2023年は、日本を代表する大手企業を中心に管理職の賃上げがさかんに行われました。
産経新聞によると、2024年も過去最高の85.6%の企業が賃上げを予定しているそうです。
この記事では、これまで対象外になることの多かった管理職がなぜ賃上げの対象になったのかの背景や、どれくらいの賃上げが行われたのか、さらに賃上げ以外の動きについて紹介します。
目次
賃上げはベースアップと定期昇給の2種類
一般的に賃上げと呼ばれるものには、ベースアップと定期昇給の2つがあります。それぞれについて解説します。
ベースアップとは
ベースアップとは、従業員の基本給を一律に上げることです。
勤続年数や役職、年齢、成績などにかかわらず、すべての従業員に一律に適用される点が大きな特徴で、は「ベア」とも呼ばれています。
労働組合と企業間が協議して行われますが、労働組合がない企業であっても、企業の状況に応じてベースアップが実施されることもあります。
ベースアップの目的
ベースアップの目的は、物価上昇への対応と従業員のモチベーションアップです。
物価が上がったのに給与が変わらなければ可処分所得が減るため、ベースアップによって物価上昇分がまかなわれます。
また、勤続年数や役職に関係なく一律に実施されるため、ベースアップは組織全体のモチベーションアップにつながるというメリットもあります。
定期昇給とは
定期昇給は、年に1回など企業が定めた基準にしたがって定期的に行われる昇給のことを指します。
従業員の勤続年数や役職、年齢、評価などに基づいて昇給額が決定されます。
なお定期昇給は昇給の「機会がある」という意味で、業績や成績によっては必ずしも昇給があるわけではない点に注意が必要です。
管理職は賃上げの対象外?給与水準が上がらなかった理由
これまで、日本の企業では管理職の賃上げが積極的に行われてきませんでした。
その理由は、労働組合のあり方や管理職の仕事に関する考え方などにあります。
労働組合の春闘では管理職は対象外であることが多い
日本の賃上げ交渉は、春闘と呼ばれる労働組合と企業との春季労使交渉で行われることがほとんどです。
管理職はこの春闘の交渉の対象外となることが多いため、賃上げの対象になりにくいのが現状です。
そのため、日本の管理職層の賃金の伸びは停滞しています。
管理職は妥当な報酬だと感じている人が多い
東洋経済オンラインが実施したアンケートによると、現状の給与に満足している、妥当性を感じていると回答した管理職は全体の68%でした。
給与と仕事が見合ってないと感じている人は、わずか15%足らずです。
ほとんどの管理職が報酬に不満を持っていないので、積極的に賃上げが行われてこなかったと考えられます。
管理職の賃上げが活発化している背景とは
これまで一般社員の賃上げは定期的に行われていましたが、上記のような理由で、管理職は対象外であることがほとんどでした。
しかし、2023年春闘では数多くの企業が管理職の賃上げに踏み切りました。その背景には何があるのかを紐解いていきましょう。
少子高齢化による人材不足や優秀な人材の流出
昨今の少子高齢化による人口減少の流れは、ますます加速してきており、若年層はもちろん、管理職が多い中高年層も人手不足感は強まってきています。
優秀な人材が管理職になったときに賃金が安すぎると、人材流出のリスクが高まるでしょう。
そこでスキルのある管理職層を確保していくために、賃上げをしていこうという動きが生まれたのです。
賃上げによって管理職のモチベーションが向上したり、人材の流出が食い止められたりすれば、若手社員が働き続けたいと感じられる職場作りにもつながります。
関連記事:日本の人手不足問題は解決する?原因や国の対応を解説!
管理職より一般社員の賃金が多い逆転現象
管理職の賃上げが停滞している一方で一般社員の賃上げは毎年のように行われています。
そのため、一般社員が時間外労働をした場合、ある一定の時間を超えると一部の管理職の給与を上回るケースもでてきました。
つまり、役職は上なのに収入が低いという逆転現象が生まれたのです。
これでは管理職のモチベーションが上がらないため、管理職の賃上げを行う動きになってきていると推測されます。
若手社員の管理職志向の低下
現代の若年層は管理職志向が低いといわれています。
役職がなくても同じような給与をもらえるなら、わざわざ責任が重い管理職にならなくても良いというのが本音でしょう。
管理職という仕事に魅力を感じてもらうためには、賃上げを行うのが効果的です。
管理職に関する賃上げ以外の動き
企業は人材不足などのさまざまな課題に対して、賃上げ以外のアプローチも行っています。
具体的な動きについて見ていきましょう。
役職定年制度の廃止
役職定年制度とは、一定の年齢に達したら部長や課長などの役職を外れるという制度で、日本企業でよく見られますが、最近ではこの制度を廃止する動きも増えてきています。
そもそも、役職定年になると部下はいなくなり、給料も下がるのが一般的です。
そのため、管理職が役職定年を迎えると給与が下がってしまうため、高いスキルを持った人が流出してしまうリスクが高まります。
役職定年を廃止して待遇を引き上げることによって、しっかりと人材をつなぎとめ、人手不足を緩和させていく狙いがあります。
人事評価報酬制度の導入
人事評価報酬制度は、年齢や役職、勤務年数にかかわらず、企業への貢献度や評価によって従業員の報酬を決定する人事管理のひとつです。
これまでの日本の企業は勤続年数や役職で待遇を決める、年功序列型の報酬制度であるところが多かったのですが、昨今は成果に応じて報酬が決まる、人事評価報酬制度に移行しつつあります。
人事評価報酬制度であれば、評価によっては給与が下がるリスクがあるものの、結果を残せば賃金がこれまで以上に増える可能性があります。
管理職のスキルを正当に評価し、賃金に反映することで、人材の流出を防ぐ目的があります。
管理職の賃上げを実施・検討している企業事例
最後に、近年の間に管理職の賃上げを行った企業、または2024年に検討している企業の事例について紹介します。
沖電気工業株式会社
沖電気工業株式会社は、通信機器やATMなどの情報機器をメインに製造販売する電機メーカーです。
沖電気工業株式会社では9年連続で一般社員の賃上げを進めてきましたが、2023年は過去にない水準で賃上げを実施しました。
管理職の賃上げは8年ぶりに実施され、年収の平均8%の賃上げとなりました。
沖電気工業株式会社が管理職の賃上げに踏み切った理由は、一般社員が月30時間の時間外労働をすると、一部の管理職相当社員の給与を上回る「逆転現象」が起きたためです。
賃上げは一律ではなく、人事評価制度などの社内の仕組みを整えた上で、成果や役割に応じて比率を定める形となっています。
協和キリン株式会社
大手製薬会社である協和キリン株式会社は、2023年4月から管理職を含めて基本給を底上げするベースアップを実施しました。
これは2008年の労働組合発足後初めてのことです。ベアに相当する賃金改善額は、月1万2千円。管理職であれば、平均2%程度の上昇にあたります。
協和キリン株式会社の賃上げが行われた理由としては、急速な物価上昇に対応するため以外に、採用の競争力を高めて、会社全体のモチベーションを上げる目的となっています。
株式会社大和証券グループ本社
金融持株会社である株式会社大和証券グループ本社は、管理職含め、2024年度に7%以上の賃上げを目指しています。
国内外で進むインフレに対応するのが目的のひとつです。
この賃上げは、税制改正大綱で設けられた減税措置を活用する予定で計画されています。
また、現社長である中田誠司氏は、賃上げによって生産効率を上げ、収益を上げるという循環を回したいとも述べています。
日東電工株式会社
日東電工株式会社は、フィルムやマスキングテープ、絶縁テープなどの製造開発を行っている企業です。
2023年7月、約1,000人の管理職を対象に基本給を平均で約1割引き上げました。
管理職給与の改定は5年ぶりのことです。
さらに若手を管理職層に積極的に登用して、優秀な人材のモチベーション向上や採用での獲得力を高める狙いがあります。
オリックス株式会社
リースや金融事業をはじめ、自動車や不動産なども扱うオリックス株式会社は、2023年度にグループ社員の年収を最大10.4%引き上げました。
賃上げの主な対象は、事業領域の拡大に伴い、業務負担が増えている管理職です。
給与水準を引き上げて、優秀な人材を確保するのが目的です。
なお新卒を含む全一般社員には、一時金として一律15万円を支給しています。
デクセリアルズ株式会社
電子部品メーカーのデクセリアルズ株式会社では、4月から管理職の職務に応じて給与を定める「ジョブ型制度」を導入して賃上げを図りました。
難易度や重要性によって職務を階級分けし、基本給を設定。
さらに個人の成果に応じて最終的な報酬を決めて、最大で10~15%程度の昇給も行っています。
モチベーション向上や人材のつなぎ留めが賃上げの目的です。
管理職の賃上げは企業の成長に必要なステップ
これまであまり行われてこなかった管理職の賃上げが、2023年から活発になってきています。
その目的は、自社に貢献してくれる優秀な社員を確保するためです。
加えて賃上げ以外にも、高いモチベーションで働けるよう制度の見直しも始まっています。
賃上げを含め社内の制度を見直して、優秀な人材を確保し企業の成長につなげましょう。