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海外子会社の不正会計を防止するには?日本本社が取るべき対策や事例を徹底解説!

海外子会社の不正会計を防止するには?

どの時代でも経営層を悩ます問題は‘不正会計’です。不正会計はコンプライアンス違反の代表的なものであり、不当又は違法な利益を得るために経営者その他が、不当な会計処理で歪んだ決算書を作ることをいいます。
特に、経営のグローバル化が進んだ現在では、海外子会社の‘不正会計’は、発生しうる可能性が高いリスクであり、内部統制などでの実効性の高い仕組み作りが求められています。

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そもそも不正会計とは?海外子会社の不正会計の事例は?

 

グローバル企業と目されている超大企業でも不正会計に苦しんだ事例は数多くあります。特に、M&Aなどによる海外子会社の粉飾決算は、投資家などの市場の信用を失うだけでなく、最悪の場合、刑事事件化や上場廃止などの致命的なリスクに晒される可能性があります。

新聞記事などで目にする‘粉飾決算’は、実は会計用語ではありません。会計用語では「財務表の虚偽表示」であり、「不正」と「誤謬(誤り)」に分けられています。不正とは、「不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役等、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為[1]を指します。

不正会計の種類は大きく二つで、資産の流用(着服横領)と財務諸表不正(粉飾決算)です。
一般的に、資産の流用による 影響額よりも、粉飾決算による 影響額の方が多額になります。そのため、上場企業等が適時開示基準にのっとって公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられています。2019年3月期においては、公表された会計不正のうち76.3%が粉飾決算となっています(件数ベース)[2]

最近の海外子会社不正会計の事例は次の通りです。海外の場合、粉飾決算であっても、業績達成などによるインセンティブが誘因となる事例が多く、実質的に資産の流用(着服横領)の側面があるのが特徴です。

 

業種 種類 不正会計の内容
物流 資産の流用 中国 現地採用の元幹部らによる業務上横領
住宅設備機器 粉飾決算 中国 巨額の簿外債務
電気通信機器 粉飾決算 スペイン 架空の利益を計上
事務機械 粉飾決算 オーストラリア リース取引に関する不正な売上計上
建設機械 資産の流用 アメリカ 現地幹部の費用水増請求と横領

 

海外子会社での不正会計はなぜ発生する? やはり日本型経営の限界はある

 

筆者は、日本型経営の限界が見え始めた1990年代の駐在を含み、約10年間海外ビジネスを経験しています。感じたことは、やはり日本はグローバルでは異質であることです。子会社の独立性を認め、「任せる。見ない。」といったスタイルは、欧米の文化にはまずありません。

日本企業は、2000年代前半までは、経営層や経理担当者の日本人駐在員を派遣することでガバナンスを保っていました。前提となるのが「会社への忠誠心」です。少なくとも社員の私欲によるコンプライアンス違反の可能性は低いと判断されていました。
その背景には、長寿企業の国別比率で日本が圧倒的に多いように、日本人はビジネスの目的を単なる金儲けではなく、社会的な意義があるものと考えてきたことがあります。日本人の経営者の根幹にはこの考え方が染みついているといえます。

一方、グローバルでは会社への忠誠心はありません。逆に会社からの自分への忠誠心として給与と地位で評価します。自分の期待値より会社の評価が低ければ、専門的スキルを武器にライバル会社であっても躊躇なく渡り歩きます。

忠誠心の違いが、日本とグローバルの不正のトライアングル(動機・機会・正当化)の違いにつながります。特に、正当化(不正をやるための言い訳)は、現在世間を騒がせている事例をみても日本人には理解しがたい言い訳がまかり通ります。逆にいうと、「性善説」や「忠誠心」をベースとした日本人の考え方が世界では異質であり、海外では機会を与えてしまうと不正が行われるくらいの覚悟が必要です。

2000年代に入りグローバル化は加速しました。日本では、日本型経営の陰りが実現しはじめ、就職氷河期が訪れた時期でもあります。日本企業の多くで人事ローテーションが狂い、特に間接部門である経理部門では、海外に駐在員を派遣する余力が失われてきました。駐在員派遣型のガバナンスから現地採用の経営層や経理にシフトしていく原因の一つにもなっています。

日本企業では、経理部門は不正会計を防ぐディフェンスラインと考えられています。一方、海外子会社の不正会計は、経理部門が関与するケースが少なくありません。先の事例でも、経理部門が自ら不正に手を染めるケースや経営層に協力させられるケースは多くを占めています。

根っこは「忠誠心」の問題ですが、海外子会社の経理部門をブラックボックスのまま放置するリスクはとても大きいと言えるでしょう。財務ガバナンスを効かすためにも、
「お金を自由に動かせる機会があったら…海外では不正があって当然」
といったくらいの感覚は最低限必要です。

一方、グリーバル企業の本社の経理部門は、IFRS(国際会計基準)の導入や四半期決算開示などで超多忙な部門となっているのが現状です。海外は時差や言葉の壁があるうえ、その国固有の商習慣や法体系があるため、さらに不正の発見や防止は難しくなっています。
「財務経理部門は会社に忠実である」という考えは、日本だけのある種の幻想と言っても良いでしょう。本社経営層に直結したリスク管理部門をディフェンスラインとするなどの対応が今後求められます。

また、時期を前後して相次ぐ不正会計が問題視されました。コンプライアンスの重要性が高まり、制度的にも2008年から内部統制の構築と適正な運用が求められています。

導入からすでに10年が経過している内部統制も、運用コストの負担と形骸化が課題となっています。SAP(世界最大級のドイツのITベンダー及び製品群の名称)などERP(Enterprise Resources Planning の略:基幹系情報システム)も定着しつつあり、経理事務は飛躍的に効率化・高度化する一方で、導入当初の内部統制の評価や教育を見直していない企業も少なくありません。
例えば、子会社に対する内部統制の教育状況では、毎年定期的に実施する企業は15%に過ぎない調査結果もあります。[3]

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不正会計を防ぐための取り組み~事例ベース~

 

現実には、不正会計を防止するための特効薬は見当たりません。海外子会社の場合、「忠誠心」など価値観が根本的に違うため、それぞれの企業風土や事業形態に即したガバナンスの仕組みを構築する必要があります。内部統制の仕組みでは事後的な統制の側面が強いため、通常のオペレーションの中で不正のトライアングル(動機・機会・正当化)を極力減らす取り組みが求められます。

動機や正当化を減らす取り組みとして、グローバル人材の育成を最も重要と考える企業は多くなっています。自社の企業理念や求められる人材像を明確にすることで、良い意味での「日本型経営」をベースに多様な文化の交流を図る取り組みに挑戦している企業もあります。例えば、カリスマ経営者の存在が有名な企業では、カリスマ経営者のものの考え方や行動の仕方を多言語で文書化し全世界に展開しています。

機会を減らす取り組みとしては、ERPによるグループ全体での一元的なデータ管理や業務プロセスの標準化も有効な対策の一つです。特に海外では、SAPなどのERPは当たり前の経営ツールであり、子会社の抵抗感もありません。逆に、日本本社は、レガシーシステムの再構築が必要なため、特に現場からの抵抗が多くなっています。
そのため、財務会計システムだけの統合であったり、地域統括会社ごとのシステム統合であったりする事例が多く、グループ全体で基幹業務全体を実装する事例はごく限られています。

財務ガバナンスの強化も動機や機会を減らすために必要です。四半期単位の連結用の財務諸表のデータだけでは不正を見抜くのはとても困難です。そのため、電機業界などでは月次連結決算やローリングフォーキャスト(予算・予測を、月次・四半期単位などで見直す
仕組み)の導入で業績管理の早期化と異常値の早期発見に取り組んでいます。
また、主要な海外子会社の会計システムに本社がアクセスできる権限を持ち、明細データを直接確認することで、統制強化を図っている企業も多くなっています。

 

まとめ

 

海外子会社の不正会計、特に経営層や経理部門が犯した不正は、財務諸表の虚偽表示だけにとどまらず、金額的にも社会的信用力などにも重大な影響を及ぼします。
内部統制を構築し運用する経営者層や経理部門が内部統制そのものを無視した場合には、根本的に内部統制がすべて無効となってしまいます。
日本本社は、内部統制の枠組みにこだわることなく、グローバルで見た場合、日本が異質であることを踏まえて、不正を犯すに至る動機、原因、背景等を評価し、実効性のあるリスクマネジメント施策を講じる必要があります。

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参照
[1]出所)監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」(案)https://jicpa.or.jp/specialized_field/240.html
[2]出所)日本公認会計士協会 「上場会社等における会計不正の動向(2019 年版)」https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-3-5-2-20190613.pdf
[3]出所)CIAフォーラム研究会報告 「J-SOX評価の効率化に関するアンケート」 結果報告

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