評価制度にはトレンドがあり、シリコンバレーに本社を置く最先端をいく企業が、新しい評価制度を取り入れているのも事実です。
トレンドを自社の評価制度に取り入れるかどうかは一旦置いておいて、少なくとも社会の流れを知るために、評価制度のトレンドを抑えておくことは意義のあることだと考えられます。
そこで本記事では、人事評価制度の最新トレンドを紹介していきます。
また、トレンドを追いかけることのメリット・デメリットについても解説しました。
ぜひ最後まで読んでみてください。
関連記事:会社における評価制度とは?導入する目的と代表的な手法を紹介
目次
評価制度の最新トレンド5選
評価制度の最新トレンドは以下の5つです。
- 成果主義から役割主義へ
- 行動を重視している
- 評価期間が短くなっている
- ランクづけを廃止している
- 透明性が追求されている
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:評価制度を徹底解説!【目的・種類・導入手順を人事向けに紹介】
トレンド①:成果主義から役割主義へ
戦後の日本は、労働人口の約半分が自営業でした。
つまり、会社員の雇用者よりも自営業の方が多かったのです。
しかし、1950年代以降の高度経済成長に伴い、企業がどんどん大きくなったことに伴い、自営業は減少し、雇用者がどんどん増加していったのです。
そのため、企業による人事評価制度の歴史は、1970年代から始まることになります。
具体的な流れは以下の通りです。
- 年功主義型(1970年代):年功序列で待遇が良くなる
- 能力主義型(1980年代):資格や能力で待遇が良くなる
- 成果主義型(1990年代):成果で待遇が良くなる
- 役割主義型(2000年代):役割に基づいて評価される
1970年代は終身雇用・年功序列が一般的だったことに加え、量を増やせば増やすほど利益が出る時代だったので、年功主義型が一般的でした。
そのあと、量だけでなく質も追求する必要が出てきて、それに伴い、評価制度も能力主義や成果主義など、優秀な個人を高く評価する内容に変化を遂げます。
しかし、このような実力主義の評価制度は、短期的な評価になりやすく、長い時間をかける必要のある事業には向いていません。
そこで登場したのが役割主義型です。
役割主義型では、組織内における役割に応じて評価されるので、目に見えづらい部分も評価できる制度だと言えます。
トレンド②:行動を重視している
役割主義型への変化に伴い、以前に比べて行動そのものが評価されるようになっています。
従来の評価制度で重視されていたのは「勤続年数」「能力」「成果」でした。
一方で役割主義では「役割ごとに求められる行動」が重視されます。
企業から期待される行動に基づいて評価されるため、利益や成果に関係なく、企業にどれだけ貢献したかが正しく評価されます。
トレンド③:評価期間が短くなっている
テクノロジーの急激な発展に伴い、変化が激しくなっていることから、評価期間が短くなっている傾向があります。
従来の評価制度では、数ヶ月から1年の期間で評価が下されるのが一般的でした。
しかし現在は週に1度や1日に1度、場合によってはリアルタイムで評価が下されるようになっています。
これもテクノロジーの恩恵が大きく、従業員の行動をモニタリングできるツールが登場したからこそできる評価制度です。
また、役割主義になってから「行動」が評価基準になっているため、一定の期間を設ける必要性が薄れたのも、評価期間が短くなった理由として大きいと考えられます。
トレンド④:ランクづけを廃止している
現在、世界的に「ランクづけ」を廃止する動きが出てきています。
例えば営業職では、営業成績に則ったランキングが公開されるのが一般的です。
これにより、社内での競争意識が芽生えて、それがモチベーションに繋がると考えられています。
ではなぜ「ランクづけ」が廃止されるようになったのか。
その理由の1つに、Googleの研究チームが発表した「心理的安全性」という概念が挙げられます。
心理的安全性とは「組織の中で従業員が自分らしい立ち振る舞いができるかどうか」を示したもので、Googleは「効果的なチームを作るためには心理的安全性が最も重要な要素である」と発表し、「競争を重視したストレスフルな環境では、心理的安全性を損なう可能性がある」と指摘したのです。
この発表以降、世界中で「競争意識<心理的安全性」の図式が信じられるようになり、結果として「ランクづけ」が廃止されるようになったのです。
トレンド⑤:透明性が追求されている
現代社会では「透明性」がキーワードになっているように感じられます。
現在、テクノロジーが急激に進化しているのも、透明性の権化とも言える「オープンソース」が普及したからだと言っても過言ではありません。
もちろん、評価制度も例外ではありません。
従来の評価制度では結果だけ発表するのが一般的でしたが、現在は、評価プロセスや評価基準も発表するのが一般的です。
評価制度を透明なものにして、従業員が納得してくれれば、その後のモチベーション向上や成長意欲の醸成に繋がる可能性があります。
評価制度のトレンドを追いかけるメリット
評価制度のトレンドを追いかけるメリットは以下の3つです。
- 時代に合わせた評価制度を構築できる
- 生産性向上が期待できる
- 新進気鋭の人材を獲得しやすくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット①:時代に合わせた評価制度を構築できる
評価制度のトレンドを追いかけることで、時代に合わせた評価制度を構築しやすくなります。
極端な例で言えば、これだけ変化の激しい現代社会で、旧時代型の終身雇用と年功序列を維持するのはナンセンスです。
よっぽどの理由がない限り、時代にマッチした評価制度を構築するのが賢明な判断だと言えます。
その点、評価制度のトレンドを追いかけ、実際に自社の評価制度に取り入れられれば、常に時代にマッチした評価制度を構築できるようになります。
メリット②:生産性向上が期待できる
評価制度のトレンドを追いかけることで、生産性向上に繋がる可能性があります。
世界的に実績のある企業が新しい評価制度を取り入れているからこそトレンドになっているわけなので、その評価制度が優秀である可能性は十分にあると考えられます。
また、従来型の評価制度を維持していて「もう頭打ちになっている……」という場合にも、新しい評価制度を取り入れることで、生産性が大きく向上する可能性があります。
関連記事:生産性向上の成功事例集5選|必要性と具体的な施策を解説
メリット③:新進気鋭の人材を獲得しやすくなる
評価制度のトレンドを追いかけることで、新進気鋭の人材を獲得しやすくなると考えられます。
新進気鋭の優秀な人材は、世界のトレンドに敏感です。
そのトレンドを真っ先に組み込んでいる企業に入りたがるのは、当然と言えるかもしれません。
逆に、未だに年功序列をベースにした評価制度を取り入れている企業に対して、新進気鋭の人材は「古臭い」というネガティブな印象を抱きます。
人材獲得の観点でも、常に「新しさ」を追求することは大切なのかもしれません。
評価制度のトレンドを追いかけるデメリット
評価制度のトレンドを追いかけるデメリットは以下の3つです。
- 自社にマッチしない可能性がある
- 評価制度が根付かなくなる
- マネージャー・人事の負担が大きくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:会社の評価制度は必要ないのか?廃止にする理由を紹介
デメリット①:自社にマッチしない可能性がある
どれだけ新しくて優れた評価制度だったとしても、それが自社にマッチするかどうかは別問題です。
もし自社にマッチしない場合、評価制度が正しく機能しない可能性があります。
評価制度のトレンドを追いかける際は、その評価制度が本当に自社にマッチするかどうかを吟味する必要があるでしょう。
デメリット②:評価制度が根付かなくなる
評価制度のトレンドを追いかけることで、評価制度が企業に根付かなくなる可能性があります。
先ほど紹介したトレンドの中に「評価期間が短くなっている」というものがありました。
たしかに評価期間は短くなっているものの、評価制度そのものが短期間で何度も変わっているわけではありません。
トレンドを追いかけるがあまりに、評価制度を何度も変えてしまうと、長期的な効果が期待できなくなってしまいます。
新しい評価制度を取り入れたい時は、まずテスト運用してみてから、会社全体に取り入れた方がいいかを判断するといいでしょう。
関連記事:社員への人事評価制度の問題点は?導入・見直し方法を解説!
デメリット③:マネージャー・人事の負担が大きくなる
評価制度のトレンドを追いかけすぎると、マネージャーや人事の負担が大きくなる可能性があります。
マネージャーや人事にとって、評価制度を新しく構築するのは、非常に手間のかかることです。
評価制度のトレンドを追いかけて、何度も構築し直すことになってしまうと、負担が大きくなってしまいます。
先ほども述べた通り、テスト運用を駆使して、可能な限りマネージャーと人事の負担を軽減させるのがいいでしょう。
トレンドを取り入れた新しい評価制度5選
トレンドを取り入れた新しい評価制度は以下の5つです。
- ピアボーナス
- バリュー評価
- 360度評価
- パフォーマンス・デベロップメント
- チェックイン
それぞれ詳しく解説していきます。
①:ピアボーナス
ピアボーナスは、従業員同士で報酬を送り合える仕組みのことを指します。
お互いの評価だけでなく、感謝の気持ちも可視化されるため、従業員の満足度が非常に高い手法です。
また、評価者が気づきにくい行動も、ピアボーナスであれば可視化しやすいのもメリットです。
このピアボーナスであれば、事務職などのバックオフィス職に対しても、業績に見合ったインセンティブを提供できます。
②:バリュー評価
バリュー評価は、自社の価値観に合った行動ができているかどうかで評価する制度です。
「役割主義」と「行動」を重視した典型的な評価制度だと言えます。
このバリュー評価であれば、従業員の業績や能力に関係なく、それぞれの役割に求められる行動だけを評価できます。
ただし、バリュー評価の「価値観」という評価基準は非常に定性的なものなので、明確にわかる指標がありません。
評価軸である「価値観」が明確に定まっていないと、バリュー評価が機能しなくなる可能性があります。
③:360度評価
360度評価は、上司だけでなく、同僚、部下、他部署の従業員などの、360度の視点から評価する制度のことです。
360度であれば多角的な評価が可能になるため、行動を評価するのに適しています。
また360度評価であれば、複数の従業員が複数の従業員をチェックするようになるので、コンプライアンス意識を高められる可能性があります。
ただし、複数の従業員から評価を集めるため、それなりに手間がかかるのがデメリットです。
360度評価は、あまり効率的な評価制度だとは言えないので、ツールを導入して手間を省略したり、評価期間の短い別の評価制度を組み合わせたりするのがいいかもしれません。
④:パフォーマンス・デベロップメント
パフォーマンス・デベロップメントは、先ほど紹介した5つのトレンドを全て凝縮したかのような評価制度です。
評価基準は成果や能力ではなく「行動」で、リアルタイムでフィードバックされます。
また、レイティングや相対評価は一切なく、パフォーマンスを促すための行動改善だけがフォーカスされます。
パフォーマンス・デベロップメントを効率よく実施するには、業務内容をリアルタイムで可視化するITツールの導入が必須です。
もしパフォーマンス・デベロップメントを導入するのであれば、それにあわせて、DXを一気に進めるのがいいかもしれません。
⑤:チェックイン
チェックインは、1on1ミーティングを頻繁に実施することで、リレーションシップを築き上げる評価制度です。
先ほど紹介したパフォーマンス・デベロップメントに比べると、チェックインは「部下と上司の関係性」にフォーカスしており、上司に大きな裁量権が与えられているのも特徴です。
評価基準も特に設けられていないことが多いため、良くも悪くも、上司によって全てが決定づけられる評価制度でもあります。
ただし、チェックインもノーレイティングを取り入れているため、心理的安全性は確保されているかもしれません。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 評価制度のトレンドは「役割主義」「行動重視」「ノーレーティング」などがある
- 評価制度のトレンドを取り入れることで、フレッシュな人材を獲得できる可能性がある
- 新しい評価制度を取り入れる場合は、それが自社にマッチするかどうかをテスト運用するのがいい
評価制度は、人事において最も重要な仕事の1つであり、パフォーマンスに直結する要素だと言えます。
また、従業員の働きやすさを決める大きな要因の1つです。
新しい評価制度は、若い人材に受け入れられやすい一方で、シニア層の人材に受け入れられない可能性があります。
そしてそもそも、その新しい評価制度が自社にマッチするかどうかがわかりづらいです。
新しい評価制度を導入する際は、一旦、テスト運用して様子見するのがいいかもしれません。