グローバル化やIT技術の革新で複雑化を極めるビジネスシーンにおいて、「U理論」という言葉が話題となっています。U理論は、課題に対して前例のない解決方法を見出し、組織にイノベーションをもたらす手法といわれています。
この記事では、U理論に関する基礎知識から、U理論が現在注目されている理由、具体的な実践ステップについて解説していきます。
目次
U理論とは?
U理論とは、組織や集団が過去にないイノベーションを起こすための実行力や、その能力を引き出すための実践的なプロセスです。
単なるフレームワークではなく、U理論におけるプロセスを通して集団や個人のポテンシャルを開放し、これまでにない未来を創造する方法を示しています。
U理論は、マサチューセッツ工科大学のオットー・シャーマー博士が、世界のトップクラスの経営者たちにインタビューするプロジェクトを任されたことから生み出されました。
オットー博士は、多くの経営者たちが、問題解決の「やり方」ではなく、当事者の「内面の状況」やイノベーションが起こる際の「意識変容」を重視していることに気が付きます。
オットー博士はこれを「出現する未来からの学習」と位置づけ、その時に現れる直感を捉えて行動に落とし込むステップを構成しました。
つまり、イノベーションが発生する際のプロセスを言語化したものがU理論なのです。U理論を活用することで、問題を作り出している思考を紐解き、全く新しい未来への行動基点を作り出すことができるとされています。
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U理論がいま注目される理由
グローバル化が進んだ現代では、ミクロレベルとマクロレベルの問題が絡み合い、複雑化が進んでいるといわれています。例えば、温暖化といった環境問題を考えてみても、何かひとつの課題を解決すればいいわけではありません。
どこかの国の特定の行動を規制すればいいわけではなく、人間の日常生活が密接に関わっているため、いわば全ての人類がステークホルダーといえます。このようなグローバルで複雑な問題は、人類史上、過去に例がありません。前例のない問題を解決するためには、過去の思考にとらわれていては新しい解決を導けないのです。
ビジネスシーンにおいても、現在は急速で予測不可能な変化が発生する複雑性を極めた時代といわれています。変化の激しい情勢において、人々は「過去の常識にとらわれていてはいけない」「過去に試した手法では通用しない」という意識を強めています。こういった時代背景から、イノベーションを重要視する声が高まり、U理論に注目が集まるようになりました。
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U理論の3つのプロセスと7つのステップ
U理論は、イノベーションを生み出す過程を3つのプロセスに分類しており、さらに具体的な7つのステップを設定しています。U理論の具体的な実践方法を紹介していきます。
U理論の3つのプロセス
オットー博士は、未来を具現化するプロセスを3つに分類し、それぞれの過程を辿ると「U」の字を描くと説明しています。
①Uの谷を下る:ひたすらに自己を観察して、過去の思考を手放していく
②Uの谷:内省して自分の源となる世界を知り、迎え入れる準備をする
③Uの谷を上る:直感をつかみ取り、行動に移す
まず始めに、自身の現状を客観的に観察・思考することで思い込みから脱却し、そのときに出現するアイディアやビジョンを言語化します。この、過去を手放して浮かんだ直感を実行可能な状態にまで昇華させるプロセスが「U」の字で表されているのです。
この3つのプロセスは、さらに細分化して具体的な行動ステップに落とし込まれています。
イノベーションを生む7つのステップ
U理論を実践するための7つのステップを、簡単に解説していきます。
ダウンローディング
ダウンローディングとは、過去の枠組みや思い込みのことです。
例えば、人は誰でも、相手の属性に合わせて話題を変えたり、立場によって本音と建て前を使い分けたりします。このように、私たちは日常生活を円滑にしたり、相手との衝突を避けたりするため、無意識のうちに過去の経験にとらわれた行動をとっているのです。
枠組みや思い込みにとらわれていると、経験のない事態に直面したときに、混乱して思考停止状態に陥ってしまいます。そのため、まずは集団や個人がどのような思い込みにとらわれているのかを再現し、自分を客観視しやすい状態を作っていきます。
観る
ダウンローディングで明らかになった枠組みや思い込みを一度「保留」して、目の前の情報や事象を客観的に分析します。
感じ取る
過去の枠組みにとらわれずに目の前の事柄に立ち向かうと、これまでになかった思考や直感を発見します。
最初は混乱することもありますが、枠組みから外れて内面から生まれてくる新しい自分をすくい上げていきます。
プレゼンシング
プレゼンシングは、「源につながる」ことと説明されています。少し抽象的でわかりづらい概念ですが、雑念を取り払って覚醒する、いわば「悟りを開く」ような感覚です。
これまでの3つのステップが自分の内側の事象であるのに対し、プレゼンシングを深めていくと、他者との共振を引き起こすようなビジョンやアイディアが生まれるといいます。
結晶化
ここからは、前ステップで明らかになった未来のビジョンを具現化する作業に移ります。
結晶化はその第一段階のステップで、創出したい思考やアイディアを具体的な言葉に落とし込んでいきます。
プロトタイピング
思考やアイディアをさらに具体化し、形を明確にしていきます。施策などの実験的な行動を重ねて、実現可能性を見出していきます。
うまくいかなくても、思考と実践を繰り返して、諦めずに形作っていく姿勢が大切です。
実践
これまでのステップで生まれたインスピレーションやビジョンを行動に移します。
具体的には、アイディアを製品に落とし込んで世の中に提供したり、集団で実践してきたことの完成度を高めて習慣化したりします。
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まとめ U理論で未来を創造
U理論は、まだ形のない漠然としたビジョンを具体化し、行動に落とし込むための実践的なステップです。
そのため、個人のリーダーシップ力を向上させるだけでなく、組織の向かうべき指針を明確にし、これまでにない変革をもたらすことができると紹介されています。
過去にない課題に直面している企業や、強いリーダーシップを持った人材を求めている組織には導入価値のある手法といえるでしょう。
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参照
PICJ「U理論とは」
http://www.presencingcomjapan.org/utheory/
nomad journal「u理論入門編!u理論の基本「7つプロセス」と初心者向け書籍のご紹介」https://nomad-journal.jp/archives/5542
サイボウズ式「U理論はエンジニアの学び方を変えられるか?――中土井僚×西尾泰和、過去の枠組みにとらわれないイノベーションのプロセスを考えるhttps://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m000376.htmlリーダーシップインサイト「U理論」
https://leadershipinsight.jp/explandict/u%E7%90%86%E8%AB%96
TKCグループ「「戦略経営者」なぜ組織は“迷走”するのか」 https://www.tkc.jp/cc/senkei/201209_interview
ITmediaエグゼクティブ「【新連載】「出現する未来」からイノベーションを生み出すには」https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1208/29/news013_2.html
KENJINS「U理論がイノベーションの課題解決に繋がる理由?」https://kenjins.jp/magazine/work-style/3687/