多くの大企業にとって、評価制度は「あって当たり前のもの」だと思います。
一方で現在、評価制度を廃止する動きが出てきているそうです。一体何が起こっているのでしょうか。
本記事では、会社の評価制度を廃止する動きについて解説していきます。
評価制度を廃止する理由や、評価制度を廃止して新たな評価制度を導入した企業事例も紹介しています。ぜひ最後まで読んでみてください。
関連記事:会社における評価制度とは?導入する目的と代表的な手法を紹介
目次
評価制度を廃止する理由として考えられるもの
会社の評価制度を廃止する理由として考えられるのは以下の5つです。
- 評価基準が不透明になりがちだから
- 評価者によって評価内容に差が出るから
- 評価内容に納得しない従業員が出るから
- 成果がわかりやすいから
- 社会の変化が激しいから
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:社員への人事評価制度の問題点は?導入・見直し方法を解説!
理由①:評価基準が不透明になりがちだから
評価制度を廃止する理由として、評価基準が不透明になってしまうことが挙げられます。
一般的に「優れた評価制度は評価基準がオープンになっている」とされています。
評価基準がオープンになることで、従業員の納得度が増すためです。
しかし、評価項目が定性的なものである場合はどうでしょうか。
例えば「組織のコミュニケーション活発化の貢献度」などです。
この定性的な評価項目は、評価者によって意見が大きく変わるため、必ずしも従業員が納得しない結果になることが考えられます。
弊社識学では、こうした不公平感が発生することを防ぐため、評価制度は定量的なもののみを採用するようにしています。
定性的な指標を取り入れない評価制度構築にご興味があれば、ぜひ弊社資料をご覧ください。
理由②:評価者によって評価内容に差が出るから
評価制度は評価者によって評価内容に差が出ることがあります。
定量的な評価項目であれば客観的な指標をベースに評価基準を決定できますが、定性的な評価項目は評価者の判断がベースになってしまいます。
企業としては、共同研修を実施して、可能な限り評価基準を画一的なものにしようと努力しています。
しかし、それでも評価者の質のバラつきを完全に阻止するのは不可能です。
特に近年は「脱・数字」の流れも発生し始めており「数字に囚われない評価」ということで、役割や行動などの定性的な評価項目を重視するようになってきています。
これだとなおさら、評価者の判断に委ねた形になってしまうのが理由です。
理由③:評価内容に納得しない従業員が出るから
評価制度を廃止する理由として、評価内容に納得しない従業員が出ることが挙げられます。
様々な企業が「従業員が離職する理由」を調査していますが、そこで必ず「評価内容に納得がいかない」がランキング上位に挙げられます。
「評価内容に納得しないことが離職に繋がる」ということで、評価制度を廃止するのも、十分に考えられる理由だと言えるでしょう。
従業員の離職は、補充のための中途採用コストを踏まえると、それなりに大きな損失です。
そもそも評価制度は、組織のパフォーマンスを向上させるために存在するものなので、従業員が離職してパフォーマンスが落ちてしまっては本末転倒な側面があります。
「評価内容に納得しない従業員が出るから」という理由は、評価制度を廃止する理由として十分に考えられるでしょう。
関連記事:退職を防ぐには「人事評価」が重要!その理由・対策まで解説
理由④:成果がわかりやすいから
評価制度が必要ない状況として、完全実力主義で、かつ成果が目に見えてわかりやすいケースが考えられます。
成果給が中心で、かつ放任主義の場合、評価制度の必要性は限りなくゼロに近いと言えます。
「バックオフィス業務含む会社全体で評価制度が必要ない」という状況はあまり考えられません。
一方で、営業特化型の実力主義のチームであれば、評価制度が必要ないというのも、わからなくはないでしょう。
評価制度を設けるまでもない状況は、一部では考えられそうです。
理由⑤:社会の変化が激しいから
2000年頃にインターネットが普及し、2010年頃からスマートフォンが普及し始めたあたりから、社会が急速に変化するようになりました。
価値観が目まぐるしく変わり、それに伴い、働き方も一気に進化しています。
そのため、これまで通用していた評価制度では全く対応できないケースが増えているようです。
評価制度は構築や普及に時間がかかることから、後手に回ってしまうことも珍しくありません。
以上のことから「いっそのこと評価制度を廃止する」というのも考えられそうです。
評価制度がないことで発生する3つの問題
評価制度を撤廃することで発生すると考えられる問題は以下の3つです。
- 生産性が低下する
- 人材が流出する
- マネージャーの負担が大きくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:評価制度を徹底解説!【目的・種類・導入手順を人事向けに紹介】
問題①:生産性が低下する
評価制度が無くなることで、生産性が低下する可能性があります。
評価制度によって下される「評価」をやりがいと感じる従業員が多いため、評価制度が無くなってしまうと、従業員のモチベーションが維持できなくなります。
また、評価制度にはPDCAサイクルの「C:Check」の役割もあります。
評価制度で実施される面談で、上司が部下にアドバイスすることで、業務効率がアップすることもあったはずです。
しかし、評価制度が無くなってしまうと、上司がアドバイスする機会が減ってしまうので、結果として業務効率が悪くなってしまうのです。
逆に言うと、評価制度を上手に活用すれば、組織のパフォーマンス向上に繋がるということでもあります。
関連記事:能力評価とは?評価項目やメリット、導入・運用時の注意点などを解説
問題②:人材が流出する
評価制度が無くなってしまうと「適正に評価してくれない」ということで、人材が流出してしまう可能性があります。
先ほども述べた通り、評価をやりがいにする従業員は一定数存在します。
評価制度の難しいところは、評価されることに対して不満を抱く従業員がいる一方で、評価されないことに対しても不満を抱く従業員がいる点にあります。
どちらにしても、不満がたまることで、転職を視野に入れる従業員が出てくるのは間違いありません。
問題③:マネージャーの負担が大きくなる
評価制度が無くなることで、マネージャーの負担が大きくなる可能性があります。
評価制度の目的として「報酬・待遇の決定」が挙げられます。
評価制度で決定された評価を基準に、報酬・待遇を決定するのです。
しかし、その評価制度そのものが無くなってしまうと、報酬・待遇の決定がマネージャーの一存で決められることになります。
これが、マネージャーの負担を大きくしてしまうのです。
マネージャーの業務量は多岐にわたっているので、これ以上、業務量を増やすのは望ましくないと言えます。
関連記事:中小企業が導入するべき人事評価制度とは?活用ポイントを解説
米国発の新しい評価制度「ノーレイティング」とは?
従来のアメリカでは、基本的に「成果」に基づいて評価が決定されていました。
実力主義で競争を煽る労働市場を構築できたことで、優秀な従業員がどんどん活躍できるようになり、企業も大きく成長できたのが、ここ20年の流れだったと考えられます。
しかし近年、評価内容に点数をつけて競争を促進させる評価制度を廃止する動きが出てきたのです。
このムーブメントは「ノーレイティング」と呼ばれ、新しい評価制度として注目されるようになりました。
ノーレイティングは、順位づけを一切行わない評価制度のことです。
ランクづけをしないことで、人材の競争ではなく成長を促すことができるとされています。
ノーレイティングが広まった理由
ノーレイティングが広まった背景として、有名企業が導入し始めたことが理由として挙げられるでしょう。
Microsoft、Google、GAP、アクセンチュアなどの有名企業がノーレイティングを採用し始めたことで、知名度が一気に上昇しました。
また、Googleの研究チームが発表した「心理的安全性」を重視する動きがあったのも、ノーレイティングが広まった理由として考えられます。
心理的安全性とは「自分の意見を安心して発言できる状態」を指しています。
そしてGoogleは「競争を促す環境では心理的安全性が担保されない」ことを研究結果として発表し、それから従業員間の競争を無くす動きが広まっていったのです。
そしてその代表例が、ノーレイティングだと言えます。
ノーレイティングのメリット
ノーレイティングのメリットは以下の通りです。
- 評価への納得感が得られやすい
- 多様な働き方に対応できる
- モチベーションを高めやすい
- 外部環境の変化に対応しやすい
従来の競争を煽る環境では、成果を出すために積極的に残業するケースが見受けられていました。
一方でノーレイティングであれば、無理して成果を出す必要がなく、自分自身のライフスタイルを第一に、仕事に取り組めるようになります。
その結果、多様な働き方に対応しやすい組織を構築できるようになるのです。
ノーレイティングのデメリット
ノーレイティングのデメリットは以下の通りです。
- 上司の負担が増える
- 高度なマネジメントスキルが求められる
- 現場が混乱する可能性がある
- 自社にマッチしない可能性がある
これらのデメリットの中でも、特に考えなければならないのが「高度なマネジメントスキル」です。
競争を生み出さない環境の中で、従業員のモチベーションを高めるには、相当のマネジメントスキルが必要だと考えられます。
また、ノーレイティングに限らず、最新のマネジメントを常に学び続けられるようなマネージャーでないと、上手くやっていけないでしょう。
評価制度を廃止した会社3選
評価制度を一旦廃止して成果を伸ばした会社は以下の3つです。
- GE(ゼネラル・エレクトリック)
- サッポロビール
- マイクロソフト
それぞれ詳しく解説していきます。
①:GE(ゼネラル・エレクトリック)
トーマス・エジソンが設立したGE(ゼネラル・エレクトリック)は、元々9ブロックの評価制度で有名な企業でした。
しかし2016年に9ブロックを完全撤廃し、ノーレイティングを導入することにします。
評価制度を廃止した最大の理由は、変化の速さにより対応するためです。
従来の9ブロック制度は1年に1回だけ面談することになっていました。
しかし、これでは現代社会の変化に間に合いません。
そこで、面談の頻度が多いとされるノーレイティングが導入されることになりました。
また、当時のGEは事業変革の真っ最中で、それに伴い、カルチャーを変化させる必要があったとのことです。
GEのように、価値観を変えたいときは評価制度を変えてしまうのがいいかもしれません。
関連記事:【時代遅れな人事評価?】9ブロックの概要から導入の注意点を解説!
②:サッポロビール
サッポロビールは2020年に、20年ぶりに人事制度を刷新し、その際にノーレイティングを導入しました。
この新しい人事制度は「人材の育成」がメインテーマです。
特に「変化への対応力の強化」が最優先事項となりました。
その中で、管理職が「管理型のマネジメントから支援型のマネジメント」にシフトできるように、ノーレイティングが導入されました。
ノーレイティングが導入されることで、ランクをつけるための時間が、従業員をどう育成していくかを議論する時間に変わったそうです。
③:マイクロソフト
WindowsやOfficeを開発するマイクロソフトもノーレイティングを導入しています。
2000年代のマイクロソフトは、AppleやGoogleに遅れを取り、株価を大きく落としていました。
その理由の1つとして考えられていたのが「Stack Ranking System」です。
この評価制度は相対評価で20%の上位層、70%の中間層、10%の下位層が必ずできます。
つまり、組織全体でどんなに頑張っても、必ず10%の下位層が生まれる仕組みになっていたのです。
この制度により、従業員は競合他社ではなく、隣の従業員をライバル視するようになってしまいました。
この反省を元に、マイクロソフトは「Stack Ranking System」を廃止し、ノーレイティングを導入することになります。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 評価制度を廃止してノーレイティングが導入される流れが目立っている
- 従来型の評価制度が現代社会に対応できない可能性が十分考えられる
- 評価制度を廃止する場合は従業員の不満噴出に気をつけたほうがいい
評価制度を完全に廃止する大企業はほとんどないものの、ランクづけを行わないノーレイティングが普及しているのは事実のようです。
評価制度を取り巻く問題は、目的と手段の見誤りにあると考えられます。
評価制度は評価するために導入されるのではなく、組織のパフォーマンスの最大化や、働き方の健全化のために導入されるものです。
もし、本当に評価制度が必要ないと思うのであれば、無理に評価制度を導入する必要はないと言えるでしょう。