経営者やマネージャーが最もダメージを受けるのが「離職」ではないでしょうか?
「一身上の都合」「やりたいことが見つかった」「人間関係がしんどい」「上司や会社の方針が嫌だった」など、去っていく人たちは様々な理由を口にし、その一つ一つにダメージを受けていませんか?
しかし、離職の理由はたった一つです。今回は「離職」のメカニズムと、悲しい離職を発生させないマネジメントについて考えていきます。
目次
人が繋がる理由。組織に所属する理由。
「気持ちと気持ちで繋がり、それぞれがわかり合って助け合って、何も言わなくても思いが伝わることでスムーズに業務が進んでいく。気の合う仲間と仕事でもプライベートでも夢を語り合い、言いたいことを言い合うことができ、やりたいことを自由に提案することもできる。そして、その結果会社として想像もしなかったような大きな成功を産む。」
もしこのような状態が実現すれば、あなたは毎日がやりがいに満ち、そこで働くことを誇りに感じ、離職することはないでしょう。しかし、結論から言うと、悲しいかなこのような状態の実現は不可能です。
あなたが人と繋がるのはその繋がりに価値があるからで、組織に所属するのは所属することに価値があるからです。ただし、その「価値」が何であるかは人によって異なります。
例えば、「楽しい」「おごってくれる」「成長できる」「給料が良い」「オシャレ」等々、挙げればキリが無いうえに、あなたが何を「価値」としているかは聞かなければ確認できず、聞いてもそれが本当の価値かを確信はできません。
また、今のあなたにとって「価値」のあることも、10年前や10年後、極端に言えば次の瞬間にそうではなくなることもあります。
つまり、上記のような理想の状態は、確認し合うことなく実現することは不可能で、全員のやりたいことが一致することはないため、ベクトルを合わせて大きな成功を産むことはできません。
なぜ離職は起こるのか?
今の会社からあなたが離職するとしたら、それは「最も価値のある会社ではなくなったから」です。
それでも、あなたは離職の理由を聞かれてそう答えることはないでしょう。
例えば、
「一身上の都合により…」
一身上の都合があっても、それよりも価値があれば離脱しないはずです。
「人間関係がしんどくて…」
ハラスメントに当たるようなことがあればそれが別の問題ですが、どの組織でも「人間関係」を回避することは困難です。
「ほかにやりたいことが見つかった」「給与や条件面で合わなかった」
まさに今の組織よりも価値の高い組織があるということです。
「会社の方針が嫌だった」
その会社を選択したのはあなたです。価値が変わったか、見誤っていたということです。
つまり、あなたの部下が口にした理由が何であれ、それに一喜一憂する必要はなく、離職の理由の本質はただ一つ「最も価値のある会社ではなくなったから」だと認識すればよいということです。(当然ですが、法や倫理に反することは別の問題として正しく対処する必要はあります。)
離職は防がなくてはならないか?
離職の理由が「最も価値のある会社ではなくなったから」だとすると、「最も価値のある会社」であり続ければ離職は防げます。ただし、価値のある存在でなければならないのは、会社だけではありません。
例えば、あなたにとって最も大切な人があなたと一緒にいてくれるのは、相手にとってもあなたが大切だからです。つまり、大切でない人にとって大切である必要はなく、会社と所属する個人にもそれが当てはまるということです。
以下は、私あてに実際にあった相談内容です。
「コロナ禍で売上が落ちたため営業先や方法を変える必要があって指示したが、負担がかかるので給与を上げてほしい、上げなければ辞めると言われた」
「成果を上げていない社員の給与査定に限って毎回もめて時間がかかる」
「古株でパフォーマンスの低い社員を見て、若くて有能な社員が辞めていく」
この3つは情に厚く人柄やカリスマ性で社員を引っ張ってきた経営者の言葉ですが、同じような内容は挙げればキリがありません。
しかし、自分についてきてくれた社員、自分の会社を選んでくれた社員が離れることはつらいことですが、経営者は会社が存続できなくなることの方を回避する必要があります。
価値は相互にバランスしていなければならないのです。つまり、会社にとって「価値」があり、本人にとっても会社に所属することが「価値」があるにも関わらず起きてしまう「悲しい離職」が防ぐべき離職で、その選択をして会社としての存続し、その先に再び勝利を掴むことができれば、その「価値の高い会社」には人が集まってくるということです。
悲しい離職が起きない組織にするには
長く連れ添った夫婦でも、相手がなぜ自分と一緒にいてくれるのか、自分が何を求めているのかを100%認識し合うのは困難で、結婚当初や過去の話を持ち出してケンカになることも少なくありません。
つまり、前述したように「価値」は、人によって異なり、時間によって変化し、聞かなければ確認できないということです。あなたは相手にあなたの「価値」を伝え、要求し、惜しみなく与えているでしょうか?
そしてそれは、組織運営においても同じです。給与や成長や環境などの「価値」を提供する側の経営者や上司であるあなたは、部下に求めていることを伝え、伝えたことに対してできたかどうかで評価して、それに応じた「価値」を提供できているでしょうか?
会社は個人にとって価値の高い組織でなくてはなりませんし、会社からは個人に対して「どのような価値を求めているか」を明確に伝えていなければなりません。
あなたが熱く夢を語り、想像もしない何かや個人の強いつながりを求めても、それの本質が理解できるのはあなただけです。あなたが求めていない行動やムダ働きのような状態が起きていれば、それはあなたが伝えていない、もしくは伝わっていないのです。
そして、その伝えたことを正当に評価していなければ、「価値」を発揮したくても何が「価値」なのかわからず、迷うから離職は起きるのです。
ということは、悲しい離職を防ぐには、
- 個人が会社に所属することが「価値」だと認識している
- 個人が「価値」を獲得するために、会社が求めていることが明確に伝わっている
- 会社が求めていることの達成が正当に評価されている
ことが条件だということです。
つまり、離職を防ぐのを目的とするよりは、会社が個人に求める価値と、個人が会社に提供する価値の認識にズレがない状態を作り、その上で雇用し、育成し、個人の成長の総和として会社が大きな成功を掴むための仕組みを構築することがより重要なのです。
もし、「求めることの設定方法がわからない」「採用や育成の仕組みがない」「評価はどうすればよいのか」など、組織運営の原理原則が詳しく知りたい方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度識学のコンサルタントにご相談ください。