2021/02/12

メンター制度とは「斜めからの支援」 成功事例からその意義と効果を検討しよう

企業が抱える課題のひとつに社員のメンタルヘルスがあります。
仕事に対してプレッシャーや不安を抱えている社員は少なくないでしょう。それが高じると、離職につながったり精神障害を発症したりするなど、より深刻な事態につながるおそれがあります。
また、企業内でキャリア形成がうまく進まないと、それが離職につながることもあります。

こうした問題の対策としてメンター制度を導入している企業もあります。
「斜めからの支援」と呼ばれるメンター制度とはどのようなものでしょうか。
そもそも「メンター」とはどのような存在なのか、そこから考えていきましょう。

 

 メンターとはどんな存在?

 

~メンターとは~

メンターに一律の定義はありません。
指導者、助言者、何でも話せる人、安心して相談できる人・・・、さまざまな定義があります。
でも、どれも漠然としていて具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。

『人生を変える メンターと出会う法』[1] の著者・本田健氏は、メンターを以下のように表現しています。
「人生を導く先生」、「人生の師」、「恩人」、「恩師」。

昔であれば、
イエス・キリストや孔子と弟子たち。
ソクラテスとプラトン。
ドイツのマイスター制や日本の徒弟制度。
こうした関係における「師匠」や「親方」も一種のメンターです。

あるときはガイドであり、アドバイザーであり、人生の同伴者である存在。
学校の先生でもいいし、自分が知りたい世界、目指す業界での実力者でもいい。反対に全くの異業種の人という場合もある。

本田氏は「亡くなった人でも、ドラマの主人公でも、本の中の人物でもいい」といいますが、それは「ロール・モデル」として、メンターとは区別したほうがいいと筆者は考えます。
では、両者の違いはどこにあるのかというと、ロール・モデルが「こうなりたい」という手本・模範・目標、つまり一方向的な関係なのに対して、メンターは双方向的な関係を基盤として、あくまでフィードバックをくれる存在と捉えると、すっきりするのではないでしょうか。

メンターは人生の指針ともいうべきものを示してくれる人です。
ただし、メンターが必要なのは、人生を最短距離で効率よく歩んでいくためではありません。
本田氏はかつてメンターからこんな言葉を贈られたといいます。

「君の人生という空に、雲がたくさんありますように。素晴らしい夕焼けが見られるから」

メンターが必要なのは、メンターが人生そのものを総合的に理解させてくれる存在だからです。
本田氏が出会った多くのメンターの中には、目標となる「ホワイトメンター」も、反面教師的な「ブラックメンター」もいました

そして、そのどちらもが、人生に大切なインスピレーションを与えてくれる存在だったといいます。

 

~メンターから学べること・メンターの報い~

同書には、メンターから学べるものとして、以下の6点が挙げられています。

この中で、メンターから学べる最も大切なものは、(1)の「人間としてのあり方」です。
それは、ライフワークへの向き合い方、その人の人生そのもの。
言い換えれば、人生をどう生きるか、人間としてどうあるべきかという人生哲学です。

では、メンターは常に与えるだけの人であって、メンターから学ぶメンティは常に与えられるだけの存在かというと、そうではありません。
メンティと向かい合い付き合うことでメンターもまたメンティから刺激を受け、メンティに貢献していることによって充実感を得ることもできます。さらに、そのことによってメンター自身も成長し人生が豊かになります。
メンターとメンティとは、人間対人間としてはあくまで対等な関係であると認識することが大切です。

 

 企業のメンター制度とは

 

ここまで、そもそもメンターとはどのような存在かについてみてきました。
ここからは、企業のメンター制度について考えていきます。

 

~メンター制度導入の背景~

メンター制度を導入する背景には、社員のメンタルヘルスとキャリア形成に関わる深刻な状況があります。
まず、メンタルヘルスに関する状況をみてみましょう(図1)。


図1 企業が認識している課題:コロナ影響下での従業員の働き方による課題
出所:[2] 経済産業省(2020)ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」 p.9https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf

上の図1は、企業が認識している健康上の課題を表しています。
コロナ禍が長引く中、企業の80%が健康上の課題として従業員のメンタルヘルスを挙げています。
実は、コロナ禍以前から、社員のメンタルヘルスは問題になっていました(図2)。


図2 精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
出所:[3]厚生労働省(2020)「精神障害の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000521999.pdf

図2は、精神障害の労災申請に関する件数の推移です。
この図をみると、ビジネスパーソンのメンタルに関する深刻な状況がみえてきます。
次に、若手社員の離職理由をみます(図3)。


図3 「初めての正社員勤務先」を離職した理由(新卒3年以内離職者)
出典:[4]独立行政法人 労働政策研究・研修気候(2017)『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」』 p.90 図表5-3より抜粋https://www.jil.go.jp/institute/research/2017/documents/164.pdf

図3は新卒3年以内離職者の離職理由を表しています。
メンタルヘルスに関連するものは、1位に「肉体的・精神的に健康を損ねたため」、3位に「人間関係がよくなかったため」、6位に「仕事が上手くできず自信を失ったため」が挙がっています。
また、キャリア形成に関連するものは、5位の「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」、7位の「ノルマや責任が重すぎたため」、10位の「キャリアアップするため」がみられます。

このように、企業の課題であるメンタルヘルスとキャリア形成は深刻な状況にあるのです。
企業内メンター制度は、こうした課題を解決するための対策のひとつです。

 

 企業内メンター制度の概要

 

~企業内メンター制度とは~ [5]

厚生労働省は、メンター制度を以下のように説明しています。

通常、職場では、先輩・後輩間の育成的な人間関係が自然発生的に生じますが、それを制度にしたのがメンター制度です。
職場には、仕事の指示・命令を下し評価を行う直属の上司や先輩がいます。でも、メンターになるのは、そのような利害関係のある人ではなく、異なる職場の先輩社員がなることが一般的です。
企業内のレベルでいうと、役員・管理職層から数年先輩まで、目的によって様々な立場の人に設定します。
これが「斜めからの支援」といわれる所以です。


図4 メンター・メンティの関係イメージ
出典:[5]厚生労働省(2012)「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」 p.3https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf

上の図4はメンター・メンティの関係イメージ図です。
この図では、メンターのところに、「直属の上司以外」と書いてありますが、それは直属の上司はメンターとして機能しにくいということであって、絶対にだめだというわけではありません。

 

~メンター制度の効果~

次にメンター制度の効果をみてみましょう(図5)。


図5 メンター制度の効果
出典:[5]厚生労働省(2012)「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」 p.5https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf

この図をみると、メンター制度はメンティにさまざまなメリットをもたらすばかりでなく、メンター自身にもメンティへの支援を通じて 人材育成意識が向上するというメリットがあることがわかります。

この他のメリットとして、人材育成を重視するという会社のメッセージとなる、部門・部署を超えたマッチングによって組織横断的な連携・ネットワークが可能となり組織風土の活性化にもつながるというメリットがあります。

 

 メンター制度の導入・推進と課題

 

ここでは、実際にメンター制度を導入する際の流れと課題を、事例をまじえてみていきたいと思います。

 

~導入の流れ~[5]

まず、メンター制度の推進体制は以下のようなものです(図6)。


図6 メンター制度の推進体制
出典:[5]厚生労働省(2012)「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」 p.8https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf

この図のように、メンター制度を導入するためには、A.経営幹部からの発信、B.人事部門(主管部門)による調整、C.推進チームによる支援、D.上司からのサポートと、全社的な推進体制が必要です。

次に、導入は以下のようなステップを踏んでいきます。

なお、メンター制度を導入し一定の目標を達成した場合には、人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)の受給対象となります [6]。

 

~導入事例にみられる効果と課題~[7]

最後にメンター制度を導入した事例を通して、その効果と課題をみたいと思います。

ご紹介するO社は社員420名、主な事業内容は航空宇宙機器や油圧機器などの設計・加工・組立です。
同社は離職者が多いという課題を抱えていました。
航空機事業が8割を占める中、 コストの多くを人件費が占めているのにもかかわらず、生産性の高い社員の定着が悪く、それが会社の大きな負担になっていました。

そこで、2015年にメンター制度を導入しました。新入社員に対して年齢が近い先輩社員が教育担当になり、仕事やプライベートの問題を相談するというもので、期間は1年間です。

導入ポイントは、現場の理解と教育側社員の納得感。
工夫したのは、以下のような点です。

効果は抜群でした(表1)。

表1 O社の離職率

出典:[7] 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2018)「労働政策フォーラム:メンター制度導入とその効果」 p.6https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/04-jirei3-ninomiya.pdf#page=8

1年以内の離職率は0%になり、3年以内離職率も減少傾向にあります。

メンター制度の対象となった社員へのアンケート調査では全員が「必要な制度だ」と答えていて、対象者の意識上の効果も報告されています (図7)。


図7 メンター制度に参加した社員が感じたメリット
出典:[7]独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2018)「労働政策フォーラム:メンター制度導入とその効果」 p.7https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/04-jirei3-ninomiya.pdf

では、課題はないのでしょうか。
実は、先ほどみたように、入社1年目の新入社員には効果があったものの、2年以降は効果が薄れ、中途採用者には効果がないことがわかりました。
それはなぜでしょうか。


図8 メンター制度の効果が及ぶ範囲
出典:[7]独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2018)「労働政策フォーラム:メンター制度導入とその効果」 p.8https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/04-jirei3-ninomiya.pdf

図8はメンター制度の効果がどこまで及ぶのかを、マズローの欲求5段階説にあてはめて示したものです。
この図は、メンター制度は精神的欲求のアプローチに留まるものであって、それより下位の物質的欲求を満たさなければ、離職を食い止めることができないことを示唆しています。

したがって、離職を食い止めるための抜本的な対策は、給与水準などの待遇改善や労働環境の整備、持続的経営といういわば基礎的な部分を充実させることであって、それらを抜きにしては、メンター制度の効果は限定的だということになります。

メンターとは、人生を豊かにしてくれる存在ですが、それは精神的な意味での豊かさです。
メンター制度を効果的に活用するためには、この制度の特徴を理解した上で、待遇や労働環境を見直しつつ、健全な経営を実現させる必要があります。

参照

[1] 本田健(2016)『人生を変えるメンターと出会う法』 大和書房(電子書籍版)
[2]経済産業省(2020)ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
[3]厚生労働省(2020)「精神障害の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000521999.pdf
[4]独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2017)『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」』https://www.jil.go.jp/institute/research/2017/documents/164.pdf
[5]厚生労働省(2012)「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf
[6]人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html
[7]独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2018)「労働政策フォーラム:メンター制度導入とその効果」
https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/04-jirei3-ninomiya.pdf#page=8

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