これまで高い離職率に悩まされるのは主に中小企業でしたが、近年では大企業でも社員の離職率の高まりが課題となりつつあります。
企業にとって、離職率が高いと新たな人材を採用するための費用や時間が増え、生産性の低下や業務の停滞、さらにはブランドイメージの低下などの悪影響があります。したがって、積極的に離職率を抑える対策が必要です。
本記事では、中小企業と比較した大企業の平均的な離職率について説明したうえで、定着率を高めるための方法について解説します。
目次
大企業と中小企業の離職率の差
まず、大企業と中小企業の平均的な離職率の差について見ていきましょう。
厚生労働省が公表している厚生労働省の実施した調査結果によると、企業規模別に見た新規大卒採用者の就職後3年以内の離職率は以下のようになっています。
企業規模 | 離職率 |
1,000人以上 | 24.7% |
500~999人 | 28.9% |
100~499人 | 31.8% |
30~99人 | 39.1% |
5〜29人 | 49.4% |
5人未満 | 56.3% |
この表から見ても分かるように、企業規模が大きくなるほど離職率は低い傾向にあり、1,000人以上の大企業と5人未満の小規模企業では、退職率に2倍以上の差が見られます。
とはいえ、大企業でも4人に1人の割合で辞めている社員がいるのも事実であり、しかも退職率の割合は年々増加傾向なのです。
業界別で見るとサービス業界の離職率が高く、特に若手社員の離職率が高いことが知られています。
若手社員の方が離職率が高い理由としては、若手社員のほうが入社前に思い描いていたイメージと現実とのギャップに苦しみやすく、また、給与や社内での地位が低いことも挙げられます。
関連記事:中小企業の離職率の平均は?離職の要因・対処法とあわせて解説
高い離職率が企業に与える問題とは
高い離職率が企業に与える影響としては、
- 採用・教育コストの増加
- 社員のモチベーション低下
- ブランドイメージの低下
といったものが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.採用・教育コストの増加
新たな人材を採用するためには、求人広告や説明会などを行うための費用や面接などに人員と時間をあてがう必要があります。
さらに、採用した人材が企業に馴染むまでの教育や研修も必要です。
これらのコストが高くなることで、企業の経費が増加し、業績に好ましくない影響を与える可能性があります。
関連記事:採用コストを削減したい担当者必見|今すぐできるコスト削減方法とは
2.社員のモチベーション低下
離職率が高くなると、辞めた社員だけでなく、残された社員の心理にも好ましくない影響をもたらします。
結婚や起業といったポジティブな要因での離職を除き、離職はネガティブな要因で行われるのが一般的です。
したがって、社員の離職が多いと、残った社員の側にも「やはりこの職場には問題があるのかな?」というふうに疑心暗鬼となってしまい、業務へのモチベーションが下がってしまう要因となります。
このように、退職者が多い職場は雰囲気が悪くなりがちであり、それが生産性の低下につながってしまうケースもあります。
場合によっては、「他にも辞める人が多いから私も辞めてしまおう」と後につづく社員が現れ、さらに離職率が増えてしまうという悪循環に陥ってしまうケースもあるので、注意が必要です。
3.ブランドイメージの低下
離職率が高い企業は、ブランドイメージが悪化することがあります。
一般的に、離職率は何らかの形で数値化して対外的に公表されるのが一般的であり、離職率が高いと「あそこの会社は離職率が高いから何か問題があるのかも」と疑われる原因となりえます。
また、近年ではインターネットの発達と普及により、良い評判も悪い評判も広まりやすい状況となっています。
辞めた元社員は自身が前にいた職場を悪く言うことも多く、特にインターネットで否定的な書き込みをすることで、対外的なイメージが大きく落ちるケースも多々あります。
インターネットなどを通じて広まる悪評でブランドイメージが毀損した結果、その企業への就職を検討する求職者を躊躇させてしまう影響や、消費者など顧客として利用する立場の人々からも距離を置かれてしまう可能性があるのです。
大企業でも離職者が出てしまう5つの理由
大企業であっても社員が辞めてしまう主な要因としては以下があげられます。
- 仕事のミスマッチ
- 待遇や福利厚生の不満
- 組織風土の不一致
- キャリアアップの機会の不足
- 上司や同僚との関係性の悪化
それぞれの詳細について具体的に説明していきます。
1.仕事のミスマッチ
大企業には多様な部署や職種があり、社員はかならずしも希望する職種や部署に配属されるわけではありません。
また、社員一人あたりが担当する仕事の幅が広い中小企業と比較して、大企業は社員一人ひとりの業務が細分化されている傾向があります。
そのため、仕事内容が自分に合わないと感じる場合や、やりがいを感じられない場合が多く、それを理由に離職してしまうことがあるのです。
関連記事:採用ミスマッチの対策方法5選【従業員を定着させる方法も紹介!】
2.待遇や福利厚生の不満
大企業であっても、待遇や福利厚生に不満を持つ社員がいることがあります。
例えば「給与・ボーナスが少ない」「残業が多い」「休暇が取りにくい」「交通費が自己負担になっている」などの理由が挙げられます。
3.組織風土の不一致
大企業は組織が大きく、その企業固有の複雑なルールや社内手続きなども存在するため、社員が求める風土と異なる場合があります。
たとえば、社員が自由な発言やアイデアの提案を望むが、組織が堅苦しい雰囲気である場合、社員はストレスを感じて離職する可能性があります。
特に近年は、時代の流れを受けて「個性のある人材を募集します」「組織に変化をもたらしてくれる人材を求む」というような触れ込みで人材を募集している企業が増えています。
ところが、実際には社員に画一的な言動を求めたり、組織の方針に意見する人材を冷遇するといった実態があるため、若い人材が入社後に失望を覚えるケースも多く見聞きされます。
4.キャリアアップの機会の不足
大企業には上昇志向のある社員が多く在籍しています。
しかし、昇進のポストが埋まってしまっている場合や、キャリアアップの機会が少ない場合、意識の高い社員は別の企業に流出してしまうことがあります。
5.上司や同僚との関係性の悪化
人間関係の問題はどの企業にもありますが、大企業であっても同様です。
上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかない場合や、パワハラやセクハラなどの問題がある場合は、社員の離職につながってしまいます。
離職防止のためにできる5つの対策
前章であげた離職者発生の各要因についての防止策として、以下の5つがあげられます。
- 職務のミスマッチ防止
- 勤務状況の適正管理・福利厚生の充実
- 組織風土の改善
- 社員のキャリア形成を支援する人事制度
- パワハラ・セクハラ防止の徹底
これらの5つの対策について、以下で詳細に説明していきます。
1.職務のミスマッチ防止
社員が「この仕事はミスマッチだ」と感じてしまうのを防ぐためには、まず採用時点での職務内容の説明を徹底します。
採用担当者としては、応募者の志望度を高めようと花形業務を中心に、華やかな部分を紹介してしまいがちです。
しかし、入社後に新入社員がギャップを抱くのを防止するためには、より実態に即した地味な部分についても包み隠さず説明するのがよいでしょう。
職務のミスマッチを防ぐためには、入社後の社員に対しても、役割や責任の明確化、定期的な面談やフィードバックなどを行い、社員が仕事にやりがいを感じられるよう工夫することが重要です。
また、社員の希望に合わせて転居や部署異動などの柔軟な対応を実施することも求められます。
2.勤務状況の適正管理・福利厚生の充実
サービス残業や実質的強制参加の飲み会、有給休暇を取らせないなどといったことは、中小企業ばかりでなく大企業でもしばしば見受けられます。
たとえ人事部や経営陣が禁止していたとしても、地方の小さな支店や営業所など、人事の目の届かない場所で行われていることは珍しくありません。
上記のようなことが常態化していると社員が不満を抱く材料となります。
現場が経営陣の意思に反した勤務状況になっていないか、実態を把握することが必要です。
こうした勤務状況の適正な管理は、社員が不満を持つことを防止するだけでなく、社員の健康維持のためにもなります。
その他、公正な評価制度の導入、適正な給与設定、ボーナス制度の改善、有給休暇の活用促進、福利厚生の充実なども大切です。
福利厚生に関して、具体的に何をすれば社員の満足につながるか思い浮かばない場合には、社員の要望を聞き、改善策を検討するとよいでしょう。
3.組織風土の改善
社員が働きやすい環境を作るために、風通しの良い企業文化の醸成、コミュニケーションの改善、意見箱の設置、社員が自由に発言できる場を作るなどの取り組みが必要です。
また、上層部が率先してこうした施策にコミットし、社員の声が経営トップに届くよう真摯に受け止めることが大切です。
4.社員のキャリア形成を支援する人事制度
社員のキャリアアップを促すための制度作りも効果的です。
具体的には、教育・研修制度の充実、昇給や昇進の基準の明確化、キャリアアップのポリシーの設定、社員の希望や目標を確認することなどが挙げられます。
また、社員が自分自身の希望するポストへ志願できる「社内公募制度」も、社員のキャリア形成および満足度向上を図る上で効果があり、すでに複数の大企業で取り入れられています。
5.パワハラ・セクハラ防止、風通しの改善
パワハラやセクハラに対する風当たりは年々強くなっており、離職率改善を図る上でこれらの対策は必須となっています。
パワハラ・セクハラを根絶するためには、社内の相談窓口を設置するなどの施策が有効です。
また、パワハラやセクハラ以外にも、社員が人間関係にストレスを感じてしまう要因を解消していくことが大切です。
たとえば、上司や同僚とのコミュニケーションの改善を促すため、「社員同士が互いの良い点を見つけて称えあう」制度を取り入れている組織もあります。
まとめ
大企業の離職率は中小企業と比較して低い傾向にありますが、それでも近年は大企業においても離職率に上昇傾向があり、対策の必要性が認識されつつあります。
離職率の改善を目指すためには、社員の要望や意見を聞き、改善に取り組む姿勢が求められます。
また、社員が自分の能力を発揮できる環境を整え、やりがいや成長機会を提供することで、社員のモチベーションが高まり、離職率を下げる効果を期待できるでしょう。