労働基準法では、企業は労働者を雇用する際に「法定三帳簿」の作成と保管が義務付けられています。
法定三帳簿のなかの「労働者名簿」は人事管理においても重要なものであり、働き方改革が推進される昨今においては、その重要性がより高まってきています。
そこで本記事では労働者名簿について、
- 概要や対象者
- 作成方法や注意点
- 保存期間など管理に関する決まり
などを解説していきます。
目次
労働者名簿とは
労働者名簿とは、企業が雇っている従業員の名前や採用日などの情報を記録した書類を指しています。
会社の規模を問わず、従業員を雇用しているのであれば労働基準法第107条に基づいて、作成と保管が義務付けられています。
また、事業所ごとに作成と保管をしなければならず、従業員が入社する際に1人につき1枚作成し、情報は最新の状態に保ち続けなければなりません。
(参考:労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう丨厚生労働省)
法定三帳簿とは
冒頭でも触れましたが、労働者名簿は法定三帳簿の1つです。
法定三帳簿とは労働基準法で作成と保管が義務化されている書類であり、「労働者名簿」と「出勤簿」、「賃金台帳」のことを指しています。
出勤簿と賃金台帳のそれぞれの内容は下記の通りです。
項目 | 内容 |
出勤簿 | 従業員の労働時間を把握するために作成する書類。
氏名、出勤日、始業・終業時間、休憩時間を記載する。 |
賃金台帳 | 従業員の賃金や労働日数に関する情報を記載する書類。
氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、基本賃金、各種手当などを記載する。 |
いずれも最後に記入してから3年間の保存が義務付けられています。
労働者名簿の対象者とは
対象者は、基本的に日雇い労働者を除く全ての従業員です。
自社が常用で雇用しており、かつ、賃金を支払っている従業員が名簿作成の対象者となっているため、正規雇用労働者に限らずパートなども含め、雇用している時点で作成義務が生じます。
しかし、日雇い労働者や派遣労働者など、直接雇用している人材以外は記載する必要はありません。
派遣労働者は?
派遣労働者は自社が雇用しているわけではなく、派遣元会社が雇用して賃金を支払っているため、対象外です。
代表者、役員は?
代表者や役員は、労働基準法においては「労働者」とは見なされません。
したがって、労働基準監督署の調査においては調査対象外となります。
しかし社会保険事務所の調査では対象となるので、労働者名簿や賃金台帳を作成しなければなりません。
関連記事:役員とは?種類や混同されがちな役職との違い、報酬・待遇について解説
出向中の従業員は?
在籍出向の場合、出向先で指揮命令下に入るのに伴い、労働契約上の雇用関係も生じるので、出向元と出向先のどちらも記載義務が生じます。
一方で移籍出向であれば、出向元との雇用関係はなくなるので、出向先だけが作成義務を負います。
労働者名簿の記載項目と注意点とは
記載するべき項目さえ満たしていればよいため、定められた作成方法や様式はありません。
厚生労働省が公開している「主要様式ダウンロードコーナー」で公開されている「様式第十九号」を参考にすると良いでしょう。
必須となる記載項目は下記のとおりです。
記載項目 | 記載内容 |
氏名、生年月日、性別 | 従業員の基本的な情報を記載する |
住所 | 従業員の住所を記載する。
ただし、住民票の住所と実際の住所が異なるケースがあるため、連絡のとれる実際の住所を記載する必要がある。 |
業務の種類 | どのような業務に就いているか、どのような役割なのかを記載する。
労働者数が30人未満の事業であれば、記載しなくてもよい。 |
履歴 | 原則として「社内での履歴」とされているが、必要に応じて最終学歴、社外職歴の記載をする |
雇用年月日 | 採用を決定した日ではなく、実際に雇用した日を記載する |
退職年月日と事由 | 従業員の都合退職であれば理由の記載は必要ないが、企業側の都合で解雇した場合は、その事由を記載する |
死亡年月日と原因 | 従業員が在職中に死亡した場合、その年月日と原因を記載する |
労働者名簿の保管や保存期間など、管理に関する決まりとは
ここでは、保管や保存する期間など、管理に関する決まりを見ていきましょう。
保存期間は3年間
労働基準法第109条によって、3年間の保存が義務付けられています。
保存の起算日は労働者の死亡、退職あるいは解雇の日です。
常に最新の状態に更新する必要がある
情報が変更されるたびに更新して、常に最新の情報が反映されている状態でなければなりません(労働基準法第107条第2項)。
なぜなら、多くの人事・労務業務に不可欠なデータがまとまっているためです。
各事業所ごとの保管が義務付けられている
各事業所ごとに作成と保管が義務付けられています。
したがって、支店や複数の事業所がある場合、本社だけで作成と保管をするのではなく、事業所ごとに作成するか、本社で一括作成して各事業所に配らなければなりません。
保管方法は電子データ、書類のどちらでもよい
書類で保管しなければならないという定めはないため、電子データによる作成・保管をしても問題ありません。
ただし、電子データで保管する場合、画面に表示・印字できる設備を整えておく必要があり、調査の際には直ちに写しを提供できるシステムになっていなければなりません。
したがって、各事業所でパソコンで作成と保管をして、プリントアウトできる環境を整備していれば問題ありません。
まとめ:労働者名簿は正しく管理しよう
労働者名簿を正しく作成、管理することで労務環境の健全化にも寄与します。
とくに上場を目指されている企業様は、本記事をひとつ参考としてみてください。