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上司の「愛ある説教」が部下にとっては意味がない3つの理由とは?

上司の「愛ある説教」が部下にとっては意味がない3つの理由とは?

よかれと思ってやることが裏目に出る―残念ながら、それはよくあることです。
そのうちのひとつが会議中の説教。
部下のため、会社のために、上司からの「愛ある説教」。
でも、それは危険です。

 

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 「愛ある説教」とはなにか

 

まず、最初にお断りしておきたいのは、本稿で扱う「説教」とはパワハラに該当しない「愛ある説教」であるという点です。

起立させたままの長時間におよぶ説教や精神的苦痛を与える説教、人前で大声で叱責したり無能呼ばわりする、などの行為はパワハラにあたります [1]。
それは、決してあってはならないことです。

            *

成績の悪い部下、失敗をした部下に上司が説教する。
部下をエンカレッジし成長を促すための方法にはさまざまなものがあります。
その中で、なぜ説教なのでしょうか。

上司は部下より経験値が高く、一定の経験則を持っています。
それを部下に伝え、理解させ、役立ててもらいたい。
愛情をもって説教すれば、部下は上司の熱意、愛情に応えてがんばるだろう。
そして、よりよいパフォーマンスでよい成績をあげ、2度と失敗しないようになるだろう。
また、会議中に説教すれば、それが他の社員にも影響する。
職場の緊張感が高まり、他の社員は自分も説教されないように、切実感をもってがんばるはずだ。
それで、「愛ある説教」をする。
そんなところではないでしょうか。

一方、説教をされる側の部下には、上司の説教からからポジティブなメッセージを受け取る人とネガティブなメッセージを受け取る人がいるでしょう。
でも、実は、そのどちらでも、「愛ある説教」は部下の成長を促すどころが阻害し、部下のパフォーマンスを低下させてしまいます。
なぜでしょうか。

 

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 理由1:部下の「勘違い」を誘発する

 

上司の「愛ある説教」からポジティブなメッセージを受け取る場合を考えてみましょう。
そのような部下は、次のように考えます。

自分は上司に目をかけられている。
自分はいい成績ではない。でも、こんなに数字の悪い自分に対しても、上司は時間をかけて熱心に説教してくれる。
自分は上司に認められ、この会社に必要とされている人間なのだ。

という勘違いです。

もちろん、自分が会社に必要とされているという認識は部下に安心感を与えるでしょう。
それによって精神が安定し、落ち着いて業務に勤しめるのであれば、それは悪いことではありません。
でも、問題は、会社の業績に貢献していないのにも拘わらず、部下にこうした認識を抱かせてしまうところにあります。

それは、
「業績を上げることによって会社に貢献する」
という社員としての本来的なあり方を見失わせ、そのための目標、さらにその目標を達成するための努力を部下から奪うことになりかねません。

それは結果として、部下の成長を阻害し、部下が会社から必要とされない存在になり、会社での居場所を失ってしまうことにつながるおそれさえあるのです。

 

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 理由2:部下に言い訳の材料を与える

 

次に、上司の説教からネガティブなメッセージを受け取る部下についてみていきましょう。
それはどのような状況をうむことになるのでしょうか。

以下の図1は、「職場の上司と部下の関係実態調査」[2]の結果で、部下が「上司との信頼関係が損なわれた」と思うエピソードを表しています。 

図1 部下が「上司との信頼関係が損なわれた」と思うエピソード
出典:[2] 山浦一保(立命館大学准教授)・満井就職支援奨学財団・静岡経済研究所 共同調査(2010)「職場の上司と部下の関係実態調査 2010年 ~上司と部下のよりよい関係づくりに関する調査報告書~」 p.12https://www.shushokuzaidan.or.jp/assets/files/shurochousa2010_hokokusho.pdf

最も多かったのは、「部下自身のミス」によって上司との信頼を損ねたと部下が思っているケースでした。
つまり、自分のミスに関して、部下は上司との信頼関係を損ねるものだという認識をもっているということです。
その上、上司からさらに説教されたらどうなるでしょうか。
そいういう状況では、弁解したくなるのが人の常です。

「でも、こんな事情があったんです」
「でも、状況が変わったんです」
「でも、自分はこのことを知らなかったんです」
「でも、もともと無理な案件だったんです」
等々。

でも、部下の言い訳を誘発し、部下が保身に走ってどのような弁解を言い連ねたところで、問題は解決しません。

大切なのは、悪い結果について説教することではなく、スピード感をもって悪い状況からリカバリーし、よい結果をうむために、次はどうするかです。

そのためには、上司は部下に、次に求める結果を明確に示す必要があります。
そして、部下は上司から求められた結果を目標にして、さらにパフォーマンスの質を高めていかなければなりません。

部下の言い訳を誘発し、それにつきあっている暇などないのです。

 

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 理由3:ダメだダメだと言っていると本当にダメになってしまう

 

最後の理由は、会議中の「愛ある説教」が部下の意識下に働きかけ、無意識のうちにパフォーマンスの低下を招く「ステレオタイプ脅威」をうみだすおそれがあるということです。

 

~ステレオタイプとは~

「ステレオタイプ脅威」についてお話しする前に、「ステレオタイプ」について押さえておきたいと思います。

「ステレオタイプ」とは、もともと印刷用語で、印刷用の型をとって大量に同じ印刷物を印刷する方法のことです。
このことから、特定のことに対して、型にはまったイメージや情報を思い浮かべる状態を指すようになりました。

現在では、社会心理学の分野で、ある集団に属する人々に対して抱く固定的なイメージを「ステレオタイプ」と呼びます。

たとえば、筆者の友人に、日本語がネイティブ並みに話せるドイツ人がいますが、彼が日本語を流暢に話すと、多くの日本人が驚くそうです。
また、彼に話しかけるとき、英語を使う人も多いということです。
金髪で青い瞳の白人に対しては、
「日本語が話せない」、
「英語ネイティブ」
というステレオタイプを抱く日本人が多いということでしょう。

私たちの脳は、膨大な量の事物を処理するとき、それらをカテゴリーに分類するという方法で、効率的に処理していると考えられています。
こうした処理ができなければ、たとえばスーパーの買い物では、何がどこにあるかわからず、商品を探し出すのに途方もない時間がかかってしまうでしょう。

こうしたカテゴリー化が人間に向かったとき、私たちは、その人の属性を手がかりにして、それらにふさわしいカテゴリーを決めます。
そのカテゴリーに入れられた途端、その対象には、そのカテゴリー集団に結びつけられた特徴が付
与されますが、その情報がステレオタイプなのです。

このように、ステレオタイプは私たちの脳の基本的な処理方法に基づくものなので、良し悪しの問題を超え、誰もそこから逃れることはできません。
誰でも無意識のうちにそうした固定観念の影響を受けているといわれています。

 

~「ステレオタイプ脅威」とは~

ここから、「ステレオタイプ脅威」について考えていきたいと思います [3]。
「ステレオタイプ脅威」とは、以下のようなことを指します。

周囲からステレオタイプに基づく目で見られることを恐れ、その恐怖に気をとられているうちに、実際にパフォーマンスが低下し、恐れていたとおりのステレオタイプを確証してしまう

ネガティブなステレオタイプが自分に当てはまりそうなとき、私たちはそれを察知し、そうしたステレオタイプにあてはまることを恐れます。もし、当てはまれば、そうした認識によって自分が評価され、そういう存在として扱われるおそれがあるからです。

ところが、そう思えば思うほど、緊張し萎縮し、その結果、パフォーマンスが低下して、恐れていたネガティブなステレオタイプであることを追認してしまうのです。

非常に興味深い実験があります。
その実験に先立ち、研究者たちは以下のような仮説を立てました。

女性は難しいテストのフラストレーションゆえに、「女性は数学に弱い」という社会のステレオタイプが正しいと証明してしまうのではないかという不安を高め、実力を発揮することができなくなる

そして、以下のような実験を行いました。
ミシガン大学で、数学が得意な男子学生と女子学生を集め、難しいテストをひとりで受けてもらう。
その際、女子学生を2つのグループに分け、片方のグループにだけ、以下のような説明をする。

「みなさんも『難しい数学の標準テストでは男性のほうが女性よりも点数が高い』といった説を聞いたことがあるでしょう。しかし、これから受けてもらう標準テストは違います。これから受けてもらうテストでは、女性の成績はいつも男性と同じです」

こういう説明によって、このグループの女子学生を「ステレオタイプ脅威」から解放するわけです。

実験の結果、こちらのグループの女子学生は、基礎学力が同レベルの男子学生の点数と同等の点数を獲得しました。
一方、もうひとつのグループの女子学生の点数は、男子学生の点数より低かったのです。

この結果は、「ステレオタイプ脅威」の影響が成績に影響すること、さらに、それは周囲の偏見や差別とは無関係に生じる現象であることを示唆しています。

現在、この「ステレオタイプ脅威」は、私たちの脳の能力配分や活動パターンにまで影響を与え、学業やスポーツや仕事にダメージを与えることが証明されています。

 

~「ステレオタイプ脅威」が部下のパフォーマンスを低下させるわけ~

ここで、会議中の「愛ある説教」に立ち戻りましょう。
上司からの説教は、

「成績が悪かった社員はダメな社員だ」
「失敗した社員はダメな社員だ」

というステレオタイプをうみだし、説教が向けられている社員だけでなく、その説教を聞いている他の社員まで、

「自分も成績不振になったらどうしよう」
「失敗したらどうしよう」

という「ステレオタイプ脅威」に巻き込んでしまうおそれがあります。

「ダメだ、ダメだ」という言葉が、部下を発奮させるための愛情から出たものだったとしても、それがまるで呪文のように部下を縛り、

「また、ダメだったらどうしよう」、
「あの人のようになったらどうしよう」

という「ステレオタイプ脅威」をうみだしてしまうとしたら・・・。
その影響を受けた部下は能力が十分に発揮できず、そのパフォーマンスが低下し、それが成績にも反映する、という悪循環に陥ってしまうかもしれません。

「ダメだ。ダメだ」という上司の説教は、社員の優れた資質や能力を台無しにしてしまいかねないのです。

 

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まとめ 

 

過去を変えることは誰にもできません。
結果が思わしいものでなかったとき、大切なのは、その結果をどう好転させていくかです。

社員の成績が悪かったとき、社員が失敗したとき、上司は「これから」に目を向け、部下を「次」に向かわせなければなりません。

「愛ある説教」は逆効果です。
部下の成長を促し、部下がその能力を思う存分、発揮して会社に貢献できるようにするために、上司は部下への愛情を建設的な手段に振り向けましょう。

 

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参考

[1]厚生労働省(2012)「平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版) 」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002qx6t-att/2r9852000002qx99.pdf
[2]山浦一保(立命館大学准教授)・満井就職支援奨学財団・静岡経済研究所 共同調査(2010)「職場の上司と部下の関係実態調査 2010年 ~上司と部下のよりよい関係づくりに関する調査報告書~」
https://www.shushokuzaidan.or.jp/assets/files/shurochousa2010_hokokusho.pdf
[3]クロード・スティール(2020)『ステレオタイプの科学  「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちには何ができるのか』 英治出版株式会社(EPUB版)

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