突然ですが、下記のような疑問を感じてはいませんか?
- 「厚生年金と国民年金ってなにが違うの?」
- 「年金はいくらもらえるの? 受給開始年齢が上がってるって本当?」
厚生年金は日本の公的年金制度の1つであり、民間で働く人のほとんどが加入していると言っても良いでしょう。
給与明細で「厚生年金保険料」として「天引きされている」としか考えていない方も多いかもしれませんが、厚生年金を含めた公的年金制度は老後の生活を支えてくれる、非常に重要なものです。
しかし、それらの内容や仕組みに関して正しく把握している方は、おそらくごく一部でしょう。
そこで本記事では、厚生年金など公的年金制度に関する基本的な知識から、国民年金との違いや、年金の受給金額や受給開始年齢などを解説していきます。
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厚生年金の前に知っておきたい「公的年金制度」とは?
厚生年金について見ていく前に、まず「公的年金制度」について知っておくべきでしょう。
公的年金制度とは、いま働いている世代(現役世代)が支払う保険料を、仕送りのように高齢者などの年金として給付する、「世代間の支え合い」という考え方(賦課方式)に基づいた仕組みです。
日本の公的年金制度の特徴としては「国民皆年金」が挙げられ、20歳以上60歳未満の日本に住んでいるすべての人が加入することになっています。
公的年金には、20歳以上の全ての国民が共有して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金の2つがあります。
国民年金 | 原則20歳から60歳未満の全ての日本国民が加入。給付金額は一定。 |
厚生年金 | 公務員や会社員が加入。給付額によって保険料額は変わる。 |
(参考:教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?丨厚生労働省)
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厚生年金に関わらず公的年金制度について把握する際に、下記のような言葉が出てきます。
- 第1号被保険者
- 第2号被保険者
- 第3号被保険者
- 1階建て
- 2階建て
この言葉の意味を正しく把握していなければ年金についても把握することが難しくなるため、その意味を解説していきます。
「第◯号被保険者」とは
年金に関する話で必ず出てくるのが「第◯号被保険者」という言葉です。この「◯」には1から3の数字が入り、加入する人の職業や年令によって異なります。
「第1号被保険者」とは?
「第1号被保険者」とは、20歳から60歳未満の人で、第2、第3被保険者に該当しない人が条件です。また、下記のような職業が該当します。
- 自営業
- 学生
- 農業
- 漁業者
- 無職
つまり、わかりやすく言うなれば「第1号被保険者とは(配偶者も)企業に属していない人」となります。保険料は加入者全員が一律で決まっており、毎年物価や賃金の上昇率などをもとに算出されています。
また、加入する公的年金制度は国民年金のみです。
「第2号被保険者」とは
「第2号被保険者」とは、原則70歳未満の人で下記の職業が該当します。
- 公務員
- 教職員
- 民間企業の会社員
つまり、「第2号被保険者とは一般的なサラリーマンや公務員など、企業や組織に属している人」となります。
また、加入する公的年金制度は国民年金と厚生年金です。厚生年金は企業と社員で保険料を折半するため、第1号被保険者よりも個人の拠出金が安くなる一方で、受け取れる年金は高くなる点がメリットです。
「第3号被保険者」とは
「第3号被保険者」とは、第2号被保険者に生計を維持されている20歳から60歳未満の配偶者であり、専業主婦などが該当します。ただし、年収が130万未満の人のみとなっています。
加入する公的年金制度は厚生年金制度のみです。例えば、専業主婦として直接年金に入っていない場合でも、配偶者が年金に入っていれば年金の恩恵を受けられる点がメリットです。
「◯階建て」とは?
続いては、年金の話でよく出てくる「◯階建て」の意味を見ていきましょう。
「1階建て」とは
第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者のすべてが加入する年金が国民年金であるため、国民年金は公的年金制度の土台となる部分として「1階建て」と呼びます。
また、国民年金は土台となるため「基礎年金」と呼ばれることもあります。
従来は第1号被保険者が入れる年金は国民年金だけであったため、「1階建て」でしたが、多様化する第1号被保険者の需要に合わせて「国民年金基金」と呼ばれる2階にあたる制度がつくられました。
「2階建て」とは
一方で「2階建て」とは、「1階建て」となる国民年金にプラスして別の年金に加入する場合の構造を指しています。
「2階」に該当するものには、自営業者やフリーランスのために用意されている国民年金基金もありますが、一般的には企業や組織に属している人のための厚生年金が該当します。
「3階建て」とは
そして「3階建て」は1階にあたる国民年金、2階にあたる国民年金基金や厚生年金にさらにプラスして積み立てている年金を指しています。
3階に該当する代表的な例としては下記の3つが挙げられます。
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
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年金にはいくつか種類があり、一度に説明されても理解するのが難しい側面があります。
そこで、ここでは厚生年金や国民年金を一つずつわかりやすく解説していきます。
国民年金とは?
まず「2階建て」の1階部分に相当する国民年金について見ていきましょう。
国民年金は、日本に住んでいる20歳から60歳までの国民が原則入ることになる年金制度です。
国民年金保険料はいくら
国民年金で納付する保険料は毎年一定で、物価や賃金の変化によって毎年異なります。
令和2年度では毎月16,540円でしたが、令和3年度では16,610円となっており、70円の値上げが行われました。平成22年度では15,100円だったので、およそ10年で1,510円の値上がりとなっており、近年は保険料が上昇傾向にあります。
また、「付加保険料」として、定額保険料に上乗せして保険料を納めることで、受け取れる年金額を増やせる制度も存在します。
(参考:国民年金保険料の変遷丨国民年金機構)
(参考:付加保険料の納付のご案内丨日本年金機構)
国民年金ではいくら受け取れるのか
国民年金でもらえる年金は「老齢基礎年金」といって、これは原則65歳から受け取ることができますが、受け取れる金額は国民年金に入っていた年数によって変化します。
一般的には老齢基礎年金で支給される金額の平均額は月額55,000円前後となっています。
また、1年間で受給できる金額の上限が決まっており、2021年度では780,900円です。さらに、老齢基礎年金を受け取るには、国民年金に入って保険料を納付した期間と保険料免除期間を合わせた資格期間が、10年以上あることが条件となっています。
この条件をクリアしていれば終身にわたって受け取ることが可能です。
(参考:令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況丨厚生労働省年金局)
厚生年金とは?
国民年金は公的年金制度の「1階」に相当するものでしたが、対して厚生年金は「2階」に相当する年金制度で、国民年金に上乗せして給付されます。
公務員やサラリーマンなど企業や組織に属している人が加入する年金制度です。
厚生年金保険料はいくら
国民年金で支払う保険料は毎年変わりますが、国民全員一律でした。しかし、厚生年金保険料は人によって支払う金額が異なります。なぜなら、厚生年金保険料は本人の所得によって算出されるからです。
厚生年金保険料は月給の18.3%と言われていますが、実際に支払われた月給額の18.3%ではなく、標準報酬月額の18.3%です。「標準報酬月額」とは、社会保険料を算出しやすくするために報酬月額の区分ごとに設定されている計算用の金額を指しています。
また、厚生年金の標準報酬月額は88,000円が下限で、65万円が上限とされています。
労使折半とは
厚生年金保険料は所得によって異なりますが、全てを個人で支払うわけではありません。厚生年金では「労使折半」という、勤務先と被保険者が半分ずつ支払う仕組みを採用しているからです。
厚生年金保険料を支払う際には、まず勤務先がまとめて支払い、その後、被保険者の毎月の給料やボーナスから被保険者が支払うべき、保険料の半分にあたる金額を天引きする形になっています。
厚生年金ではいくら受け取れるのか
厚生年金でもらえる年金は「老齢厚生年金」といい、原則として65歳から受給することができ、終身にわたって受け取ることが可能です。
上記で見た通り、国民年金でもらえる老齢基礎年金は平均で55,000円となっていますが、老後厚生年金受給者が受け取っている年金の平均月額は、令和元年度で14万6,162円となっています。
このように、受け取れる金額にはおよそ3倍ほどの開きがあり、年金の格差が広がっているのです。
厚生年金は所得によって保険料が異なるため、結果的に受け取れる金額にも差が生まれ、個人ごとにも異なります。つまり、給与が高ければ老後は高額の年金がもらえるということになるのです。
実際に自身がいくら受け取れるのかを確認したい方は、日本年金機構の「ねんきんネット」で調べてみてはいかがでしょうか?
(参考:令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況丨厚生労働省年金局)
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さらに、厚生年金には下記の3つの種類が存在します。
- 老齢厚生年金
- 障害厚生年金
- 遺族厚生年金
一般的に「厚生年金」と呼ばれるものは、「老齢厚生年金」を指しているケースがほとんどです。
それでは1つずつ解説していきます。
老齢厚生年金
厚生年金保険料を支払い、65歳から受け取れる年金を「老齢厚生年金」と言います。
ただし、現在は「65歳から受け取れる」となってはいますが、今後は引き伸ばされる可能性が高いです。
以前は厚生年金を受け取れる年齢は60歳でしたが、受給開始年齢は徐々に引き上げられており、2013年の年金制度改正で男性は1961年4月2日生まれ以降、女性は1966年4月2日生まれ以降の人は65歳からとなったのです。
そして今後も少子高齢化が進むことで、この年齢は引き上げられる可能性が高いでしょう。
障害厚生年金
厚生年金に入っている期間中に、何らかの障害を負ってしまったケースで受け取ることができる年金が「障害厚生年金」です。
ただし、障害厚生年金を受け取る場合にはいくつか条件が定められており、原則として厚生年金保険の被保険者である間に、その障害を引き起こした病気や怪我の初診日があることなどが挙げられます。
また、他にも下記のような条件があります。
- 障害の状態が、障害認定日に、障害等級表に定める1級から3級のいずれかに該当していること。
- 初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。
詳しくは下記の日本年金機構のサイトでご確認ください。
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額丨日本年金機構
遺族厚生年金
遺族厚生年金とは、公務員やサラリーマンとして厚生年金保険に入っている被保険者が亡くなった際に、遺族が受け取ることができる年金を指しています。
以前は、遺族厚生年金はサラリーマンなど「事業所や事務所に勤める人」が対象となっていましたが、2015年に公務員等を対象とする共済年金と統合されたため、遺族厚生年金の対象者が一気に拡大することになったのです。
下記のいずれかの条件を満たした際に、遺族は遺族厚生年金を受給できます。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
(参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)丨国民年金機構)
まとめ
ここまで、厚生年金をはじめとする国民年金など、公的年金制度に関する基本的な知識や、受け取れる金額などを見てきました。
公的年金制度には、大きく分けて国民年金と厚生年金があり、「2階建て」と呼ばれています。国民年金は原則として日本に住むすべての国民が加入するものであり、厚生年金はサラリーマンや公務員など組織に属する人が加入する年金です。
また、納付する保険料は毎年少しずつ引き上げられており、受給開始年齢も引き伸ばされています。このように私たちの暮らしに影響する年金について知っておくことは、私達自身の老後を守るためにも重要なことだといえるでしょう。
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