さまざまな業界で「人手不足」は問題となっていますが、なかでも介護業界の人手不足は深刻です。
しかし、問題に直面していながら、解決に動けていない介護事業者は多いのではないでしょうか。
情報は多くあるものの、具体的なアクションが見えなければ、一歩を踏み出すのは難しいものです。
本記事では、介護の人手不足に有効な解決策を6つ紹介します。
すぐに対応できる内容もあるため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:人手不足の解決策とは|具体的な方法と解決事例を詳しく解説
目次
介護の人手不足の解決策6選
介護の人手不足を解決する6つの対策は下記の通りです。
- 労働環境の整備
- IT導入による作業の効率化
- 組織課題の見える化
- 世間に対するイメージアップ
- 介護関連資格取得支援
- ターゲットを広げた積極的な採用
1.労働環境の整備
ここでは労働環境の整備の具体的な例として、働く人にとって重要な下記2つの内容を紹介します。
- キャリアアップ制度を設ける
- 社員用相談窓口の設置
キャリアアップ制度を設ける
介護職が取得できる資格の推奨とキャリアアップ制度の策定により、労働環境の改善が可能です。
なぜなら、「長く働くことで立場も収入もステップアップできる」という未来をスタッフに見せられるからです。
たとえば、介護福祉士の資格取得をスタート位置として、ケアマネジャーや生活相談員、サービス提供責任者など、資格取得によってさまざまな道が拓けます。
これらの資格取得支援を実施し、社内に相応のポストと給与体系を用意しておけば、意欲的に働いてくれることでしょう。
社員用相談窓口の設置
離職の大きな原因のひとつとして、人間関係が挙げられます。
利用者である高齢者はもちろん、スタッフ同士も含めた人間関係に不満や悩みを抱えている人が多いのも事実です。
人間関係の問題を放置しないためにも、社内に相談窓口を設けてスタッフが気軽に相談できる場所を作りましょう。
広く意見を吸い上げて対策を検討し、具体的な対策を講じて問題を軽減していくことで、労働環境は改善されます。
関連記事:【離職率の平均・業界別のランキングランキング】離職を防ぐ方法も解説
2.IT導入による作業の効率化
ITを導入することで作業の自動化や効率化が可能です。
ITツールでまかなえる業務は積極的に移行しましょう。
ITツールによって当該作業にかかっていた人員を削減し、人間にしかできない作業に注力できます。
ここでは例として、事務系システムと見守りシステムについて紹介します。
事務系システムの導入
勤怠やタイムシート・給与計算、施設利用者の情報管理やケアプランの管理をはじめとする事務作業は、ITツールの得意分野です。
スマートフォンやタブレットで操作できるものもあるため、介護で忙しいスタッフの手間も省けます。
関連記事:HRテックツールとは?導入のポイントやメリット、注目の理由を解説
見守りシステムの導入
部屋数の多い大型施設の場合、夜間巡回は大きな負担となっています。
そこで負担軽減におすすめなのが、モニターで全室の状況を監視でき、問題があればアラート表示される「見守りシステム」の導入です。
巡回数の削減で業務効率が上がるだけでなく、利用者の予期せぬ事故や問題を未然に防げるため、高い効果が期待できます。
費用や設置方法はさまざまな商品があるため、施設に適したシステムを検討しましょう。
3.組織課題を見える化
人手不足の大きな原因として、離職率の高さが挙げられます。
「なぜ離職するのか」という本質を解決しないと、いくら多くのスタッフを採用しても離職率は下がることはありません。
離職率の原因を知るためにも、まずは社内の組織課題を考えることが重要です。
日々の業務に追われて把握しきれない現場の課題を、下記のツールを使って見える化しましょう。
- サーベイツール:仕事に対する従業員の満足度を可視化する社内調査ツール
- アセスメントツール:客観的な数値基準で行なう人事評価ツール
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4.世間に対するイメージアップ
介護職に対する世間のイメージは、ネガティブな意見が多いのが実態であり、それが人材獲得の足かせにもなっています。
しかし実際にはポジティブな気持ちで働いている人もたくさんいるのが現実です。
こうしたイメージの差を縮めるためにも、イメージアップへの取り組みが重要です。
下記3つのメリットを当事者として発信しましょう。
- 人の役に立てる喜びを感じる
- プライベートと両立できる
- 資格取得によるキャリアアップができる
人の役に立てる喜びを感じる
介護職は、利用者がより良い生活を送れるようにサポートする仕事です。
つまり、利用者が生き生きと充実した人生を送れるかどうかは、スタッフによって決まります。
自分の介護を通して利用者が日々明るく笑顔になっていく様子を見ることはもちろん、施設利用者やその家族から「ありがとう」と言われることは何事にも変え難い喜びであり、やりがいといえます。
こうした「介護職だからこそ感じられる喜び」や、ちょっとした相談も含めて、人とのコミュニケーションが好きな人にとっては魅力的な仕事であることを伝えましょう。
伝える方法としては、ホームページやSNS、求人メディアなど、求職者や入居を考えている人、どちらからでも、施設に興味を持った人が見るところで構いません。
自発的に発信していくことが重要です。
プライベートと両立できる
世間的に介護職は忙しくて夜勤も多く、休日が少ないというイメージを持つ人も少なくありません。
プライベートと仕事の両立ができることが働く上で重要な要素となっている昨今、「実際はプライベートを確保できて、オフは自由に過ごせる」ことを発信しましょう。
もし実態が伴っていない、改善が必要な状態なのであれば、働き方を見直してスタッフがしっかり休める体制を確立することが大切です。
資格取得によるキャリアアップができる
資格取得によりキャリアアップができるのは介護職の強みです。
また、年齢や性別でキャリアアップの制限がないため、50歳を超えてから介護職に就いて介護福祉士や准看護師などの資格に挑戦できるのも、介護職ならではといえます。
資格が取得できれば職の幅が広がり、給与や待遇が向上するため、資格取得というハードルを超えるだけでキャリアアップが容易です。
こうした事実を知らない人も多いため、介護職の大きなメリットとしてきちんと発信しましょう。
発信する場所は、ホームページやSNS、求人メディアはもちろん、スタッフに対しても啓蒙すれば、モチベーションを高められます。
5.介護関連資格取得支援
介護職において資格取得は成長やキャリアアップに対する大きなキーとなります。
しかしスタッフの自発性に委ねていたのでは進展しない場合もあるでしょう。
そこで重要なのが、資格取得を施設主導で進めることです。
こうした活動は求職者にとってもポジティブなイメージを与えるため、採用活動でも有利になります。
また、有資格者を計画的に増員できれば、人員配置を含めた建設的な事業プランが立案可能です。
さらに、資格取得支援はスタッフにとってもモチベーションアップにつながり、給与にも反映できれば、結果として離職率を下げる効果も期待できます。
資格取得に関する学費返還免除制度が設けられている都道府県があったり、講師が出張して講義を開いてくれるサービス会社があったりと選択肢は広いので、前向きに検討してください。
6.ターゲットを広げた積極的な採用
求人を出しても応募がなかったり、採用できてもすぐ離職したりすると、採用に関して消極的になる企業もあります。
しかし、ここでやめてしまっては人手不足は解消しません。
ターゲットやアプローチ方法を変えて、人材獲得に取り組むべきです。
具体的には、ハローワークや各種求人広告への掲載だけでなく、転職エージェントや人材派遣・紹介会社も活用しながら、積極的に採用活動を展開しましょう。
また、外国人労働者を受け入れることもひとつの手段です。
外国人労働者の受け入れは厚生労働省も推奨しており、技能実習制度・EPA・特定技能などの制度に対して、補助金や助成金を設けている自治体もあります。
技能実習制度では2年〜10年、そして在職中に介護福祉士資格を取得すれば永続的に在留できるため、長期にわたって活躍してもらえる人材が確保可能です。
外国人雇用に不安な方も、介護業界特化のサポート会社があるため、ぜひ活用してみてください。
関連記事:ダイバーシティ経営とは?なぜ必要なのか?その理由や事例を徹底解説!
介護における人手不足の実態
解決策だけを講じても、介護を取り巻く現状や背景を理解していないと、本質的な解決にはなりません。
そこで、実態を表す下記3つを紹介します。
- 人手不足の現状
- 人手不足の背景
- 「介護の2025年問題」とは
人手不足の現状
少子高齢化の加速によって介護職に就くスタッフ自体も高齢化しており、今や全体の21.6%が60歳以上という調査結果も出ています。
2021年時点で全業種の有効求人倍率が1.13倍であるのに対し、介護職では3.60倍です。
高齢者の増加に反して働き手の数が圧倒的に少ないため、スタッフを求める施設が求職者を取り合っている状況となっています。
参考:「平成30年度介護労働実態調査について|公益財団法人介護労働安定センター」
人手不足の背景
人手不足は、高齢化による労働人口の減少が大きな原因です。
2017年で人口全体の27.7%だった65歳以上の人数が2018年時点で28.1%となっており、増加の一途を辿っています。
出生数が年々減少して少子化に拍車がかかっていることもあり、高齢者が増えて若者が減っていることが背景です。
介護職に限ったことではありませんが、働き手が年々減少するのはやむを得ない状況となっています。
関連記事:人手不足の原因とは?人手不足による影響と人材確保の対策を解説
「介護の2025年問題」とは?
2025年には人口の4分の1が75歳以上になります。
これが介護業界における大きなターニングポイントとなる「介護の2025年問題」です。
団塊の世代と呼ばれる第一次ベビーブーム(1947~1949年)生まれが75歳になると後期高齢者の比率が増し、介護サービスを希望する方が急増します。
しかし、介護業界は慢性的に人手不足であり、このままでは2025年になっても人手不足は改善するどころか、より拍車がかかるでしょう。
日本全体で見ても、社会保障を含む国の財政負担の急増が生活に大きな影響を及ぼすことも懸念されており、いわゆる「ねじれ」が大きな問題とされています。
今からでも有能なスタッフを確保し、施設の維持と発展への対策が重要です。
介護の人手不足は解決できる
介護職は利用者に健やかな人生を提供するとともに、直接接する分、喜びややりがいも感じられる素晴らしい仕事です。
こうした魅力と合わせて、相談窓口設置をはじめとした快適な職場作りに勤めていること、成長していけること、ステップアップしていけることなどをホームページやSNSを通して自ら発信しましょう。
最新のITツールを導入してスタッフの負担を減らしたり、資格取得支援をしたりすることは、求職者にとってもポジティブな印象を与えます。
一つひとつは小さいことかもしれませんが、積み重ねれば他社との差別化を図れます。
結果として施設の個性を高めることができ、人材獲得、その先の人手不足の解決が可能です。
まずは、取り組める改善策を1つ見つけて、実行に移してみましょう。