成功する起業家の特徴とは?20代で起業した渡邉美樹氏に学ぶ「簡単で唯一の条件」

居食屋ワタミの創業者で、前参議院議員でもある渡美樹氏。
起業から10年となる1996年に株式を店頭公開し、その僅か4年後の2000年3月には東証一部上場を果たすなど、若手経営者時代に非常な勢いで話題になったことを覚えている人も多いのではないだろうか。
そのため当時、雑誌などでは多くの「渡特集」が組まれ、また様々な講演会などで話を聞く機会があったが、その中で同氏から聞いた印象深い言葉がある。
「会社はヒト・モノ・カネというけど、違います。会社は人が全てなんです!」
というものだ。
そして居酒屋で起業を決めた時に、高校時代からの親友を「つぼ八」に”スパイ”として就職させ、自らは高給で知られる佐川急便に就職し起業資金を稼ぐ話へと進んでいく。

若手経営者時代の話なので、正直、今は考え方が変わっているかも知れない。
その前提ではあるが、同氏が講演会で語る言葉は熱く、多くの聴衆を惹きつけ、理路整然としておりとても魅力的に感じられた。

そして親友を「つぼ八」で修行させた後に呼び戻すのだが、実はこの親友、
「つぼ八」始まって以来初となる有名大学卒業の正社員で、創業者の石井誠二社長(当時)のお気に入りになってしまっていた。
そのため半年で店長、1年でスーパーバイザーに昇進してたところ、退職して渡氏と居酒屋をやると言ってしまう。
当然、石井社長は「俺を騙したのか!その男を連れてこい!!」と激怒してしまい、渡氏は石井氏に謝罪しに行くのだが、話の流れの中で自らの起業計画を語ることになった。
そして、その余りにも稚拙でどうしようもない計画に石井社長は、
「お前、このまま起業すると半年で借金を作り、佐川急便に戻ることになるぞ・・・」
と、ダメ出しをする。

最初はムクれて聞く耳を持たなかった渡氏だったが、その適確で現実的な助言に段々と考えを変え、そして石井社長から、ひとつのオファーを受けた。
「売上750万円、利益30万円の小さな直営店をお前にくれてやる。まずはそこで経営者としての修行をしろ。」

結果としてこのつぼ八・高円寺北口店は渡氏の創業の地になるのだが、同氏はこの店を僅か半年で売上1500万円、利益500万円を叩き出す繁盛店に変えてしまった。
そしてこの出来事をして、
「石井社長は私の恩人であり恩師です」
と、言い続けてきた。
どんな取材、どんなメディアに対してもその答えは変わらず、経営者として多くの事を石井氏から学んだことを今も語り続けている。

では渡氏は、この「創業の地」で石井氏から何を学んだのだろうか。
そしてどんな「魔法」を使い、小さな儲からない店を、大繁盛店に変えてしまったのだろうか。

 

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咄嗟に出た一言で局面が変わった

 

話は変わるが筆者は29歳の時に、大阪のある中堅メーカーでTAM(ターンアラウンドマネージャー)に就いたことがある。
TAMとは、経営が傾いている会社に赴き、その再建を担うことを期待されて働くポジションの人のことだ。
だがぶっちゃけて言うと、たかが29歳の若造の私に、そんな重責を遂行する能力など正直無かった。
ではなぜそんなポストに就くことになったのか。そして就けたのか。
有り体に言うと、今にも潰れそうな会社だったために他に引き受ける者がいなかったからだ。

しかし、なんとかして融資先・投資先企業の経営を改善させる必要がある。
そんなことで悩んだメインバンクの投資部長からの、明らかに「ダメで元々」というような誘いで受けることになった仕事だった。
「大手証券会社出身でエクイティに明るい」
「数字に強く、経営を定量化することに長けている」
などとおだてられたような覚えはあるが、きっと本気ではなかっただろう。

そして実際に仕事を始めると、その本当の意味での大変さを知ることになる。
このポジションで多くの人が経験することであろうと思うが、最初の壁は「仕事をさせてもらえないこと」だからだ。
ただでさえ、経営が傾いた会社の従業員は士気が地に落ちており、経営陣に対して負のエネルギーが蓄積している。
そこに、何も知らない29歳の若造が、「経営企画責任者です」などと言って取締役として入ってくるのだから、きっと容易に想像がつくだろう。
誰に何を頼んでもまともに取り合ってもらえず、経理資料の一つを貰うにも苦労する有様だった。

そんなある日、事件が起こった。
本社工場に出向き、生産管理の責任者の女性に生産日報としてどのようなものをつけているのかを聞いていた時のことだ。

「いつもどんな日報をつけているのか、過去の数字と併せて見せてもらえませんか?」
「それを見てどうするつもりなんですか?」
「・・・」
「今、私たちが毎日、どれだけの日報を書いているか知っていますか?」
「いえ、知りません。」
「3つです。同じようなフォーマットで社長向け、事業部長向け、工場長向けです。どうせ次は、あなた向けの4つ目を作れと命令しに来たんでしょ?」
「・・・」
「この無駄な日報を作るのに私たちは毎日、1時間以上サービス残業をしてるんです。偉い人は気楽でいいですね。どうせ見もしないくせに。それに見てもわからないでしょ?そのために私達はまた、帰宅が遅くなります。」
「わかりました。では私がサービス残業を0にすることを約束します。ですのでその3通と、データの出どころを私に下さい。」
「・・・え?」
「お願いします!」

追い詰められて咄嗟に出た言葉だったが、この言葉は効果的だった。
彼女はすぐにその3通のフォーマットと、データの出どころであるCSVデータを持ってきてくれると、どれだけ部下の心が折れているか、組織が崩壊寸前であるのかを危機感を持って聞かせてくれた。
それも無理はないだろう。
その3通の日報はどれも同じような内容なのに、レイアウトがバラバラで、一つ一つを手作業で入力する恐ろしく原始的なものだった。

(こんなものの為に、毎日1時間以上もサービス残業しているのか・・・)

一事が万事で、おそらく他にも似たような理不尽さを皆が感じながら、無駄で非生産的な仕事を強いられているのだろう。
その現実にイラッとした私はすぐに3通のフォーマットを1通にまとめ、CSV転写マクロを組むと、ボタン一つで必要な日報が生成される仕組みを作った。
そしてすぐに彼女のもとに行き、
「これからは、日報作成はこのボタンを押せば秒で終わります。社長にも事業部長にも工場長にも、このやり方で文句は言わせません。」
と約束した。
すると彼女は目を輝かせ、
「嘘!なにこれ魔法やん!」
「今まで私たち、なにしてたんよ!」
と、心からの賛辞を送ってくれ、これからは、自分にできる協力なら何でも喜んでするという約束もしてくれた。
実際に彼女は、この後、私のTAMとしての6年間の中で、最大のパートナーであり理解者として、経営再建に大きな役割を果たすことになってくれた。

この出来事は、私自身にとって本当に大きな転換点になった。
それは、人に何かをして欲しいなら、まずは自分自身が、相手にとって役に立てる人間であることを証明することだと。
もっとベタな言い方をすれば、誰かに何かをして欲しいなら、まず相手がして欲しいことを自分から提供することが先だということだと。
一方的に自分の要求だけ突きつけるような人間関係など、誰だって不愉快に決まっているのだから当然だ。

しかし理屈ではわかっているのに、多くの人が「仕事だから」という言い訳で、部下や同僚に対し「クレクレ君」になっていないだろうか。
自分は周囲に多くのことを求めるのに、自分は周囲に何も提供しない人を指す、ネットスラングである。
そんなビジネスパーソンは決して部下からの尊敬も勝ち取れないし、同僚からも嫌われる。
逆に言えば、どのようなことでもまずは、自分が先に与える側になれば相手は気持ちよくファンになってくれるということだ。

仕事ができるビジネスパーソンとは、いつもどんな瞬間も、
「どんな事をすれば、部下、上司、同僚、お客さんが喜んでくれるのか」
を先回りし、先にそれを提供しているギバーになっているだけに過ぎない。
この順番を変えるだけで誰だって、簡単に仕事で成功することも夢ではないと信じている。

 

結局どうやって繁盛店にしたのか

 

話は冒頭の、つぼ八・高円寺北口店のことだ。
氏が冴えない小さな店を大繁盛店に変えてしまった際にやったことは、実はたった一つのことだけだった。
それは、「お客さんが、されて嬉しいことを先回りしてすること」。
ただそれだけである。

具体的には、
「お客さんの目線の上から商品を提供しない」
「膝をついてお客さんと話す」
「今日もお仕事お疲れ様でしたと一言添えて、おしぼりを両手で出す」
といった程度のことである。
しかしどれも、されてとても気持ちよく、嬉しいことだ。
そして今でこそ、多くの居酒屋でこのような接客マニュアルが整備されているように、この心遣い一つでお客さんはリピーターになってくれる。
まさに、「人の考え方や振る舞いを変えるだけで、経営は劇的に変わる」というお手本のようなエピソードだろう。

このような原体験から、
「会社はヒト・モノ・カネというけど、違います。会社は人が全てなんです。」
と語る渡氏は当時、本当に魅力的な若手経営者だった。
もう20年も前に聞いた話なのに、TAMの時の経験と合わせ、
「相手がされたら嬉しいことを、先回りして提供する」
は、私の揺るぎない価値観になっている。

どんな小さなことでもいい。
トイレに行き、トイレットペーパーが切れかけたら端切れで便器周りを拭き取り掃除し、新しいペーパーをセットする。
A4用紙をホッチキスで止める時は、どこにどんな角度で針を打ち込むとページを開く人のストレスにならないかと真剣に考えてみる。
そんな事を自分に習慣づけるだけで、誰だって「人のために何ができるか」を真剣に考えられるようになれると信じている。
ぜひ、多くのビジネスパーソンに参考にして欲しいと願っている。

 

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