リーダーシップを発揮するには、高い統率力とカリスマ性が欠かせないと思い込んでいませんか?
そのステレオタイプに一石を投じる考えが「サーバント・リーダーシップ」です。資生堂の変革者となった池田守男氏は社長在任中サーバント・リーダーシップを実践し、結果、現在も資生堂は世界に名だたる企業であり続けています。
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目次
サーバント・リーダーシップとは
サーバント・リーダーシップは、メンバーを引っ張るのではなく支えることでチームを導くリーダーシップです。アメリカのマネジメントの権威であり、教育コンサルタントでもあるグリーンリーフによって提唱されました。サーバント(servant)とは、「召使い」や「従者」などの意味を持っており、その名が意味するとおり、サーバント・リーダーは奉仕を目的達成の主な手段としています[1]。
サーバント・リーダーはツアーガイドである
サーバント・リーダーをイメージしやすい例として、旅行などのツアーガイドが挙げられます。当然ですが、ツアーガイドはリーダーではありません。したがって、強引に参加者を引っ張っていくこともしません。しかし、彼らはツアーガイドの指示のもと目的地(観光地)に付き従っていきます。ツアーガイドのやっていることは、参加者に対して目的地について魅力的に紹介すること、そして道中で細やかなケアを行うことです。この2つのクオリティが高ければ、参加者は自然を指示に従うようになるのです。
サーバント・リーダーの役割はビジョンと奉仕
サーバント・リーダーシップでも同様のアプローチが行われます。サーバント・リーダーが行うことは2つ。事業における魅力的かつ有益な目的(ビジョン)を掲げて周知・浸透させること、そして、ビジョンに向かって行動するメンバーを下から支え続けることです。この2つの要素が機能すれば、メンバーは自発的かつ精力的にビジョンに向かって動いていきます。
媚びるのではなくビジョンのために奉仕する
チームに奉仕すると聞くと、機嫌を損ねないように媚びを売るようなイメージを持ってしまうかもしれません。しかし、奉仕をするのはご機嫌取りではなくあくまで目的を達成するためです。例として、子に対する親の振る舞いを考えてみるとわかりやすいです。親はできるだけ子供に良い環境を与えてあげたいと考えます。本人が望むのなら、スクールに通わせたり、旅行に連れて行ってあげたりします。しかし、これは媚びを売っているのではなく健やかに成長してほしいという目的があるからです。その目的に反する姿勢を子供が見せれば、それを正すような対応も取る必要があるでしょう。あくまで目的が前提として存在し、それに適う行動を支えるのがサーバント・リーダーシップなのです。
資生堂を生き返らせた逆三角形のピラミッド
「資生堂の再生」をミッションとして、秘書から経営者に抜擢された池田守男氏。従来の大量生産・大量消費では生き残れないと考えた彼は、店頭を中心に据えた経営改革に踏み切りました。消費者に最も近い場所でニーズをリアルタイムでくみ取り、無駄のない生産と販売を行うことで利益率の高い経営体質に生まれ変わろうと考えたのです[2]。この店頭中心の経営を行うには、全社的に現場を支える必要があります。その姿勢を端的に表すものとして池田氏が考えついたのが、逆三角形ピラミッドの組織図です。
参照:池田守男、金井壽宏著「サーバントリーダーシップ入門」かんき出版
従来の組織図では、一般社員がピラミッドの底辺を支え、ポジションが上がるほど上層に行き、社長や会長が頂点に君臨しています。しかし、現場第一主義、お客さまへの奉仕を第一に考えた池田氏は、お客さまと店頭のスタッフを最も支えるべき存在として上層に配置。店舗こそ企業の主役と考え、全社的に彼らを支えるスタンスを明示したのです。このビジョンに合わせ、多数の50代社員の早期退職を断行、会社の若返りをも果たしました。本社や経営者が現場を支える姿勢は、まさにサーバント・リーダーシップそのものと言えるでしょう。
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なぜ私たちはサーバント・リーダーになるべきなのか
サーバント・リーダーシップ最大のメリットは、チームメンバーのパフォーマンスを最大限引き出せる点にあります。従来の支配型マネジメントでは到達が難しいレベルでの動機付けが可能となるからです。
変革の時代だからこそ必要なサーバント・リーダー
ITによる高速通信の実現によって、時代はかつてない程めまぐるしく変化しています。もはや、リーダー個人の価値観やアイデアだけではもはや対処することは至難の業です。いかに、チームメンバーや現場で働くスタッフの情報やアイデアをくみ取り、精力的に行動してもらうかが企業存続のカギとなるのです。
サーバント・リーダーこそがパフォーマンスを引き出す
サーバント・リーダーと対極をなす考え方に「支配型リーダー」というものがあります。支配型リーダーは、いわばリーダーに権力を集約させた従来型のリーダーシップです。支配型リーダーとサーバント・リーダーでは、チームメンバーの行動には以下のような違いが見られます。ざっと眺めるだけでもサーバント・リーダーのチームメンバー方が高いパフォーマンスを発揮する印象を受けるでしょう。
支配的リーダーに従うメンバー行動
サーバント・リーダーに従うメンバー行動
主に恐れや義務感で行動する
主にやりたい気持ちで行動する
主に言われてから行動する
主に言われる前に行動する
言われたとおりにしようとする
工夫できるところは工夫しようとする
リーダーの機嫌を伺う
やるべきことに集中する
役割や指示内容だけに集中する
リーダーの示すビジョンを意識する
リーダーに従っている感覚を持つ
リーダーと一緒に活動している感覚を持つ
リーダーをあまり信頼しない
リーダーを信頼する
自己中心的な姿勢を身に付けやすい
周囲に役立とうとする姿勢を身に付けやすい
出典:NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会
サーバント・リーダーは内発的な動機を引き出す
人を動かすための動機付けについて研究したアメリカ人学者デシは、人が自主的・精力的に行動する条件として、自律性、つまり自分の意志で行動を決定しているかどうかが重要だと提唱しました。支配型リーダーの場合、リーダーへの恐れや義務感、あるいは金銭によって行動します。これは行動の報酬が外部にあるため動機としては自律性に欠けます。この場合、チームメンバーは報酬を受け取れる最低限の行動しかしないでしょう。
一方、サーバント・リーダーの場合は提示するのはビジョンだけであり、ビジョンに適うものならどのような行動を取るかは各人に任されます。つまり、自主性を十分に発揮できる環境が与えられるのです。自主性によって動機付けが高まると、行動の量も質も高いレベルで発揮されます。変革の時代に対応できるさまざまなアイデアも浮かんでくるかもしれません。
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サーバント・リーダーシップを発揮するための仕組み作り
池田氏が組織改革を行ったように、サーバント・リーダーシップを発揮するには仕組みをしっかり作らなければなりません。考えるべき要素は次の2つです。
・ビジョンのトップダウン
・意見のボトムアップ
ビジョンを周知する手段を持つ
サーバント・リーダーシップは、ビジョンに基づきメンバーに奉仕し目的を達成するために存在します。したがって、あらゆるアクションの前提となる目的意識はリーダーから発信・周知しなくてはなりません。ビジョンを組織に浸透させるには、あらゆる媒体を用いて繰り返し周知することが重要です[3]。具体的には社内報やイントラネットの表示画面、定例会議などを活用すると良いでしょう。
メンバーの声を聴く手段を持つ
ビジョンの策定や周知はトップダウンですが、情報のキャッチアップやアイデアはボトムアップでなくてはなりません。メンバーの自主性を十分に反映できる体制が必要です。定番の目安箱を設置してもよいですし、社内のポータルサイトがあればチャットツールやが掲示板を活用するとスピーディーな意思決定が可能となります。
風通しの良い職場を築き上げる
サーバント・リーダーシップの実現で重要なのは、リーダーとメンバーが柔軟かつ自由に相互にやり取りできる環境の構築です。そのためには、いわゆる「報連相」が活発な風土を醸成する必要があります。曲解されがちですが、報連相は部下だけが持つべきスキルではありません。「気兼ねなく上司と部下がやり取りできる雰囲気を作り出しましょう」という意味合いで用いられた言葉です[4]。その意味では、影響力の高い上司こそが気にかけるべき事柄だと言えます。「話しかけづらい状況でもしっかり報告しろ!」では十分なパフォーマンスを引き出すことはできません。チームメンバーがアイデアや情報を積極的に共有できるようサポートできるか、この点でもサーバント・リーダーシップの手腕が問われるのです。
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目的にフォーカスして利他的になることが成功の秘訣
サーバント・リーダーシップを成果につなげるには、メンバーそれぞれに対する細やかなサポートと地道な取り組みが大切です。
そこで大切となるのは、リーダーとしての威厳やメンツといった考えをいったん横に置き、目的の達成にフォーカスすることでしょう。紋切り型の主従関係ではメンバーのポテンシャルを最大限に引き出すことはできません。
いかにビジョンのために個を捨て利他的になれるか、この点にサーバント・リーダーシップの成否がかかっていると言っても過言ではないのです。
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[1]池田守男、金井壽宏著「サーバントリーダーシップ入門」かんき出版
[2]https://biz-journal.jp/2013/07/post_2425.html
[3]ジョン・P・コッター著「リーダーシップ論」ダイヤモンド社
[4]http://nikkeiph.com/spinaches/