「年末調整」は、サラリーマンにとって秋から年末の恒例行事といっても過言ではありません。年末調整の時期は企業によって異なり、早ければ10月下旬で一般的には11月中旬となり、遅い場合は12月上旬で1ヶ月半ほどの差があります。
従業員の数が多い企業は早めになり、少ない企業ほど遅めになるといった特徴があります。規模が大きな企業は社内システムに組み込まれており、データの引き継ぎによって手間が減ったところも多いようです。
年末調整は給料を受け取っている従業員すべてが対象となっていますが、従業員自身が基礎控除申告書などさまざまな書類を提出しなければならないことから、毎年のように「よくわからない」「めんどう」といった声が多く聞かれます。
そもそも、あなたはなぜ毎年、年末調整をしているのかを正しく理解しているでしょうか?
そこで本記事では年末調整に関する基本的な知識から、年末調整の基礎となる基礎控除申告書や、損をしない方法について解説していきます。
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そもそも年末調整とは?
従業員に対して給与を支払っている会社は、「源泉徴収」というかたちで給与から所得税を差し引いて、従業員の代わりに納税義務を果たしています。こうして会社が源泉徴収をした所得税の合計額と、従業員が1年間に納めるべき所得税額とが合致していれば年末調整は必要ありません。
しかし実際には、会社が納めた所得税額と従業員が本来納めるべき所得税額は異なることがあります。その際、源泉徴収をした所得税の合計額と、本来納めるべき所得税額を算出し、この過不足を精算する制度や手続きが「年末調整」です。
源泉徴収と納めるべき所得税額が一致しない理由
では、なぜ源泉徴収している会社が納める所得税の合計額と、本来納めるべき所得税の金額が一致しないのでしょうか? その理由は、会社が毎月給与から差し引いている所得税の金額は正確ではないからです。
会社は「この人は1年間で大体これくらい稼ぐはずだ」という予測をもとにして、源泉徴収をしています。しかし、給与というのは毎月同じになるというわけではありませんよね。残業が長引いて残業代が増える月もあれば、年度中に昇給することもあるはずです。
このように受け取る給与の額に変動があれば、当然支払うべき所得税の金額も変わります。また、給与の増減だけではなく、「出産や結婚で扶養する家族が増えた」や「生命保険料の支払い」など、個人の事情によって課税所得が安くなる「所得控除」の存在もあるため、所得税が安くなることもあります。
「確定申告」とはどう違う?
「年末調整」とよく混同されがちな言葉として「確定申告」が挙げられます。
年末調整は上記で解説したように、「源泉徴収で差し引かれた所得税の合計額と、本来支払うべき所得税の金額の過不足を精算すること」を指しています。
一方で、確定申告は一般的に個人事業主やフリーランスが行うもので、毎年2月から3月の間に税務署に行き、前年の1月から12月の所得を申告することです。そして、確定申告をすることで決まった所得から算出される税額を支払います。
会社員でも確定申告が必要になるケース
基本的に会社が源泉徴収を行い、年末調整をしている従業員は確定申告をする必要はありません。とはいえ、下記の条件に当てはまる場合は会社員でも確定申告をする必要があります。
- 給与の年間収入金額が2,000万円以上の人
- 給与以外の所得の合計額が20万円以上ある人
- 災害減免法により源泉徴収の猶予を受けている人
- 源泉徴収義務のない者から給与の支払いを受けている人
- 医療費控除など年末調整で対応できない控除を受ける人
(参考:給与所得者で確定申告が必要な人丨国税庁)
このように、会社員であっても確定申告が必要な場合があるため注意しておきましょう。
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決算期の変更手続きと注意点、メリット年末調整における基礎控除(所得控除)とは?
年末調整や確定申告において、所得税額を算出する際に所得から差し引くことができる金額を「所得控除」といいます。全部で15種類ある所得控除ですが、このなかでも誰でも控除が適用される「基礎控除」というものがあります。
これらについて正しく理解するために、まず「所得」と「控除」について再確認しておきましょう。
「所得」と「控除」とは?
まず、所得という言葉ですが、所得とは「儲け」を意味する言葉です。「売上」と混同されがちですが、この2つは別物です。例えば、20万円の製品を売った際の「売上」は20万円です。しかし、この製品の製造や仕入れに10万円かかったとしましょう。
この結果、「儲け」は20万円から経費として10万円差し引かれるため、所得は10万円となります。
一方で、控除は「金額を差し引く」という意味を持っています。年末調整や確定申告における控除には所得控除や基礎控除があり、これらは納税者の事情を考慮して税金を少しでも安くするために設けられた制度で、適用を受けると節税することが可能です。
「所得控除」とは?
それでは所得控除についてみていきましょう。
所得控除とは、一定の条件をクリアしている場合に、経費を差し引いた後の合計所得金額から差し引ける項目のことです。基本的に所得税は「所得×所定の税率」で算出されるうえに、合計所得金額が多いほど税率も上がるため、支払うべき所得税も高くなります。
しかし、このままだと納税者の生活費や社会保険料といった必要な支出が計算に入れられず、納税者の負担が大きくなってしまいます。したがって、個人の事情を考慮して納税の負担を軽減する趣旨で設けられたものが所得控除です。
所得控除が適用されると、所得税は「(所得-所得控除)×所定の税率」という式で算出されるため、納税の負担が小さくなります。
人的控除と物的控除
また、所得控除には大きく分けて「人的控除」と「物的控除」の2つに分けられます。後述する「基礎控除」は人的控除に分類されます。
人的控除とは、納税者に扶養親族や配偶者がいるかどうかといった、人に関わる事情を加味して納税の負担を減らすものです。
一方で物的控除とは、生命保険料や社会保険料といった、納税者が支払ったお金を加味して納税の負担を減らすものです。
基礎控除とは?
基礎控除とは、ひとり親控除や配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除といった15種類ある所得控除の1つです。
基礎控除以外の所得控除は基本的にいくつかの要件を満たしていないと対象外となりますが、基礎控除であれば、適用を受けるために満たすべき要件がないため誰でも利用することができます。
従来であれば基礎控除の金額は、所得額に関わらず「一律38万円」でしたが、2020年(令和2年)の税制改正で、所得額が2,400万円以下では「一律48万円」となり、それ以上の所得額の場合は段階的に減額されるようになりました。また、2,500万円以上の場合は基礎控除は適用されません。
給与所得金額 | 基礎控除額 | |
改正後 | 改正前 | |
2,400万円以下 | 48万円 | 38万円 |
2,400万円以上 2,450万円以下 |
32万円 | |
2,450万円以上 2,500万円以下 |
16万円 | |
2,500万円以上 | 0円 |
基礎控除を利用するには「基礎控除申告書」が必要
上記で見たように、基礎控除は適用を受ける要件がなく誰でも利用でき、税制改正によって控除額が10万円引き上げられたため、利用することをおすすめします。
しかし、誰でも適用を受けられるとはいえ、年末調整において基礎控除を利用するには、「基礎控除申告書」を出さなければなりません。
基礎控除申告書は、2020年分(令和2年分)から「給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得⾦額調整控除申告書」という3つの申告書が1つの申告書になっています。したがって、基礎控除以外の控除を利用しないケースでも、基礎控除申告書だけに記入して出さなければなりません。
また、基礎控除申告書の詳しい書き方や記載例については下記の国税庁のページで確認できます。
(参考:基礎控除申告書について丨国税庁)
(参考:令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得⾦額調整控除申告書の記載例丨国税庁)
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小規模事業者持続化補助金とは?対象者や条件、注意点をわかりやすく解説年末調整で損をするかもしれない扶養控除
年末調整をする際は、毎年その年の最初の給与日前日までに「扶養控除等申告書」を提出する必要があります。会社は申告書に基づいてその従業員の扶養親族が何人いるかをチェックして、社会保険料を控除したあとの給与をもとに源泉徴収を行います。
基本的に、会社に「扶養控除等申告書」を出している人が年末調整の対象となり、扶養親族がない場合でも提出しなければなりません。
申告漏れによって損をしているかも?
この「扶養控除等申告書」ですが、扶養親族の対象となるにも関わらず申告漏れになっている人も少なくありません。
よくあるケースが「控除対象扶養親族(16歳以上)」の項目です。控除対象扶養親族とは、簡単に言うと納税者と生活をともにし、所得が基準以下である配偶者以外の人を指しています。
例えば、社会人になった子どもが失業して、生活費を親が負担しているケースでは控除対象扶養親族となり、扶養控除等申告書を提出すれば扶養控除を受けられます。しかし、このケースにおいて申告漏れになっているケースが少なくありません。
控除対象扶養親族とは?
控除対象扶養親族について詳しく見ていきましょう。
控除対象扶養親族とは、その年の12月31日の現況で、下記の4つの要件に当てはまる16歳以上の人を指しています。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること (給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
(参考:扶養控除丨国税庁)
親の扶養控除を忘れていませんか?
子どもだけではなく、親の扶養控除を忘れている人も多く見られます。親と同居して生活費を負担している場合、一人当たり58万円の控除の適用を受けられます。
また、同居していない場合でも、生活費の仕送りをしていれば生活をともにしていると認識されるため、48万円の控除の適用が受けられます。血縁の要件もないため義理の父母でも問題ありません。
配偶者以外の控除対象扶養親族の控除額は下記のようになっています。
区分 | 控除額 | |
一般の控除対象扶養親族(16歳以上) | 38万円 | |
特定扶養親族(19歳以上23歳未満) | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
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先述した通り、年末調整は基本的に10月下旬から11月頃に始まり、1月下旬までに完了します。
まずはじめに、労務担当者が税額を算出するために必要な情報を社員に提出してもらうことから始まります。この書類を作って出すまでの過程を「年末調整手続き」と呼びますが、必要な申告書を出せば「年末調整が終わった」というわけではありません。
書類を出したあとは労務担当者が整理し、「所得控除」の計算に用いられます。このとき、提出した書類に間違いがある場合は年末調整業務のやり直しとなり、遅延が生じかねません。したがって、労務担当者は書類に記載されている内容が正しいか確認する必要があります。
提出する従業員もまた、間違いがないように気を付けましょう。
年末調整で提出が必要になる書類
年末調整で提出が必要になる書類には、下記のものがあります。
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の所得金額調整控除申告書
これに加えて上記で解説した「基礎控除申告書」と「扶養控除等(異動) 申告書」も必要になります。
それでは1つずつ解説していきます。
配偶者控除等申告書
従業員に配偶者がいるのであれば、配偶者の所得によって配偶者特別控除や配偶者控除の適用を受けられます。配偶者控除等申告書には配偶者の名前やマイナンバー、生年月日、その年の所得などを記載する必要があります。
保険料控除申告書
生命保険料や地震保険料などの保険料の支払いに使ったお金は、各種の保険料控除として所得から差し引くことができます。
保険料控除証明書には、支払った保険料の金額や保険会社の名前を記載する必要があります。また、保険料控除証明書を提出する際には、地震保険や生命保険の控除証明書も同時に求められるため用意しておきましょう。
所得金額調整控除申告書
所得金額調整控除申告書は2020年分(令和2年)の所得税から新設された制度です。
給与所得控除額の改正(一律10万円の引き下げ)によって、年収850万円以上の人の負担が重くなってしまいました。これにより、一定の要件を満たす場合は、引き下げられた10万円を超える引き下げの影響を考慮して、所得金額調整控除の制度が生まれました。
本人が特別障害者に該当する場合や、特別障害者である同一生計配偶者や扶養親族を有する場合、23歳未満の扶養親族を有する場合などが対象となります。
まとめ
ここまで、年末調整に関して解説しました。「会社から毎年書類提出を求められるけれど詳細はよくわかっていない」という人が多いですが、正しく理解すれば適切な控除を受けることができ、損をすることもありません。
この記事を参考に、ご自身に当てはまる項目がないか、今一度確認してみても良いでしょう。
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