企業が中途採用を行う場合、採用候補者の前職での働きぶりがわかった方が、ミスマッチが少なくなります。
このような観点から、外資系企業を中心として行われているのが、調査会社等を通じた「リファレンスチェック」です。
リファレンスチェックを行うことには、採用に慎重を期すという観点から、企業にとって多くのメリットがあります。
ただし、実際にリファレンスチェックを行う場合には、個人情報保護法や内定取り消しとの関係で、法律上の論点に留意しなければなりません。
この記事では、リファレンスチェックの概要および法律上の留意点について解説します。
リファレンスチェックの実施を検討している企業経営者・担当者の方は、採用候補者との間のトラブルを防止するための参考にしてください。
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目次
リファレンスチェックとは?
リファレンスチェックとは、中途採用候補者の働きぶりなどについて、前職(または現職)の職場の上司や同僚などへのヒアリングを行うことをいいます。
履歴書や面接だけでは、採用候補者の資質や性格を正確に把握するのは困難です。
採用候補者のことをより深く知るためには、以前に一緒に働いたことがある人に実態を教えてもらうのが効果的です。
そこで、企業の採用方針と中途採用者の資質・性格との間のミスマッチを防ぐために、外資系企業を中心としてリファレンスチェックが行われています。
企業にとっては、従業員の採用には大きなコストとリスクを伴うため、リファレンスチェックを行うことは合理的といえるでしょう。
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リファレンスチェックの質問項目例
リファレンスチェックでは、採用候補者の仕事における資質・性格を窺い知るため、さまざまな観点から質問が行われます。
代表的な質問項目例を、いくつかのカテゴリーに分類してみます。
①基本的な事項
まず基本的な点として、以下の事項などは最低限質問されます。
・担当業務の内容
・勤続年数
採用候補者が、履歴書や面接で述べている職務経験を本当に有しているのか、確認する必要があるからです。
②職務上の成果に関する事項
成果を重視する観点からは、以下の事項などが質問されます。
・職務上の実績
・ミスをした際にカバーした実績およびその方法
ポジティブ・ネガティブの両局面において、採用候補者がどのような仕事ぶりを発揮するのかを、実績ベースで窺い知ることができます。
③採用候補者の能力評価に関する事項
リファレンスチェックの大きな目的として、実際の仕事現場における採用候補者の働きぶりの「印象度」を知ることがあります。
したがって、採用候補者の能力に対して、前職の上司や同僚がどのような印象を持っているかについても、質問項目に含まれます。
・採用候補者の長所、短所
・業務上の改善点
④採用候補者の持つ「魅力」に関する事項
中途採用によって新たに従業員を迎える際には、その者が「魅力的な」人物かどうかも重要です。
言い換えれば、「その人と一緒に働くことで、既存の従業員にストレスが生じないか」という点を確認することも、リファレンスチェックの大きな目的の一つといえます。
・上司、同僚、部下とのコミュニケーション
・同僚としての働きやすさ
・採用候補者の人柄
・採用候補者とまた一緒に働きたいと思うかどうか
リファレンスチェックは個人情報保護法に注意
中途採用時にリファレンスチェックを行う場合、企業は個人情報保護法の規制に留意しなければなりません。
リファレンスチェックには採用候補者の同意が必須
もっとも基本的な留意事項は、リファレンスチェックを行うには採用候補者本人の同意が必要ということです。
リファレンスチェックによって得られるデータは、個人情報保護法上の「個人データ」に該当します(同法2条6項)。
そして、リファレンスチェックを「受ける側」の前職企業は、個人データを第三者に提供する際、候補者本人の同意を取得することが義務付けられています(同法23条1項)。
つまり、候補者本人の同意がない場合には、前職企業がリファレンスチェックに応じてくれることはないのです。
リファレンスチェックを実施する企業としては、候補者本人の同意書などを示したうえで、前職企業に協力を求める必要があるでしょう。
情報管理を徹底する
さらに、リファレンスチェックによって得た個人データについては、企業は以下のとおり取り扱いに留意する必要があります。
・不要となった個人データは、遅滞なく消去する(同法19条)
・個人データの漏えい、滅失、毀損などを防ぐための安全管理措置を講じる(同法20条)
・個人データを取り扱う従業員を適切に監督する(同法21条)
さらに、リファレンスチェックを外部の調査会社に行わせる場合には、個人データの安全管理に関する外部委託先の監督も必要です(同法22条)。
リファレンスチェックの結果に基づき採用を拒否する場合の注意点
リファレンスチェックの結果が芳しくない場合には、企業は候補者の採用を拒否することになるでしょう。
その際、すでに内定を出しているかどうかで、採用拒否のハードルが異なる点に注意が必要です。
内定取り消しは違法の可能性が高い
リファレンスチェックの結果を理由として、すでに出した内定を取り消すことは、違法の可能性が高いといえるでしょう。
最高裁の判例上、内定が出された時点で、企業と候補者の間で労働契約が成立すると解されています(大日本印刷事件、最高裁昭和54年7月20日判決)。
よって、内定取り消しは法的には「解雇」であり、労働契約法16条に定められる「解雇権濫用の法理」が適用されます。
「解雇権濫用の法理」に従うと、客観的に合理的な理由がなく、社会的相当性を欠く解雇は違法・無効です。
たとえばリファレンスチェックの結果、
「一緒に働きづらそうな印象を受けた」
「前職の経験にそれほどインパクトがなかった」
などのふわっとした理由で内定を取り消すことは違法となります。
これに対して、
「経歴詐称が発覚した」
「前職で重大な懲戒処分を受けていた」
などの致命的な問題点が発覚すれば、内定取り消しが認められる可能性もあるでしょう。
しかしその場合でも、一度内定を受けた候補者が反論し、法的トラブルに発展することも十分考えられます。
内定を出す前にリファレンスチェックを行うべき
内定を出した後でリファレンスチェックを行っても、問題が発覚した場合に内定を取り消すことは困難です。
そのため企業としては、内定を出す前にリファレンスチェックを行うべきでしょう。
内定前であれば、企業には採用の自由がありますので、基本的にどのような理由であっても採用を拒否することが可能です(性差別に当たる場合などを除く)。
まとめ リファレンスチェックはうまく活用しよう
リファレンスチェックには法律上の論点が存在しますが、うまく活用すれば、企業にとって人材採用の成功率を上げることに繋がります。
特に、一人の従業員に大きな責任や役割が課される中小企業では、中途採用の失敗を防ぐため、リファレンスチェックの効用は大きいと考えられます。
もともとリファレンスチェックは外資系企業のプラクティスでしたが、近年では日系企業の一部でも、リファレンスチェックを実施する例が増えています。
中途採用を意欲的に行っていこうと考えている企業経営者・担当者の方は、リファレンスチェックの導入を一度検討してみてはいかがでしょうか。
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