役員賞与や役員報酬を検討する際、何を基準にすればよいか迷うかもしれません。
他社の平均や相場を参考にするのは重要ですが、それ以外にも法律や従業員の心情、会社の利益など考慮すべき要素も多く、気軽に決められるものではありません。
また、税務上のルールや、損金にできる役員報酬なども踏まえて検討する必要があります。
したがって、企業は役員賞与や役員報酬を検討する際には、重要な要素を把握して適切に決めることができるように、どのようなルールや決まりがあるのかを知っておきましょう。
本記事では、役員賞与や役員報酬の平均から、決める際のポイント、注意点などを解説していきます。
<<あわせて読みたい>>
人件費が高い!そんな時に確認すべきポイントとは?経営危機を乗り切る方法を解説
目次
役員賞与・役員報酬の平均とは
「他社は役員賞与や役員報酬をどれほど支給しているのだろうか?」
このような疑問を抱く経営者や人事担当者は少なくありません。
そこで、ここでは
- 東証一部・二部上場企業の役員賞与・役員報酬の平均
- 中小企業の役員報酬の平均
- 資本金別でみる役員報酬の平均
の3つの観点から役員賞与役員報酬の平均値を見ていきましょう。
それでは一つずつ解説していきます。
東証一部・二部上場企業の役員賞与・役員報酬の平均
株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門は、東証一部・東証二部上場企業2,600社の役員賞与・役員報酬について調査を行っています。
調査の結果、社内取締役の平均年俸は3,630万円で、その内訳は下記の通りです。
- 基本報酬 2,600万円
- 役員賞与 640万円
- 株式報酬 260万円
- その他 70万円
(参考:東証一部・二部上場企業における役員報酬の支給実態調査(2020 年度版)丨日本総研)
中小企業の役員報酬の平均
資本金1億円未満の中小企業を対象とした役員報酬調査が2020年に行われました。
その結果、企業規模別でみると社長の月額報酬は下記のようになっています。
- 101~300名:154.2万円
- 51~100名:113.5万円
- 21~50名:89.4万円
- 20名以下:70万円
上場企業と比べるとかなり身近な値と言えるでしょう。
(参考:役員報酬相場・平均データの特徴とポイント丨役員報酬.com)
資本金別でみる役員報酬の平均
国税庁による標本調査によると、民間企業役員の資本金別の役員報酬の平均は下記の通りです。
- 2,000万円未満:605万円
- 2,000万年以上:851万円
- 5,000万年以上:1,094万円
- 1億円以上:1,392万円
- 10億円以上:1,561万円
(参考:民間給与実態統計調査結果丨国税庁)
そもそも役員賞与や役員報酬とは?
そもそも役員賞与や役員報酬とはどのようなものなのでしょうか?
ここでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
役員賞与は「役員のボーナス」
通常、一般的な会社員(従業員)であれば、毎月定期的に「給与」が支給されますが、給与以外にも企業の経営状態や業績などによってボーナスが支給されますよね。
このボーナスが「賞与」となるわけで、言葉通り役員に支払われる賞与を指します。
そもそも役員は「会社に雇われている従業員」ではなく会社側の立場となるため、報酬や賞与についての扱いが従業員とは異なるのです。
したがって、役員に支払われる給料は役員報酬と役員賞与の2つとなります。
退職金とは別に臨時的に支払われるものが役員賞与、それ以外が役員報酬に該当します。
役員は従業員ではない?
繰り返しになりますが、役員は従業員ではなく、会社側の立場となります。
つまり、「従業員=労働者」であり「役員=使用者」なのです。
この定義は、下記のように労働基準法第9条第10条に記されています。
- 第9条:この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
- 第10条:この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
役員報酬とは「役員の給与」
一方で役員報酬とは、経営者や役員に支払われる報酬を指しています。
従業員で言うならば給与に該当し、どちらも労働の対価として支払われるものです。
しかし、役員や経営者の報酬は、企業内部で簡単に金額や条件を変えることができるため、利益操作とみなされるケースも少なくありません。
例えば、親族である役員に業務に対して不釣り合いな不当に高額な役員報酬を支払うことで、決算期末に利益を圧縮し、会社の税金を減らすことができてしまいます。
このような利益調整がなされないようにするためにも、さまざまな条件やルールが決められているのです。
<<あわせて読みたい>>
業績連動賞与とは?導入時の注意点やメリット・デメリット、ボーナスとの違いを解説
役員賞与が支給される「役員」とは誰を指しているのか
では、そもそも「役員」とはどのような人物を指しているのでしょうか?
会社法においては株式会社の役員とは、「取締役」、「会計参与」、「監査役」のことをいいます(会社法第329条)。
また、会社法で「役員等」という場合は、「取締役」、「会計参与」、「監査役」に加えて、「執行役」、「会計監査人」も含まれます(会社法第423条)。
それでは一つずつ解説していきます。
取締役とは
株式会社における取締役とは、業務執行に関して意思決定を行う人物を指しています。取締役会を設置している場合は、代表取締役が業務執行にあたります。
会社法では取締役会を設置しなくても、取締役が1人いれば株式会社をつくることはできますが、取締役会を設置する場合は取締役が3人以上必要です。
会計参与とは
会計参与とは、取締役と共同で会計書類などを作る役目の人物を指しています。2006年5月に施行された会社法により新設されました。
近年では、会社の信用性を高めることや、企業活動がスムーズに行われることを目的に会計参与制度を導入する企業が増えています。
また、会計参与は公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人だけが就任することが可能です。監査法人とは公認会計士が集まった法人であり、税理士法人とは税理士が集まった法人のことです。
監査役とは
監査役とは株主総会で選任される会社法上の役員であり、取締役や会計参与の職務執行を監査する役割を負っています。
取締役が不正を犯していないか調べ、会社が正しく経営されるように業務監査と会計監査を行います。
役員賞与・役員報酬と従業員の給与との違い
役員に支給される役員賞与や役員報酬と、従業員に支給される給与にはどのような違いがあるのでしょうか?
まず、従業員の労働の対価として支払われる給与関係は、すべて人件費として経費にできます。
その一方で、役員賞与や役員報酬は原則として経費や損金とすることができません。したがって、住民税や法人税、所得税といった税金が課せられる対象となります。
しかし、ある一定の条件を満たせば役員報酬でも経費にすることが可能です。
例えば、個人事業主は経営者の給与を経費にはできませんが、法人であれば下記のいずれかに該当すれば経費にできます。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
それでは一つずつ解説していきます。
定期同額給与
定額同額給与とは、一定期間において同じ金額で支払う給与のことです。
期間は最大で月単位となり、毎月固定額の役員報酬が支払われていれば損金算入ができます。
特別な届け出などは不要で、法人税法上も費用となります。
会計期間内は固定額で支払われ続けていることが条件で、「決算期末だけ利益を圧縮するために報酬を増やす」といったことはできません。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員に支払う金額と支払う日を事前に確定し、税務署に届け出を提出して支払う給与です。
この方法を使うことで、役員報酬や役員賞与を経費として計上できます。
例えば、非常勤の役員に対して1年に1度だけ役員報酬を支給するのであれば、前もってそのことを税務署に届け出ることで経費として計上することが可能です。
また、役員のボーナスにあたる役員賞与を経費として支払う場合は、この方法を利用しましょう。
しかし、支払日が1日、または支払額が1円でもずれると、全額経費計上ができなくなってしまうため注意してください。
利益連動給与
利益連動給与とは、文字通り利益と連動した給与であり、利益が出た際に支払われる給与のことです。
しかし利益連動給与は、業務執行役員に支払う給与であること、給与の算出方法が特定の要件をクリアしていること、といったように制約が厳しく、事務手続きの負担も大きくなります。
これにより導入は容易ではなく、中小企業で活用しているケースは多くありません。
役員賞与や役員報酬を決める際に押さえておくべきポイント
役員賞与や役員報酬を決める際に押さえておくべきポイントは下記のようなものがあります。
- 税金・社会保険料を考慮する
- 賞与や報酬の平均と比べて突出しないようにする
- 役員賞与は「事前確定届出給与」として扱う
それでは一つずつ解説していきます。
税金・社会保険料を考慮する
役員報酬を決める際には、税金や社会保険料を考慮する必要があります。
当たり前ですが、役員報酬は企業の利益がもとになっているため、報酬の金額が多くなれば利益は減り、企業に課せられる法人税や社会保険料は少なくなるのが一般的です。
しかしその一方で、役員一人ひとりが負担する社会保険料や所得税は高くなります。
役員報酬において考慮するべき社会保険料とは?
社会保険料とは、一般的には
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
の3つに分けられます。
健康保険は、業務外のけがや病気などによって通院や入院などをした際に、保障される医療保険のことです。
一方で、介護保険とは介護が必要になった人が、低コストで介護サービスを受けられるように、その費用を給付する保険を指しています。
そして厚生年金保険は、サラリーマンなどの企業に勤める人が加入する公的年金で、一般的には65歳以上になると支給される国の年金制度です。
もちろん、これらの社会保険料を支払うことは大切なことですが、無駄に多くの保険料を支払う必要はありません。したがって経営者は、合法的にできるだけ支払う社会保険料を減らすことを考えるべきです。
<<あわせて読みたい>>
今さら聞けない!厚生年金と国民年金の違いは?受給金額や年齢、3つの厚生年金について解説
企業に課される社会保険料は増えつつある
近年の税制改正においては、法人税などの企業に課される税金は引き下げられつつありますが、社会保険料など法定福利費は増加傾向にあります。
経営者にとっては少しでも減らしたい法定福利費ですが、ここ20年間でみても右肩上がりに上昇しています。
日本経済団体連合会の2018年度の報告によれば、企業の福利厚生費は全産業平均で1人1ヶ月あたり113,556円と、過去最高に達しました。
福利厚生費の内訳はおよそ8割が法定福利費です。法定福利費として計上されている費用の内訳を見てみると、健康保険や介護保険、厚生年金保険料がその9割を占めています。
賞与や報酬の平均と比べて突出しないようにする
2つ目のポイントは、同じ業種・同じ規模の企業と比べることです。
上記で挙げた役員賞与・役員報酬の平均などと比較して、自社の金額が突出しないようにしましょう。なぜなら、平均と比べてあまりにも高い場合、役員報酬の損金への算入を税務署が認めないケースがあるためです。
もし損金に算入できなければ、認められなかった分に法人税が課せられます。さらに、支払われた役員報酬には個人所得税が課せられるので、二重に税金をとられることになるのです。
役員賞与は「事前確定届出給与」として扱う
3つ目のポイントは、役員賞与を「事前確定届出給与」として扱うことです。
先述したように、一般的な従業員に支払う賞与については、会社の経費として計上できます。しかし、役員賞与については「利益の分配」という扱いになるので、原則として経費である損金に計上することはできません。
しかし、上記でも解説したように役員賞与については「事前確定届出給与」として扱うことで、損金に計上することが可能です。
事前確定届出給与についてもう一度確認すると、
- 役員に支払う賞与の金額や支払日を前もって決めておく
- 届出期限までに税務署に届出を提出する
- 確定した支払日に届出を提出する
というものになっています。
届出期限については、
- 株主総会から1ヶ月後
- 事業年度開始から4ヶ月後
のうち早い方の日までとなっています。
まとめ
役員賞与は、使い方によっては企業が無理なく節税することができ、役員のモチベーション向上にもつながります。
しかし、法律など複雑で厳しいルールがあるため、細かな計算をしつつさまざまな面で注意しなければなりません。
税金や社会保険料とのバランスを考慮したり、平均値と比べて高くなりすぎないようにするなど、多方面から勘案して金額を決めましょう。
また、役員報酬や役員賞与の金額を決める場合、損金に算入するためにいくつもの項目を考慮する必要があります。
もし、損金への算入が認められなかった際は、法人税と所得税を支払わなければならないため、細心の注意をしましょう。
<<あわせて読みたい>>