1940年頃まで、「リーダーシップ」は生まれつき備わった資質と考えられていました。
そのため、才能のない人をいくらトレーニングしても優れたリーダーにはなれないと信じられていたのです。
しかしリーダー研究が大きく進んだ今日では、適切なフレームワークに則って学習すれば、後天的にリーダーシップは獲得できるとされています。
環境の変化が目まぐるしい昨今の企業経営において、生来のリーダーが自然に出てくるのを気長に待ってはいられません。
そこで今回の記事では、現代のリーダーを作る9つのフレームワークと使い分けるべき6つのスタイルを、わかりやすく紹介します。
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目次
リーダーシップとは
リーダーシップとは「指導力・統率力」を意味します。
組織が目指すべき目標に向けて行動する、メンバーの中心となる人物に必須の要素です。
経営学者のピーター・ドラッカーは、リーダーに求められるのはカリスマ性ではなく人格であるとし、次の3つの考え方を示しました。
- リーダーシップは仕事:先天的な資質ではなく、仕事として取り組むこと
- リーダーシップは責任:地位や特権ではなく、責任と捉えること
- リーダーシップは信頼:信頼され、つき従う者が存在すること
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リーダーに必要な能力
成果を出せる社員、いわゆる仕事のできる社員が、必ずしも良きリーダーになれるわけではありません。
周りから認められるリーダーには、他人の心を動かす力があります。
そんな魅力的なリーダーになるため、磨いておくべき能力は5つです。
- 適切な目標を定める能力
- 部下や後輩を育てる能力
- コミュニケーション能力
- 最終的な決断をする能力
- 全責任を引き受ける能力
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リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップと混同されやすいのがマネジメントです。
リーダーが目標と方向性を決定するのに対し、マネジメント業務を行うマネージャーは、経営資源の分配や管理を担当します。
組織を牽引する推進力がリーダーシップであり、全体を整備し安定化を図るのがマネジメントです。
【定番型】5つのフレームワーク
リーダーシップを機能させるためのフレームワークは、数多くあります。
リーダーのタイプもひとつではないため、優秀な人ほどいくつかのフレームワークを上手に使い分けています。
関連記事:リーダーシップ行動理論とは?メリット・デメリットと活用方法を紹介!
PM理論
PM理論とは、リーダーシップを「目標達成機能(P)」と「集団維持機能(M)」に分け、各要素の強弱を「PM、Pm、pM、pm」の4パターンで表現したフレームワークです。
目に見えないリーダーシップの機能を可視化し、評価しやすくしたことで、分かりにくかったリーダーの役割が明確になりました。
Pの機能が高いリーダーであれば生産性が上がり、Mの機能に秀でたリーダーなら結束力が強まるとされています。
SL理論
SL理論は、縦軸を仕事志向の強さ、横軸を人間志向の強さとして部下を分類し、それぞれにもっとも有効なスタイルでリーダーが対応します。
「状況対応型リーダーシップ理論」とも呼ばれ、相手の能力や意識によって次の4つの型から立ち振る舞いを選びます。
- 教示型リーダー(鬼軍曹タイプ):能力も意識も低い部下に有効です。
- 説得型リーダー(先生タイプ):能力はないが意識は高い部下に有効です。
- 参加型リーダー(世話焼きタイプ):能力はあるが意識が低い部下に有効です。
- 委任型リーダー(放任タイプ):能力も意識も高い部下に有効です。
パス・ゴール理論
パス・ゴール理論は「普遍的に通じるリーダーシップなど存在しない」という条件適応理論のひとつ。
メンバーが目標(ゴール)に到達できるかは、リーダーが正しい道筋(パス)を示せるかで決まるというフレームワークです。
X理論Y理論
X理論:もともと人間は仕事が嫌いで強制されなければしない
Y理論:もともと人間は仕事が好きで強制されなくてもする
人は必ずしも上記のどちらかに分けられるわけではなく、XとYを結ぶどこかに位置しているのが通常です。
そのためリーダーは、個々のメンバーがどの要素を強く持っているかを見極めなければいけません。
生活水準が向上して、生理的欲求や安全欲求など低次の欲求が満たされた社会においては、Y理論に基づいたリーダーシップの方が効果的であるとされています。
SECIモデル
SECI(セキ)モデルとは、個人の知識や経験を組織全体で共有し、暗黙知を形式知化していくフレームワークです。
「共同化」「表出化」「連結化」「統合化」のプロセスで構成されていて、4つは半永久的に循環します。
- 共同化:個人の知識や経験を他者に伝授する
- 表出化:伝えにくい要素を言語化・図表化する
- 連結化:形式知どうしがつながり新たな知となる
- 統合化:新たな知を個人が使い知識や経験にする
【新型】4つのフレームワーク
リーダーシップは、じつは2000年以上も前から研究されており、その時々の世の中に合わせたアップデートが繰り返されてきました。
かつてないほど変化が激しくVUCA(ブーカ)時代ともいわれる現代では、新しいフレームワークが次々に生み出されています。
サーバントリーダーシップ
サーバントは「奉仕者」や「仕える人」という意味。
サーバントリーダーシップとは、部下を信じ支援する対話型のスタイルを指します。
指示・命令を出す支配型の指導とは対極にあり、信頼関係を築きつつ、共に目標達成を目指すのが特徴です。
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オーセンティックリーダーシップ
オーセンティックは「本物の」「正真正銘の」という意味です。
オーセンティックリーダーシップは「リーダーはこうあるべき」という既存の概念に引きずらず、自分の信条や考え方に沿ったリーダー像を理想とします。
求められる資質は以下の4つです。
- 目的の理解:自分を信じ行動の目的を十分に理解している
- 価値観への忠実性:外部に影響されず信じた方法で行動できる
- 情熱的な指導:本音で語りかけ全力で導く
- 関係性の構築:活気があり支援しあえる集団を作る
関連記事:オーセンティックリーダーシップとは?メリット・デメリットも解説!
トランザクショナルリーダーシップ
トランザクショナルは「取り引き」を意味します。
トランザクショナルリーダーシップとは、上司が部下に権限と報酬を与え、見返りとして信頼や尊敬を手にするというフレームワークです。
短期的な追い込みや急を要するタスクに有効とされますが、導入は慎重に行わなければいけません。
トランスフォーメーショナルリーダーシップ
トランスフォーメーショナルとは「変化する」という意味です。
トランスフォーメーショナルリーダーシップとは、環境の変化に応じた展望や構想を重視するフレームワークです。
トランスフォーメーショナルリーダーシップは、3つの資質から成り立っています。
- カリスマ:企業のビジョンを部下に伝え動機づけをする
- 知的刺激:部下を尊重し意味や解決策を考えさせる
- 個人重視:部下と個別に向き合い学習による成長を支える
ダニエル・ゴールマンのリーダーシップ6つのスタイル
複数のフレームワークを柔軟に取り入れ、道具として使いこなせるのが優れたリーダーです。
とはいえ、企業の置かれた状況や個人の素養は一律ではありません。
自分はどのスタイルの要素が強いのかを把握し、長所・短所を知ったうえで場面によって使い分けましょう。
アメリカの心理学者であるダニエル・ゴールマンはリーダーシップのスタイルを6つに分けています。
関連記事:リーダーシップとは?ジョン・コッターとダニエル・ゴールマンに学ぶリーダーシップを発揮するために覚えておきたいこと
強制型リーダーシップ
強制型リーダーシップは、メンバーを命令で強制的に動かす上位下達タイプです。
緊急対応や単純作業に対して、効果的だとされています。
ただ、メンバーのやる気が低下し離職率が高まる可能性があるほか、部下が指示待ち人間になるリスクもあります。
民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップは、メンバーの意見を聞き入れ、目標達成や課題解決に反映する調整タイプです。
能力の高いメンバーが揃っていれば、質の良い意見が次々と出されますが、そうでなければ何も改善されない可能性があります。
コーチ型リーダーシップ
コーチ型リーダーシップは、1対1の対話によってメンバー個々の資質を開花させる指南役タイプです。
ひとりひとりの主体性が備わっているチームに有効ですが、リーダーにかかる負担が大き過ぎるのが難点です。
ビジョン型リーダーシップ
ビジョン型リーダーシップは、理想の未来像を示しメンバーを巻き込むカリスマタイプです。
メンバーに強い帰属意識を持たせ、ビジョンの実現に向け一丸となるよう導きます。
企業の急成長期にマッチしたリーダーのスタイルで、壮大な目標の達成に向いています。
このタイプのリーダーは、ブレない信念を持っていなければいけません。
関係重視型リーダーシップ
関係重視型リーダーシップは、メンバー同士の関係性を重視するタイプです。
チームの雰囲気を良くすることで、信頼関係を築いていきます。
様々な事情を持つメンバーが混在する組織では、効果のあるやり方です。
ただし、リーダーが利害関係の調整ばかりしていると、目標の達成にいつまでたっても届きません。
他のリーダーシップと組み合わせ、相手をよく見て使いましょう。
ペースセッター型リーダーシップ
ペースセッター型リーダーシップは、率先して実務をこなし背中で引っ張っていくエースタイプ。
自分がお手本となり、メンバーの尊敬を集めチームをまとめ上げます。
しかしながら、リーダーが何でもやり過ぎてしまうと、集団の士気が低下し人が育たないという懸念はあります。
まとめ
リーダーシップのフレームワークは、時代とともに変化します。現代は多様で不確実な時代。
前時代的な指示・命令によるトップダウン型だけでは、チームを率いるのが難しくなってきました。
変革の波に乗り事業を成長させている企業には、必ずと言っていいほど現代型のリーダーシップを備えたしなやかなリーダーがいます。
現場に即したフレームワークをかしこく選び、複数のスタイルを柔軟に当てはめられる人物こそ、激動の時代にふさわしい理想のリーダー像といえるのです。