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人はなぜ社内改革に抵抗する?組織論から見る「何かを始めること」との向き合い方とは

人はなぜ社内改革に抵抗する?組織論から見る「何かを始めること」との向き合い方とは

変化が激しい時代です。
20年前は使われていなかったスマートフォンが社会にすっかり馴染み、AIやロボットが職場に入ってきました。
かつては10年スパンで変わっていたことが、今は5年、3年と短くなっています。数年前の技術があっという間に古くなります。
そんな中で、組織でも、IT化や、社内文化、労働時間の改革など、「何かを変革しなければならない」事態はどんどん増えています。

2020年に起きたコロナウイルスのパンデミックでは、オフィスでの仕事が難しくなり、また新たな規制ができるなど、多くの会社が働き方の変革を強いられました。
ところが、この変革、口でいうほど簡単なものではありません。
例えば、マネジャーであるあなたの部署がなんらかの変革を求められたとして、一番はじめに取り組むことはなんでしょうか?

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最初に必要なのは「止める」というプロセスである

 

多くの人が、何か新しいことを始めるときに、陥りがちなワナがあります。
それは、既存の仕事に加えて、何かをいきなり「はじめて」しまうことです。
つまり、既存のコトを終わらせないままで、「足し算」で考えてしまいがちなのです。

心理学者たちは、最初に必要なプロセスは『今までやっていることを止める』ことであると指摘しています。
「武器になる哲学・人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50」山口周(KADOKAWA)には、こうした心理学者の思考が紹介されています。

まず、ドイツの出身のアメリカの心理学者クルト・レビンは組織や個人を「変革するため」の方法として、「解凍・混乱・再凍結」という3段階からなるモデルを紹介しています。

第一段階の「解凍」は、今までの思考様式や行動様式を変えなければいけないということを自覚し、変化のための準備を整える段階です。当然のことながら、人々はもともと自分の中に確立されているものの見方や考え方を変えることに抵抗します。したがって、この段階ですでに入念な準備が必要となります。[1]

注目すべきところは、「変革」が「解凍」つまり、「やめること」から始まっていることです。
そしてこの「やめる」プロセスが最も難しいのです。

人間は変わることに抵抗する生き物です。
ものの考え方を変えたり、かつての方法を忘れて新しいやり方に移行することは、ほとんどの人にとっては苦痛なのです。まずはこれを心に刻む必要があるのです。

例えば、今の会社を辞めてほかの会社に行くのには、多大なエネルギーと努力が必要になります。人間関係も一から構築しなければいけませんし、ルールも変わります。仕事だって、一から覚えなおしになります。

組織が新しいことを始めるときも同じです。
今まで習ったことを一旦忘れて、新しい環境で一から覚え、一番の新入りとしてやり直さなくてはなりません。
組織や人が変わると言うのは、それくらいのインパクトを与えます。

だから、人々は必死に抵抗するのです。「変革は『慣れ親しんだ過去を終わらせる』ことで始まる」というわけです。

具体的には「なぜ今までのやり方ではもうだめなのか」「新しいやり方に変えることで何が変わるのか」という二点について、「説得する」のではなく「共感する」レベルまでのコミュニケーションが必要となります。[2]

ですから、最初にやるべきなのは、「今までのやり方を忘れる」痛みに耐えることなのです。「今までのやり方ではダメだ」を組織全体で共有することです。

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次にくる「混乱」に備えよ

 

さて、解凍が終わった次の第二段階にくるのは、「混乱」です。この段階もなかなか辛いものです。

第二段階の「混乱」では、以前のものの見方や考え方、あるいは制度やプロセスが不要になることで引き起こされる混乱や苦しみが伴います。[3]

ここでは「やっぱり前のやり方が良かった」という声が噴出します。
マネージャーであるあなたの仕事は、変化を拒否する人々を十分に実務面、精神的にサポートすることです。
つまり、リーダーたちは、変革した先に「やっぱり以前のやり方に戻したい」という言葉が出てくるのを、もはや当たり前のこととして「予測」しなくてはならないのです。

最初の「解凍」が不十分だと、このまま「昔がよかった」という声に押し流されて、改革が失敗するーー
これが多くの社会や職場、いたるところで見られる現実です。

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最終段階は「再凍結」です。

 

ようやく新しいものの見方が根付いて、定着する段階です。ここまできて、ようやく「快適な物」として、新しいシステムが定着していくのです。
ここまでの段階で長い時間がかかっていることに注目しなくてはなりません。過去の精算をしないまま、いきなり「変革」はできないのです。

同じことを違う心理学者もいっています。
再び本書から引用します。

同じことは、アメリカの臨床心理学者ウィリアム・ブリッジズも指摘しています。彼は人々が転機を乗り切るためのステップを、
「終焉(今まで続いていた何かが終わる)」→
「中立圏(混乱・苦悩・茫然自失する)」→
「開始(何かが始まる)」
という三つのステップで説明しています。[4]

ウィリアム・ブリッジズは組織ではなく、個人のキャリアについて指摘しているのですが、人生の節目を乗り越えたり、転機をモノにしたりといったセラピーでも同じことが言えるのだそうです。

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改革が失敗するのは「終焉の問い」に向き合わないから

 

本書の著者である山口周さんは、改革が失敗する理由は、「終焉の問いにしっかり答えないから」だと指摘しています。

ここに、多くの組織変革が中途半端に挫折してしまう理由があると、私は考えています。[5]

経営者は少なくとも10年先を考えていますが、現場の人はせいぜい1年程度しか視野に入っておらず、変革の必要性を認識するのが難しいというのです。
日本の政治や教育改革がなかなかうまく行かない理由も、ここにあるかもしれません。

筆者はまた、例えば、昭和から平成になったとき、日本人はうまく昭和を終わらせられず、「解凍」が不十分のままに混乱期に突入してしまったと言います。

私たちは、昭和という時代から平成への移行にあたって、「バブル景気の終焉」といみじくも表現される「終わらせる契機」を与えられていたにもかかわらず、結局は「あの時代は良かったね」と、山の頂上を振り返りながら下山する過程に終始してしまったのではなかったか。[6]

つまり、「終わらせること」には痛みが伴うけれど、きっちりやっておかないと、過去は亡霊のように現れて、暴れ出す。そこで、改革が中途半端になったり、同じことを繰り返さざるを得なくなるというわけです。

変革の難しさはまさにここにあります。

これらの心理学者の考察から、ビジネスパーソンが学べることは多いのではないでしょうか。

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参照
[1]-[6] 出典「武器になる哲学・人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50」山口周(KADOKAWA)

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