社員のリーダーシップを育てる取り組みをリーダーシップ教育と言います。これまでリーダーシップ教育は、一部の管理職やマネージャーに対して行うことが一般的でした。
しかし現在のリーダーシップ研究では、リーダーシップは特定のリーダーだけでなく、組織の全員が身に付けるべき能力だと考えられています。
本記事ではリーダーシップ教育の重要性や、リーダーシップ教育の方法や流れなどについて解説していきます。
目次
リーダーシップとは?
リーダーシップとは、組織やチームの目標を達成するため、他のメンバーに及ぼす影響力のことを指します。リーダーシップと言えば、リーダー(指導者)がイニシアチブを発揮し、チームを引っ張っていく能力を連想するかもしれません。
しかし、これはリーダーシップの枠組みの一部でしかありません。現代のリーダーシップ論では、チームを率いたりまとめたりする能力だけでなく、チームを影で支える能力やメンバーの行動をサポートする能力もリーダーシップに含まれます。
そのためリーダーシップは特定のリーダーだけでなく、全員が発揮するべき能力という考え方が普及しつつあります。
リーダーシップは全員が発揮できるもの
リーダーシップ論の世界的なベストセラー本、『リーダーシップ・チャレンジ(The Leadership Challenge)』には、「リーダーシップは全員の仕事(“Leadership is everyone’s business”)」という言葉が出てきます。(※)
現代のリーダーシップ論では、リーダーシップはリーダーだけが発揮するものではなく、全員が身に付けなければならない能力です。
例えば以下のような場合、リーダーがトップダウンで指示を出すよりも、全員がリーダーシップを発揮できる方が高い成果を生むことにつながります。
- 新しいものを生み出したり、新しいことに挑戦したりする場合
- 現場レベルの迅速な意思決定が求められる場合
- 高い専門性が求められる仕事の場合
入社して間もない新入社員であっても、小さなことから挑戦したり、提案したりすることで、チームに好影響をもたらします。リーダーシップを全員が学ぶべき資質として捉えて、リーダーシップ教育に取り組むことが大切です。
※参考:ジェームズ・M・クーゼス、バリー・Z・ポズナー.「リーダーシップ・チャレンジ」.原書第五版
リーダーシップ教育の重要性とその理由
リーダーシップは、先天的な才能やカリスマがなくても、後天的に身に付けられます。実際に大企業などでは、管理職やマネージャーにリーダーシップ研修を受けさせるケースが多いです。
しかし前述のとおり、リーダーシップは全員が身に付けるべき能力です。リーダーシップを開発するには、短期間の研修よりも新入社員の段階からリーダーシップの基礎に触れ、少しずつ実践していくリーダーシップ教育が大切です。
リーダーシップ教育は、実際にリーダーシップを発揮する経験と、自らの行動を振り返ったり、他者からフィードバックを受けたりする内省との要素で成り立っています。
全員がリーダーシップを発揮できる組織づくりに向けて、リーダーシップ教育を拡充しましょう。
リーダーシップは若い頃から学んでおくべき能力
リーダーシップの発達には、幼少期や青年期の経験が大きく影響します。例えば、リーダーシップを構成する主体性や共感力、責任感などの資質は、年齢が若い方が学ぶスピードが早いと言われています。
こうした問題意識を受けて、中学校や高校を対象としたリーダーシップ教育プログラムも増えてきました。
今後、入社前にワークショップなどに参加し、きちんとリーダーシップを学んだ新入社員が増える可能性があります。企業側も改めてリーダーシップ教育の在り方を見つめ直すことが必要でしょう。
リーダーシップを高めるために必要な4つの要素
リーダーシップを高めるために必要な要素には、以下の4つがあります。
- リーダーシップに関する考え方への理解
- 自己理解
- 倫理性・市民性
- 専門的な知識・スキル
まずはリーダーシップに関する考え方への理解を深めましょう。また自分の強みと弱みを知り、得意分野を伸ばすことも大切です。ここからは4つの要素について詳しくみていきましょう。
1. リーダーシップに関する考え方への理解
優れたリーダーになるには、リーダーシップ研究に基づいて、リーダーシップに関する考え方を学ぶことが大切です。
リーダーシップと一口で言っても、さまざまなスタイルが存在します。例えば以下に挙げる内容は、心理学者のダニエル・ゴールマンが提唱した6つのリーダーシップモデルです。違いに注目して知っておきましょう。
リーダーシップの種類 | 特長 |
ビジョンリーダーシップ | 自分のビジョンや価値観を言語化する能力に長け、チームメンバーを巻き込んでいくタイプのリーダーシップ |
コーチングリーダーシップ | チームがポテンシャルを発揮できるよう、コーチングによってメンバーの行動をサポートしていくタイプのリーダーシップ |
調整リーダーシップ | 面倒見がよく、メンバーの意見を調整するのが得意なタイプのリーダーシップ |
仲良しリーダーシップ | トップダウン型のリーダーではなく、チームメンバーと同じ目線で友好関係を築くタイプのリーダーシップ |
実力リーダーシップ | 高い業務遂行能力や専門性を持ち、頼れるリーダーとしてチームを牽引していくタイプのリーダーシップ |
指示命令リーダーシップ | トップダウンでチームメンバーに指示を出し、短期間で成果を出すのに向いたリーダーシップ |
2. 自己理解
自分にどのリーダーシップのスタイルが向いているかを調べるには、自己理解を深め、自分の強みと弱みを発見することが大切です。
例えば、周囲と友好関係を築くのに長けたコミュニケーション能力の高い人が、ワンマン型の指示命令リーダーシップを学んでもうまくいきません。
自分の強みと弱みを知り、どのスタイルのリーダーシップであれば、他のメンバーにより良い影響を与えられるかを考えましょう。
3. 倫理性・市民性
リーダーシップを高める要素に、倫理性・市民性があります。倫理性・市民性とは、メンバーの意見に耳を傾け、周囲の利益を優先する姿勢です。
例えば、企業を地域社会に置き換えてみると、自分の利益ばかり優先する住人には、地域の人々の支持はほとんど集まりません。地域社会で支持を集められるのは、所属するコミュニティの利益を第一に考えて、自分よりも公のために行動できるリーダーです。
優れたリーダーになりたい人は、組織やチームという一つのコミュニティを大切にする意識を持ち、周囲の人のために行動する倫理観を獲得しましょう。
4. 専門的な知識・スキル
どのスタイルのリーダーシップを育てる場合も、自分の専門性や得意分野を伸ばしていくことが大切です。『リーダーシップ・チャレンジ』においても、信頼を集めるリーダーの特長の一つとして、実力がある(Competent)ことが挙げられています。
全ての分野に精通する必要はありませんが、自分の好きなことや得意なこと、苦手なことについて深く学び、周囲に頼れるリーダーだと印象付けることが大切です。
リーダーシップ教育の方法
リーダーシップ教育の方法は、リーダーシップ研修やセミナーを実施する方法と、OJTなどで実際に経験を積む方法の2つに分けられます。それぞれの違いやメリットを解説します。
リーダーシップ研修やセミナーを実施する
前述したとおり、リーダーシップを高めるには、まずリーダーシップに関する基本的な考え方を知ることが大切です。リーダーシップの基礎を学ぶ場合、自社で実施するリーダーシップ研修や、外部の講師によるセミナーなどの教育方法が適しています。
こうした研修・セミナー形式の教育方法をOff-JTと呼びます。しかし短期間の座学だけでは、なかなかリーダーシップは身に付きません。社員が実際にリーダーシップを発揮できる機会を設けることが大切です。
OJTなどで実際に経験を積む
近年、注目を集めるリーダーシップ教育の一つに、経験学習型リーダーシップ教育と呼ばれるものがあります。経験学習型リーダーシップ教育とは、リーダーシップを実際に発揮し、その行動の良し悪しを誰かにフィードバックしてもらう教育方法です。
OJTなどを通して、社員が実際にリーダーシップを発揮する機会を設けましょう。社員の行動をマネージャーや他のチームメンバーが振り返り、良かった点や改善点を指摘することで、自分のリーダーシップの在り方を客観的に見つめ直せます。
リーダーシップ教育がうまくいかない理由
リーダーシップ教育がうまくいかない場合、以下の4つの原因を考えてみましょう。
- 組織内での優先順位が低くなりやすい
- 組織内で教育体制が整っていない
- 誰をリーダーに選ぶべきか分からない
- 効果が出ているのか分かりづらい
組織内での優先順位が低くなりやすい
リーダーシップ教育は、成果が出るまで時間がかかることが一般的です。またリーダーシップ教育を実施する上で、管理職やマネージャーなど、自社のリーダーとして活躍している人材の協力が必要になります。
このようにリーダーシップ教育には、時間や労力、コストがかかることから、ついつい後回しにされ、組織内での優先順位が低くなりやすいのが現状です。
組織内で教育体制が整っていない
中小企業などでは、リーダーシップ教育を実施するためのリソースが不足しがちです。組織内で十分な教育体制を整えられない場合は、外部のリーダーシップ研修の受講も検討しましょう。
人選を間違えてしまう
リーダーシップは組織の全員が学ぶべきものですが、新しいチームやプロジェクトを始める際に、公的なリーダーを選定する必要があります。しかし、リーダーシップ教育の経験が浅い組織の場合、誰をリーダーに選ぶべきか分からず、人選を間違えてしまう可能性もゼロではありません。
リーダーシップ教育において、チームの模範となるリーダーを育てることが重要です。自社にとって理想となるリーダーの要件を定義し、マッチする人材をリーダーに選びましょう。
効果が出ているのか分かりづらい
リーダーシップ教育を始めたばかりの頃は、なかなか効果が現れません。また何を持ってリーダーシップを開発できたとみなすのか効果検証のしにくさも、リーダーシップ教育の課題の一つです。こうした課題を解決するため、リーダーシップ教育の効果を高めるポイントを学びましょう。
リーダーシップ教育で押さえておきたいポイント
リーダーシップ教育で押さえておきたいポイントは2つあります。
- 教育の目的とゴールを明確にする
- リーダーの選定基準や方法を明確にする
まずは自社にとって理想のリーダー像を分析し、リーダーシップ教育のゴールを明確にしましょう。また理想のリーダー像から逆算し、リーダーに求める条件や選定基準をはっきりさせることも大切です。
教育の目的とゴールを明確にする
前述のとおり、リーダーシップの開発には時間がかかる上に、全社的な協力体制をつくり上げることが大切です。そのためには、なぜリーダーシップ教育を実施するのかを明確にし、問題意識を組織全体で共有する必要があります。またリーダーシップ教育の目的とゴールを明確化すれば、リーダーシップ教育の効果検証がしやすくなります。
リーダーの選定基準や方法を明確にする
自社にとって理想的なリーダー像をまとめることも大切です。リーダーシップと言っても、判断力や決断力、コミュニケーション力、問題解決能力、業務遂行能力など、さまざまなスキルセットが関わっています。自社のカラーやチームの特徴に基づいて、理想のリーダー像を設定しましょう。
理想のリーダー像から逆算することで、リーダーに求められる条件やリーダーにふさわしい人材の選定基準がはっきりします。リーダーの選定基準や方法を明確化すれば、より計画的にリーダーシップ教育のプランを考えられます。
リーダーシップが重要な理由を知り、リーダーシップ教育を実践しよう
次世代のリーダーを育てるため、リーダーシップ教育に取り組む企業が増えています。リーダーシップ教育とは、管理職やマネージャーのリーダーシップを開発する取り組みだけではありません。
現在のリーダーシップ研究では、リーダーシップは特定のリーダーだけでなく、組織の全員が身に付けるべきものだと考えられています。リーダーシップ研修や外部のセミナーの受講、OJTを中心とした実践を積み重ねていき、社員全員のリーダーシップを育てましょう。
株式会社識学では、組織におけるリーダーシップやマネジメント、組織づくりなどに関するお役立ち資料を無料で提供しています。管理職の方やマネージャーの方向けに無料マネジメント相談も受け付けているので、「組織を成長させたい」「リーダーシップを向上させるための方法を詳しく学びたい」といった方はお気軽にご利用ください。
リーダーシップを育成する6つの方法を徹底解説!