2020/08/17

部下を育てたかったら、プロセスを管理せずに、結果に責任をもたせよう

「部下がなかなか育たない」
そんな悩みを抱えている上司が多いという調査結果があります。
その原因は何でしょうか。
どうしたら自分の頭で考え、主体的に行動し、成果を出せる部下を育てることができるのでしょうか。

 

 部長の95.8%がプレイヤーとマネジャーを兼務

 

まず、産業能率大学総合研究所が行った「上場企業の部長に関する実態調査」の結果をみてみましょう。

 

部長の悩みは「部下が成長しないこと」

以下の図1は、「部長として悩みを感じること(複数回答)」の割合を表しています。


図1 部長として悩みを感じること
出典:*1 産業能率大学(2019)「上場企業の部長に関する実態調査」(複数回答)https://www.sanno.ac.jp/admin/research/buchou2019.html

第1位は「部下がなかなか育たない」で、42.9%、こうした悩みを抱えている部長が多いことがわかります。

 

部長はプレーヤー兼マネジャー?

次に、同じ調査から、興味深い、別のデータをみたいと思います。
以下の図2は部長がマネジメントに専念しているのか、それともプレイヤーを兼務しているのか、その割合を表しています。

図2 プレーヤーとしての仕事の割合
出典:*1
産業能率大学(2019)「上場企業の部長に関する実態調査」(複数回答)https://www.sanno.ac.jp/admin/research/buchou2019.html

プレイヤーとしての仕事の割合が0%の部長はわずか4.2%、つまり部長の95.8%がプレイヤーとマネジャーを兼務していることがわかります。
これは何を意味するのでしょうか。

 

 部下はこうして成長させる~全面的なデリゲーションの重要性

筆者は以前、
[ デリゲ―ション=仕事を任せること ]
をテーマにして、以下のような記事を書いたことがあります。

スティーブン・R・コヴィーが指南する 「デリゲーションはマネジメントの要」

そのポイントを挙げると、

  • デリゲーション能力の有無がマネジメントの質を決定する
  • あれこれ細かく指示する「使い走りのデリゲーション」ではなく、全面的なデリゲ―ションが必要である
  • 仕事のやり方をいちいち指定して管理すると、スタッフはいつまでたっても仕事に責任をもたない
  • 信頼されていると思えば、人は自分の最高の力を発揮する

となります[1]。

これを、上司と部下にあてはめて考えてみましょう。

まず、部長クラスの上司は、部下に仕事を任せて、部長が本来すべきこと―マネジメントに専念すべきです。
ところが、先ほどみたように、実際には、ほとんどの部長がプレーヤーとマネージャーを兼務しています。

こうした実態は、デリゲーションが不十分であるということを意味します。
部下がなかなか育たない原因の一旦は、ここにあるのではないでしょうか。

上司からみれば、部下のやることは心許なく、気になることばかりで、すぐに指導したり修正したりしたくなるのは当然です。
また、そうすることが部下を成長させるのだと捉えている人もいるでしょう。

でも、上司が部下のやり方にいちいち口を出すと、部下はそれに従ってさえいればいいのだと考え、主体性をなくし、仕事の結果にも責任をもちません。
有能な部下にとっては、主体的に動きたくても動けない、こうした状況はストレスフルでしょう。

上司が部下に仕事を任せない、あるいは任せたとしても細かいことにまで口を出すというやり方は、結果として指示待ちの部下を作り、部下の成長を著しく阻害することになってしまいます。

 

優秀な上司が部下の成長を阻害することもある

印象的なエピソードがあります [2]。
『三国志』の登場人物、諸葛孔明(181年234年)。
天才政治家・軍師として誉れ高い孔明ですが、実は部下を育てるのが不得手だったのではないかということを暗示するエピソードが残っているのです。

孔明が病に倒れ、生命が危うくなってきたとき、孔明は敵将の司馬懿の元に使者を送りました。
司馬懿がその使者に孔明の働きぶりを尋ねると、
「朝は早くから夜は遅くまで執務をしている。どんなに細かい仕事でも部下任せにせず、自分で処理する」
と使者は答えました。

孔明は、その10年あまり前に蜀を攻め、蜀の支配者となりました。
そこに至るまでの戦では、なかなか勝利をおさめられず、
「蜀にこれほどの人材がいるとは」
と言っていたのにもかかわらず、蜀の支配者としての最後の戦いでは、一転して、
「蜀には人材がいない」
と嘆いているのです。

このことから、部下に任せず、なにもかも孔明が自分で抱えこみ、判断し、指示を出し続けた結果、部下が自ら考え判断し主体的に動くことを阻害し、優秀な部下を潰してしまったのではないかという解釈が成り立ちます。

孔明にまつわるもうひとつのエピソードは、さらに切実です。
それは、「泣いて馬謖を斬る」。

馬謖は孔明が後継者として期待をかける、非常に有能な部下でした。
ある時、孔明はある場所を攻略するにあたり、
「陣地を山上に築いてはならない」
と再三にわたって馬謖に命じました。

ところが、馬謖はその命令に背いて、陣地を山上に築いた結果、敵軍に包囲され、水源地を奪わ
れて、降参に追い込まれます。
孔明は軍律を遵守するため、泣きながら、愛する部下である馬謖を斬ったというエピソードです。

現在、この「泣いて馬謖を斬る」は、「どれほど優秀な人、愛する者であっても、法に触れることをしたら処罰しなければならない」という意味で用いられています。


では、なぜそれほどに有能であった馬謖が、孔明に逆らい、孔明のしてはいけないということをわざわざしたのでしょうか。

解釈は2つ。
ひとつは、孔明には人を見る目がなかったという解釈です。
馬謖が有能であるというのは孔明の思い込みであって、実際には馬謖はむしろ無能であるにもかかわらず、孔明はそれを見抜くことができずに重用してしまったというわけです。

もうひとつの解釈は、馬謖が有能であるからこそ、基本的な戦略を繰り返し言い渡す孔明に反発し、敢えて命令とは逆のことをして、それでも勝利できたのだと、自分の才覚を孔明にアピールしたかったのではないかというものです。
どちらの解釈が正しいかはわかりません。
でも、いずれにしても、孔明ほどの人物であっても、部下をうまく育てられなかった、有能なはずの部下に成果を上げさせることができなかったという意味で、非常に示唆的なエピソードではないでしょうか。

部下に仕事を任せる。
そして、任せるからには、上司は口出しをせずに、その方法を全面的に部下に任せ、結果に責任をもたせることが大切です。

 

 成長型マインドセットとは

 

部下に仕事を任せ、その過程を細かく管理することはやめる。
そのことの有用性についてお話ししてきましたが、ここでは、そのことに関する、もうひとつの効用についてみていきたいと思います。

 

部下から「失敗する機会」を奪わない

それは、
「部下の失敗を回避しない」、
いい換えれば、
「部下から失敗する機会を奪わない」
という考え方です。

全面的に任せる以上、
「失敗しても、しかたがない」
のではなく、
「成長には失敗が欠かせない」
と失敗を肯定的に捉えるのです。

それはどういうことでしょうか。

 

マインドセットが成長するかどうかを決める

最近、「マインドセット」(思考傾向)という言葉をよく耳にするようになりました。

人であれ組織であれ、そのマインドセットによって、成長するかどうかが分かれる。
そうした事実を示唆する実験結果があります [3]。

その実験の目的は、被験者が失敗したときに、脳内でどのような反応が起こるのかを明らかにすることでした。
実験方法は単純で、5つ並んだアルファベット(例えば、AAAAA、BBGBB)のうち、真ん中の文字をただ答えるというものです。

注目したのは、ふたつの脳信号です。

ひとつは「エラー関連陰性電位(ERN)」、自分の失敗に気づいたとき、0.05秒ほどで自動的に現れる反応です。
もうひとつは「エラー陽性電位(Pe)」、失敗の0.2~0.5秒後に生じる信号で、自分が犯した間違いに意識的に目を向けるときに現れる信号です。

「ERNは単純に失敗に気づいたときの反応」、
「Peは失敗に意識的に着目して、そこから学ぼうする反応」
と考えていいでしょう。

そこで、この実験では、被験者を
「成長型マインドセット(growth mindset)=知性も才能も努力によって伸びると考える思考傾向」と
「固定型マインドセット(fixed mindset)=自分の知性や才能は生まれつきのもので、変えることはできないと考える思考傾向」
に分けて実験結果を比較しました。

すると、ERNの関してはどちらのタイプも強い反応が出ましたが、Peに関しては大きな差が出ました。
成長型マインドセットの被験者のうち最も高い数値を示した人と固定型マインドセットの被験者のうち最も高い数値を示した人とでは、前者が後者の3倍の値だったのです。

さらに、この実験では、Pe反応が強い被験者ほど失敗後の正解率が上昇するという結果も出ました。
つまり、失敗に目を向ける人ほど学習効果が高いという関連性がみえてきたのです。

人でも組織でも、失敗から逃げれば何も学べない。
一方、失敗に真正面から取り組めば成長できる。
つまり、失敗から学べる人と学べない人との差は、その受け止め方にある。
成長型マインドセットの人は、失敗から目を逸らさず、失敗を自分の成長に欠かせないものとしてごく自然に受け止めている。

実験から見えてきたのは、以上のようなことです。

したがって、失敗を恐れ、上司があれこれ口を出し、失敗を回避させようとすることは、部下から成長するチャンスを奪うことになるのです。

大切なのは、失敗の後です。
失敗を悪と捉えず、なぜ失敗したのか部下自身がじっくり考え、分析することが必要です。
そうした経験が思考力や判断力を育み、部下を成長させます。

 

 報告させるのは「今回の結果」と「次の結果」

 

ビジネスは、そう簡単にいい結果を出せるものではありません。
でも、大切なのは、うまくいかなかったとき、そこから何を学ぶかです。
そして、学んだことを次に生かすことです。

そのためには、部下に「結果」を報告させ、今後どのようにリカバリーするか、目標はどう修正するか、新たな目標設定はどうするか、それらを具体的な数値で報告させることが重要です。
そして、期限を切って、「次の結果」をまた報告させます。
その様子をみて、部下が設定した目標では達成することが難しそうなら、少し低めに設定し直します。

上司が管理すべきことは結果であって、プロセスではありません。
プロセスは部下に任せ、部下に責任をもたせ、部下の成長を促しましょう。


*1産業能率大学(2019)「上場企業の部長に関する実態調査」https://www.sanno.ac.jp/admin/research/buchou2019.html
*2スティーブン・R・コヴィー著 フランクリン・コヴィー・ジャパン訳(2015)『完訳 7つの習慣』 キングベア―出版
*3篠原信(2016)『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 電子書籍版
*4マシュー・サイド(2016)『失敗の科学』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン(デジタル版)

参考・引用
[1] *2:pp.232-233、p.243
[2] *3:「優秀な人が指示待ち人間をつくる<序章 三国志に学ぶ理想のリーダー像」
[3] *4:「成長する人の脳内で起こっていること<失敗から学習する組織、学習できない組織」

エビデンス キャプチャ

[1] https://drive.google.com/drive/u/0/folders/1vPGSHzFnBQf5TNotPoByywFBqmBNLa0n?lfhs=2

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