2021年6月、育児・介護休業法が改正されました。
しかし、法改正に伴って企業が工夫をしているつもりでも、いまだに「従業員の育休への理解が深まらない」「育休の取得状況が悪い」などと悩む経営者の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、管理職をはじめとした従業員の育休取得について以下の観点から解説します。
- 育休取得を促進するためにできる取り組み
- 従業員が育休が取りたくない・取れないと悩む理由
- 役職者の育休を促進する上で注意すること
関連記事:育児休暇とは?育児休業との違いや企業が取るべき対応を解説
目次
管理職も育休の対象となる
管理職も一般社員同様に育児休業制度の対象となります。
育児休業制度は、育児・介護休業法に定められた、仕事と育児・介護の両立支援制度です。
また、管理監督者にあたる管理職でも育児休業制度の対象となります。
本章では、管理職の育休に関連する以下2つの制度について解説します。
- 育児休業制度とは
- 産後パパ育休(出生児育児休業)とは
育児休業制度とは
育児休業とは、育児・介護休業法で定められた、原則1歳未満の子どもを養育するための休業のことです。
労働者にとって育休は任意で利用できる権利であり、企業は労働者からの育児休業の申し出を拒めません。
2022年4月1日に施行された改正育児・介護休業法では、事業主には個別周知・意向確認、育児休業を取得しやすい雇用環境整備の措置が義務づけられました。
- 本人又は配偶者の妊娠・出産等の申出をした労働者に対する育児休業制度等の個別の制度周知・休業取得意向確認の義務づけ
- 育児休業及び出生時育児休業(産後パパ育休)の申出が円滑に行われるようにするため、研修や相談窓口の設置等の雇用環境整備措置を講じることを義務づけ
また、育児・介護休業法は事業主が育児休業等を取得したこと等を理由として解雇、その他の不利益取扱いをすることを禁止しています。
関連記事:育児・介護休業法とは?改正のポイントや取得率向上のメリット・デメリットを解説
産後パパ育休(出生児育児休業)とは
産後パパ育休とは、育休制度とは別に子の出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割しての取得ができる出生児育児休業制度です。
男女の仕事と育児の両立を支援するため、2022年10月1日に施行されました。
産後パパ育休は育児休業制度と異なり、労使協定を締結している場合に限り、 労働者が合意した範囲であれば休業中の就業が可能です。
ただし、所定労働日数・時間数の半分以下に抑える必要があります。
事業主には、産後パパ育休の取得者への個別周知、意向確認を行う義務があります。
育児休業を取得しやすい雇用環境を整備し、必要があれば就業規則の見直しも行いましょう。
育休を取りたくない・取れないと悩む理由
育休は、従業員が子どもや家族との時間を作るうえで重要な制度です。
しかし、仕事と育児を両立するにあたって育休を取りたくない・取れないと悩む従業員もいます。
本章では、従業員が育休を取りたくない・取れないと悩む理由を3つ挙げて解説します。
- 収入が減少してしまう
- 上司や周囲の理解が得られない
- 育休明けの仕事やキャリアに対する心配や不安
関連記事:女性部下をマネジメントするコツとは?よくある悩みや注意点も解説
1.収入が減少してしまう
東京都が今後の施策の参考とするために行った令和3年度「男性の家事・育児参画状況実態調査 」によると、育児休業等を希望通りは取得しなかった理由として24.2%が「育休取得中の収入減が家計に影響するから」と回答しています。
育休中は、育休を取得していない時よりも収入が減少してしまいます。
収入が減少すると、従業員の家計負担が大きくなったり、生活水準の低下につながりかねません。
とくに、家庭内の収入の多くを担っている従業員、非役職者や手当の少ない従業員にとっては、育休取得が難しい状況となります。
参考: 令和3年度男性の家事・育児参画状況実態調査|東京都生活文化局
2.上司や周囲の理解が得られない
内閣府が令和3年に行った「第3回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」。
同調査結果によると、子育て世代の男性で育児休暇を取得しない割合は42.2%です。
さらに、子育て世代の男性が1ヵ月以上の育休を取得しない理由として最も多い回答が「職場に迷惑をかけたくないため」となっています。
調査結果から、とくに子育て世代の男性が仕事や職場に与える影響を心配し、育休を取得しない選択をしていることが分かります。
企業は上司や同僚へ協力を要請し、仕事の引き継ぎや代替要員の確保、育休明けの復帰、再配置といった調整や、周囲にしわ寄せがいかないように制度を整え、理解を得ることが必要です。
3.育休明けの仕事やキャリアに対する心配や不安
育休を取得しようとしている従業員のなかには、育休明けの自身のキャリアに対して心配や不安を抱える人もいます。
たとえば「仕事のスキルや知識が陳腐化しないか」「以前と同じように仕事ができるか」「子供の世話と仕事の両立ができるか」などの心配や不安です。
育休取得者の心配や不安を払拭するためには、以下のような対策が講じられます。
- 育休前後の研修の実施
- 育休期間中の自己啓発・スキルアップの支援
- 復職後の面談
- 短時間勤務や時間外・所定外労働の制限の周知
- 転勤についての配慮
- キャリアの専門家の配置
- 成果を評価する制度や風土づくり
自社の従業員の悩みやニーズに合わせて柔軟な対応や対策を行うことが大切です。
育休取得を促進するためにできる取り組み
役職者をはじめ従業員の育休を促進するためにできる取り組みを5つ紹介します。
- 取得しやすい雰囲気作りを行う
- 経営陣が理解を示す・意思を伝える
- 育休の理解度を高める
- 育児休業給付金以外による所得の保障
- 制度を整備する
大きくまとめると「職場の雰囲気」「育休への理解」「雇用環境・制度」となりますが、最も大切なのは自社に合う取り組みを行うことです。
ぜひ本章を参考に、自社に合う取り組みを見つけてみてください。
1.取得しやすい雰囲気作りを行う
職場内での育休に対する偏見や差別をなくし、育休取得者を応援する雰囲気を作ります。
育休取得者に「育休を取りたい」「育休を取っても迷惑とならない」と思ってもらうためには、代替要員の確保や業務量の調整が効果的です。
職場環境を整備するために「両立支援等助成金」を活用するのも一つの手段です。
「両立支援等助成金」は、従業員の育児・介護休業への取り組みを支援するため事業主に対して支給されます。
「両立支援等助成金」には主に3つのコースがあり、コースによって対象や要件が異なります。
利用を検討する際は厚生労働省のホームページでよく確認してみてください。
2.経営陣が理解を示す・意思を伝える
企業の社長や役員といった経営陣は育休制度の対象外であり、育休を取得するには株主や関係者の納得が不可欠です。
「自身は育休に関係がない」と考えず、育休制度の重要性やメリットを理解することが大切です。
十分に理解が得られたら、従業員に対して育休取得を促進したり支援を明確に表明したりします。
たとえば、育休取得の目標や指標を設定したり、魅力ある制度を整備することなどが挙げられるでしょう。
経営陣が理解を示したり、意思を伝えたりすることで、従業員は安心して育休を取得できるようになります。
3.育休の理解度を高める
全従業員に対し、育休制度の内容や手続き、育休中・復帰後の勤務形態、給与などについて正しく知ってもらうことが大切です。
厚生労働省によると、女性の育児休業取得率は令和3年度で85.1%となっている一方で、男性は13.97%と女性に比べ低い水準となっています。
令和4年より段階的に施行された改正育児・介護休業法は、主に男性や非正規労働者の育児休業の取得を促進しているものです。
改正法に対応するための男性向けの育休研修やe-ラーニングといった外部ツールもあります。
必要があれば外部ツールも利用し、男性をはじめとした従業員の育休への理解度を高めましょう。
4.育児休業給付金以外による所得の保障
育休を取得した従業員は一定の要件を満たせば「育児休業給付金」が支給されます。
育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合、一定の要件を満たすと支給される給付金のことです。
また、令和4年に新設された産後パパ育休に伴って「出生時育児休業給付金」も支給されるようになっています。
育児休業給付金は非課税です。
育休取得者は育児休業給付金によって給与の7割程度の給付が受けられます。
とはいえ、「収入が減る」という理由で育休を取らない、取れない従業員もいます。
企業は、育休中の従業員に賃金を支払う義務はありませんが、収入減が育休取得を妨げているのであれば、その他賃金の保障も検討する必要があります。
5.制度を整備する
企業独自の育休制度を整備することは、従業員の離職を防いだり新たな人材を確保するのに有効です。
具体的な策としては、休暇制度を拡充したり、キャリア形成のための評価制度を整備したりすることなどが挙げられます。
育休中や復帰後の支援として、研修機会の提供や育児の経験やスキルをキャリアプランや評価制度に反映させるなど、育休取得者にもキャリアチャンスを平等に与えます。
制度を整備したり見直したりすることで、育休によってキャリアに不利益を生じさせないことが大切です。
役職者の育休を促進する上で注意すべき点
役職者は部下の業務量の調整や人員配置などマネジメントを行う立場であり、普段は組織やチームのメンバーの育休取得を承認する立場です。
役職者自身の育休取得を促進する際には、主に以下の2つに注意する必要があります。
- 管理監督者に当てはまるか
- ハラスメントには厳正に対処する
1.管理監督者に当てはまるか
育児・介護休業制度は、管理監督者の管理職であっても取得できます。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者のことです。
管理監督者は労働基準法で定められた労働時間や休憩、休日の制限を受けません。
しかし、育休は労働基準法で管理監督者の適用除外とするものに定められていないため、管理監督者であっても取得可能です。
過去に管理監督者の育休を制限していた事例がある場合や、経営層が勘違いしている場合などは認識を改める必要があります。
「管理監督者でも育休を取得できる」という事実を周知させ、管理監督者の育休取得も促進しましょう。
2.ハラスメントには厳正に対処する
役職者のさらに上層の役職者や同僚などからのハラスメントには、厳正に対処する必要があります。
厳正な対処が必要である理由は、以下の法律にあります。
- 男女雇用機会均等法第11条の2
- 育児・介護休業法第25条
以上2つの法律によって職場における妊娠や出産・育児休業等に関するハラスメントについて、事業主には防止措置を講じることが義務付けられているためです。
ハラスメントは当事者だけでなく、その他の役職者やその周囲の従業員にも悪影響を及ぼす可能性があります。
今後の育休所得の妨げにもなるでしょう。状況に応じて適切な対応をとることが大切です。
従業員が育休を取りやすい環境を作ることが大切
本記事では、管理職の育休取得を促進するためにできる取り組み5つや注意点などを解説しました。
育休は、育児・介護休業法に基づく労働者の権利です。
企業には管理職をはじめ、全従業員が育休を取りやすい環境を作ることが求められます。
具体的には、育休取得者に代わる人材の確保や日々の業務量の調整など、企業の課題が育休の取りやすさに影響すると言えるでしょう。
従業員が育休を取りたい・取りやすいと思える環境を作り、育休取得を促進するために自社に合う取り組みを行うことが大切です。