人種や性別を理由にキャリアアップを阻害されてしまう「見えない障壁」のことを、ガラスの天井と言います。
日本は女性管理職が非常に少なく、分厚いガラスの天井があることで知られていますが、実は女性のキャリアアップや昇進が阻まれてしまうケースは日本のみならず、国外でも発生しています。
本記事では、ガラスの天井の意味や起きてしまう原因に加え、解決策などを解説していきます。
目次
ガラスの天井とは
ガラスの天井とは、性別などを理由に管理職への昇進や出世が阻まれてしまう状態を指します。
直接的に言われることはなくても、「男だから」「女だから」という理由から、仕事で成果を出していても昇進が叶わない事例は少なくありません。
男女共同参画局が厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より作成したグラフを見ると、女性の管理職の割合が年々高まっているとはいえ、依然として男女平等とは言い難い水準です。
現代は女性の社会進出が当たり前となっていますが、「ガラスの天井」の存在、そしてそれを働く女性が感じるということは、女性の能力開発を妨げることになり、結果的に企業利益の逸失に繋がります。
そのため、職場環境の改善や優秀な人材確保を図る上では、ガラスの天井を解消することが重要なのです。
壊れた梯子との違い
ガラスの天井と似ている言葉に「壊れた梯子」がありますが、これも女性の社会進出を阻む概念を比喩する言葉です。
壊れた梯子は、米国コンサルタント会社が女性の役員比率が低い理由を調査した際に生まれた言葉で、「女性が昇進に向かって上る梯子は最初から壊れている」という指摘がされました。
ガラスの天井は、入社後に仕事で成果を出しても昇進や出世ができない障壁を意味しますが、壊れた梯子は「本人の能力に関係なく、梯子が壊れている以上は最初から出世は期待できない」という意味が込められています。
ガラスの天井指数(GCI)とは
男女の平等具合を指数化したものが「ガラスの天井指数」です。
これは、OECD加盟29カ国において、女性の労働参加率や男女の賃金差、高等教育を受けた男女の数字などをはじめ、下記の要素を勘案して算出しています。
- 高等教育
- 賃金格差
- 国会議員
- 役員
- 管理職
- GMAT(経営大学院)受験者数
- 労働参画率
- 育児費用
- 女性の育児休暇
- 男性の育児休暇
ガラスの天井指数が低いほど男女の不平等感が高く、女性差別が激しいことを意味しており、指数が高いほど男女が平等であることを意味します。
ちなみに、ガラスの天井指数2020の結果を見ると、日本はワースト2位という残念な結果に終わりました。
日本におけるガラスの天井の状況
日本では、女性管理職や女性の国会議員が少ないなど、ガラスの天井を感じる場面が多いのが実情です。
もう少し詳しく見ていきましょう。
ジェンダーギャップ指数
世界経済フォーラムは、各国の男女格差や不平等の度合いを測るための指標として「ジェンダーギャップ指数」を毎年公表しています。
指数は経済・政治・教育・健康の4分野をスコア化して算出されており、「0」が完全な不平等な状態、「1」が完全な平等を意味しています。
気になる日本のジェンダーギャップ指数ですが、2021年の日本の総合スコアは「0.656」でした。
数値だけ見ると「0.5を上回っているから、やや平等なのかな?」と思いがちですが、残念ながら順位は156カ国中120位という残念な結果でした。(引用元:世界経済フォーラム|「The Global Gender Gap Report 2021」)
また、主要7カ国の中では最下位なので、先進国の中でも日本の男女格差は大きいことが分かります。
女性管理職の割合
一般企業においても、日本は女性管理職がかなり少ないのが現実です。
ジェンダーギャップ指数の調査によると、日本の女性管理職の割合は14.7%でした。欧米各国の女性管理職の割合は軒並み30%を超えていることから、日本の女性管理職割合はかなり低いと言えるでしょう。
また、他にもスコアリングの理由として
- パートタイムの職に就いている女性の割合は男性のほぼ2倍である
- 女性の平均所得は男性より43.7%低い
上記の理由から、日本は経済分野におけるジェンダーギャップについて課題があると判断できます。
女性閣僚の割合
先述したジェンダーギャップ指数では、日本の政治分野のスコアは0.061と前年からは改善したものの、相変わらず低い水準にあります。
日本の政治分野のスコアが低い理由としては、下記の理由が挙げられます。
- 国会議員の女性割合は9.9%
- 大臣の女性割合は10%
- 過去に女性の内閣総理大臣がいない
近年、女性の国会議員や女性の閣僚は増えているものの、欧米諸国と比較するとかなり低いです。
フランスの女性閣僚の割合は52.9%、カナダが50%、ドイツが40%となっているので、日本の女性閣僚割合の低さが分かるでしょう。
ガラスの天井の原因
続いて、ガラスの天井が起きてしまう原因について見ていきましょう。
原因について把握し、適切に対処することで女性が活躍できる環境を整備することが可能です。
女性の管理職が少ない
そもそも、女性管理職が少ないことが当たり前のようになってしまっている会社は多いです。
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、女性管理職が少ない、あるいは誰もいない企業の理由として多く挙げられたのは下記のとおりです。(引用元:厚生労働省|令和2年度雇用均等基本調査)
- 現時点では必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない
- 将来管理職に就く可能性のある女性はいるが、現在、管理職に就くための在職年数等を満たしている人材がいない
- 勤続年数が短く、管理職になるまでに退職する
特に、女性は出産や育児などで休職や離職をする人が多いことから、キャリア形成において不利になっていると言えるでしょう。
アンコンシャス・バイアスが存在する
「無意識の内に形作られた、偏ったモノの見方」をアンコンシャス・バイアスと言います。
例えば、「トラック運転手」と聞いて男性をイメージしたり、「看護師」と聞いて女性をイメージしてしまうのは、社会環境やメディアから植え付けられたアンコンシャス・バイアスに他なりません。
アンコンシャス・バイアスは、職種だけでなく生活の面においても影響しています。
近年は積極的に育児参加する男性は増えつつあるものの、やはり女性の負担が重くなっているのは事実です。
このようなアンコンシャス・バイアスも、女性のキャリア形成を阻害し、ガラスの天井を生んでしまっている要因と言えるでしょう。
ガラスの天井の解決策
続いて、ガラスの天井を解決するための方法や対策について解説していきます。
女性登用が進むことで、優秀な人材を集められることにも繋がるので、しっかりと解決策について知っておきましょう。
女性管理職割合を高める
意識的に管理職に女性を登用し、女性の管理職割合を高めることは単純かつ効果的な方法です。
これにより「女性でも出世や昇進できるチャンスがある」ことを体現し、対外的にもアピールできるようになります。
また、女性ならではの新しい提案や情報発信も期待できるようになり、管理職以外の女性も意見しやすくなることから、企業の生産性向上も期待できるでしょう。
柔軟な勤務方法を導入する
フレックス勤務やテレワークを導入するなど、柔軟な働き方を取り入れることも、有効なガラスの天井対策になります。
結婚や出産を経てフルタイム勤務が難しい女性でも、テレワークや時短勤務の導入で、離職せずに働き続けることが可能です。
働く時間や場所の制約が無くなることで、育児や介護をしながらでも働き続けられるようになれば、企業としても優秀な人材の流出を防げるメリットがあります。
また、こういった働きやすい環境づくりには、1on1ミーティングの時間を設けるなど、意見を言いやすくするための工夫を施すことも効果的でしょう。
産休育休体制・福利厚生を充実させる
育休や産休制度は労働者が当然に取得できるものではありますが、企業によっては申請の際に嫌な顔をされたり(マタハラと)、心地よく取得できないケースもあります。
制度としては存在していても、活用できなければ意味がないので、しっかりと制度について周知して、取得を促進する取り組みを実施することも重要です。
安心して働けない企業では、ガラスの天井云々の前に人材が離れてしまいます。優秀な人材を確保するためにも、福利厚生を整備すると良いでしょう。
他にも、保育園や学童の送迎が必要な女性社員のために時短勤務を認めたり、1時間単位での有休取得を認めるなどの制度を取り入れる企業もあります。
女性社員をサポートし、長く安心して働ける環境を作ればガラスの天井に陥らずに済みます。
さらに、性別に関係なく社員が心地よく働ける環境を作ったりすることで、企業の魅力も高まるでしょう。現場の意見を聞きながら、環境整備に取り組んでみてください。
まとめ
悪意の有無に関わらず、ガラスの天井が発生している職場では、従業員は能力を十分に発揮できないだけでなく、離職が増えてしまうことも考えられます。
視認できないからこそ対策が難しい問題ではありますが、今回紹介した解決策を導入したり、幹部陣で協議したりと、諸問題が顕在する前に対策することが重要です。