今回は、予算管理の概要をはじめ、導入する目的やメリット、必要な予算の種類、予算管理の手順などについて解説します。
「予算管理(budget control)」は、企業の経営において非常に重要な経営管理の手法です。しかし、予算管理が実際にどのような役割を担っているのか具体的に把握している方は多くありません。
この記事を通して予算管理を徹底的に理解することで、予算管理を効果的に行えるようになります。
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目次
予算管理の基礎知識
まずは予算管理の基礎知識について、会計管理や経営管理との違いも含めて詳しく解説していきます。
予算管理とは
「予算管理」は期初に立てた計画と期末の実績を分析・把握する作業のことであり、英語圏では「budget control」と呼ばれています。企業が理想の利益を上げるためには、短期・中期・長期的な予算目標を立て、それを確実に達成していく必要があります。基本的には、決算に合わせて1年ごとの予算を作成した上で、実際の活動内容や業績を期末に分析します。
さらに、分析結果を現場へフィードバックすることで今後の戦略や改善策を見出し、予算管理の「PDCAサイクル」を実現します。
そもそも予算とは
そもそも企業における「予算」とは、予め決めた売上目標や利益目標のことを指しており、「売上予算」「原価予算」「経費予算」「利益予算」の4つに大きく分けられます。「売上予算」は、市場の動きや為替変動によっても上下するため、期末に至るまでに売上予算を都度見直していくケースがあります。「原価予算」も仕入れ数や製造量を売り上げに応じて上下させるため、売上予算と同じく定期的な調整が必要です。予算管理においては重要なポイントは、売上・原価・経費といった各項目で「問題点と改善点を洗い出すこと」だと言えます。
予算管理と管理会計の違い
「管理会計」は企業マネジメントを目的とした会計のことを指し、英語では「Management accounting」と呼ばれています。ここで言う企業のマネジメント(管理)役とは、社長・取締役などの役員、または管理者などの経営者です。管理会計を行うことで、経営者が経営を管理するにあたって役に立つ情報を提供することができます。役立つ情報は業界・業種によって異なるため、管理会計に明確な基準はなく、導入の可否も企業によりけりとなっています。
予算管理と経営管理の違い
「経営管理」は、企業が経済活動の促進や目標達成のために意図的な調整を行う経営手法です。予算管理は経営管理の一つであり、その他に「生産管理」「販売管理」「労務管理」「人事管理」「財務管理」などがあります。予算管理は、売上予算や利益予算など明確な数値目標を出す作業にあたるため、経営管理の中でも重視されています。
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予算管理の目的とメリット
予算管理の目的とは一体なんでしょうか。企業における具体的なメリットについて解説していきます。
具体的な数値目標を全体で共有することができる
組織が掲げる目標を多くの人に伝えるには、具体的な数値を示すことが効果的です。月ごとに積み上げるべき数字を明確にすることで、1年間の売上目標が現実的に見えてくるでしょう。売り上げだけでなく、原価や管理費などの極力削減したいコストも目標として数値化します。そうすることで目標の曖昧さを回避でき、達成までの見込みや遅延具合を組織全体で把握できるのです。
経営資源を効率的に配分することができる
人材・物資・費用・情報などの経営資源には、いずれも限りがあります。企業を継続的に経営し、成長させるためには、経営資源を効率的に配分する必要があるでしょう。予算と実績がかけ離れていた場合、事業撤退の判断要素にもなり得ます。予算管理は、「どの事業にどれほどの経営資源を分配するか」「どうすれば分配作業を効率化できるか」といった分析に役立ちます。
改善点を見つけることができる
予算管理によって改善点を見つけることで、企業の損失拡大を防ぎ、経営が安定化する可能性があります。「目標達成に向けた行動は誤っていないか」といったプロセスの見直しを含め、早い段階で経営上の課題を発見することができるのです。例えば、市場や世界情勢の変化、為替変動などの影響で当初の目標が効果的ではなくなったとしても、予算管理を適切にできていれば数値的な異変に気付きやすいでしょう。
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予算管理に必要な4つの予算
予算管理において必要となる4つの予算、「売上予算」「原価予算」「経費予算」「利益予算」について解説します。
売上予算
「売上予算」とは、当期中に達成できそうな売り上げの予想、つまり売上高の計画を立てたものです。当初の売上目標や過去の売上実績を超える数値が理想的であり、それを前提として決定されます。
売上予算の算出は、前年までの売上成績や差異を参考にします。期初に決定する販売目標を、そのまま売上予算とすることも可能です。その場合は、算出された数値よりも高い目標を設定するケースがあります。売上予算は世情の変化など対外的な影響を受けやすいため、柔軟に調整していかなければなりません。
そのため、予算管理は「売上予算を確実に達成するための進捗管理」であるとも言えます。
原価予算
「原価予算」とは、製品の原材料やサービスの提供や仕入れに必要な費用など、あらゆる原価の計画を示します。仕入れ数や製造量は売り上げに応じて上下させるため、売上予算と同じく定期的な調整が必要です。
業種によっても異なりますが、モノづくりであれば売上目標を達成できる数の製品を造る必要があり、そのためにもまずは原価の計算が求められます。原価予算は生産計画と同時に作成するのが理想です。原価のほとんどは「原材料の価格」となり、市場の影響を受けやすいため定期的なチェックが必要となります。
経費予算
「経費予算」とは、売り上げ以外の面で企業が管理するべき費用のことです。安定した企業経営を続けるために必要な費用の見積もりだとも言えます。
企業を経営するにあたり発生するコストは、従業員の人件費や交通費、オフィスの光熱費や賃貸料、広告などの営業費、販売経路にかかる費用、出張やリサーチにかかる費用など様々です。経費予算は売り上げに直接作用するものではありませんが、コストを削減できれば最終的な売上アップに繋がります。
利益予算
企業経営の最大の目的は、もちろん利益を出すことでしょう。「利益予算」は、最終的な目標利益を出すために必要な売上や経費を数値化し、目標達成の目安にするものです。
実際の売り上げが予算に到達しなかった場合でも、原価と経費の削減に成功していれば利益予算を達成したことになる、という考え方もあります。利益予算は「売上-原価+経費」という計算式で算出しますが、過去の経営実績やデータから月単位・年間の売上予想をするため、「必要となる原価・経費の予測」や「次年度の計画予定」なども考慮する必要があります。
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予算管理の手順
予算管理では「PDCAサイクル」というものを実行していきます。予算管理の手順について具体的に見ていきましょう。
予算編成(Plan)
予算編成は、PDCAにおける「Plan(計画)」のステップです。経営目標を明確にした上で、目標達成のための手段や経営資源の分配方法を具体的に計画します。作成された予算に対する意見もすり合わせていく必要があるため、何度か修正を求められることもあるでしょう。
予算編成の方法は主に3つあります。経営陣が主導する「トップダウン方式」は、事前に策定した予算を末端部門へ分配させる方式です。「ボトムアップ方式」は、各部門で予算を作成し検討を重ねていく方式です。日本では、トップダウン予算とボトムアップ予算を参照して、最終的な調整を行う「トップダウン&ボトムアップ方式」を採用している企業が多く見られます。
予算に基づき実行する(Do)
PDCAにおける「Do(実行)」、予算計画に基づいて事業を実行していくステップです。事業は計画通りに進まないことも当然あることでしょう。
その場合は、計画が行き詰った原因を明らかにし、次の月以降など「今後の対策」を考えます。予算計画に沿って各部門が業務を行えるように、予算計画は常に参照できる職場環境が求められます。
予算実績の分析をする(Check)
PDCAにおける「Check(チェック)」のステップでは、予算と実行状況の比較・分析を行います。データ管理・分析システムを導入する企業も増えており、主に3つの分析手法が採用されています。
1つ目の「差異分析」では、月次予算と実績の差異を重点的に分析します。実績が予算に至らなかった予算項目があれば、原因を探って今後の改善策を考えます。
「進捗分析」は、期初から当月までの月次予算と実績を参照し、累計同士を比較する手法です。目標達成までの進捗を把握できるため、今後の対策を練るだけでなく、月次の予算配分の見直しにも役立ちます。
「見込み分析」は、実績と次月以降の月次予算を合わせて「実績見込値」を算出する手法です。「予算通りに計画を実行できる」と仮定した上で年間実績を示し、見込値を年次予算で割ることで「予算達成率」を簡易的に予測できます。
予算管理の改善をする(Action)
PDCAにおける「Action(改善)」のステップでは、現場へのフィードバックを行います。
頻繁にフィードバックを行うほど、現状の把握がタイムリーとなり、問題発生時にもスムーズに対応できます。フィードバックのタイミングは「1ヶ月ごと」や「3ヶ月ごと」など期間を明確にし、従業員の負担を少しでも減らすようにしましょう。
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予算管理をうまく行うためのポイント
予算管理を実施するにあたり、注意するべき点がいくつかあります。予算管理をうまく行うためのポイントを把握しておきましょう。
ルールと仕組みを明確にする
予算管理を策定したあとは、それを社内に浸透させる必要があります。部門や課など各組織で正しい情報を共有するためにも、予算管理者は予算管理の内容をしっかりと理解し、いつでも説明できるようにしておきましょう。
従業員側としても、ルールと仕組みを明確に示されることで「予算を達成する必要性」が見えてきます。スムーズに理解を深めるためにも、予算管理者は予算編成の段階から携わることがベストです。
予算管理システムを活用する
予算管理にあたり、「定期的なフィードバックを行う余裕がない」という企業には、ITツールである「予算管理システム」の活用をおすすめします。
予算管理システムには、各事業所から送信された情報を自動で集約・算出する機能などが備わっています。従来ならば、Excel入力など手動で行っていた作業を大幅に効率化できるでしょう。
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まとめ 予算管理は無駄なく効果的に
予算管理は、企業の利益に関わる重要な業務であり、経営管理における最重要ポイントです。
しかし、アナログで行う予算管理には膨大な時間と労力がかかります。無駄のない予算管理を行うためにも、予算管理システムの導入などで作業を効率化し、データ管理や状況の分析をスムーズかつタイムリーに行いましょう。
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