経営者
専門家
デジタル化が進む現代ビジネス社会。〇〇テックという言葉は世の中に溢れています。
- Agritech
- Autotech
- Fintech
- Edtech
- Hometech
上記のように、既にあるビジネスをデジタル化するビジネススキームはどんどん増加中です。
本記事で紹介するのは、同じテック系列の「不動産テック」です。
不動産分野は情報の秘匿性がビジネスの優位性に繋がります。
したがって、不動産テックには他のビジネスにはないIT化の難解さがあります。
本記事では、不動産テックの意味や定義といった基本的な事柄から、具体的な不動産テック企業までをわかりやすく解説します。
「不動産テックは初めて聞いた」という方から「実際の企業事例まで知りたい」と思っている方にまでおすすめできる記事になっていますので、ぜひご一読ください。
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目次
不動産テックとは
専門家
具体的に不動産とテクノロジーがどのように繋がるのかを以下の観点から解説します。
- そもそも不動産業界とは
- 不動産テックの意味、定義
- 不動産テックの種類
それぞれわかりやすく解説をします。
不動産業界とは
経営者
不動産業界とは土地や建物の販売に係る業種を指します。
例えば、まちづくりを進めるデベロッパーや物件の賃貸をする不動産仲介業者、その他にもゼネコンやサブコンまで幅広い仕事が不動産業界に該当します。
なお、似たような言葉に宅建業がありますが、宅建業は不動産の売買や賃貸仲介などを示す言葉であり、これも不動産業界の一部です
したがって、ひとくちに不動産テックといっても幅広く、多くの不動産に係るテクノロジー技術が不動産テックには内包されると理解しておきましょう。
不動産テックの意味、定義
一般社団法人の不動産テック協会では、不動産テックを以下のように定義しています。
「不動産テック(Prop Tech、ReTech:Real Estate Techとも呼ぶ)とは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。
引用:不動産テック協会
したがって、不動産テックとは「不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変える」ことが重視されているため、データをエクセルで管理することなどは、不動産テックに該当しないことに注意しましょう。
参考:不動産テックの定義 | 不動産テック教会
不動産テックの種類
不動産テックが示す範囲は広いため、多くのテクノロジーが不動産テックに該当しますが、具体的には以下の3種類に分類できます。
- 物件情報の管理
- 仲介機能
- 価格の可視化
物件情報の管理とは、例えば、物件には過去どのような人物が住んでいたかなどの情報です。皆さんも賃貸物件を探すのであれば、その物件が事故物件でないかなどは調べたことがあると思います。
ただし、こうした情報は不動産屋から直接仕入れる他ないのが現状であり、顧客自身で調べる手段を持たないクローズドな業界構造が、現状の不動産業界です。
また、仲介機能にもまだ課題が残っています。不動産を借りるときには不動産屋に直接出向いたり、物件を見に直接足を運ぶ必要があります。
他にも、価格の可視化も現在不明瞭です。例えば、皆さんが賃貸物件を見るときに、その価格が高いのかどうかを他の物件と比べて比較することはできても、その物件の価格が果たして適切なのかまではわかりません。
専門家
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不動産テックの具体例
経営者
不動産業界の現状の課題を解決する不動産テックにはどういったものがあるのでしょうか。
例えば、以下のような技術が不動産テックに該当します。
- ブロックチェーン:物件情報の管理
- VR :仲介機能
- AI:価格の可視化
それぞれ詳しく解説します。
ブロックチェーン:物件情報の管理
ブロックチェーンとは、取引履歴を暗号技術を使って過去から現在までのデータを一本に繋ぎ、正確な取引を保持する技術を指します。過去から現在までのデータがチェーンのように記録されるため、ブロックチェーンという名前がつきました。
ブロックチェーンの技術は、現在金融や医療などにも転用されていますが、その理由は、履歴を改ざんできないというブロックチェーンの特徴があるからです。
したがって、ブロックチェーンを使って不動産情報を管理することで、物件情報の管理がしやすくなります。
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VR :仲介機能
VRの技術を利用することで、不動産の仲介機能が高まる可能性があります。
従来、不動産の内見の際には顧客が実際に物件まで足を運ぶ必要があるほか、不動産会社も鍵を手配し、顧客の内見に付き合う必要があり、内見は気軽にできるものとはいいづらい状況でした。
しかし、VRが普及すれば顧客は自宅にいながらでも内見ができるようになります。
また、VRの技術を応用することで3D空間でのレイアウト配置ができるようになり、顧客も契約後の家具の配置を検討しやすくなります。
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AI:価格の可視化
AIのビッグデータを利用することで、不動産の価格を適正値に設定できるかもしれません。AIではこれまでの売買データを蓄積し、適切な価格を算出できます。
すると、過去の取引に基づくデータが算出されるため、顧客にとっても不動産会社にとってもクリアな価格が設定できます。
このように、不動産テックではテクノロジーを用いてまだまだ業務を効率化することができます。
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不動産テックカオスマップとは
不動産テックカオスマップとは、不動産テックと関連がある企業を以下の項目に分けて図式化したものです。
- ローン・保証
- クラウドファンディング
- 仲介業務支援
- 管理業務支援
- 価格可視化・査定
- 不動産情報
- 物件情報・メディア
- マッチング
- VR・AR
- IOT
- リフォーム・イノベーション
- スペースシェアリング
不動産テックカオスマップは一般社団法人不動産テック協会によって作成されました。
一般社団法人不動産テック協会は、不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産事業の健全な発展を促進するために設立された協会です。
不動産テックカオスマップは2021年7月8日に更新された第7版が最新となっています。
不動産テックカオスマップでは、具体的に以下のようなサービスが紹介されています。
- WhatzMoney
- ARUHI
- OwnersBook
- LIQUID
- オンライン売却
- スマート内覧
- 楽待
- オンライン内見
不動産テックカオスマップは現状まだまだB to C向けのサービスが多く、B to B向けのサービスが少ないことがわかります。
経営者
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不動産テックを妨げる理由
不動産テックは今後より推し進めていくべき施策が多いですが、現状はそこまで進んでいません。ここではもう少し深く不動産テックの現状を解説します。
- 情報の秘匿性が武器
- デジタル化が遅れている
それぞれ詳しく解説します。
情報の秘匿性が武器
不動産テックの浸透に時間がかかっているのは、不動産業界は情報の秘匿性こそが武器になるからです。
不動産業界において各企業の差別化はどの物件を持っているかと、どの物件情報を知っているかに分かれます。
このため、不動産会社は相手によって公開する情報範囲を狭めたり広めたりします。
したがって不動産業界が持っている情報を全て開示し「見える化」することは難しかったのです。
業務フローが古くデジタル化が遅れている
不動産業界の業務フローは昔から変わっていないというのも課題のひとつです。
例えば、不動産の仲介業者は顧客からの問い合わせがあると、大元の仲介業者に不動産の空き状況を確認し、問題がなければ顧客に物件の紹介をするという慣習があります。
つまり、リアルタイムでの物件の空き情報を共有する仕組みが整っていなかったのです。これには、先ほどの情報の秘匿性と関係がありますが、いずれにせよこのような古い業務フローが固定化されているため、業務プロセスを変化させにくいという問題があります。
つまり、最新のITプロセスへと変えるためには、自社のみをデジタル化するのではなく、その関連企業も同時にデジタル化しなければならないのです。
こうした2つの現状が、不動産テックの浸透を妨げています。
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不動産テックが注目されている理由
前述した不動産テックの現状がありながら、なぜ不動産テックは注目され始めたのでしょうか。
ここには以下2つの理由があります。
- 労働生産性が低いから
- データベースがないから
それぞれの理由を詳しく解説します。
労働生産性が低いから
日本は現在少子高齢化により、労働人口の減少という問題を抱えています。
それにも関わらず、不動産業界のITリテラシーや生産性は低く、現状のままでは不動産業界全体が衰退するという危機感があります。
実際、「我が国における労働生産性をめぐる現状と課題」によれば、不動産業界の労働生産性はアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスと比較して非常に低くなっています。
また、産業別のIT資本投入で比較した際にも、不動産業界は他業種と比較して最も値が小さくなっています。
つまり、不動産業界の労働生産性が低いのは、IT資本が投入されていないことが原因なのです。
このような問題に対処するためには、今まで秘匿してきた情報を一部開示してでも、デジタル化に備える必要があります。
参考:我が国における労働生産性をめぐる現状と課題 | 衆議院
統合データベースがない
米国にはMLS(Multiple Listing Service)と呼ばれる不動産の売り情報を共有化する仕組みがあったのに対し、日本ではこうしたデータベースができていないのも現在の課題です。
似たようなシステムとして、不動産事業者だけが活用できる「REINS」というシステムはありますが、事業者は顧客より受け取った物件情報を「REINS」に載せなくても罰金などはありません。
したがって、不動産会社が世の中に情報を共有せず、自社だけが持っている情報にしようとすれば、「物件情報をREINSに公開しない」という選択を取れるので、必ずしもREINSに物件情報が全て集約されているとはいえません。
専門家
不動産テックのメリット
不動産テックを導入することで業界全体として以下のメリットがあります。
- 情報の質が向上する
- 労働生産性が向上する
- 物件の検索が楽になる
それぞれ詳しく解説します。
情報の質が向上する
不動産情報の取り扱いにテクノロジーを活用することで、情報の質が向上します。今までは人づてに聞いていた不動産情報がデータ化され、可視化されるためです。
労働生産性が向上する
不動産テックを導入することで、労働生産性が向上します。
今まで不動産管理に使っていたリソースを、顧客対応などに利用できるようになるため、不動産業界の働き手不足も改善されます。
物件の検索が楽になる
顧客側から見ても、不動産情報の透明性が高まります。現状は顧客から不動産の生データにアクセスすることはできないため、不動産会社から二次的な物件データを獲得する他に選択肢はありません。
つまり、現在消費者にとって不動産データはブラックボックス化しているということです。
しかし、不動産テックを活用することで、このブラックボックスがクリアになります。
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不動産テックのデメリット
経営者
不動産テックのデメリットは以下3つです。
- 業界全体の環境整備が必要
- 仕組みづくりが重要
- 電子化が行えない契約もある
それぞれわかりやすく解説します。
業界全体の環境整備が必要
不動産テックを進めるためにはひとつの会社が不動産テックに注力するだけでは不十分です。業界全体として不動産テックを導入していかなければ業界は何ひとつ変わりません。
業界全体が足並みを揃えなければ不動産テックは進まないでしょう。
仕組みづくりが重要
不動産テックを取り入れるためには社内の仕組みづくりも不可欠です。
例えば「ZOOM」や「Teams」などのチャット機能を自社に導入をするだけでも以下のような課題があります。
- いつ使えばいいのか
- セキュリティに問題はないか
- 有料版の場合はそもそもどのツールを使うのか
上記の問題を解決し、不動産テックを押し進めていくためには、自社での明確なルールづくりや仕組みづくりが不可欠です。
電子化が行えない契約もある
不動産業界では電子契約が少しずつ浸透してきましたが、まだ電子化できない書類があります。
例えば、以下の契約については全てを電子契約で済ませることができない場合があります。
- 定期借家契約
- 賃貸借契約
賃貸借契約の場合は、宅建業法に該当しない契約であれば電子契約できますが、このように電子契約できる・できないのいくつかのパターンがあるため、それらの管理・判断の煩雑さが課題です。
したがって、不動産テックになかなか踏み込めない不動産会社も多いのです。
参考:借地借家法 | e-Gov法令検索
参考:宅地建物取引業法 | e-Gov法令検索
不動産テックの具体的な企業
不動産テックへの重要性が高まるにつれ、不動産テック企業の数は増え続けています。
具体的な企業として以下2社を紹介します。
- リノべる株式会社
- スパイダープラス株式会社
リノべる株式会社
リノべる株式会社が展開するアプリ「sugata」では、リノベーションとデジタルが上手に組み合わさっています。
リノベーションには従来、顧客の考えていること、求めているイメージの可視化が難しいという課題がありました。こうした課題に「sugata」が答えます。
「sugata」ではリノベーションの事例が並んでおり、好みを選択することで3つのテイストが提案される仕組みになっています。従来、顧客の意向をくみとって、可視化することで押し売りのように感じられてしまうジレンマを解消した不動産テック例です。
スパイダープラス株式会社
建設やメンテナンス業向けの現場管理アプリを開発したスパイダープラス株式会社も不動産テックのひとつの例です。
建設やメンテナンス業では、図面を事務所に忘れてしまったりすると一度取りに戻る必要があったり、検査結果を事務所に帰ってからパソコンで転記する必要があったりと非効率な業務があり、業務効率化を妨げていました。
「スパイダープラス」では大量の図面をひとつのアプリケーション内でデジタル管理できるため、現場にいながらもデジタル図面と検査結果を一元管理できるようになりました。
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不動産テック導入のポイント
不動産テックを導入する際のポイントは以下3つです。
- 不動産テックの導入には補助金も利用してみる
- 情報収集を怠らない
- 出資をする
それぞれわかりやすく解説します。
不動産テックの導入には補助金も利用してみる
一般的にテクノロジーと聞くと高いというイメージもあるかもしれませんが、不動産テックの進歩により、比較的安価な商品は続々と登場しています。
また、国もIT導入補助金などを導入しているため、要件に適合すれば国の補助を受けることも可能です。
自社も対象になっているか確認することをおすすめします。
参考:IT導入補助金2021 | 令和2年度第三次補正 サービス等生産性向上IT導入支援事業
情報収集を怠らない
最新の不動産テック情報は敏感に集めておくことが大切です。
近頃は不動産テック企業も数が増えているため、闇雲にIT技術を取り入れるのではなく、自社にあったテクノロジーを取り入れることが重要になっています。
不動産テック企業からの情報提供を待つのではなく、自社から情報を集める重要性も高まっています。
なお、不動産テックの情報を集めるのであれば後述の不動産テックEXPOなどに参加してみるのもおすすめです。
出資をする
自社に余裕があるのであれば、有望企業への出資をするのも推奨されます。
不動産テックを進めている企業で、自社との親和性が高くシナジー効果が生まれそうであれば、積極的に出資をする姿勢も、今後不動産業界には求められそうです。
不動産テックが分かる場所:不動産テックEXPO
最新の不動産テック情報を収集するのであれば、不動産テックEXPOに赴いてみると良いでしょう。
2020年より始まった不動産テックEXPOでは不動産テックの会社が参加し、その技術を紹介しています。2021年に430社が参加する本イベントでは、管理業務支援、仲介支援、不動産IOTなど不動産テックのジャンル別に不動産テック会社がまとめられており、商談も可能です。
経営者
まとめ 不動産テックについて
本記事では不動産テックについて解説しました。
なかなかテクノロジー化が進まなかった不動産業界にも、テクノロジーの波はもうそこまできています。
限りある自社のリソースを上手く活用するために、不動産テックの導入を検討してみるのはいかがでしょうか。
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