「労働保険」と聞いたことはあっても、漠然としたイメージしか浮かばないという企業担当者の方も少なくありません。
しかし、労働保険について正しく理解しておかなければ、後々問題に発展する可能性もあるため、しっかり把握しておくべきでしょう。
そこで本記事では労働保険について、
- 概要や対象者
- 負担方法
- 加入方法
- 企業側の注意点
などを解説していきます。
目次
労働保険とは
労働保険とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険を総称した言葉です。
労働保険は、原則として従業員を1人でも雇用している場合は、その雇用形態を問わず(アルバイトやパートタイム労働者も含む)、その企業(事業主)が加入手続きを行い、労働保険料を納付することが義務付けられています。
保険 | 内容 |
労災保険 | 労働者が業務中または通勤途中にケガや病気・障害、死亡した場合に保険給付を行う制度 |
雇用保険 | 労働者が失業したときに必要な給付を行って、労働者の生活・雇用の安定を図り、再就職の援助を目的とした制度 |
「労働者」とは
労働保険における「労働者」とは、事業に使用される人を指しており、業種は関係ありません。
どのような事業であっても、労働の対価として給与を受け取る人は労働者です。
労災保険とは
ここからは労働保険の1つ、労災保険について見ていきましょう。
目的
労災保険の目的は、業務中や通勤途中に生じた出来事が原因となって仕事ができなくなった労働者の生活を守り、療養費や収入を補償することです。
正規雇用労働者やアルバイトなど、雇用形態にかかわらず、従業員を1人でも雇用している企業は、原則として労災保険に加入することが義務付けられています。
さらに、労災保険の保険料を負担するのは全て企業です。
ただし、農林水産事業の場合、常時5人以上の労働者を雇っている事業以外の場合は、任意の加入となります。
関連記事:労災認定とは?基準や疾病、精神障害における判断、企業が注意するべきことを解説
給付内容
労災保険の主な給付内容は下記のとおりです。
項目 | 内容 |
療養給付 | 労働者が労災によりケガや病気になった際に、原則として病院で自己負担なく治療を受けられる制度 |
休業給付 | 労災による療養で仕事ができず給与をもらえなくなった際に、休業4日目から休業1日につき、給付基礎日額の6割の支給を受けられる制度 |
障害給付 | 労災によって後遺症が生じた際に、障害等級によって年金または一時金の支給が受けられる制度 |
雇用保険とは
ここからは、2つ目の労働保険である雇用保険について見ていきましょう。
概要
雇用保険の目的は、労働者が失業した場合や、介護・育児などによる休業をした際に、再就職や収入減少への支援を行うことです。
特徴としては、労働者だけではなく加入する事業所にも支援金が給付される点が挙げられます。
また、労働者と事業者のどちらも雇用保険料を負担します。
関連記事:失業保険(失業手当)をもらえる人は?条件や金額、日数、受給中のアルバイトについて解説
対象者
加入対象となるのは正規雇用労働者だけではなく、所定労働時間が週20時間以上で一定の条件を満たすアルバイトやパートタイム労働者など、非正規雇用労働者も対象です。
2017年1月1日以降は、65歳以上の労働者にも雇用保険が適用され、2020年以降は54歳以上の労働者からも雇用保険料が徴収されます。
給付内容
主な給付内容は下記のとおりです。
項目 | 内容 |
基本手当 | いわゆる「失業手当」。
失業後の生活を支援し、再就職を後押しするために支給される。 |
就職促進給付 | 早期の再就職を目指して支給される給付金 |
教育訓練給付 | 教育訓練受講に支払った費用の一部が支給される制度 |
労働保険料の負担方法とは
労働保険料のうち、労災保険は企業が全て負担しなければならないため、従業員の給与から差し引くことはありません。
一方で雇用保険は企業と従業員の両者で負担します。
労災保険料の算出方法
労災保険料は、従業員に支払った賃金総額に労災保険料率をかけあわせて算出します。
労災保険料率は厚生労働省の資料「労災保険率表」に掲載されています。
雇用保険料の算出方法
雇用保険料は、従業員に支払った賃金総額に雇用保険料をかけあわせて算出します。
雇用保険料率は事業ごとに下記の3つにわけられており、それぞれ雇用保険料率が異なっています。
項目 | 雇用保険料率 |
一般の事業 | 9/1,000 |
農林水産・清酒製造事業 | 11/1,000 |
建設事業 | 12/1,000 |
賃金総額とは
賃金総額とは、
- 基本賃金
- ボーナス
- 休業手当
- 前払いの退職金
- 通勤手当や扶養手当、残業手当などの各種手当
などが含まれます。
しかし、
- 役員報酬
- 出張旅費
- 結婚祝金
- 傷病手当
- 退職金
などは賃金総額には含まれません。
関連記事:役員報酬とは?決める方法やポイント、注意点、給与との違いなどを解説
労働保険の加入について
労働保険に加入する際は、労災保険と雇用保険のそれぞれに必要な書類を用意して、役所に提出する必要があります。
労災保険の場合
労災保険に加入する際は、下記の3つの書類を労働基準監督署に提出します。
- 労働保険の保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 履歴事項全部証明書(写)1通
雇用保険の場合
雇用保険に加入する際は、下記の書類をハローワークに提出します。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 保険関係設立届(控)
- 労働保険概算保険料申告書(控)
- 履歴事項全部証明書 原本1通
- 労働者名簿