数年前から「管理職になりたくない」という若手社員や中堅社員が増えているとネットニュースを中心に話題となっています。
実際に弊社が2023年1月に実施した調査でも「管理職になりたくない」会社員が7割を超えるなど、出世を望む人が少ないことが分かりました。
しかし、企業にとって管理職を登用することは「人材育成」や「組織の強化・改革」などの観点からもメリットがあると言えます。
本記事では、管理職試験の内容や目的、実施の際の注意点を徹底的に解説します。
目次
管理職の試験とは?
管理職試験は、管理職になるために必要な能力や資質を測るために行われる選考試験のことです。
株式会社労務行政『労政時報』第4036号の「等級制度と昇進昇格・降格の最新実態」という調査を見ると、昇進・昇格試験の実施率は、調査に参加した規模の異なる企業196社のうち66.3%となっています。
企業が取り入れている職能資格等級制度やミッショングレード制度などの制度にもよりますが、管理職の試験には以下のようなものがあります。
- 昇格試験
- 昇任試験
- 昇進試験
以上の試験は企業の人材育成や組織運営において重要な役割を果たしますが、それぞれには異なる意味や目的があります。
次章で詳しく解説していきます。
昇格試験
昇格試験とは、人材が昇格に値するかどうかを見極めるために行われる試験のことです。
昇格とは、等級や資格が上がることを指します。
企業が取り入れる評価方法はさまざまですが、そのひとつに職能資格等級制度があります。
この制度で個々の能力を示すのが「等級」です。
この等級は社内でのレベル分けのようなものであり、対外的な役職とはまた別のものです。
そのため、「昇格」は昇進できるかのひとつの判断基準ではありますが、昇格したからと言って昇進できるわけではありません。
また、昇格しても肩書きが変わるわけでもありません。
昇任試験
昇任試験とは、公的な仕事に就く人が今より高い職位に昇格するに値するかどうかを確かめる試験のことです。
昇任という言葉は主に自衛隊や警察官などの公務員の仕事で使われており、一般企業で使用されることはほとんどありません。
「昇格」と異なり「昇任」は地位が上がるため、肩書きも変化します。
昇進試験
公務員における昇任が、一般企業では昇進となります。
そのことからも分かるように、昇進試験とは、人材が昇進に値するかどうかを見極める試験です。
昇進とは、地位や職位が上がりより高い地位や職位に任命されることです。
「昇進」も「昇任」同様に、係長→課長や次長→部長などと対外的にも肩書きが変化し、社員が出世したことが一目瞭然となります。
管理職試験の目的
企業は管理職候補者が管理職になることで得られるメリットだけでなく、失うものや必要なものも考える必要があります。
管理職候補者の目指すキャリアプランやライフスタイルも考慮し、慎重に決めることが大切です。
そこで、本章では管理職試験の目的について以下の3つを解説します。
- 人材の見極め
- 公平性を担保するため
- 社員教育の一環
1.人材の見極め
2023年1月に弊社が行った管理職に関する調査では「管理職になりたい」と回答した会社員はわずか8.0%と低い結果となりました。
しかし企業側は管理職試験によって、管理職候補である社員が以下のような能力や資質を持っているか見極める機会となります。
- 専門知識
- スキル
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
- 判断力
- 創造力 など
以上のような能力や資質は、管理職になると部下の指導や組織の運営などに必要です。
管理職試験によって社員の能力や資質を改めて見極めることで、管理職となった際に適正な仕事に就いてもらうことも可能です。
2.公平性を担保するため
管理職試験は、管理職の候補者や社員に対して公平性を担保できます。
管理職試験では、管理職の候補者に対して同じような条件で試験を行い客観的な基準で評価するためです。
昇給などは通常、年齢や勤続年数、部署や役職などの属性で判断することも多いでしょう。
しかし管理職試験を行うことで、公平性を担保するとともに、実際の能力や適性に基づいて管理職に登用することが可能です。
3.社員教育の一環
管理職試験は、社員教育の一環としても機能します。
管理職の候補者が管理職試験に参加することで、自分の強みや弱みを客観的に把握できるので、自己分析や自己改善を行えます。
また、管理職試験では仕事に対する意識や視座を高めるような課題・問題を出題することもあります。
管理職試験によって、管理職の候補者は自分の知識やスキルを広げたり、新たな発想やアイデアを生み出したりすることが可能です。
管理職試験は、試験を受ける候補者自身の成長機会としても有効といえます。
管理職試験の内容
管理職試験の試験内容は業界や職種、企業規模などによってさまざまです。
本章では、一般的な管理職試験の内容として、以下の5つを解説します。
- 筆記試験
- 小論文
- 人材アセスメント
- 適性検査
- 面接
管理職試験は、人事考課から筆記試験や小論文などの一次試験、面接の二次試験と段階的に行われることが多いです。
また、管理職候補者の適性の見極めや自己開発の観点から、複数の試験を組み合わせて行うことも有効といえます。
筆記試験
筆記試験は、管理職に必要な専門知識や一般教養を問う試験です。
主に管理職候補者の基礎的な能力や知識レベルを確認するために行われます。
管理職として必要な時事経済や国語、英語、法律といった分野の知識を測ります。
筆記試験は客観的な判断がしやすく、登用後に管理職の水準を一定以上に保つことにも有効です。
筆記試験実施の際には以下のようなポイントをおさえておくと良いでしょう。
- 出題範囲や問題数、時間などを事前に明確にする
- 問題の難易度や出題分野のバランスを適切に調整する
- 解答用紙や採点基準などを統一する
- 試験監督や採点者を適切に選定する など
これらのポイントは他の試験にも応用できます。ぜひ参考にしてみてください。
小論文
小論文は、管理職に関するテーマや課題に対して自分の意見や考え方を論理的に述べる試験です。
管理職候補者の思考力や表現力、判断力を評価するために行います。
管理職試験の小論文は大きく分けて「資料なし」「資料あり」の2種類のタイプがあります。
「資料なし」は、問題文のみの出題で職場や受験者本人のことを書いてもらうタイプです。
よくある出題例には以下のようなものがあります。
- 「職場の課題を指摘した上で、管理職としてあなたは解決に向けどのようなことに取り組んでいくか、考えを述べなさい」
- 「職場での情報共有の重要性について指摘し、このことに昇進後どう取り組むか述べなさい」
人材アセスメント
人材アセスメントとは、管理職としての適性や資質を測るツールのことです。
管理職を登用するための試験だけでなく、人材の配置替えや育成にも利用されます。
グループディスカッションやロールプレイ、プレゼンテーションなど、実務的な場面で管理職候補者の行動や態度を観察します。
評価の項目として一般的なものは以下の通りです。
- 個人特性
- 意思決定能力
- 対人関係能力
- 業務遂行能力
- 組織適性
人材アセスメントについては、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【活用事例】人材アセスメントとは?導入方法・対策ノウハウも公開! | 識学総研
適性検査
適性検査は、管理職としての候補者の能力や性格を測る試験です。
パソコンで行う心理テストやIQテストなどがあります。
適性検査は、管理職候補者の潜在的な能力や資質を客観的に把握するために行われます。
適性検査は、上司とは異なる視点で科学的に評価することが可能で、評価する人の主観や意思は反映されません。
そして、適性検査では以下のような外部ツールを利用することで、さらに客観性や公平性が保たれるでしょう。
面接
管理職試験の方法として最も多くなっているのが面接です。
先述の「等級制度と昇進昇格・降格の最新実態」という調査に参加した規模の異なる企業196社のうち、約8割が「面接」を実施内容として挙げています。
面接は、管理職としての適性や動機を確認する試験です。
自己紹介や志望動機、自己分析、キャリアプランなどについて候補者へ質問します。
管理職候補者の人柄やモチベーション、適合性を判断するために有効といえます。
一方で、面接担当者の主観が反映されたり、話し方の功拙さが結果に影響したりするため注意が必要です。
管理職試験実施の際の注意点
管理職試験は「人材の見極め」や「公平性の担保」「社員教育の一環」の目的があると説明しました。
実際に管理職試験を実施する際に注意したらよいことには何があるでしょうか。
管理職試験を実施する際の注意点として以下の3つを挙げて解説します。
- 人材要件を明確にする
- 合否に関してフィードバックを行う
- 多角的な視点で評価する
1.人材要件を明確にする
どのような人が管理職試験の受験資格があるのか、すなわち人材要件を明確にすることは、管理職試験の効果や品質を高めることにつながります。
一方で、人材要件を明確にすることは管理職試験の柔軟性や多様性を低下させることにもなりかねません。
人材要件を明確にする際には以下の点に気をつける必要があります。
- 定期的に人材要件の見直しや改善を行う
- 管理職候補者の能力や成長の余地を考慮する
- 現実的で実現可能なものであること
- 職種や部門に応じて適切な採用方法や育成方法を検討する など
人材要件を明確にするだけではなく、時代や環境の変化にも対応して適切に運用し、改善し続けることが大切です。
2.合否に関してフィードバックを行う
画像出典:昇進昇格実態調査 ―受験者からみた審査の実態― | お知らせ | 日本能率協会マネジメントセンター JMAM
株式会社日本能率協会マネジメントセンターが管理職への昇進昇格審査を受けた会社員に行ったアンケート調査では、合格者、不合格者ともに「合否の結果」は伝えられている一方で、「合否の理由」は半数以下、期待や今後の話し合いは約4,5割程度に留まっています。
また、不合格者だけを見てみると全般的に説明を受けた割合は減り、今後の支援に関する内容について直属の上司からの説明は3割程度になっています。
先述したように、管理職試験は社員教育の役割も果たすことができます。
合格でも不合格でも合否に関してフィードバックを行い、試験結果のフィードバックを能力開発を促進する機会として活かすことが大切です。
3.多角的な視点で評価する
管理職試験では、筆記試験や面接、プレゼンなどさまざまな方法で管理職候補者の能力や適性を評価します。
しかし、ひとつの試験結果だけで判断すると、偏ってしまう可能性もあります。
たとえば筆記試験の結果は良好でも、面接では緊張してしまったり、逆に面接では自信満々でも、筆記試験では苦手な分野があったりすることもあります。
試験は複数の方法を組み合わせる、複数人で審査するなど多角的な視点で評価しましょう。
人材を守るためにも管理職試験の適切な運用を
本記事では、管理職試験の内容や目的、実施の際の注意点を解説しました。
企業において管理職の果たす役割は非常に大きく、社員にとっても自己成長機会やモチベーション向上の観点から大きな意味を持ちます。
したがって管理職試験を実施する際には試験に公平性を持たせ、適切に運用していくことが大切です。
人手不足が深刻化する中で、いまある人材をどのように守り育成していくのか、管理職試験を通して考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。