エッセンシャルワーカーとは、私たちが日常生活を送るために必要な、最低限の社会インフラや社会機能を維持するために欠かせない労働者を指しています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、近年急速に見聞きする機会が増えた言葉ですよね。
しかし、具体的にどのような人々を指すのか、また、エッセンシャルワーカーが注目される理由などを正しく理解している人はまだあまり多くはありません。
そこで本記事では、エッセンシャルワーカーに関する基本的な知識から、具体的な職種や注目の理由などを解説していきます。
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エッセンシャルワーカーとは?
私たちの社会で生活していくうえで「欠かせない仕事」というものがあります。例えば、いま注目を集めている「医療従事者」もそのうちの一つで、他には下記のような職種が該当します。
- 第一次産業で働く人
- 医療・福祉
- 保育
- 運輸・物流
- 小売業
- 公共機関
このように、社会において私たちが生活する上で欠かせない職、社会インフラを維持するために必要不可欠な職に就く労働者のことを「エッセンシャルワーカー」といいます。
英語では「essential worker」といい、essentialは「必要不可欠」、workerは「労働者」であるため直訳すると「必要不可欠な労働者」という意味になります。
ホワイトカラーやブルーカラーとの違い
よく誤解されていますが、ホワイトカラーやブルーカラーのカラーは「color(色)」ではなく、「collar(襟)」を指しています。つまり直訳するとホワイトカラーは「白い襟」となり、ワイシャツを意味します。
要するに、ホワイトカラーはワイシャツを着て働く頭脳労働のことです。例えば、事務職や企画職、研究職、医師、コピーライターなどが該当します。
一方でブルーカラーは「青い襟」となり作業着を意味するため、作業着を着て働く仕事のことです。例えば、工場作業員や建設現場作業員、土木作業員などが該当します。
ブルーカラーの仕事は、一般的にどのような状況においても現場で働く必要があるケースが多く、リモートワークの推進や新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、エッセンシャルワーカーとして注目されるようになりました。
アメリカではエッセンシャルワーカーの待遇改善を求める声も
海外においてもエッセンシャルワーカーは同じ意味合いで用いられています。
しかし、アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大の最前線に立たされているエッセンシャルワーカーは、黒人やヒスパニックなど非白人の割合が高いことが問題となっています。
これにより、差別撤廃や最低賃金の引き上げ、医療保障の充実を求めるストライキが実施されているのです。
また、アメリカのイリノイ州経済政策研究所とイリノイ大学によって「グローバルパンデミックがイリノイ州労働者に与えた影響調査」が発表されました。
これによると、エッセンシャルワーカーは重要なインフラや医療体制を支えている一方で、賃金は低く、感染リスクや失業率が高いことがわかっています。
(参考:米国で差別撤廃求め大規模スト丨西日本新聞)
(参考:エッセンシャルワーカーなどへの認識改める機会に、米イリノイ州労働者へのパンデミック影響調査結果丨JETRO)
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2020年に生じた新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ニュースや新聞などのメディアでよく用いられるようになった「エッセンシャルワーカー」という言葉。
世界各国で新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、経済活動の自粛や都市封鎖などの「ロックダウン」が実行され、日本でも2020年4月に緊急事態宣言が発令されました。
働き方も変化し、職場で不特定多数の人々の接触を減らすためにリモートワークが推進されています。
このような状況に陥ったことで浮き彫りとなったのが、「場所や時間帯に縛られずに比較的フレキシブルに対応できる業種」と「場所や時間帯を変えることが難しい業種」の2つがある、ということでした。
エッセンシャルワーカーの重要性を再認識するきっかけに
こうしたなか、世界各国の首相や大統領など国のトップが「エッセンシャルワーカー」という言葉を使うようになり、新型コロナウイルス感染拡大防止の最前線に立っている医療従事者などに向けて感謝や敬意を伝え、メディアも広く報道するようになったのです。
エッセンシャルワーカーは現場に出て働かなければならない仕事なので、出勤するために公共交通機関を使うことや職場で他の人々と接触することで感染のリスクは高まります。
しかし、それでも社会を維持するために現場に出て働いてくれるからこそ社会は成り立っているのです。皮肉にも、新型コロナウイルスの感染拡大が、その重要性を再認識するきっかけとなりました。
エッセンシャルワーカーの代表的な職種
新型コロナウイルスの感染拡大によって、最も注目されたエッセンシャルワーカーは医療従事者です。
しかし、それ以外に下記のような職種も、私たちの日常生活には必要不可欠なエッセンシャルワーカーとして活躍しています。
- 区役所職員などの公務員
- 教育関係者
- 公共交通機関関係者
- 運輸業者
- 小売・販売業者
- インフラ事業者
それでは、医療従事者を含めて一つずつ解説していきます。
医療従事者
まず、エッセンシャルワーカーの代表的な職種は、医師や看護師などの「医療従事者」です。
医療従事者の方々は、新型コロナウイルス最前線で人の命を守るために日夜仕事をしています。自身も感染リスクに晒されながら、感染者の治療や感染の疑いのある患者の検査などを行っているのです。
まさに、現代において最も必要不可欠なエッセンシャルワーカーと言っても過言ではないでしょう。
区役所職員などの公務員
地域住民の生活を守っている区役所職員などの公務員もエッセンシャルワーカーです。
区役所職員は、国民一人につき一律10万円の「特別定額給付金」や、コロナ関連の助成や減免といった対応をしなければならず、日々その仕事量が増え続けています。しかし、地域住民の生活を支えるためにも、日夜現場で力を尽くしているのです。
教育関係者
学校機関や保育の現場で仕事をする教師や保育士などもエッセンシャルワーカーの一つです。
近年、急速にリモート対応が進んでいる教育の現場ですが、それでもなお完全にリモートでの稼働が可能となっているわけではありません。
リモートによる教育にはどうしても限界があるため、やはり教室や園内で子ども同士、そして子どもと大人が直接触れ合うことで学ぶ必要はあるでしょう。
公共交通機関関係者
バスや電車などの公共交通機関に従事している人もエッセンシャルワーカーに含まれます。
バスや電車のなかでは、非常に多くの人が利用し、不特定多数の人による汚染が考えられます。そこで手すりやつり革などを消毒する業務を行い、感染リスクを下げなければなりません。
また、現場で仕事をしなければならないほかのエッセンシャルワーカーの「足」としても重要な役割を担っているのです。
運輸業者
新型コロナウイルスの感染拡大前から待遇改善の必要性が叫ばれていた運輸業者もエッセンシャルワーカーです。
郵便配達員やトラック運転手は私たちが必要とする食品や製品を届けてくれる、今や社会に必要不可欠なインフラとして機能しています。
もし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って物流が止まっていたら、その他の多くのエッセンシャルワーカーの仕事も止まっていたでしょう。
また、リモートワークやおうち時間の増加により、インターネット通販の利用が急増し、運輸業者の負担が増え続けていることも課題となっています。
小売・販売業者
私たちの食生活や日常生活を支えているのが、スーパーやコンビニといった小売や販売業者です。
つまり、スーパーやコンビニで従事している方々も、現場に出て働かなければならないエッセンシャルワーカーといえます。
インフラ事業者
私たちが当たり前のように使用している水道やガス、電気はそれぞれのインフラを維持管理する従事者の方々がいてこそ成り立っています。こうしたインフラ事業者もまたエッセンシャルワーカーです。
こうしたインフラを維持するためには現場でメンテナンスなどをする必要があり、リモートにすることは困難です。しかし、会議や計画立案など一部の業務に関しては、少しずつリモートで行えるようになっています。
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エッセンシャルワーカーは私たちの生活に欠かせない仕事であり、コロナ禍でさらにその重要性が認識されるようになりました。その結果、エッセンシャルワーカーには下記のような課題が浮き彫りになったのです。
- 待遇や賃金
- 感染リスク
- 精神的な負担
- 人手不足の深刻化
それでは1つずつ解説していきます。
待遇や賃金
上記でも触れましたが、アメリカではエッセンシャルワーカーの待遇改善を求めてストライキが起こっています。
つまり、エッセンシャルワーカーの待遇や賃金はそれほどまでに悪い状況にあるということです。実際、エッセンシャルワーカーは他の職種よりも業務負荷が高い割に、賃金や待遇が良くない傾向があります。
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、業務負荷や精神的な負担も増し続けています。しかし、労働時間や休日などの待遇、給与などの賃金は改善されていません。
その原因の一つには、エッセンシャルワーカーである小売・サービス業、介護・保育などで従事するのは、パートなどの非正規雇用がほとんどであることが挙げられます。
感染リスク
各国政府は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、国民に対して「密閉空間」、「密閉場所」、「密閉場面」の「3密」を避けるように要請しています。この3つの条件が揃うことでクラスターが発生するリスクが高まるためです。
しかし、リモートワークが困難で不特定多数の人々と接触しなければならないエッセンシャルワーカーは、このリスクが高まってしまいます。したがって、エッセンシャルワーカーは他の職種よりも新型コロナウイルスの感染リスクにさらされているのです。
精神的な負担
新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会や経済に大きな変化が起こり、多くの人が精神的な負担を感じています。
そのなかでもエッセンシャルワーカーは自身の仕事に使命感を持って働いているため、肉体的にも精神的にも負担が大きくなっているにも関わらず、休むことなく働いてしまうケースが少なくありません。
この結果、体調を崩したり精神的なダメージを受けてしまうのです。
人手不足の深刻化
日本では新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前から、慢性的な人手不足に陥っていましたが、新型コロナウイルスによってさらに人手不足が加速してしまっています。
なかでも、介護や運輸業、コンビニやスーパーなどのエッセンシャルワーカーの人手不足が深刻です。
上記で見たように、エッセンシャルワーカーでも人手不足が深刻な業種のなかには「待遇が悪く賃金が安いうえに感染リスクが高く、精神的な負担が大きい」というものがあるため、人手不足が改善されません。
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エッセンシャルワーカーは現代には欠かせない重要な職種であるにも関わらず、その待遇や給与が見合わないことが多いため、人手不足が深刻化しています。
そこで、国や企業がエッセンシャルワーカーに対して支援をする動きが増えてきました。
政府による支援
厚生労働省は令和2年6月に「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」の事業を発表しています。これは、新型コロナウイルス最前線に立っている医療従事者に向けて、最大20万円を慰労金として給付するものです。
さらに、厚生労働省は介護福祉士をはじめとする介護サービスに従事する職員に向けて、最大20万円を慰労金として給付する事業を発表しています。
(参考:「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」について丨厚生労働省)
(参考:「介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業等及び職員に対する慰労金の支給事業」について丨厚生労働省)
企業による支援
ホテル宿泊予約サービスサイトを運営する株式会社CHILLNNは、エッセンシャルワーカーが、同居している家族に感染させないために、ホテルに泊まれるようにする「ホテルシェルター」プロジェクトを発足させています。
ホテルシェルターでは、感染対策が実施されたホテルに一泊3,300円~という低価格で利用できるものです。
(参考:自宅にいることが安全でない方に向けた「ホテルシェルター」プロジェクト丨PR TIMES)
まとめ
ここまでエッセンシャルワーカーの重要性や抱える課題などを見てきました。
エッセンシャルワーカーは私たちの生活にとって欠かせない重要なものですが、新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、その重要性は今のように再認識されることはなかったでしょう。
エッセンシャルワーカーの重要性が再認識された今だからこそ、その待遇や給与が改善されていく社会に変えていくことが重要です。
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