いつの頃からか、日本では「企業の10年生存率は、わずか1割にも満たない」という定説が半ば常識のように信じられている。
確かに、起業は簡単な決断ではない。
思いつきで経営者や自営業者になったところで10年もメシを食い続けられるわけもなく、この数字はなんとなく正しい気がする。
しかし、意外にもこの数字の根拠は、いくら検索しても信頼できるソースに行き当たらない。
本記事では、企業生存率についてデータやエピソードを交えて解説していきます。
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目次
「企業の10年生存率は、わずか1割にも満たない」は本当なのか?
わずかに、日経ビジネスWeb版で、
“ベンチャー企業の生存率を示すデータがあります。創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後はなんと0.3%です。非常に厳しい。”[1]
と、類似の内容を記述する取材記事に行き当たるものの、この記事ですら、そのデータの根拠が全く示されていない。
その一方で、実はこのような数字を否定する根拠はいくらでも出てくる。
例えば、中小企業庁がTDB(株式会社帝国データバンク)のデータを元に公表した企業の生存率に関する数字だ。
出所:中小企業庁「中小企業のライフサイクル」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf
この表は創業後の5年生存率を示したものだが、日本ではなんと81.7%だ。欧米に比べ圧倒的に高く、日経ビジネスが示す15%という数字とはあまりにも違う。
ただ、この数字はTDBのデータベース上にある企業がベースになっているので、実際にはTDBのデータに載ること無く廃業した会社も多いだろう。
そのため、実際の生存率よりも高い数字になっている可能性があることは注記されている通りだ。
そのため、別の資料にも当たってみたい。
出所:平成29年度中小企業白書「起業の実態の国際比較」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_1_1_2.html
こちらは、厚生労働省「雇用保険事業年報」により開業率・廃業率を算出し、国際比較を行った図だ。
ご覧頂ければ明らかだが、日本では、起業に踏み切る“勇気ある人”は少ないものの、一度起業に踏み切った人の生存率は、国際的に見て圧倒的に高い、という状況にある。
一方でこちらの図は、雇用保険加入事業者をベースにしているため、やはりある程度「本気で起業した人」をベースにした数字であることは否めない。
しかしながら、そもそも「本気でない人」まで含めた起業を参考にする必要が在るのかと言えば、無い。
もしかしたら、調べ尽くしたら「本気で起業をした人でも10年で9割が廃業する」という何かのデータに行き当たるのかも知れないが、真に受ける必要があるのかどうかは、これらの数字から考えてかなり疑問だ。
結果、少なくとも日本では、本気でビジネスを起こそうと考えている人には、実は起業に優しい社会なのかも知れない、という仮説に行き当たる。
しかしながら、残念ながらその仮説も必ずしも妥当ではない。
起業をしても多くの経営者が、志半ばでマーケットから退場している厳然たる事実がある。
では、これから起業を志す人は、これらの数字をどのように読み解けばよいのだろうか。
覚悟を持って起業を考えている人達に、一つの考え方を提唱してみたいと思う。
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起業して3ヶ月で廃業の危機に直面した
筆者は2011年、東日本大震災の年の6月に、大阪で起業した。
震災からわずか3ヶ月後のことであり、多少の不安がないわけではなかったが、自分のキャリアと知見に絶対の自信を持っていた。
大手証券会社で経験を積んだ後、いくつかのベンチャー企業でCFOを務めたが、その間に調達したエクイティは約20億円。
デットファイナンス(銀行借入)まで含めれば、CFOとして調達したお金がどれだけあるのか正直よくわからない。
要するに、自分が起業をすればいくらでもお金を借りられるという思い上がりがあったということだ。
そして起業当初、立ち上げには1300万円ほどの初期投資が必要だと試算していた。
その一方で、手元にあるのは600万円程度。
その中から、400万円ほどをすぐに設備投資に回してスタートアップの体制を整えると、さっそく日本政策金融公庫に起業資金の借り入れを申し込むために足を運ぶ。
政策金融公庫は、起業にあたり無担保・無保証で最大750万円ほどの融資をしてくれる国策金融機関なので、自分のキャリアを考えると簡単に貸してくれるだろうと考えていた。
実際に、この時に提出した事業計画書は、上場企業やVC(ベンチャーキャピタル)から数億円を調達した際に使った資料を雛にしている。
たかが750万円くらい、すぐに融資が下りると思っていた。
しかし2週間ほど後、手元に届いた審査結果を通知するペラ1枚のB5紙には「ご希望に応じかねます」という無情の文字列。
今どきB5サイズのペーパーということも相まって腹が立ち、グシャグシャに丸め、さらに引きちぎった。
そして、手元資金残りわずか200万円しかない状況にいきなり追い込まれ、このままでは創業3ヶ月で資金ショートするという危機的状況を迎えた。
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「お金を貸して下さい」と、親戚中を駆けずり回る
いくらなんでも、このまま死ねない。とはいえ、最低限の運転資金すらない。
思い余って親戚中に金策に走った。
正直、この経験は本当に辛かった。
「まじめに働きなさい!」と説教する叔父。
「悪いけど、これだけしか貸せない。次に来たら、縁を切るかも知れない。」と言って封筒に入れた10万円を出してくれた伯母。
相手の立場になったら当然の、冷たい反応ばかりを受け続けた。
結局、誰からもまとまったお金を借りられない中で、最後の最後に兄貴が300万円を貸してくれた。
「お前のことだから、大丈夫だろう。但し俺もリーマンだ。なけなしのお金だから頼むぞ。」
と言われ、振り込んでくれたお金。
通帳残高に300万円がプラスされた時の感謝は、忘れようがない。
お金とは、こんなにも有り難いものなのか。
CFOというポストでお金を調達する能力など、起業家に転身した時にはどれほど無意味なものであるのか。
そんなことを心から思い知らされ、惨めさと嬉しさで涙がこぼれた。
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段取りさえすれば、融資は受けられる
とはいえ、危機的な状況に変わりはない。
最低限の設備で最小限の経費だけを使い営業を始めたが、売上はなかなか伸びない。
しかし、逆に言うと僅かずつでも、売上が伸び始めてきたということだ。
そして、実績さえ出せば融資の芽があるかも知れない。
そう考えた私は、全講習を終了すれば信用保証協会融資への斡旋がもらえる、大阪市が主催する経営セミナーに参加を申し込んだ。
このセミナーは、大阪のような大都市だけでなく、地方都市でも広く開催されている起業融資制度の一環だ。
座学で「経営の基礎」を学べば、公的機関から融資の斡旋を受けられるという、とても心強い制度である。
正直に言って、その講習の内容は今さら知らないことなど何一つなかった。
しかしながら、謙虚な気持ちで全てのカリキュラムを終了すると、私は無事に信用保証協会への斡旋を貰うことができた。
そして、すでに売上実績を出し、事業に将来性があることも評価され、優遇金利で500万円の融資を受けることに成功する。
さらにその後、信用保証協会融資を受け、返済実績があることも考慮されて、政策金融公庫からもまとまった融資を受けることができた。
この資金を元に、やっと事業が安定した。
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まとめ 志があれば、“準備万端で”起業しよう
正直に言って、起業当初、「たかが750万円」の起業融資すら決済してくれなかった政策金融公庫を恨んだこともある。
しかし今から思えば、その判断は間違いなく妥当だった。
私の起業は正直に言って、計画的でなく、どちらかというと思いつきと勢いだった。
そして何よりも、お金を舐めていた。
ビジネス、世の中、起業、あらゆることを舐めていたといっても良いかも知れない。
いくらCFOといえども、経営トップではない。
そんな立場で得られた“信用”を、あたかも自分への信用であるかのように勘違いしていた。
そんな私を、何千、何万件という起業融資審査をしてきた政策金融公庫が、見抜けなかったわけがない。
さらに万が一、あのまますんなり融資がおりていたら、きっと私はさらに思い上がり、勘違いして会社を潰していただろう。
だが、0から与信を積み上げることに謙虚になり、できることから必死になって仕事を積み上げたら、信用保証協会は手を差し伸べてくれた。
さらにその後、政策金融公庫も無担保・無保証でまとまったお金を貸してくれることになった。
この経験から得られる教訓は、まさに冒頭でご紹介した、日本の起業をめぐる数字のとおりだ。
中小企業庁の統計のままであり、日本社会は本気で起業を考えている、「志」のある経営者にはとても優しい。
起業へのハードルは高くその入り口は非常に厳しかったが、しかし、一度本気で事業を起こした経営者には、様々な支援制度がある。
もしかしたら、出所不明の数字のように「10年で9割が廃業する」厳しい世界なのかも知れないが、こと“本気の経営者”に対しては、日本は起業に際して、優しい環境であることは国際的に見て、数字の上からも明らかだ。
志があれば、臆すること無く、勇気を持って自分の可能性を試そう。
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参照
[1]日経ビジネス 「創業20年後の生存率0.3%」を乗り越えるには
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/280921/022200058/