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「シリコンバレー」に学ぶイノベーションを生むためのマネジメントのあり方

「シリコンバレー」に学ぶイノベーションを生むためのマネジメントのあり方

組織が成長し続けるためには、新たな技術やビジネスモデルを生み出すイノベーションが必要不可欠。しかし、イノベーションを起こすのは簡単ではありません。

ただ、すでにイノベーションを起こしている組織から何かを学ぶことはできます。

この記事ではチームを率いるマネージャーのあるべき姿を解説するとともに、2018年4月に出版された『シリコンバレー式 最高のイノベーション』(スティーブン・S・ホフマン 著/関 美和 訳)で紹介されているイノベーションが起きる組織の条件とどのように重なるのかを見てみます。

そして、イノベーションが起きやすいチームを作るために、どうマネジメントするべきかを考えていきます。

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マネージャーが犯しがちな「3つの間違い」

自分自身が優秀なマネージャーや面倒見がいいマネージャー、真面目なマネージャーほど犯しがちな間違いが3つあります。

以下ではこの3つの間違いで直結する失敗例をもとに、マネージャーのあるべき姿を解説していきましょう。

1.部下の仕事のやり方にたびたび口出しする

「営業先の書類はすぐに取り出せるこの引き出しに入れて、滅多に使わないマニュアル類は引き出しの奥に入れてもかまわない。それと……」

こんな具合に手取り足取り仕事を教える人もいるかもしれません。ですが、これはマネージャーとして間違ったあり方です。

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マネージャーとして、やるべき仕事は?

では、マネージャーとして正しいあり方とは一体何でしょうか?
上司としての仕事という視点に立つと、マネージャーとして必須な仕事は3つまで絞られるのです。

  1. 「自分にしか判断できない問題について決断を下すこと」
  2. 「部下に目標を与えること」
  3. 「部下が目標に対して出した結果を評価すること」

その一方で、部下の仕事は「与えられた目標を達成するための方法を考え、結果を出すこと」でしょう。

親切に手取り足取り教えるのは、部下の仕事を奪っているのと同じとも言えます。

部下の仕事に口を出す弊害

また仕事のやり方に口や手を出し続けると、2つの問題が生じます。

1つは「自分の仕事に責任を持たなくなる」という問題です。

部下は上司から与えられた目標を達成する責任があります。しかし、その責任はあくまで目標を達成するための方法を自分で考え、初めて生まれるものです。

上司が口を出して「こうやってやればいいから」とやり方を押し付けてしまうと、「上司が決めたやり方をそのまま実行したのだから、結果は上司の責任だ」という思考に陥ります。

仮に与えられた目標を達成できなくとも、「自分は悪くない」と考えてしまうのです。

もう1つは「自分で考えなくなる」という問題です。

目標を達成するための方法を考えるのは、部下が自分の権限で創意工夫できる部分です。

しかし、上司が細かくやり方を指示してしまうと、部下は「自分のやり方を考えても無駄だな」と考えるようになります。

自分の頭で考えない、指示待ち人間の出来上がりです。

こうした事態を防ぐためには、マネージャーは前述した3つの仕事に専念し、部下の仕事を奪わないように注意するべきなのです。

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2.プロセスやモチベーションを評価する

「結果は出なかったが、このアプローチは良かったぞ。次回は頑張れよ」
「お前は数字を出しているが、モチベーションが感じられないな。もっとやる気を出していこう」

このように結果に至るまでのプロセスやモチベーションを評価し、結果の評価と混同しているケースは少なくありません。

結果を評価すればプロセスも正しく評価することになるので、結果を評価することは最も平等なことなのです。

結果だけを評価することが、本来のマネージャーとしてあるべき姿だといえます。

結果だけの評価が必要なワケ

というのもプロセスやモチベーションは、上司であるマネージャーが認識できる範囲(主観)でしか評価できません

仮に部下が上司の見えないところで試行錯誤を繰り返していたとしても、あるいは退社してからセミナーに参加したり、資格の勉強をしたりしていても、上司はその行為を評価できないのです。

これに対して結果は「与えられた目標をどれだけ達成できたか、できなかったか」という厳然たる事実を示すものです。そこに上司の主観が入り込む余地はありません。結果を評価するということはプロセスも評価されます。主観が入らなければ上司の好き嫌いで評価が変わることもありません。したがって、マネージャーは常に結果だけを評価するべきなのです。

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3.すべての部下に経営理念を理解させようとする

「理念を書いたカードを全社員に携帯させる」
「毎朝朝礼で経営理念を唱和させる」

理念経営をうたう企業の中にはこうした施策を打ち、成功させているところもあります。しかし成功する企業はごくまれで、たいていの場合は失敗に終わっているのが実情です。なぜなら、そもそもすべての部下に経営理念を理解させるのが間違いだからです。

部下に経営理念を理解させるのはNG!

経営者やマネージャーなど、組織を引っ張る人間と、新入社員と平社員など何の役職も持たない人間では、どうしても見ている景色が違うものです。より組織の上にいる人間ほど、より先を見据え、経営理念を語ることができるよう「大きな物語」を見る必要があります。

一方で目の前の仕事で精一杯の新入社員や平社員が「大きな物語」を見てしまうと、目の前の仕事と経営理念がリンクせず、「この仕事にどれだけの意味があるのか」と立ち止まってしまいます。これでは組織は機能しません。

マネージャーは部下に経営理念を理解させるのをやめ、彼らには上司に与えられた目標(=小さな物語)を見るように仕向けなければならないのです。

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正しいマネジメントが生み出す「イノベーション環境」

ここまでは説明してきた「3つの間違い」をもとに、マネージャーのあるべき姿を解説してきました。これらはそのまま「イノベーション環境」を作るマネジメントがするべきことに重なります。ここからは『シリコンバレー式 最高のイノベーション』で紹介された「イノベーションの条件」のうち「多様性」「小さく、少なくやる」を取り上げて、この条件を満たすためにマネージャーがするべきことを解説します。

イノベーションは「多様性」から生まれる

ところで、シリコンバレーの成功のカギがテクノロジーでないなら、いったい何だろう?知性でないことは確かだ。頭脳は成功のカギではない。それよりもはるかに重要なのは、勢いと多様性だ。

引用:『シリコンバレー式 最高のイノベーション』p38

スティーブン・S・ホフマンは、イノベーションのカギを「勢いと多様性」だと説明しました。そしてシリコンバレーという場所が持つ多様性について指摘しています。

様々なバックグラウンドを持つ人間が集まる

1つはさまざまなバックグラウンドを持った人間が一堂に会しているという点です。シリコンバレーで開かれるイベントでは、一度開くだけで「インド人投資銀行家、韓国人脳科学者、エストニア人デザイナー、チリ人ボタニスト、中国人ベンチャーキャピタリスト、エジプト人数学者、タイ人起業家とアイディアを交換できる」とホフマンさんは言います。スタートアップ企業の人間にとって、シリコンバレーは新しいアイディアを見つけ、ビジネスの手法を見つけるための人材の宝庫だと言えます。

異分野・異文化のコラボレーションが進んでいる

もう1つはこうした環境だからこそできる異分野・異文化のコラボレーションが進んでいるという点。シリコンバレーでは人類学と言語学とコンピュータサイエンス、音楽家とハッカー、アメリカとアジア、ヨーロッパと中東など、普通なら出会わない分野や文化が出会い、まだ誰も見たことがない新しい何かを創り出すこと(=イノベーション)が可能になっているのです。

センター・フォー・タレント・イノベーション(CTI)の調査によれば、性別・人種・性的指向において多様性を持つ会社は、多様性のない会社に比べて前年と比べた市場シェアを伸ばす確率が45%高く、新市場を獲得できる確率は70%高いとされています。

このことからも、組織の成長のためには多様性がカギになっていることが分かります。

多様性を前提とした評価

「部下に自分の仕事のやり方を押し付ける」「部下を自分の主観で評価する」……。

こうしたやり方は、組織の多様性を低下させるのです。仕事のやり方まで管理しようとするマネジメントは、部下やチームを自分の色に染め、最終的に個人個人は均一化してしまいます。上司が認識できる範囲でしか評価しなければ、チームのパフォーマンスはマネージャーのパフォーマンスに依存してしまい、チームの伸びしろがマネージャーの伸びしろと同じになります。

こうして組織としての多様性は失われていくのです。

確かに組織の多様性を確保するためには、採用、制度面の改善も必要でしょう。しかしたとえ採用方針や制度を変えて多様性を確保しても、「マネージャーのやり方や主観だけが正しい」と考えていてはいけません。「部下なりの仕事のやり方」を認め、「結果だけを評価する」ことが、多様性を確保する前提となるのです。

「小さく、少なくやる」がイノベーションを生む

 

ホフマンは、あらゆる面で「小さく、少なくやる」ことでイノベーション環境が生まれると言います。前掲書で触れている項目は以下の通りです。

 

アイディア 大規模なイノベーションのプロジェクトは問題が複雑化し、失敗に終わりやすい。小さくてシンプルな問題を解決するためのアイディアを考える方がイノベーションは起きやすい。チームが小さい物事から考えられるように環境と構造を整備する必要がある。
人数 理想のチーム人数は「ピザ2枚でお腹いっぱいになる人数」。それ以上では多すぎるし、それ以下では少なすぎる。仕事のスピードを維持することと、メンバー間の親密度を高めるためには、適度な少人数チームが良く、イノベーションが起こりやすくなる。
予算 予算は少ない方がいい。大きな予算を確保してしまうと、楽観的になるばかりか、一度決めた計画を修正しづらくなり、失敗につながりやすい。慎重になれて、かつ臨機応変に軌道修正を行うためには、予算は少なく収めるべきだ。
時間 イノベーションは短距離走と休憩時間のバランスが重要になる。結果を出すまでの締め切りは短く設定するべきだ。高い集中力が発揮され、思いもよらないイノベーションにつながる。
範囲 最初から大きな範囲で、完璧にやろうとすると失敗に終わる。イノベーションを起こす段階では、アイディアの核の部分だけにフォーカスするべきだ。自分たちがしていることが顧客に受け入れられるかを確かめてから、より広い範囲に拡大すればいい。

 

とにかく「小さく、少なくやる」ことが大事だと説いています。会社という組織においては、「小さく、少なくやる」ための環境を経営者やマネージャーが作る必要があります。そのために経営理念を、すべての部下に浸透させる必要はありません。イノベーションを起こすために、チームにはできるだけ小さな物語に集中させる必要があるからです。

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正しいマネジメントでイノベーションを生み出そう

せっかくイノベーションが起こせるチームを作ったとしても、そのマネジメントが悪ければイノベーションの芽はつぶれてしまいます。『シリコンバレー式 最高のイノベーション』で挙げているイノベーションの条件を知り、その条件を満たすためにマネジメント側に何ができるのかを考えてみましょう。

 

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