現代のビジネス環境はグローバル化や消費者の需要が多様化していることなど、複雑な要因が絡み合って先行きが見通せない「VUCAの時代」とも言われています。
そこに、新型コロナウイルスの流行も加わり、さらに不透明な状況になっています。
今までと同じような組織体制では、このように変化が激しく複雑化するビジネス環境で戦っていくことは非常に難しいでしょう。
そのため、組織改革を行い従業員のマインドセットや働き方に変化を起こし、経営の再建を考えている会社も少なくありません。
しかし、現場から反対の声を受けてしまい、組織改革がなかなかうまく進まないというケースも多くあります。
そこで本記事では、組織改革を成功させる方法や注意点を解説していきます。また、組織改革に関する基本的な知識や、組織改革の課題などもあわせて解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
そもそも組織改革とは?
組織改革とは、企業の成長が長く続くように、組織の環境や基礎を根本的に改めることを指しています。
例えば従業員の意識やビジョン、組織文化などの「ソフト」や、人員配置や人事制度、就業規則、評価制度などの「ハード」など、必要であればいろいろなことを変えていく必要があります。
そして重要なのは、組織改革は目的ではなく、あくまでも手段だということです。
組織改革によって、従業員が自主的に仕事に取り組めるようになり、自ら成長していく組織へと変えていくことこそがゴールです。
こうすることによって、売り上げの拡大や持続的な成長が可能な企業へと変貌するでしょう。組織改革とは、このような目的や意義を果たすための事業戦略の1つなのです。
組織改革に必要な7つのS
組織改革を進める上で理解しておきたいのが、7つのSと呼ばれる組織を構成する要素です。
- Strategy(戦略):ハードのS
- System(制度):ハードのS
- Structure(組織):ハードのS
- Shared Value(価値観):ソフトのS
- Skill(組織の技術):ソフトのS
- Staff(人材):ソフトのS
- Style(経営スタイル):ソフトのS
コンサルティングファーム「マッキンゼー・アンド・カンパニー」が提唱した7つのSは、組織運営で必要となる要素を詰め込んだフレームワークで、活用することで要素間の関係性を明確にすることができます。
7つのSは構造的なハードのS、ソフト面のソフトのSの2種類に分かれています。ハード部分とソフト部分で整合性が取れていないと、従業員がどちらに従えばいいのかわかりません。
このため、組織改革を進める上では、両方の要素に齟齬が生じないように注意が必要です。
組織改革が必要な理由
近年、日本においては長時間残業や労働生産性の低さ、人手不足などが問題視されるようになり、労働者のモチベーションが下がっています。
いま求められているのは、労働者が能動的に働き、時間あたりのアウトプットの量を増やし、持続的な企業環境・労働市場を構築していくことです。
だからこそ、政府が主体となって労働生産性向上を実現すべく、「働き方改革」が行われているのです。
加えて、企業がこれからも長く成長していくために、減っていく労働人口に対処するべく組織改革を行うことも重要となっています。
組織改革を行うことで期待できる効果
組織改革を実施すると、自社が抱える組織的な課題の発見が容易になり、その解決がしやすくなります。
また、組織改革の実施は、組織の構造全体だけでなく、一般的な社員や管理職にも変化をもたらします。例えば、以下のように
- 適切に変化を起こすことで報われる
- 企業の成長に貢献することで報われる
という感覚を持つことができるので、課題解決への貢献意欲も増すでしょう。
裏を返すと、組織改革にとって重要なのは、社員にとって上記のような感覚を持てる改革であることと言えます。
組織改革が必要な企業
下記のような企業は組織改革が求められる企業といえます。
- 環境への変化に対応できていない企業
- 経営目標を新しく設定した企業
- 業績不振に陥っている企業
それでは1つずつ解説していきます。
環境への変化に対応できていない企業
今、環境は大きく変わりつつあるため、企業はこの変化にうまく対応していかなければなりません。
もし対応しなければ、離職率の増加も含め企業は従業員の確保ができなくなったり、生産性が低下する可能性も高まります。
近年における環境の変化への対応手段としては、多様な働き方を認めることや、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入、法改正への対応などが挙げられます。
このような対応をしつつ利益をあげるためには、組織体制を変えていく必要もあるでしょう。
経営目標を新しく設定した企業
組織として成長を目指すために、中長期的な計画を策定することも多いのではないでしょうか。その際に合わせて設定されるのが「達成するべき目標」です。
しかし、いくら完璧な計画や崇高な目標を立てても、従業員の考え方やマインドセットが従来と同じままでは、目標を達成することは難しいでしょう。
さらに、その目標を達成するために高度に専門的な技術やノウハウ、知識などが必要になることもあります。
つまり、新たに設定した目標の達成に必要なマインドセットやノウハウを浸透させるためにも、組織改革が必要となるのです。
業績不振に陥っている企業
業績の悪化や利益があがらない場合は、その原因を突き止めて組織改革を行うべきでしょう。
また、業績が悪化したりコンプライアンス違反などの問題が生じた際に、雇用調整や組織再編を行った際にも組織改革が求められます。
なぜなら、人員削減によって従業員の意欲が下がったり、業務の負担が増えるなど、組織全体に悪い影響が及ぶ可能性があるからです。このような問題の解決のために組織再建をする際にも、同時に組織改革が求められます。
組織改革を行う前に把握しておくべき「組織の理想像」とは
組織改革によって持続的な成長が可能な組織にするためには、まず「組織の理想像」を把握しておかなければなりません。
基本的に、理想の組織には下記の3つの要素があります。
- 組織の目的を共有していること
- 協力して組織に貢献する意欲を持っていること
- 情報共有が円滑に行われていること
それでは1つずつ解説していきます。
組織の目的を共有していること
まず、共通の目的である「組織目的」を共有していることが求められます。
組織目的がなかったり、あったとしても共有されていなければ、組織のメンバーはそれぞれ自由に動いてしまい、非効率的な組織になってしまいます。
反対に、組織目的が共有されていれば、メンバーの力を目標に向けて集中させることが可能です。
抽象的な目的ではなく、何をすればよいのかがわかり、達成度合いを測ることができる、具体的な目的を設定することが重要となります。
協力して組織に貢献する意欲を持っていること
組織目的を共有していれば、お互いに協力して組織に貢献する意欲を醸成することができます。
そもそも組織の存在理由の1つは、人が協力しなければ達成できない目標を実現することでもあるため、組織においてはメンバーが互いに協力することが欠かせません。
このように意識的にメンバー同士が協力するという貢献意欲がなければ、組織の目的は達成できないでしょう。
情報共有が円滑に行われていること
理想的な組織では情報共有が円滑に行われており、コミュニケーションが円滑であればあるほど組織目的が達成されやすくなります。
なぜなら、目的の達成に向けて業務に取り組んでいる最中に生じた課題やトラブルを、すぐに共有することで迅速な対応が可能になるからです。
また、成功事例の共有などもすぐに行われ、より良い方法での業務を進めることができるようにもなるでしょう。円滑な情報共有はトラブル解決や効率的な業務遂行に役立つため、生産性向上につながります。
組織改革を行うメリット
組織改革を行う主な目的は、持続的な成長をする組織へと作り変えることですが、これ以外にも下記のようなメリットを期待できます。
- 従業員満足度が上がる
- 生産性が上がる
それでは1つずつ解説していきます。
従業員満足度が上がる
組織改革を進めることで、組織目的やビジョンが明確になるため、その目的を共有したメンバーとともに仕事を進められるようになります。これにより、円滑なコミュニケーションが可能となり、業務がスムーズに進められ、モチベーションが上がります。
この結果、従業員満足度も上がり、良い循環が生まれていくことで従業員のパフォーマンスも上がっていくでしょう。
生産性が上がる
従業員満足度の向上により生産性が上がります。
また、メンバーが皆同じ目標やビジョンを共有しているため、業務上の非効率的なやり取りを簡略化したり無くすことができるため、これもまた生産性向上につながります。
組織改革の進め方
組織改革を進めるためには以下3つの方法のいづれかを活用するとよいでしょう。
- レヴィンの3段階組織変革プロセス
- コッターの8段階プロセス
- 特殊な集団を意識的に構築する:識学式
それぞれわかりやすく解説します。
レヴィンの3段階組織変革プロセス
レヴィンの3段階組織変革プロセスとは、改変を進めるためには解凍→変革→再凍結の3段階が必要だと考えるフレームワークのことです。
具体的に3つのフレームワークとは以下のことを指しています。
- 解凍:既存の価値観、方法論などの組織文化を解凍すること
- 変革:解凍された文化の状況を見極め、新しい考え方、やり方を学習させるプロセス
- 再凍結:成功事例の方程式を社内に浸透させること
関連記事:レヴィンの三段階組織変革プロセスに学ぶ、組織変革を進める上での留意事項とその事例
コッターの8段階プロセス
コッターの8段階プロセスとは、組織が真の意味で変わるためには以下の8つのステップを踏襲する必要があるというものです。
- 社員に危機意識を持たせる
- 変革を遂行する強力なチームをつくる
- ふさわしいビジョンを定める
- ビジョンを組織全体に周知する
- 社員に変革のための機会と権限を与える
- 小さな成果を実現して信頼を得る
- さらに難しい課題に取り組む
- 変革を文化として根付かせる
組織を変えるためには、社員に危機意識を持たせることが大切と考える8段階プロセスは、ともすると社員の不安や恐怖を煽ってしまうため、危機を乗り越えた先にある未来を明示することも大切です。
関連記事:ジョン・コッターのリーダーシップ論に学ぶ『変革時代で生き残るためには?』
特殊な集団を意識的に構築する
- 組織の人数規模が大きくなっている場合
- 変革で目指す状態と現状のギャップが大きい場合
集団の性質は良し、悪しで決まるわけではなく、大多数の集団がどちらを選んでいるかにより決定する傾向があります。
例えば、組織改革を実施するために、20時以降は残業禁止という方針を示したとしても、社内の多数グループが「20時以降」に仕事を終わらせることはできないと考えれば、なかなか組織改変はすすみません。
そこでおすすめなのが、「決まりを守る」特殊な集団を車内に構築し、正しく評価することです。
決まりを守ることで評価が上がるのであれば、有益性が高い集団を個人は選ぶ傾向があるため、特殊な集団の和は広がります。
そして特殊な集団がもはや特殊ではなくなったとき、組織は真の意味で変化するのです。
組織改革に伴う課題や問題
組織改革を行う際には、下記のような課題や問題が発生することがあるため、注意しなければなりません。
- 従業員と経営層のギャップ
- メッセージが伝わらない
- 現場が現状維持を望む
それでは1つずつ解説していきます。
従業員と経営層のギャップ
経営層がどれだけ高い意識を持って組織改革に望んだとしても、経営層から現場へと階層を降りるにつれて意識のギャップが生じます。
早い場合は執行役員や部長の段階で意識にギャップが表れてくるでしょう。
組織改革は自動的に行われるものではありません。つまり、どれだけ経営層が組織改革のために新たなシステムを導入したり、変革を起こそうとしても、現場で動く一人ひとりの従業員の意識と行動が変わらなければ、組織改革は進まないのです。
メッセージが伝わらない
組織改革を進めても思うように意識が変わらないのであれば、それは現場に組織改革に関する情報が正確に伝達できていないのかもしれません。
また、ただ現場に対して正確に情報を伝えても、従業員が「組織改革をしたところで私たちになにか良いことがあるのか?」や「組織改革をする意味がわからない」といったような反応が返ってくることもあるでしょう。
したがって組織改革を行う際は、正しくメッセージを伝えるだけではなく、「どのように理解を得るか」も考え、実行する必要があります。
現場が現状維持を望む
組織改革のために新たなツールやシステムを導入しても、現場に定着せずに宝の持ち腐れになることが少なくありません。
このような事態が起こる理由は、「現場は変化を嫌う」からです。
非効率的な業務を効率的にする道具やシステムを導入したとしても、それに慣れるまでの期間やそれを扱うために必要なことを覚えなければなりません。
これにより、「今までのやり方のほうがやりやすい」や「前のやり方のほうが早い」と従業員が感じてしまうため組織改革が進まないという状況に陥るのはよくあることです。
したがって、新しいやり方を導入するのであれば、「なぜ導入するのか?」や「導入するメリットは?」といったことを説明することが重要です。
組織改革を成功させるためのポイント
それでは、組織改革を成功させるためのポイントを見ていきましょう。
- 共感できるビジョンを掲げる
- 改革を担当するマネージャーを設置する
- メッセージを繰り返し伝える
- 効果を実感できるものから始める
それでは1つずつ解説していきます。
共感できるビジョンを掲げる
組織改革を始める際には、組織が達成するべき目標や、組織が目指すビジョンを掲げましょう。
このとき、崇高であることや目標が実現可能かどうかよりも、従業員が共感しやすいものを選ぶことが重要になります。なぜなら、共感は理解よりも人を動かすからです。
したがって、組織改革に協力することで自身にどのようなメリットがあるのか、どんなやりがいがあるのか、従業員がイメージしやすい目標やビジョンを設定しましょう。
改革を担当するマネージャーを設置する
経営層が組織改革に積極的に取り組んだとしても、現場の従業員が足並みを揃えなければ意味がありません。しかし、現場が自ら積極的に改革に取り組むことはほぼないといえます。
したがって、改革を担当するマネージャーを設置して、改革に関する権限を委ねることが重要です。マネージャーが現場を引っ張ることで組織改革を進めていけるよう、適任者を配置しましょう。
メッセージを繰り返し伝える
経営者が従業員に対して組織改革の重要性や意義を説いたとしても、それがたった一度であれば従業員の心には届きません。大切なことは、何度も繰り返し伝え続けることです。そして、さまざまなチャンネルを用いて伝え続けましょう。
例えば、経営者が直々に全社員に力説したり、社内報を用いて気軽に触れられる情報として伝えたりすることもできます。
効果を実感できるものから始める
組織改革を行う際は、現場の従業員が効果を実感しやすいものから始めるのが効果的です。
組織改革に取り組んでも何も変わらなかったり、効果を実感できなければ、従業員は組織改革に対するモチベーションを失ってしまいます。
だからこそ、組織改革によってなにか成果が出たら、すぐに社内で共有するなどの工夫が必要です。
組織改革の成功事例
ここからは組織改革に成功した企業事例をご紹介します。
- キリンビールの組織風土改革
- 湖池屋の組織改革
それぞれの事例をわかりやすく解説します。
キリンビールの組織風土改革
キリンビールが組織風土の改革を行ったのは2017年です。
社長を務めていた「布施孝之キリンビール前社長」が行った組織改革は、「社員に対して危機感を感じさせる」というものでした。
当時のキリンビールは2009年にアサヒビールからトップシェアを奪還してからは業績は右肩下がりという実態が続いていました。問題となっていたのは「他責文化」です。
布施氏はこの文化を変えるために社員に赤字に転落する可能性が十分にあることを示唆。真に顧客に向き合うためのマインドセットを従業員に伝え続けました。
その結果、「本麒麟」の開発に成功。
現在ではキリンビールを代表するブランドに成長しました。
湖池屋の組織改革
ポテトチップスで有名な「湖池屋」も組織改革に成功した企業として有名です。
湖池屋はかつて、全体の調和を大切にするため官僚主義のポジションをとっていた企業でした。
しかし2016年のリブランディング商品「湖池屋プライドポテト」をきっかけに、組織文化や組織風土を大幅に見直し。
ハード面では「チャレンジ」「成果」「役割」の3軸を軸に人事制度を見直し。ソフト面では「チャレンジ」の文化を車内に浸透させるための勉強会を実施しました。
その結果、リブランディングとマーケティング、組織風土の改革が相まり、2021年の経常利益は1,687百万円と好調。2020年と比較して約562百万円利益は向上しました。
まとめ
この記事では、組織改革に関してその言葉の意味や必要性、実施する際に気を付けたい点や重要なポイントなどを紹介しました。
組織改革は変化の多いこの時代に対応して競争に打ち勝つ組織を作っていくために非常に重要です。また、労働人口の減少などの中でも企業として成長していくために必須となる、生産性向上といった課題解決にも役立つはずです。
先述したように組織改革そのものはあくまで手段であるため、やみくもに行うのではなく、自社の抱える課題や現状をしっかり把握したうえで、しかるべき部分を改善できるよう取り組んでいくことが求められます。