エンゲージメント(engagement)とは、用いるシーンによって解釈が異なる言葉です。もっとも単純に訳すと、婚約・誓約・約束・契約という意味を持つ英単語となり、これらの単語からもわかるように、関係性が深いつながりに関連する言葉といえるでしょう。
ビジネスで「エンゲージメント」という言葉を使う際、「従業員の会社への愛着」「顧客の会社への愛着」という2つの意味を持ちます。
たとえば、従業員のエンゲージメントを向上させるということは、「企業に対する信頼感や理解を示しており、”会社に何か貢献をしたい”という意欲が」を構築する考え方です。
社会を取り巻く環境の変化が急激に加速している現代で、企業では人事制度や人材育成に対するあり方を見直す必要があります。
そこで本記事では、「エンゲージメントとはどういうものなのか」という基本から始まり、「エンゲージメントの高め方やポイント」について詳しく解説していきます。
目次
エンゲージメントとは?今注目されている理由
近年になってエンゲージメントが重要視されるようになった理由は、人材の流動が激化しているから。人材の流動の激化には以下のような背景があります。
- 終身雇用制度や年功序列の変化
- 成果型や報酬型に若い人材が集まりやすい
- 副業解禁による働き方の多様化
- リモートワークによる働き方の多様化
- 人口減少
従来は終身雇用や年功序列制度が一般的でしたが、成果主義を採用する企業が増えていくにともない、今働いている企業よりも高く評価してくれる企業にうつる従業員が増え、人材の流動化が激しくなっているのです。
さらに、新型コロナウイルスによるリモートワークの拡大も、プロセスよりも成果が重視される風潮につながり、優秀な従業員ほど、自分の能力をより高く評価してくれる企業へと移っていく傾向にあります。
この結果、企業は優秀な人材の流出が止められず、また優秀な人材を集めることが困難になっているのが現状で、それを食い止めるために、従業員エンゲージメントが重要となるのです。
また、従業員エンゲージメントが高い企業は生産性も高いとされており、従業員エンゲージメントを上げることで優秀な人材の流出を止め、人手不足を補えるだけでなく、生産性向上も期待できると非常にメリットが多いことから、注目されています。
エンゲージメントの類義語とその違い
エンゲージメントには同じ意味ではないのか?と勘違いしやすい類似語が4つ存在します。
エンゲージメントの類義語
- ロイヤルティ(Loyalty)
- 従業員満足度
- 帰属意識
- ワーカホリック
以上の類義語とエンゲージメントは本質的に違います。
同じ意味合いで捉えていると、エンゲージメントを高める場合に、間違った方法をとってしまうかも知れません。類義語との違いを知ることによって、明確にエンゲージメントの本質を理解できるのでご紹介します。
ロイヤルティ(Loyalty)とエンゲージメントの違い
ロイヤルティ(Loyalty)とは直訳すると忠誠心という意味です。
そのためビジネス用語で使うときは、従業員の企業に対する忠実度を表すものとされています。
企業や組織とお互いに高め合うエンゲージメントに対して、ロイヤルティは従業員が企業に対する忠誠心のこと。企業や組織が主体で従業員が存在するというハッキリとした上下関係があることが特徴的です。
企業や組織が一方的に求めるロイヤルティと企業や組織と強い絆を求めるエンゲージメントとは結びつき方の方向に違いがあります。
従業員満足度とエンゲージメントの違い
従業員満足度は従業員が待遇や環境、報酬に対してどれだけ満足しているかを示しています。
先ほどのロイヤルティとは逆で、従業員が一方的に企業や組織の取り組みを評価することが従業員満足度です。従業員満足度を上げることは、待遇をよくすれば上昇する傾向にありますが、それではエンゲージメントが上がったとは言えないでしょう。
従業員満足度だけを上げると「離職率の低下」には効果がありますが、業績や人材育成の面では必ずしも効果を発揮する訳ではありません。
企業や組織と従業員の双方が強い結びつきを持つ環境のエンゲージメントと、従業員にどれだけ満足いく環境を与えられるかという観点の従業員満足度は大きく異なります。
帰属意識とエンゲージメントの違い
ビジネスで用いられる場合の帰属意識とは「企業や組織に属している、その中の1人」という意識のことを言います。
帰属意識をスポーツに例えると、「チームの一員である自覚」のことをいい、帰属意識が高い状態では、チームの一員としての自覚が高いためチームへ貢献しようとする意識やチームのことを考える意識が高い状態といえるでしょう。
一方的に従業員に対して求める帰属意識は、ロイヤリティと似たような側面を持つため、お互いに絆を深めるエンゲージメントとは違います。
<<帰属意識についてはこちらもチェック>>
ワーカホリックとエンゲージメントの違い
ワーカホリックとエンゲージメントは、2つとも仕事に一生懸命向き合っている状態のことを指しますが、向き合い方が全く異なります。
エンゲージメントの高い人は「自身の成長のためや会社の業績のために、自ら進んで業務に取り組む」という向き合い方ですが、ワーカホリックは「仕事をやらなければならないという焦りや、脅迫観念を抱きながら取り組んでいる状態」のことです。
ワーカホリックとは、仕事をしていないと不安という自身を安心させるために働いていますので、エンゲージメントのように高め合うどころか、ストレスや疲労を感じても休みが取れず、過労や燃え尽きてしまうといったバーンアウトに繋がりやすい特徴も持っています。
エンゲージメントが高い組織の特徴
- 生産性が高い
- 営業利益率も高い傾向にある
- 離職率の低下(従業員の定着化)
エンゲージメントが高い組織では、離職率を抑える効果だけではなく、生産性も上がることが広く認知されているため、企業の成長のため存続のためには必要不可欠だと、多くの企業から注目を集めることとなりました。
つまりエンゲージメントを高めることにより、人材の流出を抑え組織に定着することができる「人材不足の解消」、生産性や企業の業績の向上も期待できる「企業の成長への期待」などがもたらされます。いまや企業の重要な経営戦略の1つと言っても過言ではありません。
パーソナルエンゲージメント
エンゲージメントという言葉が使われたのは、1990年ボストン大学心理学教授のウィリアム・カーンの論文でした。
この論文では、パーソナルエンゲージメントとは従業員が仕事に対して肉体的・心理的・感情的に打ち込むことを現わしているため、他のエンゲージメントとは違ったものといえるかも知れません。
カーンはこの論文で、パーソナルエンゲージメントが高いほうが業績がよいという研究結果を報告しています。このパーソナルエンゲージメントの考えがワークエンゲージメントや従業員エンゲージメントへと形を変えていきます。
ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントは、誇りとやりがいを持って仕事に熱心に取り組み、仕事から活力を得ることで、いきいきとしたポジティブな心理状態を指します。オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって、提唱された概念です。
ワークエンゲージメントが高いという状態は、従業員が仕事をポジティブに捉え、充実した精神状態で取り組んでいる心理状態のことをいい、ワークエンゲージメントの状態は「活力・熱意・没頭」で特徴づけられます。
ワークエンゲージメントを高める、つまり、従業員個々の働き方やキャリアアップに対して、不満や不安がなく業務に取り組める精神状態にすることは、業績の向上へと繋がります。従業員のモチベーションが高まり、パフォーマンスの向上が見込めるからです。
注意しなければいけないことは、個人に焦点をあてるワークエンゲージメントでは、従業員満足の向上だけになると「従業員満足度」と同様になります。
従業員満足度をあげただけでは業績にいい影響を及ぼすとは限りません。従業員それぞれの貢献意欲を高めた上で、企業や組織全体の力を底上げすることで、継続的に会社の業績アップへと導く概念です。
<<ワークエンゲージメントについてはこちらもチェック>>
従業員エンゲージメント
1990年代、アメリカの心理学者フランク・L・シュミット博士らが「仕事満足度」の発展系として「従業員エンゲージメント」という言葉を使っています。そこでは、「従業員エンゲージメントとは、従業員をつなぎとめる手段(離職防止・定着化)の一部であり、社員の仕事に対する関わり合い度合い、コミットメント度合い、満足度合いといったもので構成される」としています。
従業員エンゲージメントとは、自分が所属している会社に対して、信頼や貢献したいとどれだけ思っているかという、簡単にいえば愛着を表す概念です。
従業員エンゲージメントが高いということは、従業員が勤めている企業を信頼している状態ですので、企業に貢献したい気持ちを持ち率先して業務に携わっていることになります。したがって従業員の定着化や個人のパフォーマンス向上につながります。
ワークエンゲージメントスコアの測定方法
ワークエンゲージメントとは、従業員が業務に対して取り組む姿勢や意気込みを総合的に表した言葉であり、精神状態やモチベーションを示す概念です。ワークエンゲージメントの達成度合いや現状を評価するために数値化されたものが、ワークエンゲージスコアと呼ばれています。
ワークエンゲージメントの測定方法には3種類あります。
UWES
(Utrecht Work Engagement Scales) |
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素である「活力」「熱意」「没頭」に焦点をあてて質問に織り込んだ質問形式で測定する |
MBI-GS
(Maslach Burnout Inventory-General Survey) |
疲労感やシニシズム(冷笑的態度)、職務効力感などからバーンアウト度を測定 |
OLBI
(Oldenburg Burnout Inventory) |
疲労や離脱などからバーンアウト度を測定 |
それぞれ詳細を説明します。
UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
UWESはユレヒト・ワーク・エンゲージメントと訳し、ワークエンゲージメントを図る手法としては、もっともポピュラーです。
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素「活力」「没頭」「熱意」の概念を実際にテスト化したもので、17項目の質問を行った回答をもとに測定しワークエンゲージメントを数値化します。
- 仕事をしていると活力がみなぎるように感じる
- わたしは仕事にのめり込んでいる
このような質問を9問や17問行い、回答は選択式でもっとも自分に近いものを選択しマークする形式です。
0.まったくない
1.ほとんど感じない
2.めったに感じない
3.ときどき感じる
4.よく感じる
5.とてもよく感じる
6.いつも感じる
UWESでは、比較的に安定して信頼性の高い数値が得られる傾向にあります。
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSとは、ワークエンゲージメントとは対極に位置する概念である、バーンアウトを測定する手法です。
対極の概念を数値化することで
- 測定値が低ければワークエンゲージメントが高い
- 測定値が高ければワークエンゲージメントが低い
という見方ができます。
MBI-GSにおける具体的な質問内容は、「疲労感」「シニシズム」「職務効力感」に関する計16項目の質問が行われ、回答に基づいてバーンアウトを数値化します。
自己に対する、ポジティブな評価が苦手な国民性を持つ日本人には、向いている測定方法かも知れません。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBIでは「疲弊」「離脱」という2つの因子から構成され、どちらかというと精神的なMBI-GSに対して、より肉体的というか具体的な内容の質問となっているのがOLBIです。
以上3つの測定方法から算出された数値は、安定したある程度信頼できるものと言われていますが、日本人のように自己評価をポジティブに捉えられない国民性や、個人の性格にも注意が必要です。
まずは自社のワークエンゲージメントの数値がどうなっているのか、現状を把握することが大切です。ワークエンゲージメントを高めるためにも、自社の方向性が合っているのか確認するためにも自社のワークエンゲージメントを数値化してみましょう。
日本のワークエンゲージメントのスコアは低い
日本人の仕事に対するイメージを「真面目になんでもこなす」「長時間働く」「身を粉にして働く」といったイメージを持っている人が多いのではないでしょうか?実際、日本のワークエンゲージメントスコアは、他の国と比較すると低く世界最低レベルにあることがわかっています。
各国のワークエンゲージメントを比較してわかることの1つに、多くの国では生産性が向上しているという事実に対して、日本では逆に生産性が低下しているということです。少子高齢社会に伴い、労働力人口の減少によって人手不足も注目され、国を中心として各企業では生産性の向上が叫ばれている中で、実際の生産性が低下している状態は由々しき問題といえるでしょう。
日本のワークエンゲージメントが低い背景
第2次世界大戦後、急激な経済成長を遂げ世界的にも経済大国となっていた日本。そんな日本の労働者のモチベーションは、世界に誇れるものと考えている人もいたかも知れません。
なぜ今の日本はこれほどまでに、仕事に対する情熱を失ってしまったのでしょうか。
- 終身雇用制度
- 年功序列
- 働き方改革
- 情報技術の進歩
などが考えられます。
終身雇用制度や年功序列は、バブル崩壊前の高度成長期には適していた制度だったかも知れません。しかしバブル崩壊後に起こった市場の成長が鈍化して以降では、従業員のやる気を削ぐ足かせにすら感じます。
そしてすでに崩壊しているともいえる、終身雇用制度や年功序列の風潮から離れられない世代と、新しいスタイルの働き方を望む世代との価値観の違いにもなっているでしょう。
働き方改革や情報技術の進歩自体は問題ではなく、むしろワークエンゲージメントを高めるために必要なことですが、多くの企業が時代の流れについて来れていません。ワークエンゲージメントの概念がない企業が多く、企業での取り組みがないということは、当然数値も向上しません。
エンゲージメントを高める4つのメリット
エンゲージメントを高めることで、どのような効果が得られるのか、具体例を交えて今一度整理していきます。エンゲージメントに早くから注目し、エンゲージメントを向上してきた企業で得られた効果は以下の内容でした。
- メリット1.組織の活性化
- メリット2.従業員のモチベーション向上
- メリット3.企業の業績アップ
- メリット4.従業員定着率の向上(離職率の低下)
どのように実感できたのか詳しく解説していきます。
メリット1.組織の活性化
エンゲージメントが高まってくると、従業員の仕事に対する姿勢に変化が現れ、積極的に業務に取り組む熱意が感じられるように変わって来ます。職場の問題を自ら解決したり、意欲的な発言がみられたり、事業と自身の成長へとつながる業務へ向かって、組織全体で活発な動きがみられるでしょう。
また、従業員と企業や組織の深い関係だけに留まらず、従業員同士にも信頼感が生まれ、一緒に働く同僚や上司とのチームワークも上昇します。
それにより自分のことだけを考えるのではなく、業務をチームの課題と捉えることができるため、助け合って仕事に取り組む風土が形成されます。個人だけではなく相乗効果としてチームのパフォーマンスの向上が期待できます。
メリット2.企業の業績アップ
エンゲージメントの目的でもあり、もっとも大きなメリットといえるのが、企業の業績アップです。
エンゲージメントが高い状態では、積極的に業務に取り組むだけではなく、企業の方向性や方針をしっかりと理解して、目標としているビジョンへ向けて迷いなく進んで行ける状態です。
さらにエンゲージメントが高いと成果も出やすいため、結果が自信となりさらなる意欲的な行動へとつながる相乗効果も現れます。愛社精神も自然と生まれるようになり、自ら会社のことを考え行動できるようになり、こうした1つ1つの行動で生産性が向上するのです。
エンゲージメントの高い会社と低い会社では、1.5倍ほど営業利益に差が出ると言われています。それほど企業の業績とエンゲージメントは密接な関係にあるのです。
メリット3.従業員定着率の向上(離職率の低下)
エンゲージメントの高い従業員は、労働条件のつながりだけではなく、自らがそこで働く価値を見出しています。
経営ビジョンへの共感・職場環境へのコミットメント・働きがいのあるプロジェクト・同僚や上司への信頼といった、様々な要素から仕事への価値を自ら見出すことができるため、人材の流出を防ぎ従業員の定着化を図ることができます。
メリット4.従業員のモチベーション向上
エンゲージメントが高いと、従業員自身が企業や組織から、なにを期待されているのか理解でき、尚且つ成長機会も与えられるため、業務へのモチベーションが向上します。
1対1での面談やリフレッシュできる環境作りなど適切なフォローを実施することで、従業員のモチベーションの維持と向上が期待できます。
もちろんモチベーションが高いことによる効果は、企業の業績アップや職場の活性化など他にあげられているメリットに直結する結果となるでしょう。
<<モチベーションについてはこちらもチェック>>
★リンク要確認(モチベーションの上げ方とは?意味や上がらない理由などわかりやすく解説!の記事)★
職場のエンゲージメントを高める5つのポイント
エンゲージメントを高めるには、単純に給与アップや労働環境の改善を行って、従業員満足度を上げるだけでは十分ではありません。従業員個人に注目して、仕事の志向性に沿った環境や機会を提供する必要があります。
多様性や価値観を従業員と企業側のお互いが納得した形で「何をしたいのか」「どうなりたいのか」を共有し、継続的に評価しあうことが、エンゲージメントの高い組織を構築する重要な要素です。
ポイントを5つにまとめたのでご紹介します。
現状のエンゲージメントを把握する
エンゲージメントを高めるために、現状のエンゲージメントの把握は必須です。UWES(Utrecht Work Engagement Scales)などと利用して数値化しましょう。
大切なことは、定期的に把握できる仕組みを導入することです。
エンゲージメントは日々変動します。注意深く数値を観察することで、取り組む課題が明確になり、行うべき対策も具体的な内容になるでしょう。
またエンゲージメントの変動と同時に、業績がどう変化しているかという部分にも注目が必要です。エンゲージメントを高める目的の1つに、生産性を上がることによる業績アップがあるため、当然連動していなければなりません。
経営方針を理解し共感を得る
経営方針(経営ビジョン)への理解と共感は、エンゲージメントを高める上で必須の要素です。
経営方針に共感が得られない場合は、従業員との価値観や考え方にズレが生じて、勝手な方向に進んでしまったり、なんのために仕事をしているのか不明瞭になってしまい、目的意識が薄れていまします。
経営方針(経営ビジョン)への理解が深まるとどうなるのか
- 迷いなく日々の仕事に取り組める
- マネジメント層に対する不満が解消される
- 業務に対する不安が減る
経営方針(経営ビジョン)への共感を促すには、定期的に従業員に対して情報を発信していくことが大切です。大枠の経営方針や経営ビジョンだけでなく、ミッションやバリューなど変更する都度、情報共有を行うことで同じビジョンへ向けて進むことができます。
経営理念をただ掲げているだけの企業も存在します。経営理念に具体的な方針を添えるなど、従業員から理解が得られやすい方針や、分かりやすい目標に変更することも必要です。
マネジメント層を教育する
エンゲージメント向上を行う上で、経営陣が声をあげることはとても重要ですが、それだけでは実現できません。エンゲージメントは特性上、企業や組織全体で取り組まなければ得られる効果が薄くなってしまいます。
経営陣・マネジメント層・現場が一体となってエンゲージメントを高めようと目的意識を揃えることから始めましょう。その中でも特にマネージャーに対するエンゲージメントへの理解と、取り組む姿勢が非常に重要となってきます。
経営陣とも現場レベルの従業員とも直接やり取りをして、方向性や対策を施すまたは伝える役割の大部分を占めるのはマネージャーです。マネージャーへ浸透度合いが、そのままワークエンゲージを高める度合いとなると言っても過言ではありません。そのためにマネジメント能力も求められます。
やりがいのある職場作り
やりがいのある職場ではエンゲージメントも高くなります。
従業員のモチベーションを引き出すには、「報酬をアップする」「表彰制度を導入する」「自発的に目標設定できる仕組みを作る」など内的動機づけ、外的動機付けを行いましょう。
<<モチベーションについてはこちらもチェック>>
★リンク要確認(モチベーションの上げ方とは?意味や上がらない理由などわかりやすく解説!の記事)★
働きやすい環境作り
仕事への意欲を継続するには、働きやすい職場であることが前提としてあげられます。働きやすい職場作りには、心身ともに健やかな状態を保つことを、目標とすることが大切です。
精神的な面では、やはりコミュニケーションが、重要になってきます。社内のコミュニケーションが活発になればなるほど、働きやすい職場となり組織への愛着も芽生えやすくなります。
肉体的な側面に取り組むための、ワーク・ライフ・バランスの向上は、エンゲージメントを高めるためにも重要です。
精神的・肉体的どちらの環境を整えるためにも、結局はコミュニケーションが必要になってきます。従業員がどのようなことで悩んでいるのか、どのようなことを望んでいるのか、現状はどうなのか、まずは理解することで問題が浮き彫りになります。
そして重要なことは、聞き出すだけではなくしっかりとフィードバックを行いましょう。適切なフィードバックはエンゲージメントを高める効果があります。
エンゲージメント向上が失敗する3つの理由
数々の企業がエンゲージメント向上に取り組む中で、すべての企業が成功する訳ではありません。エンゲージメント向上に取り組んだものの、思うような効果が得られず、失敗してしまった企業も当然あります。
失敗した事例を知ることで、同じような失敗はしないため、学べることが多くあると思います。
以下3点ご紹介します。
従業員にビジョン(企業理念)が浸透せず意識に差がでる
エンゲージメントを高めるために始めに行う重要なことは、上述の通り従業員にビジョンを浸透させることです。ビジョンへの理解が得られていない場合では、向かう目的が違ってきますので、従業員が勝手な行動をとったり、モチベーションの低下につながります。
<ビジョン(企業理念)が浸透しない原因>
- 企業理念が従業員が明確に理解できるものでない
- そもそも理念がズレて共感できるものでない
- 企業理念を決めただけで従業員に浸透させる施策がない
- 継続的な情報共有が出来ていない
企業理念や方針が変更になればその都度伝えることが重要です。方針が変更になったことを聞いていないと従業員のモチベーションは一気に下がります。
多くの失敗した事例では、エンゲージメント向上への取り組みが始まった当初だけ、ビジョンの説明をし後はどんな変更があったのか、伝わっていない従業員がいる場合です。
ビジョンや方針の浸透は、継続的に行いましょう。
エンゲージメントスコアに捉われすぎた
こちらもよくあるケースですが、エンゲージメントスコアを意識しすぎると、失敗することがあります。
エンゲージメントスコアは確かに大事な指標ですが、数値だけをみて実際の現場の状況を把握出来ていなければ意味はありません。
従業員と企業や組織との強い繋がりを目指すエンゲージメント向上が、アンケートにおいて良い数値を出すという目的に変わってしまっては本末転倒です。
エンゲージメント向上の本質を見失わないようにしましょう。
従業員のエンゲージメント疲れ
エンゲージメントを意識することがプレッシャーとなり、従業員の負担となってしまうケースもあります。
エンゲージメントの向上を取り組む際には、従業員へのケアを念頭に置いて、落とし込む方法や、フォローの方法なども決めてから実施しましょう。
こういったケースでは、マネジメント層への教育が行き届いていないため、起こることが多いです。まずは経営層のビジョンをしっかりとマネジメント層に伝えることが重要です。
そしてすぐに結果を求めようとはせず、長期的に取り組むという姿勢も非常に重要となってきます。
エンゲージメントと採用の関係性
すでに採用して働いている従業員に対して効果を発揮するエンゲージメント。実は採用にもプラスに働きます。エンゲージメント向上を進めていくと、以下のような効果も生まれます。
- 自社に適した人材の特徴が分かる
- 他部署からも採用活動へ協力してもらいやすくなる
- 定着率の高い人材を採用できる
<<新卒社員の自立のため、人材採用において注意したいことについてはこちらもチェック>>
自社に適した人材の特徴が分かる
エンゲージメント向上施策を行うと、エンゲージメントスコアの高い従業員と低い従業員の差が顕著に現れます。エンゲージメントの高い社員の方が、自社にマッチした人材ですので、彼らを分析することで、自社に合った人材の特徴が具体的に理解できます。
逆にエンゲージメントが低い従業員を分析すると、自社の合っていない従業員の特徴や共通点が見えてきます。この特徴や共通点を参考にして採用活動を行えば、自社の社風にあったエンゲージメントの高い社員を採用できるでしょう。
エンゲージメントの高い社員を採用することは、早期離職を抑え将来の主力となる人材の確保や、業務のパフォーマンスが良い社員になる可能性が高いことから、非常に有効な手段といえます。
他部署からも採用活動へ協力してもらいやすくなる
エンゲージメントの高い職場の社員は、積極的に業務へ取り組みます。
採用活動では、複数の部署が関わっているため、所属先予定部署の協力は必要不可欠です。専門的な分野など特定の職種を希望する求職者の場合は、担当の部署の社員が説明会などで関わっている場合があります。
このように業務量を増やしてしまう採用活動ですが、エンゲージメントが高ければ、他部署の社員にも協力してもらいやすく、効率的な採用活動が行えるでしょう。
定着率の高い人材を採用できる
採用する側にとって、採用した人間に早期離職をされると、大きなダメージとなります。
採用するために大きな手間とコストが掛かっており、採用された社員が軌道に乗ってからようやく採用した人間の業務の意味が出てくるからです。
エンゲージメントの高い人間を参考に採用にすることで、定着率が高い人材を見極めることができると先ほども述べましたが、採用後の配属先のエンゲージメントが高ければ、働きやすい職場になっていることが多いため、こちらも定着率に良い影響を及ぼします。
成果を出す社員を採用するコツ
人手不足が加速し人材育成に頭を悩ませる会社も少なくありません。
- うちの業界は、いい人が集まらない
- うちレベルの会社に優秀な人材は来ない
- うちの会社は、そもそもの人材の質が低いから、管理職の成り手がいない
こういった意識こそが、会社の成長を阻害している大きな原因です。
「良い人材が集まらないなら集まるように変えていく」「現状の人材を立派な人材に育て上げる制度を作る」といった意識を持ちましょう。
繰り返しになりますが、エンゲージメントの高い人材を育てるには、できるだけエンゲージメントの高いを見極め採用することが一番の近道です。もちろん、現実的には入社した社員を育てる仕組みの方がウエイトが大きいですが、できるだけ「エンゲージメントの高い」と見極め採用したいですよね。
そのときはこの3つのポイントを参考にしてください。
- 他者評価を受け入れることが出来る人材
- 目標に向かって成果を追い求めてきた経験がある人材
- 最低限の業務理解能力がある人材
<<採用から考える社長の仕事とは?成果を出す社員を採用するコツについてはこちらもチェック>>
エンゲージメントを高めた事例
以下、実際の企業でエンゲージメントを高めて成功した事例を紹介していきます。
- スターバックス
- LIXIL
- 小松製作所
- リクルートホールディングス
- ソニー
- エーザイ
日本企業においても先だってエンゲージメントの概念を取り入れ、エンゲージメントスコアを用いて企業の活性化につなげた有名各社です。
どの企業にも言える事ですが、有名企業だから成功している訳ではなく、エンゲージメントを高めたから有名企業でいられる、有名企業となったと言えるでしょう。
スターバックス(Starbucks)
世界的にエンゲージメントの高い企業として知られているのが、スターバックスです。
スターバックスにはサービスに関するマニュアルがほとんどありません。しかし、多くの人がスターバックスを訪れた時「ドリンクカップへのメッセージ」「おすすめドリンクの紹介」「美味しい飲み方のアドバイス」など、丁寧なサービスをパートナー(店員)から受けたことがあると思います。
これらのサービスはパートナーがすべて自発的に行っているという実態があります。こうした行動が取れるのはパートナー1人1人のエンゲージメントが高いからに他なりません。
スターバックスは、従業員と会社(スターバックス)は対等な関係という意味の「Engaged Partners」を掲げています。従業員は尊重される存在であり、そのためにパートナーと呼ばれているのです。
スターバックスがエンゲージメントを重視する背景には、2007年頃アメリカでの業績が著しく悪化したとき、元CEOのハワード・シュルツが復帰し、エンゲージメントを重視した経営で見事に業績を回復させたという実績があります。
エンゲージメントが業績に良い影響を与えることを肌で感じたスターバックスは、以降もエンゲージメントを重視した経営方針を掲げ、世界各国へ展開をみせ成功へと導いています。
スターバックスのエンゲージメントの取り組み
- 新しく入社するパートナーにミッションやバリューに共感してもらえるように働きかける
- スターバックスの将来ではなく、個人の将来像や目標を考えてもらい、その上で業務上で身につけたいものはなにか一緒に考え、個人の成長目標を決める
- 店舗ごとに掲げたビジョンを実現するために、どのような行動を取ればいいのかを言語化し、パフォーマンスに関する目標設定も行う
- 4か月ごとの人事考課で振り返る
スターバックスのパートナーの8割はアルバイトで構成されています。アルバイトでも対等なパートナーとして尊重し、4か月ごとの人事考課を主体としたフィードバックを行うことで、成長を実感できることが続けて働きたいという意欲につながっています。
LIXIL
LIXILは「浴室・キッチン・トイレ」など水回りの住設メーカーです。
人口減少に伴い新築着工においては、減少傾向がほぼ確実な未来となっている決して見通しの良い状況ではありませんが、リフォーム需要への切り替えが重要な戦略だと位置づけています。
リフォームのニーズをつかむには、エンドユーザーとの接点をいかにもつのかということが重要だと考えました。そしてエンドユーザーとの接点を持てたとしても、現場でエンドユーザーと直接接点を持つ社員のエンゲージメントが低いと、エンドユーザーは満足してくれないのでは?と考えるようになりました。
そこでLIXILは2019年11月から「変わらないと、LIXIL」という人事プログラムを打ち出し、そのなかの一環として社員のエンゲージメントを高める施策を行っています。
LIXILが行ったエンゲージメントを高めるための具体的な施策
- 月1回のエンゲージメントサーベイの実施
- マネージャーが孤独を感じないように人事部による定期的なフォローアップミーティング
- 社員が必要としているサポートをリアルタイムに提供できる仕組みの構築
- 現場が施策案を積極的に出せる環境づくり
エンゲージメントを向上させる施策として注意すべき点は、地域性や県民性など各地域によって働き方がライフスタイルが、微妙にことなりますので、地域にあった施策を行わなければならないということです。
日本だけではなく、世界に広く進出している企業のLIXILでは、地域による特性の違いを大きく実感しています。
小松製作所
小松製作所は世界2位のシェアを誇る建設機メーカーです。
小松製作所における従業員エンゲージメント向上への取り組みが、本格的に開始されたのは、2011年。以前から提唱されていた「コマツウェイ」という、小松製作所独自の永続すべき価値観を、すべての従業員に伝わるように簡潔に形を変えた事から始まりました。
一番注力したことはマネジメント層に向けた教育です。現場のエンゲージメントを高めるには直属の上司が重要な役割だと考えた上層部は、「コマツウェイ」の説明会や研修やワークショップなどを行い、マネジメント層のエンゲージメントに対する理解を深めていったのです。
小松製作所はそのマネジメント層へのアプローチの中で、特に気を配らなければならない5つの要素があり、それらの要素が満たされることによって、チームのエンゲージメントが上がり、パフォーマンスの向上につながり、業績に良い影響を及ぼすと結論付けています。
1信頼
信頼がある状態とは、心理的安全性の環境にあるということです。
信頼がある場合は、リスクを冒すような場面でもチャレンジをする選択ができるため、結果として斬新なアイデアがアウトプットされやすく、イノベーションが起こりやすいです。
2モチベーション
モチベーションが高い状態では、新たな挑戦にも積極に取り組み、成長が促されるような仕事ができる環境に身を置くことができます。
もちろんモチベーションが高い状態だと、仕事のパフォーマンスも向上します。
3変化
変化に柔軟な対応ができることで柔軟性が生まれます。組織・チーム・個人など人数に関係なく変化はエンゲージメントに影響すると考えられています。
4チームワーク
チームワークが良好な職場では人間関係のストレスが少なく、個人でも最大限にパフォーマンスを発揮しやすいです。さらにコミュニケーションが活発な職場、信頼関係が構築された上での連携など、お互いが高め合う相乗効果も期待できます。
5権限移譲
任せられるということは、やりがいを生み出します。結果、主体性を持った行動や当事者意識を持って業務へ取り組み、個人の成長へと繋がり1つのプロジェクトだけではなく、組織の中核を担う人材への成長も期待できます。
これら5つの要素に注目して、マネジメント層の教育を中心にエンゲージメントの向上へ取り組んだ結果、取り組み以前は33%だったエンゲージメントスコアは、70%にまで増加し離職率低下しました。
リクルートホールディングス
近年のデジタル化とグローバル化に対応するために、リクルートホールディングスでは、「高度専門人材の確保と定着」を目的としたエンゲージメントの向上を行いました。
デジタル化とグローバル化の中で企業が成長していくには、ITエンジニアのような高度専門人材や国際法務・税務のような専門性の高い人材の確保が必要不可欠と考えた、リクルートホールディングスはエンゲージメントの向上にも目を向け強化しました。
社外から積極的に高度専門人材を採用するとともに、リクルートホールディングスが実施した施策は以下。
- エンゲージメントサーベイで現状を把握
- 職場単位のディスカッションの結果を活用
- バリューの浸透のための課題を見つけ、改善しながら実行
リクルートホールディングスの強みであるバリューが、希薄にならないように職場環境の整備やバリューの浸透も図っています。
ソニー
人材戦略の一環としてエンゲージメントを、重要な位置付けとしているのが、ソニー株式会社です。
ソニー株式会社は人材戦略のフレームワークのなかで大きく以下を3つの柱として設定しています。
- Attract(人材獲得)
- Develop(人材育成)
- Engage(社員エンゲージメント)
企業の将来を左右する、経営戦略に必要不可欠である人材戦略においてソニー株式会社では、経営陣が関わる取締役会でも議論を行い、エンゲージメントスコアを経営幹部チームの報酬に組み込んでいます。
エーザイ
「社員が主体性を最大限発揮できる働き方を実現し、エンゲージメント向上とアウトプットの最大化による労働生産性の向上」これは、エーザイ株式会社が働き方改革の目的として表しているものです。
具体的な取り組み内容は以下の3つになります。
1ワークスタイル
- リモートワークの推進
- フレックスタイム制度のコアタイム廃止
- タイムマネジメントの推進
- 自己啓発・社会貢献休暇の新設
以上のような施策を、働く場所や時間の柔軟性を高める環境整備や、制度の改定として実施しています。
2休暇制度
- 介護・看護と仕事の両立支援
- 病気の治療と仕事の両立支援
安心して働き続けられる休暇制度として、以上の2つをおこなっています。
3エンゲージメントサーベイを実施
全世界に事業を展開しているエーザイですから、全世界を対象にして社員1万人にエンゲージメントサーベイを実施して、企業理念の浸透度の把握や改善を行っています。
まとめ 今こそ向上させたい!エンゲージメントとモチベーション
今回の記事では、エンゲージメントについて詳しく解説してきました。
繰り返しになりますが、人材不足が進む中で、優秀な人材の確保や社内での人材育成は、企業存続のため成長のために必要不可欠です。
その中で注目を浴びてきたのがエンゲージメントという概念。従業員と企業や組織が強い結びつきを持ち、お互いを高め合っていく関係性が築けるエンゲージメントは今後、人材戦略の中心となってくるでしょう。
また、エンゲージメントを高める上で欠かせないのが「モチベーション向上」でした。識学的モチベーションの高め方を紹介していますので、ぜひ以下もお読みください。
★リンク要確認(モチベーションの上げ方とは?意味や上がらない理由などわかりやすく解説!の記事)★