労働力不足が叫ばれるなか、企業全体の生産性を高めるため、適材適所な人材配置の重要性は、近年急速に高まっています。
しかし、適材適所を意識した人事は簡単に実現できるものではありません。
そこで本記事では、ビジネスにおける適材適所の意味や必要性、企業のメリット・デメリット、実践するために必要な考え方や制度などを解説していきます。
目次
適材適所とは
一般的に、適材適所とは人の能力や性質に最適なポジションや業務を与えることです。
一方でビジネスにおいては、企業や組織の需要、ビジョンに合わせて人的資源を最適化することを指しています。
一人ひとりの従業員がもつスキルや性質を正しく把握して、最適な部署に配置し、最適な業務を与えることで仕事の効率性を高めることが可能です。
ビジネスにおいて適材適所が注目される背景や必要性
ビジネスにおいて適材適所が注目される背景や必要性には下記のようなものがあります。
- 労働力不足
- リソースの有効活用
- 働き方や環境、社会の変化に対応する
少子高齢化が進み生産年齢人口が減り続けるなか、多くの企業が労働力不足に陥っています。
このようななかで業績を維持・向上させるには、限られた人的リソースを最適化して生産性を高めなければなりません。
また、近年は働き方改革や新型コロナウイルスによって、働き方や社会が大きく変化しています。
変化が激しいなかでビジネスを有利に進めるには、一人ひとりの従業員がパフォーマンスを最大限に発揮していることが求められるでしょう。
関連記事:『指揮系統が年功序列なのはおかしい』組織を活性化するための適材適所を徹底解説!
適材適所による企業のメリットとは
企業側にとって適材適所を実現するのは簡単ではありませんが、生産性の向上や従業員の離職防止などのさまざまなメリットがあり、重要度の高いテーマです。
それぞれ詳しく紹介します。
生産性が向上する
適材適所の人材配置を実現すると、従業員が自分の性格を活かせたり、能力を発揮しやすくなったりします。
その結果、苦手な仕事に取り組むよりも成果が表れやすく、モチベーションの向上、生産性の向上が期待できるでしょう。
具体的には、以下のような点で顕著に現れます。
- 企業の業績向上
- 新規事業や案件の推進
- 競合に対する競争力の強化
個人ごとの生産性が向上する結果、業務が効率よく行われ、企業価値の向上につながるでしょう。
従業員によっては、スキルが若干足りず、できる従業員が自分が抱えている他の仕事を中断して進捗が遅い従業員をカバーしなければならないケースがあります。
しかし、適材適所ができていると、個人の特性に合わせて人事配置するため、個人のスキル不足を制度でカバーしやすくなるのです。
従業員の離職防止につながる
人は誰しも、自分の頑張りや成果が認められるとうれしくなるものです。
一方で、なかなか力を発揮できなかったり、仕事が簡単すぎたり、苦手だと思っている仕事ばかり任されていたりすると「別の仕事をしてみたい」と思って退職を検討するようになる可能性があります。
適材適所が実現できている企業では、従業員の目標や理想のキャリアをヒアリングする仕組みがあるため、退職という手段をとらずに、自社で自己実現できるケースが多いでしょう。
特に優秀な人材は、日頃からしっかりと自己分析して理想のキャリアや、やりたい仕事を意欲的に考えているものです。
従業員自身が「希望した部署に行けるかもしれない」という希望を持つことで、離職防止につながります。
関連記事:経営理念を従業員に理解させることは無意味!マネジメントのコツは適材適所
適材適所な人材配置を実現する方法とは
ここでは、適材適所な人材配置を実現する方法を見ていきましょう。
業務の課題や内容を洗い出す
まず、業務の棚卸しをして、課題や内容、必要な人材を洗い出しましょう。
- 自社にどのような業務があり
- どのような人材を配置するべきか
- 必要な能力をもつ従業員はいるのか
といったことを整理して、自社の課題や目標を検討します。
面談で従業員の希望や目標をヒアリングする
適性検査は客観的なデータを得ることができますが、それだけでは適材適所を成功させるのは難しいでしょう。
客観的かつ定量的なデータは役に立ちますが、それだけで判断するのではなく数値化できない定性的な評価を行ったうえで人材配置を行うべきです。
そのためにも1on1の面談を行って、従業員の希望や目標、理想の働き方をヒアリングすることが求められます。
自社の長期的なビジョンを意識する
適材適所の人材配置を進めても、会社の目指す中長期経営計画に沿っていなければ、機会損失になりかねません。
まずは、企業が組織としてどの分野をどの程度伸ばしたいと思っているのか中長期的なビジョンを見据え、人材配置の変更が目標を達成する軌道にあるのかを確認しましょう。
目標達成にあたって明らかに人材が不足している場合は、組織における人材配置のバランスを変更したり、人材を増やしたりといったアクションが必要です。
配属後に成果を確認する
配置転換しても、既存の従業員と相性が合わなかったり仕事への適性に欠けていたりと、作業効率が上がらないケースがあります。
当初の見積もりどおりに成果を出せるよう、適材適所の人材配置を行ったあとは、思った通りに組織がまわっているのかを検証しましょう。
異動したあとも対象者と面談を実施したりフォローしたりして、目標への進捗やモチベーションを確認するとよいでしょう。
配属後にも本人の様子を確認してフォローすることで、目標達成へのスピードが鈍化してしまう事態を防げます。
適材適所な人事配置のための施策
ここからは、適材適所の人事配置のためにできる施策を3つ紹介します。
従業員の情報をデータベース化する
従業員の数が多いと集めた情報を管理するのが難しいため、データベース化するのが良いでしょう。
一人ひとりが持つスキルや資格、面談でヒアリングした意思などをまとめておくことで、適材適所な人材配置を実行するにあたっての判断がしやすくなります。
適性検査で従業員の特性を把握する
従業員の能力や特性、ストレス耐性などを正確に調べる場合は適性検査が便利です。
適性検査であれば評価者の主観が入り込まず、従業員の資質を客観的に評価できます。
ジョブローテーションを取り入れる
適性検査や面談などで蓄積した情報だけで判断するのではなく、実際にさまざまな業務を行ってみて適正を判断することも重要です。
そのために活用されるのが、ジョブローテーション制度です。
この制度では、さまざまな職種や部署を一定期間だけ経験させることで適正を判断するため、従業員が自身に最適な業務を見つけやすいというメリットがあります。
適材適所の人事配置による成功事例
適材適所の導入を検討する際、成功している企業の取り組み方法を参考にすると失敗を防げます。
ここでは、適材適所の人事配置による成功事例を紹介します。
ソニー株式会社
国内大手の総合電機メーカーであるソニー株式会社では、自ら手を挙げ、希望する部署やポストに応募できる『社内募集制度』があります。
募集自体は毎月行われており、所属部署に2年以上在籍している社員であれば上司の許可を得ずに自由に応募が可能です。
策定されてから現在まで50年以上活用され、これまでの利用人数は7,000名以上。従業員に主体的なキャリアを形成する機会を与えています。
社内公募の公示では求める人物像が明確化している場合もあれば、今後を見越した募集もあり、既存の仕事・役割を開拓する仕事両方の希望を実現できる仕組みです。
参考記事:ソニーグループポータル | 採用情報 | 挑戦を後押しする制度 | 社内募集制度
株式会社リクルート
人材・情報サービスを提供する株式会社リクルートでは、「価値の源泉は人である」という考えを中心に、個人の能力を発揮するための機会・環境を提供しています。
『キャリア申告制度』では、キャリアに対する要望を組織に表明することで、上長との面談の際、今後のキャリアについてヒントを得られるようになっています。
また、『キャリアウェブ』と呼ばれる制度では、社内にある全事業の仕事がオンライン上でアップされ、従業員が自由に応募して異動できる仕組みが作られているのも特徴です。
応募者と各事業の担当者が面接を実施し、双方の希望が合えば異動成立となります。このようにして、従業員の新しいキャリアへの挑戦を後押ししています。
参考記事:人事制度・仕組み|キャリア採用|株式会社リクルート
適材適所における終身雇用制度のデメリットとは
日本の雇用システムは適材適所の人材配置に向いていないとされてます。
最近は少しずつ変わりつつありますが、それでもなお多くの日本企業が終身雇用制度を採用しています。
終身雇用制度には長期的な人材育成や人材確保ができるというメリットがありますが、適材適所の人材配置が実現しにくいというデメリットがあります。
なぜなら失業率が低くなることで転職する機会が減り、自身にあった職業や自分のパフォーマンスを発揮できる職場と出会うチャンスを逃してしまうためです。
日本よりも失業率が高い諸外国では数年単位で転職を行うため、日本よりも適材適所が実現しやすい環境といえるでしょう。
関連記事:「適材適所」の正しい考え方とは?組織に合わせて人材を配置し育成すること
まとめ
社員を適材適所に配置することで、生産性を上げることは十分に可能です。
しかし、その一方で、適所に当てはめることばかりを考えた結果、そもそも必要なかった場所を作り出してしまう恐れもあります。
適材適所の形骸化を避けるためには、そもそも会社において必要なポジションは何かを検討してから、人材を配置することが必要です。
優秀な人材だから採用するのではなく、自社に必要なポジションを埋めるために人材を採用することで、人材のアンマッチを防ぐことも可能です。
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