マーケティングにおいて最も重要な要素が「ニーズ」です。あらゆるビジネスは、ニーズなしでは間違いなく成立しないでしょう。
それほどまでに重要な「ニーズ」ですが、ニーズに複数の種類があることをご存知でしょうか。
また、ニーズとセットで使われる言葉として「ウォンツ」がありますが、この2つの言葉の違いもご存知でしょうか。
本記事では、経営者やマーケティング担当者だけでなく、全てのビジネスマンが理解すべき「ニーズ」について徹底解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ニーズとは?【顧客が求めているのは何?】
ニーズ(needs)は「必要性」や「要求」を意味する言葉です。
そしてビジネスにおけるニーズは「顧客が求めている状態や姿」を指します。
例えば「ニーズが満たされていない」というフレーズをよく耳にすると思います。
これは、現在置かれている状況で不満を抱えている状態です。
お腹が空いているのに、食べ物がなければ、誰だって不満を抱えたくなります。
これが「ニーズが満たされていない状態」です。そんな顧客に対しては、食べ物が有効な商品となります。
ビジネスの基本は、ニーズが満たされていない顧客に対して、サービスや商品を販売することに尽きるのです。
ウォンツとの違い
ニーズに似た言葉として「ウォンツ(wants)」が挙げられます。
ニーズは「必要性」なのに対して、ウォンツは「欲求」という意味があります。
例えば「お腹が空いているからお腹を満たしたい」というのはニーズです。
一方で「お腹を満たしたいからパンを食べたい」というのはウォンツです。
簡単に言ってしまうと、ニーズは「目的」であり、ウォンツは目的を果たすための「手段」ということになります。
ニーズは7種類に分けられる
ニーズは以下の7種類に分けることができます。
- 顧客ニーズ
- 顕在ニーズ
- 潜在ニーズ
- 基本的ニーズ
- 副次的ニーズ
- 機能的ニーズ
- 情緒的ニーズ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
顧客ニーズ
顧客ニーズは、顧客が日々の生活の中で感じる不満で形成される「理想と現実のギャップの差」のことを指します。
一般的に、消費者が「商品・サービスを購入したい」と考えている状態は、顧客ニーズに該当します。
顧客ニーズで興味深いのは「理想と現実のギャップの差」という点です。
つまり、理想が大きければ大きいほど、顧客ニーズは大きくなっていくというように考えることができます。
そして、顧客の理想を大きくするための取り組みが「広告」や「ブランディング」です。
本来であれば高級ブランド品は必要ないはずなのに、どうしても欲しくなってしまうのは、高級ブランドの巧みなブランディングによって、顧客の理想が大きくなっているからだと考えられます。
顕在ニーズ
顕在ニーズは、顧客ニーズの中でも、顧客自身が欲しい商品・サービスを自覚している状態を指します。
例えば「〇〇のバッグが欲しい!」という状態は、顧客自身が欲しい商品を自覚しているので、顕在ニーズに該当します。
顕在ニーズは、顧客が既に特定の商品を欲しがっている状態なので、それにマッチした商品を魅力的な条件で提示できれば、コンバージョンに繋がる可能性があります。
一方で、顕在ニーズは既に表面化していることから、競合他社も同じような商品を提示してくる可能性が高いです。
潜在ニーズ
潜在ニーズは、顧客ニーズの中でも、顧客が具体的な欲求を理解していない状態を指します。
全く無自覚なケースもある一方で、不満は自覚しているものの、具体的な形になっていないケースもあります。
例えば「〇〇するのが面倒臭い」と心のどこかで考えている状態が、潜在ニーズだと考えられます。
潜在ニーズが存在するということは、そのニーズを解決できる商品やサービスが未登場、あるいは周知されていない可能性があるということです。
顕在ニーズに比べて発見が難しいものの、いち早く発見してスピーディーにビジネスを構築できれば、大きなチャンスが生まれる可能性があります。
基本的ニーズ
基本的ニーズは、生きていく上で最低限必要なニーズのことを指します。
例えば、一般的な顧客であれば「高級ブランドバッグ」よりも「食料」の方が、生活における重要度が高いはずです。
どんなに高級ブランドバッグをたくさん持っていようが、衣食住が確保されていないのであれば、不安でしかありません。
そのため基本的ニーズは、未来永劫途切れることはありません。
よく「食品業界は安泰」と言われるのは、常に「お腹を満たしたい」というニーズが存在するからです。
なお、衣食住のほかにも、基本的人権として認められる「教育」や「医療」も、基本的ニーズに該当します。
副次的ニーズ
副次的ニーズは、基本的ニーズが満たされた後にやってくるニーズのことです。
ニーズの優先順位に関しては、マズローの欲求5段階説が有名です。
マズローは人間の欲求が以下の5つに分けられ、それぞれで優先順位が存在することを示しています。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 社会的欲求
- 承認欲求
- 自己実現の欲求
原始時代を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
食べ物や水を確保できた人類は、次に身の安全を守るために「家」や「服」を手に入れようとします(安全の欲求)。
そして家と服を手に入れて自分の安全を守れたら、今度は集団や家族を求めるようになるはずです(社会的欲求)。
このように、ニーズには優先順位があるので「優先順位が高いのが基本的ニーズ、比較的低いのが副次的ニーズ」という見方ができます。
機能的ニーズ
機能的ニーズは、商品・サービスが持つ機能面・品質面で生まれるニーズのことを指します。
機能的ニーズで最もわかりやすい事例が「服」です。
同じ見た目と価格のダウンジャケットでも、保温性能の高いダウンジャケットの方が、顧客にとって魅力的に映るのではないでしょうか。
このように、同じような商品でも、機能面で差別化できる時代になっているため、機能的ニーズはかなり複雑化している現状があります。
情緒的ニーズ
情緒的ニーズは、顧客の感情・精神に作用するニーズを指します。高級ブランドのバッグが、まさに情緒的ニーズの典型例です。
現在、生理的欲求と安全の欲求という2つの「物質的欲求」は、ほぼ完全に満たされています。
そのため現在は、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求という3つの「精神的欲求」で、ビジネスチャンスを切り開く必要があるのです。
ニーズ発想とは?【顧客が求めているものを売る】
ニーズ発想は、顧客のニーズや欲求をベースに、商品やビジネスモデルを考えていく発想方法です。ビジネスにおける基本中の基本とも言える考え方です。
既に存在しているニーズをベースにしているため、アイデアが実現すれば、市場に受け入れられる可能性が高いと言えます。
シーズ発想との違い
ニーズ発想に似た言葉として、シーズ発想があります。
シーズ発想(Seeds)は、企業が持っている技術やノウハウをベースに、商品やビジネスモデルを考えていく発想方法です。
ニーズ発想に比べてシーズ発想の方が、類を見ない商品を開発できる可能性があります。
ニーズ発想のメリットとデメリット
ここではニーズ発想のメリットとデメリットを解説していきます。
メリット
ニーズ発想のメリットは以下の通りです。
- 商品を実現できれば市場に受け入れられやすい
- ニーズが途切れる心配がほとんどない
- 後出し戦略での差別化も容易
ニーズ発想は、既に存在しているニーズに対する解決案を提示するため、アイデアを実現できれば市場に受け入れられやすいのがメリットです。
また、一定のニーズに対応した商品が出ていても、機能的ニーズや情緒的ニーズを満たす商品で、後出しの差別化が容易にできます。
デメリット
ニーズ発想のデメリットは以下の通りです。
- シェアの奪い合いになる
- 市場の独占は難しい
- ニッチ戦略などの絞り込みが必要不可欠
ニーズ発想は、既に存在するニーズをベースに商品を開発するため、競合他社が多く存在するのがデメリットです。
その結果、シェアの奪い合いになり、利益の小さいニッチ戦略などの絞り込みが必要不可欠になってしまいます。
シーズ発想のメリットとデメリット
ここではシーズ発想のメリットとデメリットを解説していきます。
メリット
シーズ発想のメリットは以下の通りです。
- ユニークな商品が生まれやすい
- 市場を独占できる可能性がある
- 価格競争に巻き込まれづらい
シーズ発想は、自社独自の技術・ノウハウをベースに商品を開発するため、過去に類を見ない商品を開発できる可能性があります。
そのため、競合他社に真似されづらく、結果的に市場の独占や、価格競争の回避に繋がっていきます。
デメリット
シーズ発想のデメリットは以下の通りです。
- 市場で受け入れられない可能性がある
- 上手くいく保証がない
- 潜在ニーズを掘り起こす必要がある
シーズ発想で作られた商品が、顧客のニーズを満たせるかどうかは全く予想できません。
そして基本的に、顧客の潜在ニーズを掘り起こす必要があります。
ただし、顧客の潜在ニーズを掘り起こすのは、最も難しいアプローチの1つです。
シーズ発想で商品開発する場合は、クラウドファンディングサイトなどを用いて、商品がどのように市場で受け入れられそうかをテストする必要があるでしょう。
ニーズ発想の事例3選
ここではニーズ発想が用いられているビジネス事例を3つ紹介していきます。
事例①:アパホテル
アパホテルは、徹底的な顧客主義で有名な企業で、これまでも数々のアイデアを実現して、利便性を高めてきました。
中でも非常にユニークなのは「ポイントの現金化」です。
アパホテルでは、ホテル予約を公式サイトから行うと、10%のポイント還元を利用でき、そのポイントを現金にすることができます。
例えば、サラリーマンがアパホテルを公式サイトから予約すると、宿泊費は会社の経費で落ちる一方で、10%のポイントはサラリーマンに落ちます。
以上の理由から多くのサラリーマンが、ビジネスホテルの選択先としてアパホテルを選ぶようになったのです。
楽天トラベルやじゃらんなどの旅行サイトの利用手数料が約10%であることから、アパホテルにとってポイント10%還元は、十分に相殺できる金額だと言えます。
そのため、このポイントの現金化は、アパホテルにとってもサラリーマンにとってもウィンウィンな取り組みなのです。
事例②:スカイスキャナー
スカイスキャナーは、世界中の航空券を比較できるサービスです。
これもニーズ発想から生まれた事例だと考えられます。
スカイスキャナーが満たしたニーズは「数多くの航空券を一覧で手軽に比較したい」というシンプルなものです。
しかし、このニーズを満たすには、多くの課題をクリアする必要があります。
実際にスカイスキャナーは、世界各国の1,200以上のパートナー企業からデータを集めることで、航空券比較サイトを実現しています。
スカイスキャナーと同規模の航空券比較サービスをゼロから作り上げるのは、ビジネスとして効率が悪く、これが結果的に参入障壁になっているのです。
逆に言うと、ニーズ発想で市場を独占するには、膨大な手間と資金を惜しまないことが重要ということでもあります。
事例③:ソニー
ニーズ発想で大ヒット商品が誕生した事例として、ソニーのウォークマンが挙げられます。
ウォークマンが登場する前、音楽を聴くにはラジカセを持ち運ぶしかありませんでした。
しかしウォークマンの登場により、人々の「外出先で手軽に音楽を聴きたい」というニーズを満たすことに成功したのです。
一方で、私たちはウォークマンを、ニーズ発想の反面教師として捉える必要があるかもしれません。
なぜならウォークマンは、iPodやiPhoneがもたらした波に、対抗することができなかったからです。
理由はいくつか考えられますが、最大の理由として、ソニーがウォークマンを「技術力の勝利(シーズ発想)」と勘違いしたことが考えられます。
その結果、性能は劣るけどデザインと利便性に優れたiPodが、ウォークマンを一掃してしまいました。
ニーズ発想とシーズ発想は、どちらかだけではなく、どちらも重要なのです。
顧客のニーズを掴みながら、自社の強みも発揮するのが理想的です。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- ニーズは「必要性」や「要求」を意味する言葉
- ニーズを満たすことができる商品が売れる
- これからは精神的欲求を満たすことが求められる
- ニーズ発想とシーズ発想のバランスが重要
ニーズを押さえることは、ビジネスの基本中の基本です。
経営者やマーケティング担当者だけでなく、全てのビジネスマンが、顧客のニーズについて真摯に考える必要があるでしょう。
マネジメントにおいても、社内のメンバーだけでなく、常に顧客のニーズを見据えておくことが重要です。