ナレッジマネジメントとは、社内にある知識を共有して活用し、新たな知識を創造しながら経営していくことですが、あなたは正しく利用できていますか?
一部の社員しか知り得ない知識やノウハウは、彼らが会社を去ってしまったら二度と手に入りません。
それらを収集・管理するなどの手立てをとらないままでは、そこから生まれたであろう画期的なアイディアも手放すことになります。
そこでこの記事では、
- ナレッジマネジメントの概要と考え方
- ナレッジマネジメントのSECIモデル
- ナレッジマネジメントを導入するメリット
- ナレッジマネジメントの成功事例
などについて解説します。
この記事を読めば、ナレッジマネジメントの概要から考え方、導入メリットまでを理解し、経営に活かすことができます。
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ナレッジマネジメントとは「暗黙知」を「形式知」に変換すること
ナレッジマネジメントとは、社内にある知識を共有して活用し、新たな知識を創造しながら経営していくことです。
はじまりは1995年に野中郁次郎教授が、「The Knowledge-Creating Company(知識創造企業)」の中で発表した「知識経営」とされており、それがアメリカにおいて研究され、経営手法の一つとして広まりました。
ナレッジマネジメントは、下記の2つの考え方で構成されています。
【ナレッジマネジメントを支える考え方】
- 暗黙知
- 形式知
上記の二つの考え方はそれぞれコインの表裏のような関係であり、相互に関係し合うことでナレッジマネジメントを支えています。
参考:国土交通省の事務所における知識の共有に関する研究 | 国土技術政策総合研究所
「暗黙知」とは?
ナレッジマネジメントにおける「暗黙知」とは、言葉や数字で表現しにくい技術やノウハウのことです。
例えば、刀職人が刀を打つときに、以下のようなものが暗黙知になります。
【刀職人の暗黙知】
- どの温度まで素材を熱して、打ち始めるか?
- 打ち方のコツは?
- 水に浸すタイミングは?
こうして挙げればきりがありませんが、コツやタイミングなどは、経験がものを言う職人芸なので、伝えるのは容易ではありません。
そのため、ナレッジマネジメントを活用して、誰にでも理解できて継承できる形にする必要があります。
「形式知」とは?
「形式知」とは、「暗黙知」の逆で、技術やノウハウを言葉や数式で表現した知識のことです。
例えば、刀職人が刀を打つときの例で考えると、以下のようなものが形式知となります。
【刀職人の形式知】
- 素材が○○℃に達したら、もしくはこの状態(熱した素材の写真を見せて)になったら、素材を打ち始める。
- 打ち方のコツは、できるだけ均等に○秒の間隔で打つ。
- およそ○回打って、素材の厚さが△㎜になったら、水に浸す。
上記のように暗黙知を形式知にすることができれば、職人ほどではありませんが、かなり近い形で技術の再現ができます。
また、形式知をうまくインプットさせたロボットがあれば、職人が不在の状況でも大量生産することも可能です。
ナレッジマネジメントをする方法=SECI(セキ)モデル
SECIモデルとは、暗黙知と形式知を構造化して、誰にでも使える形にした考え方です。
SECIモデルでは暗黙知と形式知をそれぞれ独立している状態ではなく、関係し合う状態にするのがベストとしています。
理由は、暗黙知のままでは他社と技術の共有ができず、それでいて形式知のままだと時間の経過とともに、データが陳腐化する恐れがあるからです。
しかし、SECIモデルで暗黙知と形式知を関係し合う形にすることで、ナレッジマネジメントとして利用できます。
SECIモデルは、以下の4つのプロセスで構成されています。
【SECIモデルを構成する四つのプロセス】
- Socialization(共同化)
- Externalization(表出化)
- Combination(連結化)
- Internalization(内面化)
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Socialization(ソーシャライゼイション)は直訳すると「社会化」ですが、SECIモデルにおいては「共同化」と訳します。
共同化は、個人が習得している技術やノウハウなどの暗黙知を他者と共有することで、新たな暗黙知を生み出すプロセスとなります。
例えば、ある工場で「このプロセスで生産すれば、大幅なコスト削減ができる!」と思い付いたとしても、他のフロアでは既に実践済みかもしれません。
しかし、共同化によって暗黙知が共有されていれば、それをもとに新たなアイデアを生み出すことも可能になります。
つまり、新しい暗黙知を生み出すためにも、暗黙知を共有するプロセスが必要になるのです。
SECIモデル2 Externalization(表出化)
Externalization(イクスターナライズ)は直訳すると「外部化」ですが、SECIモデルにおいては、「表出化」と訳します。
表出化は、技術やノウハウである暗黙知を、数値や知識に置き換えた形式知へ変換するプロセスです。
暗黙知そのままでは他者と共有するのは難しく、共有できる知識として形式知に変換する必要性があります。
具体的には、暗黙知がある社員から聞き取りを行い、それを図や数値に置き換えて共有しやすい形へと相談しながら決めていきます。
表出化の大切なポイントは、どのような形にすれば誰でも扱える形式知として成り立つのかを論理的に話し合っていくことです。
SECIモデル3 Combination(連結化)
Combination(コンビネーション)は直訳すると「連携」ですが、SECIモデルにおいては、「連結化」と訳します。
連結化は、複数の形式知を連結させることによって、知識を体系化することです。
この連結化が行われていないと、形式知がバラバラの状態で存在することとなり、後から他者と共有するのが難しくなるからです。
例えば、冷蔵庫の保冷力を測る評価で良い形式知があったとしても、冷蔵庫の構造や素材に関する形式知と結びついていなければ、効果が薄いことになります。
つまり連結化というプロセスを経ることによって、形式知が最大限に活用される形で共有できるので、非常に重要です。
SECIモデル4 Internalization(内面化)
Internalization(インターナラゼイション)は直訳すると「内在化」ですが、SECIモデルにおいては、「内面化」と訳します。
内面化は、形式知を共有することで、個人が新たな暗黙知を生み出すきっかけにするプロセスのことです。
知識やノウハウは、人の経験や発想で生み出されます。そのため、内面化がされていないと、ゼロから新しい暗黙知を生み出すこととなり、なかなか暗黙知が集積していきません。
皆さんも経験があると思いますが、何か新しいアイディアが生まれるときは、別の何かがきっかけになっているはずです。
それは本を読んでいるときかもしれませんし、他のことを考えているときかもしれません。
もし内在化がされていないと、新しい暗黙知が生み出される可能性は低くなります。
ナレッジマネジメントを導入するメリット
ナレッジマネジメントのメリットは、主に以下の4つが挙げられます。
【ナレッジマネジメントを導入するメリット】
- 知識・ノウハウ共有によるスキルアップ
- 作業の効率化
- 担当者への依存を防ぐ
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ナレッジマネジメントを導入するメリットの1つ目として、「社員間で知識やノウハウが共有されると個別のスキルアップにつながる」という点が挙げられます。
なぜなら、本来一部の社員にしか知られていなかった知識やノウハウが広まることで、社員一人一人のスキルが底上げされるからです。
スキルが上がれば、それだけ生み出される商品の品質も上がることが期待できます。つまり、社員のスキルアップが進めば、企業全体の利益も上がりやすくなるのです。
また、知識やノウハウが集約されることで、その企業にしか生み出せない独自商品の開発もできるようになることも考えられます。もしそうなれば、業界のリーディングカンパニーとして成長することも期待できます。
メリット2 作業の効率化
ナレッジマネジメントを導入するメリット2つ目として、「作業の効率化」が挙げられます。
なぜなら、一部のベテラン社員にしか知られていなかった知識やノウハウが共有されることで、いままで非効率に行っていた作業がなくなっていくからです。
特に現在はテレワークが普及していることもあり、ベテラン社員に直接聞きに行くということができなくなっています。
そこでナレッジマネジメントによって、知識やノウハウがデータベース化されていれば、問題にぶつかったとしても、誰でもアクセスするだけで解決することができます。
またデータベース化がされていれば、社内において何度も同じことを聞きにいくという手間も、また何度も同じことを説明するという手間も省けますので、作業の効率化につながるのです。
メリット3 担当者への依存を防ぐ
ナレッジマネジメントを導入するメリット3つ目として、「担当者への依存を防ぐ」が挙げられます。
会社内では、扱っている商品ごとに担当者を割り振っていることが多いのではないでしょうか? しかし、この状態では商品の問合せなどがあった時に、担当者が不在だと対応できない可能性があります。
それを解決するためにも、知識やノウハウをナレッジマネジメントで共有しておくことが重要なのです。
特に最近はテレワークの普及もあり、担当者不在で対応できない状況が発生しやすいと考えられます。
そんな状況に陥る前に、いつでも誰でも対応できるよう、ナレッジマネジメントで知識やノウハウを共有しておきましょう。
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ナレッジマネジメントの成功事例
ここからは、ナレッジマネジメントを活用することで、どんな成功を遂げたか詳しく見ていきましょう。
あなたの会社でも、参考になる事例があるかもしれません。
【ナレッジマネジメントの成功事例】
- NTT東日本法人営業本部
- 富士フイルムビジネスイノベーション
- 磨き屋シンジケート
成功事例1 NTT東日本法人営業本部
NTT東日本法人営業本部は、東日本に点在する法人営業を行う支店をまとめ上げている組織です。
ナレッジマネジメントを行う前は、各法人に対して、担当者以外が外部からの問い合わせに対応できないという問題がありました。
NTT東日本法人営業本部のナレッジマネジメント
NTT東日本法人営業本部は、「リアルな場」と「バーチャルな場」という二つの活動場所を用意しました。
「リアルな場」においては、社員同士のコミュニケーションを円滑にし、お客様の情報や営業ノウハウを今日するスペースとして機能させました。
また「バーチャルな場」においては、全社員にホームページを所有させ、そこに自身が経験したノウハウや知識を記載・公開することで、社員同士の情報の共有化を実現しました。
つまり「リアルな場」で暗黙知から新たな暗黙知を量産し、「バーチャルな場」で暗黙知を形式知としてまとめて共有できる形へと変換したのです。
これらの実施により、効率的に暗黙知が形式知へとデータベース化されました。
ナレッジマネジメントの成果
上記のナレッジマネジメントを行った結果、担当者でしか分からなかった情報の共有やノウハウが進んで、業務の効率化に成功しました。
さらに「リアルな場」と「バーチャルな場」という、オフラインとオンラインの両面で構成されたデータベースによって、担当者不在でも滞りなく業務が遂行できるようになったのです。
この例と同じように、社員一人一人にホームページを所有させるのは難しいかもしれません。しかし、そのハードルを乗り越えれば、ナレッジマネジメントの成功確率を高められるでしょう。
成功事例2 富士フイルムビジネスイノベーション
富士フイルムビジネスイノベーションは、プリンターや複合機を提供し、クラウドやモバイルでも扱えるように環境構築する企業です。
同社は、「製造開発の遅れ」が問題となっていました。具体的には、製品開発の最終段階で設計変更があり、商品発売が延期となるものでした。このような状況に陥る原因は、商品がほとんど完成した段階でなければ、開発工程の後半を担当する社員の目で確認されなかったからです。
富士フイルムビジネスイノベーションのナレッジマネジメント
富士フイルムビジネスイノベーションは、ナレッジマネジメントで「全員設計」という解決策を実施しました。「全員設計」というのは、商品の全担当者が設計の初期段階から設計情報を共有するというシステムのことです。
このシステムでは、ナレッジマネジメントによる設計熟練者の暗黙知の収集から、使いやすい形で閲覧できるように形式知へと変換がされています。
そのため、同社の社員は担当者でしか知り得なかった情報などを共有することによって、開発がどの程度進んでいるかの進捗も確認できるようになりました。
ナレッジマネジメントの成果
「全員設計」によって、当初問題になっていた「製造開発の遅れ」が改善されました。また、開発工程の明確化がなされたことによって、製造工程のスケジューリングも改善され、製品開発だけではなく、製造段階においても業務の効率化が実現する結果となりました。
成功事例3 磨き屋シンジケート
磨き屋シンジケートは、新潟県を中心とする金属加工業の共同受注組織です。ここでは、「下請け金属加工への危機感」が問題となっていました。つまり、製造コストが安い海外の同業他社と比較して、将来的には勝てないと判断したのです。
そのため、得意としている研磨技術をいかにして付加価値の高いものにするかが課題となっていました。
その課題をクリアするために、同社はナレッジマネジメントによる解決策を模索しました。
磨き屋シンジケートのナレッジマネジメント
磨き屋シンジケートは、主に二つのナレッジマネジメントを実施して、解決に臨みました。
1つ目は、「受注マニュアルの作成」です。このマニュアルには、いかにして共同受注するかが記載されています。つまり、下記のようなプロセスに分けることによって、企業ごとに作業を分業化させたのです。
【マニュアルによる作業プロセスの分業化】
- 顧客窓口と事務処理
- 債権管理
- 製造管理
- 品質管理
2つ目は、「技術・ノウハウの共有」です。同社は付加価値を高めて、ハイテク産業へと参集できる準備を進めていました。
そのため、多くの職人が集まる環境でいかにして技術やノウハウを共有するかが課題となっていたのです。
それを解決するために、各職人が持つ技術(暗黙知)を形式知へと変換することが進められました。
ナレッジマネジメントの成果
上記のナレッジマネジメントを推進していった結果、同社は、付加価値の高い新技術を生み出すことに成功しました。その結果、建材メーカーや家電メーカーなどの新分野からの注文が殺到。
つまり、コスト安を売りにしている海外の同業他社と比較されることもなく、新技術独自という強みを持った企業へと変貌を遂げたのです。
また、知識やノウハウを職人の間で共有できるようになったお陰で、職人や従業員のモチベーションのアップにもつながり、最終的には生産能力や品質の向上にもつながる結果となりました。
ナレッジマネジメントの問題点
ナレッジマネジメントは、メリットだけではなく、問題点もあります。
ここでは、ナレッジマネジメントを実施したことによって、発生が懸念される問題点を紹介していきます。
【ナレッジマネジメントの問題点】
- 「コアコンピタンス」への原点回帰
- 「ベストプラクティス」に縛られる
- 「全体最適」で周りが見えなくなる
問題点1 「コアコンピタンス」への原点回帰
コアコンピタンスとは、企業の中核となる強みのことです。言い換えれば、他社にはまねができない自社ならではの価値が提供できる「企業の独自性」のことです。
例えば、下記が挙げられます。
【コアコンピタンスの例】
- ホンダのエンジン技術
- ソニーの小型化技術
- シャープの液晶技術
このコアコンピタンスは、一見企業にとって良いようなものに思えます。
しかし、ナレッジマネジメントによってコアコンピタンスへと原点回帰してしまうと、他の分野への挑戦が少なくなるという問題が発生します。
なぜこんな状況に陥るかと言うと、企業がコアコンピタンスという成功体験に縛られてしまうからです。
特に現在のようなコロナ不況が訪れている場合には、ナレッジマネジメントで「自社がかつて得意だった~」という安易な結論を出しやすい状況なので、注意が必要です。
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DXの時代にフリーランス・オンデマンド型人材を上手に活用する方法とメリットとは問題点2 「ベストプラクティス」に縛られる
ベストプラクティスとは、企業の優良事例のことです。この用語は、ベンチマーキング(企業が他社のベストプラクティスを分析し、自社へ取り入れる手法)の中で使われています。
つまりナレッジマネジメントによって、他社の成功事例を流用して作られたデータベースが、きちんと自社で機能するかは分からないということです。
なぜなら、他社の成功事例はさまざまな要素を含んでいるため、そのまま自社で機能するかは可能性が低いからです。
例えば、中小企業が大企業の知識やノウハウをまねて作り上げたデータベースがあったとします。しかし、規模も資本力も違うわけですから、そのまま大企業のデータベースを採用するのは危険です。
この場合、自社できちんとデータベースをイチから作成した方が有効です。
問題点3 「全体最適」で周りが見えなくなる
全体最適とは、対象を要素分解し、行動や機能を単純化して、全てに通じる最適解を求めることです。これはナレッジマネジメントにおいて、暗黙知を形式知に置き換える時や、複数の形式知を連結化させるときに、発生しやすい問題と言えます。
特に全体から知識やノウハウを抽出する段階では、不要なモノがなくなることで一見優れたモノが残るような気がします。
しかし、そもそも対象とする暗黙知が間違っていたり、不足していたりすると、最終的に残る形式知も不完全なモノになってしまうのです。
それを避けるためにも、収集する知識やノウハウが間違っていないか、不足していないかなどの確認が大切になります。
自社の知識やノウハウをいつでも使える形にするのがナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントは、知識やノウハウをデータベース化して、いつでも使えるようにするのが目的です。
ナレッジマネジメントは、宝探しに似ています。会社の歴史が長ければ長いほど、古参社員にしか知らないお宝(知識やノウハウ)が眠っているかもしれません。しかしそれらを掘り起こしても、有効活用できる形へと変換していなければ、使い物になりません。まさしく「宝の持ち腐れ」です。
そこで役に立つのが、ここで紹介したSECIモデルです。SECIモデルを使えば、知識やノウハウを効率的にデータベース化して、すぐ使える形にできます。
もしまだナレッジマネジメントを実施していなければ、できるだけ早く実行しましょう。時代や人々のニーズに応えられる商品やサービスを作り出すヒントになるかもしれません。
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