近年、ビジネスの世界で「エンゲージメント」が重要視されるようになってきました。
エンゲージメントとは、約束や契約を意味する言葉ですが、ビジネスにおいては意味が異なり、「双方向の関わりによって互いに成長していく関係」を指します。
今回は、エンゲージメントが重要視されるようになった理由や、その高め方などをわかりやすく解説していきます。
この記事を読むことで、
- 企業活動や人事領域におけるエンゲージメントの意味
- エンゲージメントを上げる方法
- エンゲージメントを上げるメリット
がわかるようになります。エンゲージメントに対する理解を深めて、企業のさらなる成長につなげるための参考にしてみてください。
目次
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントは、従業員が会社に抱いている愛着や忠誠心のことです。「愛社精神」と言い換えることもできます。
ただし「従業員エンゲージメントが高い従業員」は、ただ企業の言われるがままに行動する従業員を指すわけではありません。企業のために自発的に行動できる従業員のことを指しています。
社内全体の従業員エンゲージメントが高まることで、経営層やマネージャーが指示しなくても、従業員が自社のために様々な取り組みを実施するようになります。
そのため、従業員エンゲージメントが高い状態を作り出すには、企業にとっても従業員にとってもメリットがある「ウィンウィンの関係」を作る必要があるといえるでしょう。
従業員エンゲージメントの構成要素
従業員エンゲージメントの構成要素は以下の3つです。
- 理解度
- 帰属意識
- 行動意欲
それぞれ詳しく解説していきます。
構成要素①:理解度
従業員エンゲージメントの構成要素として、まず挙げられるのが理解度です。
従業員が自社のビジョンや価値観をどれだけ理解できているかが、従業員エンゲージメントに直結します。
多くの従業員は、自社の雰囲気や現在についてよく理解できているはずです。一方で、自社の歴史やこれからの未来について深く理解している従業員は、それほど多くないでしょう。
自社がどのような経緯で創立され、これからどこに向かっていくかを理解していれば、自ずと従業員エンゲージメントが向上していくでしょう。
構成要素②:帰属意識
従業員エンゲージメントの構成要素として、帰属意識が挙げられます。
帰属意識が強ければ強いほど、従業員は、自社のブランドやステータスを強く気にするようになり、どのようにすれば自社がより良くなるかを考えるようになります。
また、帰属意識が強くなると、従業員は、自社に所属していることに誇りを抱くようになり、長期的なつながりを望むようになります。そして結果として、離職率が低下するのです。
従業員エンゲージメントを向上させるためには、従業員の帰属意識を強くする必要があります。そのために長期的なブランディングが必要になることがあるでしょう。
構成要素③:行動意欲
従業員エンゲージメントの構成要素として、行動意欲が挙げられます。
行動意欲の高い従業員は、自社をより良くするためにアクションを起こすようになるので、それが何か新しい変化を自社に及ぼす可能性があります。
また、行動意欲が高まることで生産性が向上することも考えられます。
逆に、行動意欲が低い従業員はただデスクの前に座るだけのフリーライダーになりがちです。
行動意欲を高めることで、従業員が報酬以上の働きを見せるようになります。
従業員エンゲージメントが重要視される理由とは?
従業員エンゲージメントが重要視される理由は以下の3つです。
- 人材の流動化が進んでいるから
- リモートワークが一般化したから
- キャリアプランが多様化しているから
それぞれ詳しく解説していきます。
背景①:人材の流動化が進んでいるから
従業員エンゲージメントが重要視される理由として、人材の流動化が進んでいることが挙げられます。
現在は、副業や兼業、フリーランス、フレックス制など、様々な働き方が一般化しつつあります。その過程で終身雇用制度は事実上終了し、転職することが当たり前になってしまいました。
だからこそ企業は、自社の従業員エンゲージメントを高めることで、優秀な人材を確保する必要があります。
人材の流動化が進んでいる現在は、従業員エンゲージメントを高めて、人材確保の優位性を高めておく必要があるのです。
背景②:リモートワークが一般化したから
従業員エンゲージメントが重要視される理由として、リモートワークの一般化が挙げられます。
2020年の新型コロナによる外出自粛をきっかけに、非対面型のリモートワークが一般化しました。その結果、企業への帰属意識が弱まり、コミットしなくなるケースが増えています。
物理的なコミュニケーションの場が失われつつある現代では、従業員エンゲージメントを高めることで、従業員によるコミットを強くする必要があります。
背景③:キャリアプランが多様化しているから
キャリアプランが多様化していることも、従業員エンゲージメントが重要視される理由として挙げられます。
現在は転職が当たり前になっているため、上昇志向の強い従業員は、自発的なスキルの習得を目指す傾向があります。「ただ言われるがままに行動していればいい状態」を望まなくなっているのです。
これは、転職、独立、起業、ダブルワークなど、様々なキャリアプランで共通して言えることです。
そのため、上昇志向の強い従業員を確保するためには、従業員と企業がウィンウィンになれる関係性を構築する必要があるのです。
エンゲージメントと従業員満足度、ロイヤルティの違い
よく「従業員エンゲージメント」と合わせて用いられる言葉に「従業員満足度」と「ロイヤルティ」があります。それぞれ微妙に異なった意味を持っているため、その違いを把握しておきましょう。
まず従業員エンゲージメントとは、企業に対する信頼感や理解を示しており、「会社に何か貢献をしたい」という意欲があることを指しています。
一方で従業員満足度は給与や働く環境、福利厚生、人間関係などが概ね良好で、従業員にとっての「居心地がよさ」や「企業に満足しているか」を示す言葉です。また、ロイヤルティは「忠誠心」という意味で、従業員が企業に対してどれだけ忠実かを示しています。
従業員エンゲージメントとの違いは「結びつきの方向性」です。従業員満足度は環境に対する居心地の良さを示し、ロイヤルティは企業に対する忠誠心という上下の関係があります。対して「従業員エンゲージメント」は企業と従業員の双方向の関与によってつながりを強化することであり、その点が異なるのです。
また、従業員エンゲージメントは生産性や業績に影響を与えますが、従業員満足度やロイヤルティは影響がないことが最も大きな違いになります。
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エンゲ―メントを高めるメリット
従業員エンゲージメントを高めることには下記のような3つのメリットがあります。
- 業務効率化や生産性、売上の向上
- 従業員の離職を防ぎ、定着率を上げる
- 組織の強化
それでは1つずつ詳しく解説していきます。
業務効率化や生産性、売上の向上
まず1つ目のメリットは業務効率化や生産性、売上の向上につながることです。
慶應義塾大学と株式会社リンクアンドモチベーションの調査では、エンゲージメントが高い企業は営業利益率と労働生産性も良いことが判明しました。エンゲージメントが上がるほど、売上や純利益も良くなっていることがわかったのです。
エンゲージメントが高い状態は、企業が示すビジョンを理解して共感している状態といえます。そのため、自身の職務においてやるべきことがわかっていて、それを自発的に行うようになるので業務効率化や生産性の向上につながるのです。
つまり、社員一人ひとりのモチベーションが高いため、企業の成長に大きく寄与するという状態となっています。
従業員の離職を防ぎ、定着率を上げる
2つ目のメリットは従業員の離職を防ぎ、定着率を上げることです。
エンゲージメントが高い従業員は、企業に対して愛着心があり、企業を信頼し、また企業からも信頼されていると感じているため、できる限り長く働きたいと考えるようになります。この結果、優秀な人材の流出を防ぐことが可能です。
また、エンゲージメントが高い従業員は、友人や知人に対して自身の職場を紹介したいと考えるため、人材の確保が容易になる点もメリットとなります。
組織の強化
3つ目のメリットは、組織の強化につながることです。
従業員一人ひとりのエンゲージメントが高くなれば、業務の質の改善に取り掛かる従業員も増え、自然と組織の強化につながります。その結果、顧客満足度が高まるというケースもあります。
顧客満足度が高まれば業績の向上にもつながるため、経営陣が考える戦略に対する理解も深まり、戦略の実行がスムーズに進みやすくなるという循環も生まれるのです。
エンゲ―メントを測定する方法
従業員エンゲージメントを高めるには、まず現状のエンゲージメントを測定して可視化する必要があります。そのために最も一般的な方法がアンケートです。
アンケート調査は実施するために手間や費用があまりかからないため、ほとんどの場合、1か月に1回か半年に1回ほど行われています。負担をかけないためにも質問の数は2~15個程度に絞られている場合が多いです。
従業員のエンゲージメントを下げている原因は企業ごとに異なるため、可視化しなければエンゲージメントを上げる対策を打てません。そのためにアンケート等で現在の課題を明らかにする必要があるのです。
アンケートの質問例
従業員エンゲージメントを測定するためのアンケートは、下記のような質問にするとよいでしょう。
- あなたが勤めている会社を友人に勧めたいか
- 職場において自分がどのようなことを期待されているか理解しているか
- 過去一週間、自分の仕事が褒められたか
- 仕事を通して自分が頼りにされていると感じるか
- 自分の仕事に誇りを感じるか
このようなアンケートを通して、総合的な満足度や今の会社でどれほど働きたいと思っているか、また従業員の活力や仕事への熱量などを測定します。
エンゲージメントを分析する際の注意点
従業員エンゲージメントを分析する際は、労働時間や役職、性別といった要素が従業員エンゲージメントと相関関係にあるのか、因果関係にあるのかを分けて考えることが重要です。
例えば、「長時間働く人は昇進する」と「昇進する人は長時間働く」という場合は相関関係といえます。
しかし、「長時間働く人は従業員エンゲージメントが高い」と「従業員エンゲージメントが高い人は長時間働く」という場合に相関関係を認めると、「従業員エンゲージメントを上げるには長く働かせるべき」という間違った結論になってしまいます。
したがって、従業員エンゲージメントがなぜ高いのか・低いのかといった所までしっかり分析し、他の要素との関係性を正確に見分けることが重要です。
従業員エンゲージメント向上のポイント
従業員エンゲージメントを高める方法が下記の5つです。
- 従業員の価値観を調べる
- マネジメント層への教育
- 社内コミュニケーションを促す
- 理念やビジョンへの共感を集める
- 働きやすい環境の構築
それでは1つずつ詳しく解説していきます。
従業員の価値観を調べる
まず従業員エンゲージメントを高めるために欠かせないことは、従業員の価値観を把握しておくことです。従業員一人ひとりの価値観は異なっており、企業に何を求めているのか、職場に何を感じているのかを把握しなければ施策の打ちようがありません。
アンケートを用いて、仕事の何に満足していて、何に不満を感じているのか、今の仕事に満足しているかなどを調べ、そのうえで対策をしていくべきです。
マネジメント層への教育
マネジメント層への教育もエンゲージメントを上げるには効果的です。
上司は部下のモチベーションを上げたり、能力を引き出すことも仕事であるため、コーチングなどの教育や研修を実施することで、部下のやる気を向上させることができます。
上司のマネジメント能力が高ければ、部下は仕事をうまく進められるようになり、意欲的に働けるため、結果的にエンゲージメントを上げることが可能です。
社内コミュニケーションを促す
3つ目の方法は、社内コミュニケーションを活発にすることです。
従業員エンゲージメントの向上には、社内で行われるコミュニケーションが非常に重要な意味を持つため、ここに投資するのは有効だと言えます。
社内コミュニケーションが円滑で活発になると、良好な人間関係の維持ができ、従業員エンゲージメントの向上につながります。そのためにも企業が積極的に従業員同士のコミュニケーションを促し、企業への帰属意識を高めるようにしていきましょう。
理念やビジョンへの共感を集める
4つ目の方法が、企業の理念やビジョンへの共感を集めることです。
企業には必ず存在意義や方向性を示す理念やビジョンがありますが、従業員がそこに共感していなければ従業員エンゲージメントの向上にはつながりません。なぜなら、従業員は企業のビジョンによって自分がしている仕事の意義や、社会への貢献を感じることができるからです。
したがって、企業側が積極的に企業の理念や、今後の方向性を発信することにより、社員の帰属意識や貢献する意欲を高める必要があります。。現状でできていなければ、どのようにすればビジョンが従業員に浸透するかを考えて、戦略的に発信し、共感を集めていきましょう。
働きやすい環境の構築
エンゲージメントを高める5つ目の方法が、働きやすい環境を構築することです。
働く環境は従業員エンゲージメントに最も強く影響します。したがって従業員が心身ともに健やかに働けているかを確認する必要があります。
例えば、社員が一人ひとり能力を発揮できる人材配置ができていなければ、適材適所な人材配置を行うタレントマネジメントを活用しましょう。社員が自分の能力を発揮できていれば、やりがいを感じられ、能力をさらに伸ばせるはずです。
また、長時間労働が常態化していないかなども確認しましょう。もし働きやすい環境にできていなければ「ワーク・ライフ・バランス」を意識した労働環境の整備をすることで、エンゲージメントの向上につながります。
エンゲ―メントを高める際に理解しておくべきこと
エンゲージメントを高める方法を解説しましたが、1つ理解しておくべきことがあります。それは、エンゲージメントの本質は「社員と企業の双方向性の関与によってお互いに成長すること」だということです。
これまでは、企業が従業員を定年まで雇用する終身雇用制度によって、従業員とのつながりを維持してきました。しかし現在は働き方が多様化し、人材の流動性も高まっているため、ただ給料を上げたり条件をよくするだけでは、従業員エンゲージメントを高めることが難しくなっています。
だからこそ、エンゲージメントの本質を理解していなければなりません。経営層やマネジメント層がこの本質を理解していなければ、どのような施策を打っても効果は期待できないでしょう。
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まとめ
昨今では新型コロナの流行もあり、働き方が多様化してきています。そのなかで、今まで以上に従業員との良好な関係を保ち、エンゲージメントを上げる企業が増えてきているのは、それが企業にとって大きなメリットがあるからです。
従業員エンゲージメントを上げることは生産性や顧客満足度の向上、離職率の低下、そして組織全体の強化に繋がるため、今後はますますその重要性が増していくでしょう。
エンゲージメントを高めるためにも企業の理念やビジョンを発信、マネジメント層の教育などを実施していくことが求められますが、なにより大切なのは経営層が従業員エンゲージメントの本質を理解していることです。
まずは自社の従業員の価値観を把握して、どのように施策を打てば良いいのかを検討してみましょう。