中間管理職になってくると、単に仕事ができるだけではなく部下の育成についても大きな責任を担ってきます。しかし、上司から部下へ丁寧に説明したり、発破をかけたりしているつもりでもうまくいかないケースは少なくありません。部下を成長させるためにはいったいどんなコミュニケーションが必要でしょうか。ここでは、部下を成長させるためのコミュニケーション方法や考え方について解説します。
そもそも、上司って何をしたらいいの?という方はこちらもご覧ください。
参考記事:コミュトレ|はじめてリーダーになる人が必ずおさえるべき「仕事に対する3つの姿勢」
コミュニケーションが部下のモチベーションアップや、仕事へのフィードバックになると考え、部下に積極的に声をかけているという人は多いのではないでしょうか。しかし、同時に「積極的にコミュニケーションをとっているが、それが本人の成長や成果につながらない」と悩んでいる人も多いはずです。3つの視点から部下と上司のコミュニケーションを考えてみましょう。
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目次
「EQリーダーシップ」を磨いて部下が望む言葉をかけよう
感情抜きの知性(IQ:Intelligence Quotient)よりも、人間の感情を理解する能力や意思決定の際の直感力(EQ:Emotional Intelligence Quotient)を重視するリーダーシップ論を「EQリーダーシップ」といいます。この理論の提唱者であるダニエル・ゴールマンは著書『Primal Leadership』の中で、リーダーは以下の6つの「EQリーダシップスタイル」を状況に応じて使い分けるべきだと提唱しているのです。
・ ビジョン型:部下を動かすために共通の夢を提示する
・ コーチ型:部下ごとの希望を組織の目標と関連付ける
・ 関係重視型:上司部下の関係をつなげて協調させる
・ 民主型:組織の実行力を作り出すため、部下を積極的に参加させて提案を奨励する
・ ペースセッター型:目標を設定する際、難易度が高く、やりがいのある目標を心がける
・ 強制型:部下の恐怖感を低下させるため緊急時に進むべき道を明確にする
EQリーダーシップは理論や理屈ではなく、部下の感情に訴えかけることで共感や協力を得るためのリーダーシップです。これを部下とのコミュニケーションに当てはめて考えてみましょう。例えば、部下が自分の目指すべき方向性を見失って迷っているときなどは「一緒にやろう」と声をかけて、ビジョン型のEQリーダシップスタイルをとると効果的です。
もっと直接的に部下の成長につなげたい場合は、本人の希望を組織の目標に結びつけたうえで背中を押してあげるとハードルを与えるコーチ型のスタイルをとるといいでしょう。肝心なのは「部下が望む言葉を与えてやること」です。それが上司への共感と協力、そして仕事へのモチベーションにつながり、最終的には本人の成長と成果につながっていくはずです。
「サーバントリーダーシップ」に基づいて部下に尽くそう
教育コンサルタントのロバート・K・グリーンリーフは著書『サーバントリーダーシップ』(1977年原著刊行)の中で、興味深いことを述べています。リーダーシップ哲学について「リーダーとは、まず相手に奉仕し、その後に相手を導いていくものである」と提唱しました。これは「サーバントリーダーシップ」もしくは「支援型リーダーシップ」と呼ばれます。
このリーダーシップ哲学がリーダーに求めるのは、サーバント(召使い)としての役割です。例えば、上司はチームの部下が仕事をしやすいように根回しをしておくことも一つといえます。さらに、部下上司間の意思疎通をスムーズにするため、積極的にコミュニケーションを図るなど部下がモチベーションを維持できるように気を配ることも重要です。
グリーンリーフによれば、こうして働きやすい環境を作ってやると部下は次のような変化を見せるとされています。
1.上司に引っ張られるのではなく自分で考えて行動するので、自主性が身につく
2.自分で考えられるようになるので、自ら結果のために努力できるようになる
3.自主性が尊重されることで、仕事へのモチベーションアップにつながる
4.自分のために奔走してくれる上司が心の支えになり、働きがいを感じる
まさに上司が求める部下の成長です。サーバントリーダーシップを参考にするなら、部下とコミュニケーションをとる際にはむやみに話しかけてはいけません。「相手が働きやすい環境を作ってやるには、どんな言葉が必要か」と考えて言葉を選んでみてはいかがでしょうか。
上司からコミュニケーションをスタートさせるのをやめよう
識学というマネジメント理論は、そもそも「上司から積極的にコミュニケーションをとる」という行動自体が間違っていると指摘します。そして、「上司から部下」というコミュニケーションの方向ではなく、「部下から上司」という方向に変更したほうがよいでしょう。なぜなら、「上司から部下」のコミュニケーションは得てして「やり方」「プロセス」「経過」についてのものになりやすいからです。例えば、次のようなやりとりです。
上司:「A社との取引の状況はどうだ?」
部下:「そうですね……今ちょっと、ピンチです」
上司:「それなら○○部長に直接かけあってみろ。あの人なら融通が効くから」
部下:「ありがとうございます。助かります」
このように結果的に上司が部下の仕事のやり方に口を出す形になってしまうと、部下は自分で考えるのをやめてしまいます。また、アドバイス通りにやってうまくいかないと「上司の言う通りにやっただけだから、自分に責任はない」と他責思考になる可能性もあるのです。
また、上司から「どうだ?」「進捗は?」と聞かれると部下は「順調です」「大丈夫です」「ピンチです」などの個人的見解や感情的な受け答えになってしまいがちです。
これに対して「部下から上司」の順番での会話は、「結果」でのコミュニケーションになりやすい傾向にあります。例えば、まず部下が「目標〇円に対して今〇円です」という報告を行い、上司が「わかった」と承認するといったコミュニケーションになるわけです。事実ベースの「結果」の報告は、常にあらかじめ設定しておいた目標と紐づいています。
部下にとっての成長とは、目標に対して結果を出し、できなかったことができるようになることです。「部下から上司」のコミュニケーションは、そのために結果以外のプロセスを部下に任せることに成功しています。これを積み重ねていけば、おのずと部下は自分の力で結果の出せる人材に成長することでしょう。
「部下から上司」のコミュニケーションを実現するために必要とされるのは「いつまでにどうなっているべきか?」の明確な設定です。これさえきちんと指示しておけば、期限が来れば自動的に部下からの報告が来るためコミュニケーションが発生します。また、求められる結果が実現困難であったり、実現不可能だとわかったりすれば、その時点でコミュニケーションが発生するでしょう。この形をとれば上司は、部下の仕事のプロセスに介入して成長を妨げるという事態を防ぐことができます。
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