近年、スマホやSNSの普及によって消費者行動が変化しています。実店舗がショールーミング化して売り上げが減少するケースが多く見られます。
オムニチャネルとは複数の販売チャネルを持ち、それぞれを統合して連携するマーケティング戦略のことです。実店舗とECサイトを連携させることで顧客満足度が向上し、機会損失が減少します。
オムニチャネルの意味や類似した言葉についてわかりやすく解説します。加えて、オムニチャネルの実施のポイントやメリット・デメリット、オムニチャネルの実例についても紹介します。
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目次
オムニチャネルとは?
企業とユーザーの接点となるチャネルをそれぞれ連携させ、ユーザーにアプローチする戦略がオムニチャネルです。オムニチャネルは英語で「Omni-Channel Retailing」と表記し、「オムニ」はラテン語を語源としています。「オムニ」は「あらゆる」「すべての」を意味します。チャネルは「経路」「集客のための媒体」という意味です。
店舗やECサイト、SNSなどオンラインやオフライン問わず、あらゆるメディアを活用してユーザーと接点を作り、販売促進につなげるのがオムニチャネルです。オムニチャネルは「実店舗とECサイトの境をなくした新しいショッピングの形」と表現できます。
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オムニチャネルとO2Oやマルチチャネルなどのとの違い
オムニチャネルと似たような言葉で「マルチチャネル」「クロスチャネル」「O2O」「OMO」があります。オムニチャネルとそれぞれの言葉の違いについて解説します。
マルチチャネル
オムニチャネルとマルチチャネルの違いは「実店舗とECサイトが連携しているかどうか」です。オムニチャネルではすべての販売経路で商品管理、顧客管理を統合してユーザーに働きかけます。
一方、マルチチャネルはユーザー向けに複数の販売経路は用意していますが、それぞれが連携していません。たとえば、実店舗で合うサイズの服がなく、ユーザー自身がECサイトでサイズを見つけて購入するというケースがマルチチャネルです。オムニチャネルでは、ショップ店員がグループ内のECサイトからサイズの合う服をおすすめします。
クロスチャネル
マルチチャネルを発展させたものがクロスチャネルです。マルチチャネルでは実店舗とECサイトがそれぞれ独立しています。クロスチャネルはそれらを相互に連携させた状態を指します。クロスチャネルではマルチチャネルより機会損失が軽減できます。
オムニチャネルはクロスチャネルをさらに発展させたものです。販売窓口だけでなく、SNSなどのメディアを活用しているのがオムニチャネルの特徴です。このように、クロスチャネルとオムニチャネルの違いは大きくありません。
O2O
O2Oとは「Online to Offline」を略した言葉で、「オンラインからオフライン」や「オフラインからオンライン」にユーザーを誘導するマーケティング手法です。たとえば、実店舗を持つ飲食店がオンラインでクーポンを発行し、来客につなげるマーケティング手法がO2Oです。
オムニチャネルは「実店舗とECサイトの境をなくした販売戦略」であり、オムニチャネルではユーザーに販売経路の誘導は行いません。どちらで購入するかの選択はユーザーに委ねるのがオムニチャネルです。
OMO
OMOは「Online Merges with Offline」の略語で、オンラインとオフラインを併合するシステムです。ユーザーの消費行動をすべてオンラインでデータ化するのがOMOです。たとえば、商品についているQRコードにスマホをかざすだけで商品の詳細やレビューがわかり、商品をチェックした消費者行動が個人IDに紐付けられます。
こうした、オフラインでの行動がオンラインに併合されるシステムがOMOです。オムニチャネルやO2Oをさらに発展させたのがOMOです。
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オムニチャネルが注目される背景
オムニチャネルが注目されるようになった背景にはスマホとSNSの普及があります。スマホとSNSによりユーザーの行動が大きく変化しました。今や、スマホで商品の検討から購入まですべてすませられます。実店舗のショールーミング化がスマホの登場によって加速しました。
実店舗で商品を見て、スマホでレビューを検索するといった行動も当たり前になりました。ユーザーはさまざまなチャネルを渡り歩くようになったのです。こうした消費者行動の変化に合わせて企業は販売チャネルを1つに絞るのではなく、複数のチャネルで対応するオムニチャネルが注目されるようになりました。
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オムニチャネルのメリット・デメリット
オムニチャネルのメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。オムニチャネルは複数の販売窓口を連携させ、さまざまな販売経路からマーケティングする戦略です。売り上げの最大化が長期的に見込めるものの、効果が発揮されるまで時間がかかるというデメリットがあります。
オムニチャネルのメリットとデメリットを比較して、自社に取り入れられるかどうか検討してください。
メリット
オムニチャネルのメリットは
- 「顧客満足度が向上する」
- 「きめ細やかな顧客分析が可能」
- 「マーケティングに一貫性が生まれる」
- 「機会損失が減少する」
の4つです。特に、きめ細やかな顧客分析が可能になる点は大きなメリットです。顧客分析がきめ細やかになれば、より効果的なマーケティングができるからです。
きめ細やかな顧客分析は顧客満足度の向上にもつながります。くわえて、オムニチャネルは適切な在庫管理も可能にします。適切な在庫管理は機会損失を最小化し、顧客満足度の拡大に貢献します。
きめ細やかな顧客分析が可能
オンラインとオフラインの両方で顧客データが蓄積できる点がオムニチャネルの大きな特徴です。オムニチャネル化を実現している店舗では、商品にQRコードをつけているケースがあります。ユーザーはスマホでスキャンし、商品の詳細情報を確認できます。企業側はどの商品がよくスキャンされているか知ることができます。
その他にも、複数チャネル展開することで顧客情報を得られる機会が増え、消費者意識への理解が深まります。集めたデータで顧客それぞれへ個別の商品をおすすめしたり、購買頻度に合わせた施策を実施したりできます。
顧客満足度が向上する
オムニチャネルの大きなメリットは顧客満足度の向上です。実店舗とECサイト、オフラインとオンラインをつなぐことで、今までにない顧客体験を提供して顧客満足度を向上させられます。
オムニチャネルを取り入れれば、実店舗に足を運んだのにほしい商品の在庫がなく、自らECサイトで購入するといった手間がなくなります。ユーザーはよりスムーズにほしい商品を手に入れられるようになります。
マーケティングに一貫性が生まれる
オムニチャネルではユーザーに最適なマーケティングができます。オムニチャネルではオフラインとオンラインを連携させているため、すべての販売経路で一貫したマーケティングを実施できます。
Cookieを追いかけることで顧客のほしい商品を絞り込み、パソコンでもスマホでもユーザーのほしい商品を広告できます。デバイスに依存せず、一貫した適切なマーケティングをオムニチャネルなら実現できます。
機会損失が減少する
販売機会の損失を減らすには在庫管理の適切さが求められます。各販売チャネルを連携させて統合的に管理できる状態にすれば、適切な在庫管理が可能になります。適切な在庫管理は機会損失を最小限にします。オムニチャネルによってオンラインとオフラインを連携させれば、どちらか一方に在庫があるのに提供できないといったケースを防げます。
デメリット
オムニチャネルのデメリットは
- 「チャネル間の連携が必要」
- 「初期コストがかかる」
- 「効果が出るまでに時間がかかる」
の3つです。オムニチャネルは複数の販売窓口を持ち、それぞれを連携させるマーケティング戦略です。連携させるにはシステムやデータベースが必要ですし、そもそも販売窓口を複数用意することが求められます。
それだけに初期コストがかかります。そして、オムニチャネルは効果が出るまでに時間がかかります。長期視点でマネジメントできる、体力と資金のある企業でないとおすすめできないのがオムニチャネルです。
チャネル間の連携が必要
オムニチャネルを成功させるには各チャネル間の連携が求められます。しばしば、同じグループ内のチャネルであるにもかかわらず対立してしまうケースがあります。よくあるケースがECサイトの実店舗に対するカニバリズムです。実店舗を利用していたユーザーが、利便性の高さからECサイトに移行するといったケースです。
こうなると、実店舗の売り上げは下がってしまい、ECサイトと実店舗の対立が発生します。複数チャネルを運営する上で対立は障害です。対立を生じさせないように注意しましょう。
初期コストがかかる
オムニチャネルを上手く運営すれば利益を最大化できます。しかし、導入には相応の初期コストが求められます。まず、販売窓口が1つしかないシングルチャネルの企業は、販売窓口を増やすスタートアップ資金がかかります。複数のチャネルをすでに持っているとしても、それらを連携させるためのシステムが必要となります。
システム開発やデータベースの管理には資金の他に人手も必要です。オムニチャネルを導入する際は必要となる初期コストを見極め、初期コストを回収できる見通しを立ててから導入に踏み切ることが求められます。
効果が出るまでに時間がかかる
オムニチャネルに即効性はありません。オムニチャネルの効果は顧客満足度を向上させ、企業やブランドに対するロイヤリティを高めることで発揮されます。オムニチャネルは長期視点でマネジメントすることが求められます。くわえて、効果が出るまでオムニチャネルを運営していくだけの資金と体力が必要です。
この観点から、オムニチャネルがおすすめできるのは、それだけのリソースを用意できる規模の企業に限られます。
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オムニチャネルを成功させるポイントと流れ
オムニチャネルを成功させるポイントと流れについて解説します。
ゴールの設定
どんなビジネスにおいても、何か新しい取り組みをはじめるときはゴールを明確にするべきです。特に、オムニチャネルは企業の特性によって有効な施策が異なります。くわえて、オムニチャネルの定義そのものが曖昧な面もあります。オムニチャネルを採用することで自社が何を目指し、何をゴールとして設定するのかしっかりと検討してください。
たとえば、ゴールとして「利益の最大化」「機会損失の最小化」「マーケティングによる売り上げの向上」などが挙げられます。自社に必要なゴールを適切に設定しましょう。
カスタマージャーニーマップ作成
カスタマージャーニーとは「ユーザーが商品購入に至るプロセス」です。「ユーザーがどのように商品と接点を持って認知したのか」「どうして関心を持ったのか」「なぜ購入意欲を喚起されたのか」といった道筋を時系列に可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。
カスタマージャーニーマップを作ることで商品購入までのプロセスを見える化すれば、オムニチャネルをどのように展開したらいいのかわかります。さらに、「見込み顧客」「初回購入顧客」「優良顧客」など自社の関係性と深度に合わせてステージ分けし、それぞれの顧客に最適なアプローチを検討しましょう。
全社・全チャネルで認識の統一
オムニチャネルは1つの部署のメリットを追求するものではありません。各チャネルが協力して全体の売り上げを伸ばしていく施策ですので、スタートさせるときには全社的な認識の統一が必要です。オムニチャネルの意義についてしっかりと認識を統一しましょう。
システム統合
オムニチャネルで肝心なのがデータの連係です。そのためには、チャネルごとに独立していたシステムを統合しなければなりません。システムの設計や開発はかなりの期間と費用を要します。事前にしっかりと設計し、開発し終えた後はデバッグして不具合を取り除きましょう。
PDCAサイクルを回す
オムニチャネルで得られるメリットを最大化するためには、複数チャネルを通して得られた顧客情報をもとにPDCAサイクルを回していきましょう。PDCAサイクルとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)を回していくサイクルのことです。
オムニチャネルで得られるデータをもとに、正確な測定・評価できるようになります。PDCAサイクルを回すことでユーザーへの理解を深め、より最適なマーケティングを実施しましょう。
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オムニチャネルの事例
オムニチャネルの事例について解説します。オムニチャネルの概要の解説より、実際の事例を読み込む方がオムニチャネルへの理解度が深まるかもしれません。
イオン幕張新都心店のスマホアプリ「撮って!インフォ」
イオン幕張新都心店ではいくつかのアプリやデバイスを提供し、オムニチャネル化に取り組んでいます。その1つが「イオンお買い物アプリ」に追加された「撮って!インフォ」です。アプリを起動して設置されているPOPやチラシにかざすと、その商品を使ったレシピ情報を取り込めます。
店内にはタブレットを設置して店舗で取り扱いのない商品を検索でき、端末上で見つけた商品の代金はレジで支払うこともできます。さらに、購入した商品は配達サービスを利用して自宅で受け取れます。
無印良品のスマホアプリ「MUJI passport」
無印良品ではスマホアプリ「MUJI passport」を、オムニチャネル専用アプリとしてリリースしています。アプリではニュースの配信、在庫検索など6つの機能があり、その中でも注目されるのはマイレージ型のポイントプログラムです。
レジでスキャンするだけでマイルがたまるので、多くのユーザーを実店舗へと誘導することに役立っています。他にも、店舗600m以内に入って操作するとマイルがたまる「チェックイン」機能は、チェックインした場所や時間帯に応じてクーポンなどの情報を届けます。
東急百貨店のスマホアプリ「東急百貨」
東急百貨店はスマホアプリ「東急百貨」をリリースしました。「東急百貨」はフロアマップが確認できたり商品の購入ができたり、クーポン情報が受け取れたりします。くわえて、FacebookやTwitterを通じたクーポンの配布も積極的に行っており、SNSと連携させることでDMより高い獲得率を実現しています。
セブン&アイホールディングスのオムニチャネル戦略「オムニ7」
セブン&アイホールディングスは2015年にオムニチャネル戦略「オムニ7」を発表しました。当初、2018年のECサイトとWebルーミングの売り上げ合算1兆円を目標としていましたが、目標には届かず成功とは言えません。
オムニ7はセブンイレブンやグループのスーパー、百貨店の垣根を越えて商品を提供しています。全国1万9000店舗あるセブンイレブンの実店舗で配達を受け取ることができるため、仕事帰りにコンビニで商品を受け取れる利便性の高いサービスです。
ユニクロのAIチャットボット「UNIQLO IQ」
ユニクロはスマホアプリやECサイトを通じた通販を行っており、ユニクロアプリでは「UNIQLO IQ」というAIチャットボットが在庫確認やコーディネイト相談などのサービスを提供しています。このアプリはユーザーだけでなく、ユニクロ側にもメリットがあります。ユーザーの年齢や性別、個人属性に基づいた購入データが収集できるからです。
こうしたデータを収集して商品開発や在庫管理に活用しています。くわえて、ビジネススーツやワイシャツをオーダーメイドするサービスも提供しています。サイトの指示によって自分で採寸するか、店舗で採寸してもらったデータを送信するとオーダーメイドしてもらえます。
ニトリのスマホアプリ「手ぶらdeショッピング」
家具販売のニトリはECサイトでも家具を販売しています。家具店は以前からショールーミング化しており、それを危惧してニトリはECサイトとの緊密な連携を進めてきました。ニトリの公式アプリ「手ぶらdeショッピング」は、実店舗で陳列されている商品のQRコードを読み込み、アプリで注文して自宅へ届けてもらうことができます。
また、写真検索機能が充実しており、雑誌やカタログに掲載されているインテリアの写真から似たアイテムを探せます。ニトリの公式アプリ「手ぶらdeショッピング」はこのような仕組みで顧客満足度の向上に貢献しています。
ABCマートの靴取り寄せサービス「iChock」
ABCマートは実店舗でユーザーが要望する商品のサイズがなかった場合、ネットの仕組みを利用した靴のお取り寄せサービス「iChock(アイチョック)」を利用できます。サイズがなかった場合はスタッフがタブレットで在庫を調べ、倉庫から直接ユーザーの自宅に送料無料で配達するサービスです。
その他にも、ABCマートではWebをショールーミング化する取り組みに力を入れています。靴は実際に試着してみないと購入しづらいものです。そこで、ABCマートではECサイトでデザインや値段を見てもらって、試着を予約して実際に来店してもらい購入につなげています。
オリックス・バファローズは球場と球団の経営を一体化
百貨店や販売店だけでなく、球団もオムニチャネル化しています。テレビの野球中継の視聴率は低下気味ですが、そんな中でスタジアムへの観客動員数を伸ばしているのがオリックス・バファローズです。オリックス・バファローズは「野球で感動を+サービスで感動をサポート=ファンの感動の最大化」を目標に掲げました。
オリックス・バファローズは、球場と球団の経営を一体化してオムニチャネル化を図りました。それ以前もファンクラブやイベントの開催、広報活動は行っていましたが、各部門がそれぞれ独立して施策を打っていたために相乗効果が生まれませんでした。オムニチャネル化で相乗効果が発生し、観客動員数が伸びたのです。
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まとめ オムニチャネルで顧客満足度を向上しよう
オムニチャネルとは複数あるユーザーへの販売チャネルを連携させ、ユーザーにアプローチする戦略のことです。実店舗やECサイト、SNSを連携して運用することで顧客満足度を向上させます。オムニチャネルが注目される背景はスマホやSNSの普及です。スマホやSNSの普及によって消費者行動が変化しました。
変化した消費者行動の中で顧客満足度を高め、機会損失を最小限にするための戦略としてオムニチャネル化が注目されています。オムニチャネルを実施するには初期コストや運営コストがかかりますので、ある程度のリソースや体力のある企業でないと難しいでしょう。
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