません。
ある程度の知識がなければ、システムを使いこなして業務を効率化することは難しいでしょう。
デジタル技術に慣れている若い世代は問題ないかもしれませんが、アナログ技術を使ってきた世代に対しては、リスキリングを実施して必要な知識を習得してもらうことが大切です。
リスキリングの機会を提供することで、システムを使いこなせる人が増え、さらなる業務効率化が期待できます。
4. 国内外でのリスキリングに関する宣言
リスキリングに関する動きは、国内外で進んでいます。2020年のダボス会議(世界経済フォーラム年次大会)では、2030年までに世界中の10億人をリスキリングすると宣言されました。この宣言はリスキル革命とも呼ばれています。(※1)
日本政府もDX推進やリスキリングの支援を始めています。経済産業省による『第四次産業革命スキル習得講座認定制度』は、その一例です。(※2)
この制度は、デジタル技術など、将来の成長が見込まれる分野に関する専門的な教育訓練講座を認定するものです。厚生労働省では教育に関する助成金の制度mo
整えているため、うまく活用して従業員のリスキリングを図りましょう。
(※1)参考:「経済産業省」. リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―.p12
(※2)参考:経済産業省. 「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」
企業がリスキリングを推進するメリット
企業がリスキリングを推進することには、業務効率化を図れる、労働力不足に対応できる、主体的な人材を育成できる、といったメリットがあります。各メリットの詳細は以下のとおりです。
業務の効率化ができる
業務の効率化や生産性の向上を図れることは、リスキリングを推進する大きなメリットです。リスキリングを通して新しいスキルや知識を習得すれば、業務改善や能率アップをスムーズに進められます。
特にデジタル技術を活用するスキルを身につければ、業務の進め方を大きく改善できるでしょう。手作業で行っていた業務を減らすことは、残業代の削減やストレスの軽減にもつながります。
その分コア業務に集中できたり、企画やデザインといったクリエイティブな業務に取り組めたりでき、企業の成長や売上アップを期待できるでしょう。
労働力不足に対応できる
労働力不足に対応できることも、リスキリングを推進するメリットの一つです。前述のとおり、労働力不足は社会的な課題であり、人材の確保に悩んでいる企業も少なくありません。
リスキリングを推進することで、それぞれの従業員が新しいスキルを習得すれば、人材確保で苦労する場面は減るでしょう。同時に、採用コストの削減も実現可能です。
高度なデジタル技術を持つ従業員を採用すると、高額な人件費が発生してしまいます。採用コストを抑えたい場合は、リスキリングによる教育や人事異動で労働力不足に対応すると良いでしょう。
主体的な人材を育成できる
リスキリングは、主体的な人材の育成にもつながります。企業側から学習の機会を提供することで、社内に積極的に学ぶ雰囲気が醸成されます。周囲の人に触発されて、新しいスキルの必要性を感じることも多いでしょう。
主体的に学び行動できる人材が増えれば、企業全体の生産性も向上します。社内がポジティブな雰囲気に変わり、利益アップを狙えることもリスキリングを実施するメリットです。
従業員のエンゲージメントが向上する
従業員のエンゲージメントが向上することも、リスキリングを実施するメリットの一つです。エンゲージメントとは、所属している企業や部署に対する愛着や思い入れを意味します。
エンゲージメントの向上は、優秀な人材の流出を防ぐことにつながります。リスキリングを通して従業員のキャリア形成を支援することで、自社に愛着を持って長く働いてくれるでしょう。
エンゲージメントの向上により、モチベーションアップや生産性アップも期待できます。
新しい企画や事業、イノベーションが生まれる
リスキリングを実施すれば、新しい企画や事業が生まれやすくなるでしょう。商品やサービスを考案したり、イノベーションを生んだりするためには、新しい知識が欠かせません。
とはいえ、働きながら隙間時間で自ら学習して、新しい知識を習得するのは難しいです。新しい企画や事業をスタートしたいなら、企業側から従業員へ、積極的に学ぶ場を与えることが重要です。
リスキリングで何を学ぶ必要がある?
リスキリングにおいては、どのような内容を学ぶ必要があるのでしょうか。経済産業省による『第四次産業革命スキル習得講座認定制度』では、次のような分野を挙げています。(※)
- データサイエンス
- クラウド
- AI
- IoT
- デザイン思考
- アジャイル開発
- セキュリティ
- ネットワーク
- 自動運転
- 生産システム設計
リスキリングにおいては、知識を吸収するだけではなく、実務で役立つスキルを習得することも大切です。実践的な訓練を通して、デジタル技術を使いこなせる人材を育成しましょう。
※参考:経済産業省. 「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」
企業がリスキリングを推進するための流れ
リスキリングを推進するときは、求める人材像を明確に設定しなければなりません。さらに、現状と目標のギャップを把握した上で、学習プログラムを決定することが大切です。以下、リスキリングを進める際の流れを解説しますので、参考にしてください。
1. 企業の事業戦略に基づいた人物像を設定
リスキリングを推進する上では、企業の事業戦略を再確認して求める人材像や習得すべきスキルを設定することが重要です。目指すべきゴールを明確にしておかなければ、効果的なリスキリングを実施することはできません。
どのような知識やスキルを習得すべきかは、企業によって異なります。事業戦略に合わせて、できるだけ具体的な人物像や必要なスキルを設定しておきましょう。
2. 現状と目標のギャップを測定して周知する
現状を把握しておくことも大切です。現状と目標とする状態を比較して、不足しているスキルなどをしっかりと把握してから、リスキリングを実施しましょう。
不足しているスキルや知識を把握しておけば、どのような学習プログラムを組めば良いのかが明確になります。不足している部分が多い場合は、優先順位を付けて対応することも必要です。
3. 学習プログラムの決定
目標設定や現状把握が完了したら、学習プログラムを決定しましょう。学習プログラムの例としては、研修会や勉強会、eラーニングなどが挙げられます。
社内で研修会を実施する方法もありますが、難しい場合は外部の講師を招いたり、社外の勉強会に参加させたりするのも方法の一つです。
4. 従業員に学習プログラムに取り組んでもらう
準備が整ったら、従業員に学習プログラムを実践してもらいましょう。ただ勉強させるだけでは思うような成果が出ないケースもあるため、事前に学習の意義や目的を周知しておくことが大切です。
忙しくて学習プログラムに取り組めない場合は、業務量を調整する、上司へ学習の必要性を説明するなど、適切なサポートを行いましょう。
5. 学習したスキルや知識を業務に活かしてもらう
せっかくスキルや知識を吸収しても、業務に活かさなければ意味がありません。学んだ内容を積極的にアウトプットしてもらうように促しましょう。
仕事の中で実践することにより、さらに能力が高まることも期待できます。実践的な内容を学べる学習プログラムを利用することも重要です。
6. 効果検証や見直しをする
リスキリングを実施する場合は、効果検証や見直しを行うことも大切です。学んだ内容をしっかりと業務に活かせているのか、そもそも役立つ内容を学べたのかといったポイントを把握しましょう。
リスキリングを実施する前後の数値を比較したり、従業員へヒアリングしたりするのも良い方法です。あまり成果が出ていない場合は、学習プログラムを見直す必要があります。
企業がリスキリングを推進する際に押さえておくべきポイント
リスキリングを推進する場合は、目標設定や評価をしっかりと行う、協力体制を整える、社外のサービスを有効活用するなどのポイントに注意しましょう。
1. リスキリングの目標設定・評価を行う
前述のとおり、リスキリングを実施する際は、目標設定や評価をしっかりと行うことが重要です。
学習を行うことばかりに注目しがちですが、計画や評価をおろそかにすると、高い教育効果を得られません。目標を明確にしつつ、実施後の評価も忘れないようにしましょう。
2. 社内全体で協力し合える体制を整える
協力体制を整えることも重要です。リスキリングを実施しようとしても、通常の仕事を優先してしまうと、なかなか教育は進みません。
リスキリングの重要性やメリットを社内全体にしっかりと周知し、協力し合える環境を構築しましょう。
3. 社外のリソースやサービスを有効活用する
必要に応じて社外のリソースやサービスを活用することも大切です。社内にスキルや知識を教えられる人材がいない場合は、無理をせず社外のリソースを頼るようにしましょう。専門家に依頼することで、高い教育効果を期待できます。
リスキリングを推進して必要な知識とスキルの習得を促そう
DXや働き方改革を進めるためには、リスキリングを実施して新しい技術や知識を習得することが欠かせません。
目標設定・評価を行う、効果検証や見直しをするなど、適切な手順でリスキリングを推進することで業務効率化や生産性の向上を期待できます。社外のリソースを有効活用しながら、うまく進めていきましょう。