リーダーシップには、さまざまなタイプがあることをご存知でしょうか。リーダーシップを最大限に発揮するためには、自分に合ったタイプを見極めることと同様に、状況によってはスタイルを使い分けることも必要です。効果的にリーダーシップを使いこなすためには、まずは各リーダーシップのタイプを理解しましょう。
本記事では、組織が直面するであろう6つの状況や、チームのメンバーを4種類のタイプに分けた場合に、それぞれの場面・相手に有効なリーダーとしてのあり方を紹介します。今自分が置かれている状況と照らし合わせることで、養うべきリーダーシップスキルの診断に役立ちます。さまざまなスタイルのリーダータイプを紹介するので、目指すべきリーダー像を明確にするためにも、ぜひご覧ください。
目次
リーダーシップを状況に応じて使い分ける方法
リーダーシップが必要となる、6つの状況から説明します。昨今のビジネスシーンでは従来のピラミッド型の組織から、組織の一人ひとりが自発的に能力を発揮することが求められるチームへと、シフトしつつあります。
多くの企業でリモートワークが導入され、オフィスで直接顔を合わせて働く機会は減りました。各社員が個人で能力を発揮することが、今後ますます重要となるでしょう。
次項では、会社の成長やチームの変化によって生じる6つの状況を取り上げ、それぞれの状況に効果的なリーダーシップの取り方を解説します。
リーダーシップは6種類に分けられる
アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンは、1995年に発表された世界的ベストセラー『EQ・こころの知能指数』のなかで、リーダーシップを6種類に分類しました。
EQは自分や相手の感情を理解し、状況に応じてコントロールすることで成功へと導くことであり、「リーダーにとってはIQよりも重要である」と語っています。また、EQは「自己認識・自己抑制・動機付け・共感性・ソーシャルスキル」の5つの要素から構成されており、EQの構成要素をもとにリーダーシップスタイルを以下のように分けました。
- A:ビジョン型リーダーシップ(Visionary Leadership)
- B:コーチ型リーダーシップ(Coaching Leadership)
- C:関係重視型リーダーシップ(Affiliative Leadership)
- D:民主型リーダーシップ(Democratic Leadership)
- E:ペースセッター型リーダーシップ(Pacesetting Leadership)
- F:強制型リーダーシップ(Commanding Leadership)
それぞれのリーダーシップが、どのような状況で役立つのか解説します。
①変革期
企業が新しいビジョンを必要とする変革期には、「A:ビジョン型リーダーシップ」が適しています。共通の夢に向かってメンバーを動かしていく、最も前向きなスタイルです。
ビジョン型リーダーシップは、組織が目指すべきイメージをメンバーに見せることでゴールを示します。到達までのプロセスは、メンバーに委ねられることが多いです。
長所
共通の夢を追うことで組織への帰属意識が高まります。また、目標達成までの手順をメンバーに委ねる場合、個々の自立心が養われます。ゴールマンは自著のなかで「ビジョン型リーダーシップによるアプローチが、6つのスタイルの中でもっとも効果的だった」と述べています。
短所
リーダーの示すビジョンがメンバーに伝わっていない場合には、効果が期待できません。「現場の状況を理解せずに、壮大な理想論を語っている」とメンバーに思われてしまうと、リーダーシップは一気に失われます。
必要な能力
このタイプのリーダーシップを発揮するためには、メンバーを引っ張る強い自信と、常にメンバーからの共感を得ることが重要です。また、信頼を得るためには情報を隠すことなく、開示する誠実さも必要です。
②メンバーの能力改善を目指す時
メンバーの能力改善を図るタイミングには、付け焼刃の対策では不十分です。一人ひとりの強みや弱み、特性を理解した上で、長期的な視点で育成することが求められます。こうした状況下では「B:コーチ型リーダーシップ」が最適です。
コーチ型リーダーシップにおいて、リーダーはメンバーに対してコーチの役割を担います。メンバーの考え方や目標を尊重し、個々の成長を促すことで組織を成功に導くスタイルです。この場合、リーダー・メンバー間の十分な対話が不可欠です。
長所
コーチングにより、メンバーのポテンシャルを引き上げられます。また、メンバーの夢や目標を仕事に結びつけることで、モチベーションの向上にもつながります。
短所
個々のメンバーの性格や特徴を深く理解する必要があり、人数が多いチームではリーダーに負担がかかりすぎるので注意が必要です。また、リーダー自身に深い洞察力とコミュニケーション能力が求められるため、ゼロから習熟させるには難易度が高くなります。メンバーの成長を重視しすぎて、目の前の目標の達成が難しくなるケースにも気をつけましょう。
必要な能力
このタイプのリーダーシップを発揮するには、メンバーを信頼して、成長のために思い切って業務を任せることが大切です。その際、短期的な業績の悪化には、多少目をつぶらなければならないことも考えられます。また、メンバーとの関係性を構築するために、メンバーの声に耳を傾ける傾聴力や、相手の行動・言葉の裏にある思いをわかってあげる共感力が重要です。
③社員のやる気を引き出したい時
チームがバラバラになってしまったときや、意欲の低いメンバーを奮起させたいときには、「C:関係重視型リーダーシップ」が有効です。関係重視型リーダーシップは、メンバーと同じ目線に立ち、信頼を得ることでチームの人間関係を良好にするリーダーのスタイルです。仕事を進める上で、人間関係の悪化は大きな障害になりかねません。そのような事態を避けるためにも、ときとして関係重視型の立ち回りが求められます。
長所
メンバーのメンタルヘルス改善につながり、組織全体のモラルが高まります。また、信頼関係が一度壊れてしまった場合にも、意思疎通の改善により修復が図れます。
短所
各メンバーのメンタルケアを優先しすぎると、組織の目標達成が後回しになる恐れがあります。また、リーダーが相手の感情を傷つけないように配慮し過ぎると、組織としての行動が抑制されてしまうことも考えられます。関係重視型のスタイルだけではチームを成功に導くことが困難な場合が多く、他のスタイルと併用するのが良いでしょう。
必要な能力
「B:コーチ型リーダーシップ」はメンバーの長期的な成長を重視しますが、「C:関係重視型リーダーシップ」は、メンバーが今抱えている感情を大事にします。メンバーの気持ちをうまく引き出す、高いコミュニケーション能力が求められます。
④メンバーの合意を得たいとき
企業やチームの成長のためには、対立や摩擦を通して互いの意見をぶつけ合うことも必要です。しかし、メンバーの賛同や合意を必要とする場面も多々あります。そのような状況下では、「D:民主型リーダーシップ」が有効です。民主型リーダーシップは、組織の意思決定にメンバー個々の意見を反映させ、チーム全体の合意を得たうえで仕事を進めるスタイルです。結果よりもメンバー全体に前向きな影響を与える、プロセスを重視する場合に適しています。
長所
当然、リーダーだけでは決断しかねる場合に有効です。また、メンバーから広く意見を集めることで、実態の把握やアイディアの発掘に効果があります。
短所
チーム内での合意形成のプロセスで議論が長引いたり、衝突が発生したりすることが考えられます。また、全体の意見として無難な決定がなされることが多く、劇的な変化が必要なフェーズには向いていません。
必要な能力
協調性や紛争処理能力が求められます。異なった意見の共通点を見出し、合意に導く折衝役を務めるため、あらかじめ妥協ラインや代替案などを準備しておくことも有効です。
⑤早急に成果を引き出したい時
企業が長期的な目線を持つことは重要ですが、早急に成果を出さなければならない状況もあります。その場合、「E:ペースセッター型リーダーシップ」が有効です。高い目標を設定し、リーダーが自ら手本を示すことで、それに倣うようメンバーを鼓舞します。
長所
実力が重視される職場で、リーダー自身のスキルがメンバーから一目置かれている場合に効果的です。優秀なメンバーがそろっており、リーダーのスキルから学ぶ意欲の高いチームに向いています。
短所
メンバーへの期待が高すぎたり、リーダーの思いやりが欠如したりすると、チーム間の信頼関係が損なわれます。また、メンバーの実力不足を見かねてリーダーが一人で業務をこなしてしまうと、メンバーの成長は見込めず、リーダーの負担が増える結果になります。
必要な能力
リーダーの強い達成意欲やマネジメント能力、率先して目標へと導く力が不可欠です。一方で、自分の感情をコントロールし、メンバーを思いやり、共感する能力も持ち合わせているのが理想です。
⑥危機的状況
災害や事故など、緊急時にメンバーが不安や恐怖を感じている場合、取り除くために有効なのが、「F:強制型リーダーシップ」です。リーダーが明確な指示を出すことでメンバーをコントロールし、最短で目的の達成を図るスタイルです。命令に即座に従うことを要求するようなスタイルなので、日頃の通常業務で強制型のスタイルを取っていると、メンバーが離れていくことはまぬがれません。
長所
企業の危機的状況や災害時などには効果を発揮します。また、問題のあるメンバーに対して打つ手がないときに、一時的に使うことは有効な場合があります。
短所
メンバーは命令のとおりに動くだけなので、自ら考える必要がなく、自立心の育成が困難です。度が過ぎるとメンバーの自信を失わせ、組織の崩壊につながります。日常的に経営層が強制型のリーダーシップを行使していると、ブラック企業と恐れられるリスクがあります。
リーダーシップをメンバーのタイプごとに使い分ける
上記の6タイプに加え、チームのメンバーのタイプごとにリーダーシップを使い分けると、さらに効果的です。メンバーに合わせたリーダーシップの使い分けは、SL理論が有効です。
SL理論とは
SL(Situational Leadership)理論とは、メンバーの成熟度に応じて、リーダーシップのスタイルを使い分ける方法です。1977年にP・ハーシーとK・H・ブランチャードにより、提唱されました。
この理論では、リーダーシップを以下の4つのタイプに分類します。
- G:教示的リーダーシップ
- H:説得的リーダーシップ
- I:参加的リーダーシップ
- J:委任的リーダーシップ
各リーダーシップタイプが、どのようなメンバーに有効か解説します。
①新入社員
新入社員には、「G:教示的リーダーシップ」が有効です。教示的リーダーシップはメンバーに対し、具体的な指示をし、事細かに監督するタイプです。成熟度の低い状態においては、細かな指示によりタスクを確実にこなす能力を身に付けさせましょう。
②成長途上の社員
ある程度タスクに慣れ、発展途上ながら意欲のあるメンバーに適しているのが、「H:説得的リーダーシップ」です。説得的リーダーシップは、リーダーの考えを十分に伝え、メンバーの疑問に答えることを重視します。コーチングのなかでメンバーの考える力を養い、自ら前進できるようにサポートしましょう。
③中堅社員
中堅社員には、「I:参加的リーダーシップ」が適しています。参加型リーダーシップでは、リーダーとメンバー間で考え方をすり合わせ、自ら意思決定できるよう仕向けていきます。中堅層のメンバーであれば、すでにタスクに関して十分なスキルを身に付けているでしょう。リーダーは仕事を任せ、自分で意思決定できる人材になるよう育てます。
④ベテラン社員
ベテラン社員には、「J:委任的リーダーシップ」が最適です。委任的リーダーシップは、仕事の遂行に関する権限・責任をメンバーに与えます。指示や援助は最低限にして問題解決を任せることで、自立心の確立を目指します。
まとめ リーダーシップを使い分けよう!
さまざまな状況でダニエル・ゴールマンの6つのリーダーシップをいかに使い分けるか、また、SL理論による、メンバーの習熟度に合わせたリーダーシップの使い分けを解説しました。
とはいえ、メンバーの性格や組織の目指すべき姿に応じて、求められるリーダー像は変化します。場面やメンバーの特性によっては、それぞれのタイプを組み合わせることも必要です。今自分にはどのリーダーシップスタイルが求められているのか、日頃から意識しましょう。