ストレスを逃がし、うまく付き合っていくために、コーピングが役立ちます。
人間が生きていくうえで、ストレスを感じることは避けられません。
しかし、コーピングを知っていれば、ストレスで心身のバランスを崩したり、命を失ったりする人を減らせるかもしれません。本記事ではストレスコーピングの方法や効果をお伝えいたします。
目次
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとはストレスマネジメントのひとつです。ストレスに対処することや、その方法を指しており、単に「コーピング」とも呼ばれています。
もともとはメンタルヘルスケアの分野で用いられる言葉で「問題に対処する、または対応する」という意味の「cope」を語源としています。
ストレスコーピングがいま必要な理由
コーピングが必要とされている理由のひとつには、仕事でのストレスが挙げられます。2015年から職場でのストレスチェックが義務化され、働く人の実に60%が「仕事でストレスを感じている」という事実がわかりました。
その割合は年々増えてきており、ストレスの問題を避けて通ることはできません。働く人だけに限りませんが、わたしたちは多くのストレスにさらされています。
そして、さらに大きな問題になっているのが「自殺」の増加です。特に2021年には2万1007人が自殺したと報告されています。コロナ禍で仕事を失い、経済的な苦境に立たされた人も多かった一方、仕事だけでなく家庭生活、子育てなどでストレスを抱えている人も多くいます。
ストレスはうつ病や心筋梗塞、脳梗塞の原因になることが知られており、放置すると心身に影響を及ぼします。働く全ての人がストレスとどのようにつきあい、コントロールしていくかについて知っておくことは重要な課題です。
厚生労働省の統計によると、年々精神疾患が労災として認定される件数が増えていることがわかります。次に示すのは令和3年に報告されたデータです。
ストレスがかかっている状態を放置するべきでないことは明らかで、その対策としてコーピングが知られています
ストレスとは心身の緊張状態のこと
厚生労働省は「ストレス」について以下のように定義しています。
そもそもストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです。 外部からの刺激には、天候や騒音などの環境的要因、病気や睡眠不足などの身体的要因、不安や悩みなど心理的な要因、そして人間関係がうまくいかない、仕事が忙しいなどの社会的要因があります。
(引用:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)
ここからもわかるように、わたしたちのまわりのあらゆるものはストレスの原因になりえます。このストレスの原因となるものをストレッサーと呼び、結婚のようなライフイベントや引っ越し、転職などもストレッサーになります。
けれども、ストレスがすべて悪いというわけではありません。緊張やストレスがあるからこそ物事を慎重に進められる場面もあります。
例えば車の運転を考えるとわかりやすいのではないでしょうか。「車は人の命を奪うこともある」という緊張状態(つまりストレス)を持っているからこそ安全な運転を心がけるのです。
けれど、あまりにも緊張状態が強すぎる、または長く続くと人間はそれに耐えられなくなります。心身ともに疲弊し、正常な思考力が奪われるのです。適度にストレスを緩和し、折り合いをつけていく必要があります。
ストレスが発生する仕組み
コーピングを始めるには、まずストレッサーを分類します。ストレッサーとは「ストレスを与えるもの」を指し、前述したように、あらゆるものはストレッサーになりえます。しかし、同じことに直面していてもそれがストレスになる人もいれば、ならない人もいます。その違いはどこから来るのでしょうか?
一次的認知評価と二次的認知評価とは
コーピングの前にまず、ストレッサーになる物事のふるい分けをします。ある状況がストレスフルなものであるかどうかは、各人の受け止め方によって違います。
例えば天気が悪いという状況は、ある人にとっては「天気が悪いことで頭痛がする」ためにストレスを与えるもの、つまり「ストレッサー」になります。一方、別の人にとっては単に「天気が悪い」ということに過ぎません。雨が降っているなら傘をさせばいいと考えるのです。
このように、ある物事に対して、まずそれがどの程度自分にとって脅威になるかを評価します。これを「一次的認知評価」といいます。その後、それに応じて必要な手段をどれだけとれるかについて評価することを「二次的認知評価」といいます。
ストレッサーの受け止め方が変わればストレスは変化する
「一次的認知評価」と「二次的認知評価」とは連動しています。しかし、その人の置かれた環境は時間の経過にともなって変化することがあります。ですからストレッサーは常に同じではなく、特になんらかの手段をとらなくても時間の経過とともに消えていることもあります。
またその人自身のものの見方や受け止め方が変化することにより、以前はストレスフルであった物事が、それほど影響を与えなくなることもあります。
例としてコロナ感染症について考えてみましょう。感染の脅威にさらされた人もいましたし、飲食関係や旅行業界などは大きなダメージを受け、そのために仕事を失った人もいました。
コロナ感染症が多くの人にとってストレッサーであったことは間違いありません。けれども、ワクチンが開発されたこともあり、時間の経過とともに不安は少なくなりました。
またリモートワークが許された人たちにとっては、むしろストレスが少なくなり快適だったということもあります。家族との時間を多く確保できたり、満員電車での出勤が減ったりしたことが要因です。
このように、同じ物事でもストレスをもたらすものではなくなることもあります。しかし状況が変化するのを待つだけでなく、ストレッサーとなるものに対処し、ストレスの受け止め方を変化させることを目指すのが「コーピング」です。
ストレスに対する3つの対処法
ストレスに対処する方法は、大きく分けると「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3つがあります。それぞれについて説明していきます。
1. 問題焦点型
「問題焦点型」コーピングとは、ストレッサーそのものに対処して、問題の解決法を探すことです。
たとえば、天気が悪い日は頭痛がするからストレスになるならば「頭痛薬を飲む」、雨に濡れることがストレスなら「傘をさす」のがそれにあたります。
職場の人とうまくやれないならば、なぜうまくやれないのか原因を探り「関わり方を変える」「異動を含めて上司に相談する」なども問題焦点型のひとつです。
問題焦点型は最もストレートな方法ですが、問題そのものを自分ではどうしようもない場合もあります。
雨が降ることは自分には止められませんし、合わない上司や同僚を変化させることや存在を消すことは不可能です。
ひたすら我慢するという選択肢もありますが、やはり限界があります。いずれ心は悲鳴を上げるでしょう。そこで次にあげる「情動焦点型」もあわせて試してみてください。
2. 情動焦点型
「情動焦点型」はストレッサーに対する自分の「感じ方」をコントロールする方法です。ストレッサーそのものに対処するわけではないため、ストレッサーはそのままありつづけます。ストレッサーに対して起きる気持ちに対処するのがこの方法です。
例えば、雨の日の外出が億劫でストレスならば、お気に入りの傘とレインブーツで出かけてみます。「お気に入りの傘があれば雨の日もまた楽しい」と考えれば、ストレスは軽くなるかもしれません。
嫌な上司がいるのがストレスなら、「自分は職場に友達を探しに行っているのではない」と考え方を変えてみるのも情動焦点型にあたります。
3. ストレス解消型
「解消型」は多くの人がもっともやりやすいストレスコーピングの方法です。ストレスを感じたときに、自分が楽しめることや気分転換になることを行います。例えば、以下のようなことでストレスを解消するのもひとつの方法です。
- カラオケで思いっきり歌をうたう
- お気に入りのレストランで食事を楽しむ
- ジムやヨガなど体を動かす
旅行のように大がかりなことでなくても構いません。嫌なことがあった時に「これをすると前向きになれる」という選択肢を用意しておくのが大切です。
ストレス解消型の中でも、おすすめは「寝る」ことです。睡眠時間が足りないと消極的な考えにとらわれるようになりますし、寝て起きたら気分が変わっていたことは誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
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ストレスコーピングで変わること
コーピングを実践することによって、ストレッサーに対する反応が変わります。ストレスが及ぼす悪影響を最小限に抑え、職場をより働きやすい雰囲気に保つことができます。
心理的反応
- 問題が生じたときの解決法を持っているという安心感がある
- 自分に対する肯定的な見方を保つことができる
「自分の手に負えないことが起こったとしても、自分はペースを乱されることなくやっていける」という自信は安定感をうみます。たとえ問題をなくすことができないとしても、自己肯定感を持てる人は、他の人に対して攻撃的にならず、穏やかな見方をするようになります。
穏やかな人、落ち着いた人がいる職場では良い循環が起きます。みなが他の人に対して思いやりを持ち、他の人のストレスにならないように気遣いを示すようになるからです。
生理的反応
- 自律神経や副交感神経の働きがととのう
- ホルモンバランスがととのう
心身は相関していることはよく知られています。ストレッサーに対する反応が穏やかなものになれば、健康になります。健全な思考力はバランスの取れた食事をとったり、体を動かしたりする活力を与え、質の良い睡眠をとることができるようになるからです。
自律神経や副交感神経の働きが整うことでリラックスした穏やかな精神状態を保つことができるようになります。
企業にとっては健康で、意欲的に働き続けられる人材を得ることにつながります。
ストレスコーピングで大切なこと
ストレスコーピングを行ううえで大切なことは、ストレスのサインを知ることと、問題を解決したいという強い意思を持つことです。
ストレスのサインを知る
ストレスコーピングを実践するには、まずストレスの発生に気づく必要があります。例えば、ストレスがあったときには、以下のようなサインが現れます。
<メンタル面に表れる症状>
- 漠然とした不安感
- いつもイライラしている
- 怒りっぽい
- いつもぼんやりしている
<身体面であらわれる症状>
- 不眠
- 頭痛
- 腰痛
- 高血圧
- 不整脈
- 胃痛
<行動面にあらわれる症状>
- 遅刻
- 無断欠勤
- 暴飲・暴食
- 他の人に対する攻撃的な態度
サインが明らかに複数認められる場合、ストレスを強く感じていると考えられます。つまり「今はストレスコーピングが必要な場面」ということです。
上記のような症状があるなら、コーピングを試してみてください。また、本人がそうできないほどストレスに押しつぶされそうになっているなら、家族や友人、同僚などに手助けしてもらうことも必要です。
問題を解決したいという強い意思を持つ
コーピングのもっとも重要な面は「解決したい」という強い意思です。特に問題焦点型のストレスコーピングにおいては、具体的な計画と行動が求められます。
漫然と「解決されればいいな」と考えるだけでは、具体的な変化はありません。あくまでも「自分で問題をクリアする」という気持ちを持ち、ストレッサーに立ち向かう姿勢でなければなりません。
まとめ:コーピングを組みわせてストレスに対処しよう
ストレスは生きている限り、切り離すことはできないものです。また、状況によっては必要なものでもあり、わたしたちの成長や意欲に良い影響を与えることもあります。しかしながら、あまりにも大きなストレスは、やる気だけではなく生きる意欲まで奪うものにもなりかねません。
まずは、ストレスを感じたときにはどのような方法で解決でき、何をすれば気分転換になるのかを考え、自分にとってよりよい方法を実践してみてください。
また職場においてはスタッフが気持ちよく働ける環境にすることを目標として、ストレコーピングを導入することをおすすめします。