企業を構成する社員に求められる資質として挙げられるものは、複数存在します。
革新的なアイデアを生み出す創造力、困難を克服するバイタリティはもちろん重要です。
しかし、それらと同等、もしくはそれ以上に求められるのが、物事を論理的に思考して解決する能力、すなわち「ロジカルシンキング」の力です。
なぜなら、過去の失敗を認識し、対策や改善策を考案する場面において、論理的な思考力が必要不可欠となるからです。
また、自身や組織が置かれている状況を正しく分析し、適切な行動を導き出すためにも、論理的思考は欠かせません。
この記事では、社員の思考力を伸ばし、組織の成長と革新を促進するためのカギとなるロジカルシンキングについて、その意義を解説するとともに、社員のためのトレーニング方法について解説していきます。
目次
ロジカルシンキングとはどういうもの?
ロジカルシンキングは、いわゆる「論理的思考力」と言えます。
根拠に基づく意思決定・問題解決の能力として、「因果関係を正しく理解」し、「問題の原因を分析する」ことで「筋道の通った解決策を導き出す」能力のことを指します。
「因果関係を正しく理解する」というのは、目の前の現象がどのような原因・結果で生じているのか、そのメカニズムを把握するということです。
例えば、売上が下がってしまった際、「製品開発の失敗」「競合の新たな戦略」「市場環境の変化」のいずれか、あるいはこれら全てが原因である可能性があります。
ロジカルシンキングは、これらの要素がどのように関係して結果とつながっているのかを理解し、事象を因果の視点から見つめ直す際に用いられます。
また、「問題の理由を分析」することは、現象や問題の背後にある原因を洞察することを差し、また「筋道の通った解決策を導き出す」は、その原因を解決するための計画を立てる力を意味します。
まとめると、ロジカルシンキングは情報を整理し、関連性を見つけ出して、結論を導くための一連のプロセスです。
そして、これらの論理的な思考は組織内のコミュニケーションを明確にし、組織全体の生産性や効率性を高める重要な役割を果たします。
関連記事:ロジカルシンキングによる問題解決方法とは?論理的思考のための4つのプロセスを徹底解説!
社員にロジカルシンキングを身につけさせるメリット
社員がロジカルシンキングの力を身につけることは、社員のみならず組織全体にも多大な利益をもたらします。
さまざまなメリットの中でも代表的なものが、以下の3つです。
- 問題解決能力の向上
- 良質な意思決定の促進
- コミュニケーションの質の向上
以下、順番に解説していきます。
1.問題解決能力の向上
ロジカルシンキングは、問題を解決する際、より客観的で正確な視点を提供します。
多くの人々が、目の前の問題の背景やメカニズムを正しく理解せず、しばしば的外れな対応をしてしまうものです。
しかし、そこで問題の背後にある因果を正しく理解できれば、適切な問題解決につながります。
ロジカルシンキングはこの「深層の原因」を見つけ出すのに効果的です。
そして、原因と結果のメカニズムを正しく理解しているからこそ、効果的な解決策を導き出すことが可能となります。
関連記事:問題解決できない人に知って欲しい3つの原因とは?問題解決に必要な5つのプロセスも徹底解説!
2.良質な意思決定を促進
ロジカルシンキングは、情報を正しく整理し、正しく理解し、正しく評価するプロセスを強化します。
これは、特に管理職の社員などが意思決定を下す際に重要です。
感情や先入観に左右されることなく、客観的な事実と論理に基づいて決定を下すことが求められる場面は数多くあります。
ロジカルシンキングは、いわばそのためのフレームワークと言えるでしょう。
社員がロジカルシンキングのスキルを持つことで、組織が誤った判断に基づいて行動するリスクを最小化し、最善の結果を導くことできるのです。
3.コミュニケーションの質を向上
ロジカルシンキングは、コミュニケーションの質を向上させる効果もあります。
論理的に思考し、その結果を明確に表現できる社員は、他の社員とのアイデアの共有や議論を円滑に進めることができます。
一方で、論理的な思考に基づかず感情的な発言をする社員がいると、方向性を失った議論となって、適切な結論から逸れてしまうことが珍しくありません。
したがって役職者や管理層など、発言力がある立場の社員には最低限のロジカルシンキング能力を備えておくことが強く求められます。
組織全体がロジカルシンキングの重要性を理解している状態であれば、ムダな思考による誤解や「トンチンカンな行動」を減らし、円滑なコミュニケーションを交わすことができます。
結果的に、組織の生産性と効率性を向上させ、より良い業績を生み出すことができるでしょう。
ロジカルシンキングをトレーニングする方法
社員がロジカルシンキングの重要性を理解していない状態だと、ロジカルでない発言を指摘されても「何を理屈っぽいことを言っているんだ」「空気を読め」などと、まともに取り合わない可能性があります。
したがって、ロジカルシンキングのトレーニングを始める前に、その重要性と価値を社員全体に理解してもらうことが大切です。
それにより、「何を理屈っぽいことを言っているんだ」や「空気を読め」というような反応を最小限に抑えることができます。
上記を踏まえ、社員にロジカルシンキングの重要性とそのメリットを理解させた上で、以下のトレーニング方法を導入すると効果的です。
- ケーススタディを用いたトレーニング
- 論理的な思考のフレームワークの導入
- 反省とフィードバックの繰り返し
以下、順番に説明していきます。
1.ケーススタディを用いたトレーニング
研修などを通じて、ビジネスシナリオを模した具体的なケーススタディを使って問題解決の練習を行います。
これにより、実際の問題解決の経験を積むと同時に、ロジカルシンキングのスキルを具体的に適用する機会を提供します。
社員にとっても身近な話題として、自社が過去に経験した具体的なビジネスケースなどを例にすると良いでしょう。
ロジカルシンキングが日々の業務にどのように役立つのかを社員に実感させることができます。
2.論理的な思考のフレームワークの導入
フレームワークを使用することで、社員は情報を整理し、問題を論理的に分析する手法を身につけます。
次の章でより詳しく説明しますが、「MECE」や「5W1H」などといった思考のフレームワークについて、社員研修や日頃の勉強会などを通じて学習させることがおすすめです。
3.反省とフィードバックの繰り返し
研修の場だけでなく日常の業務を通じて、非論理的な言動のあった社員を第三者から指摘して思考過程を振り返らせ、論理性を少しずつ向上させていくように働きかけていきます。
論理的に思考する能力は一度研修を受けただけで身に付くものではなく、時間をかけて身につけて行くべきものです。
そのため、こういった日常的な指摘が最も大切なプロセスとなります。
まずは研修などでロジカルシンキングの基本的な概念やフレームワークを教えた上で、その後の日常の業務での指摘を通して訓練していく必要があります。
関連記事:部下への正しいフィードバック方法とは?手順やポイント、注意点を解説
ロジカルシンキングを支えるフレームワーク
最後に、ロジカルシンキングを支える思考のフレームワークについてご紹介します。
代表的なフレームワークとして、ここでは以下の2つをご紹介します。
- MECE
- 5W1H
1.MECE
MECEの原則は、世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼーによって提唱されたフレームワークです。
問題解決のプロセスを整理し、全体的な観点から見落としや重複を防ぎます。
この原則は、「ME(Mutually Exclusive、“相互に排他的”の意味)」と「CE(Collectively Exhausitive、“全体的に漏れがない”の意味)」に基づきます。
Mutually Exclusive(相互に排他的)とは、同じ問題に対する異なる解決策や視点が、互いに重複することなく、一つの視点から見たときに別々のものであることを意味します。
これにより、問題解決の過程での重複を避けることができます。
例えば、ターゲットとなる客層について想定する時、「男性と女性」という区分や「20代と30代と40代」や「関東地方在住者と関西地方在住者」といった区分は、それぞれの属性が被っておらず、「相互に排他的」と言えます。
一方で、「男性と女性と大学生」や「20代と30代と25歳〜35歳」、「関東地方在住者と神奈川県在住者」という区分では、それぞれに属性の被りが生じてしまっています。
これでは相互に排他的とは言えないので、このまま顧客ターゲット層の分析を進めると論理的に正しくない結果となってしまうことになるのです。
もう一つのCollectively Exhausitive(全体的に漏れがない)は、考えられるすべての可能性や視点について、“抜け漏れなく”網羅することを目指す原則です。
これにより、視点の見落としを防ぐことができます。
例えば、「関東1都6県の市場データ分析」というテーマの調査で、千葉県の市場データが抜けていれば、それは「抜け漏れがある」ということを意味します。
MECEは、上記のフレームワークに基づいた思考を自然に行うことを目指すものです。
関連記事:MECEとは?論理的思考との関係や重要性、フレームワークを解説
2.5W1H
5W1Hは、「Who(誰が)」「What(何を)」「When(いつ)」「Where(どこで)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の6つの視点から問題を分析するフレームワークです。
各視点は以下のような意味を持ちます。
- Who(誰が):誰が問題に関与しているのか、誰が行動すべきなのかを特定する
- What(何を):何が問題なのか、何を達成する必要があるのかを明確にする
- When(いつ):問題がいつ起きたのか、いつ行動すべきなのかを特定する
- Where(どこで):問題がどこで起きているのか、どこで行動すべきなのかを特定する
- Why(なぜ):問題がなぜ起きたのか、なぜその行動を取る必要があるのかを理解する
- How(どのように):問題をどのように解決するのか、どのように行動すべきなのかを計画する
まとめ
企業の成長と成功のためには、社員一人ひとりがロジカルシンキングの能力を身につけることが不可欠です。
ロジカルシンキングは、組織の構成員による問題解決能力の向上、良質な意思決定の促進、コミュニケーションの質の向上など、組織全体の生産性と効率性を高める効果を持っています。
ロジカルシンキングの力を身につけるためのトレーニング方法としては、ケーススタディを用いたトレーニングなどさまざまな方法があります。
まずはロジカルシンキングの重要性を社員が理解することが大切なので、これらのトレーニングを始める前に、ロジカルシンキングの重要性と価値を社員全体に理解してもらうことから始めましょう。