多くの会社が抱える人事評価の悩みに、考課者のレベルがばらばらで、評価にバラツキができてしまうことがあります。これらを解決するため、考課者ごとのバラツキをなくそうと頭を悩ませた結果、「やはり必要なのは考課者訓練だ」と考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、問題になるのは、バラツキがなくなるような考課者訓練とはどのようなものかということです。ここでは、考課者訓練の必要性の検討も含め、3つの視点から「人事考課のバラツキ解消」について考えます。
目次
「そもそもの目標設定」から見直す
「人事考課のバラツキが生まれる原因は、考課者の問題ではなく、被考課者に与えた目標の問題である」と指摘するのは、識学というマネジメント理論です。この理論によれば、人事考課のバラツキは以下のような順番で生まれます。
1.あいまいな目標が設定される
2.達成基準があいまいになる
3.結果に対する評価があいまいになる
4.考課者が各々の判断で考課を行う
5.人事考課にバラツキが出る
したがって、いくら考課者訓練を実施しても、根本の問題である「あいまいな目標設定」を解決しなければ、人事考課のバラツキ解消にはつながらないのです。逆にいえば、目標をきちんと明確化していれば、達成基準は明確になり、結果に対する評価も明確になるため、考課者が各々の判断で考課を行う必要がなくなります。その結果、「誰が考課しても同じ」という状態になるため、人事考課のバラツキも解消されるでしょう。
上司は目標設定時に部下に確認をとり、部下が迷いなく行動できる状態でスタートしなければなりません。ただし、よく理解しておいたほうが良いのは、この確認が目標について部下に納得してもらうためのものではないということです。部下は上司から与えられた目標に対して「納得する」「納得しない」の判断をする立場にはいません。
なぜなら、経験量の少ない部下に、行動や経験をする前に情報なり知識なりをいくら与えても、部下自身の考え方を完全に変えることはできないからです。つまり、「納得してもらうこと」を目的にコミュニケーションをとっても、その目的はいつまでも達成できないのです。上司がやるべきなのは部下が「納得する」「納得しない」ではありません。部下が「いつまでにどんな状態になっているか」を明確にし、それに向かって行動することに迷いがない状態にすることが重要です。
参考リンク:『伸びる会社は「これ」をやらない! 』
「ストレングスファインダー 」を使って強みと弱みを共有する
「ストレングスファインダー」は世論調査・人材コンサルティングを手がける米ギャラップ社が提供する自己分析ツールです。このツールの利用者は、177個の質問に答えることで34種類の資質から最も秀でている自分の資質トップ5を知ることができます。34種類の資質の中には個別性、社交性、親密性、未来志向、戦略性など項目はさまざまです。
ストレングスファインダー の役割は単なる自己分析にとどまりません。例えば、チームのメンバー間でストレングスファインダーの分析結果を共有すれば、互いの得意分野を考慮に入れながらコミュニケーションやチームプレーを行えるようになります。これを人事考課のバラツキ解消に応用するとすれば、次のような方法が考えられるでしょう。
つまり、被考課者にストレングスファインダーを受けさせ、被考課者の強みと弱みを考課者の間で共有するのです。そうすることで考課者間での被考課者の基本的な評価が確立されます。ストレングスファインダーの結果は考課者間の共通言語となるのです。「彼はこういう資質の持ち主だから、今回の結果は得意分野を生かせた」「この仕事は苦手分野なのに、しっかり成果を残した」といった考課ができるようになります。
確かに、これだけで人事考課のバラツキを解消できるわけではありません。しかし、被考課者がどんな資質の持ち主かを共有できていない状態と比べれば、大幅なバラツキ防止になるはずです。
用語集リンク:ストレングスファインダー
「タレント・マネジメント理論」に基づいて育成のコンセプトを固める
「タレント・マネジメント理論」は、組織とは人材の「タレント」を把握したうえで、戦略的な教育や人事などをタレントのパフォーマンス最大化のために行うべきだとする理論です。提唱者や登場した時期は定かではありませんが、2001年に米国マッキンゼー・アンド・カンパニーのチームが刊行した『The War for Talent』で有名になりました。(日本では2002年刊行)
ここでいう「タレント」は、さまざまな技量を総合したものです。その内容は、才能、スキル、知識、知性、判断力、意識、性格、意欲になります。この理論では、組織にとって必要なタレントとその配置を「ビジネス戦略」をベースにして考えていきます。この考え方を応用して、人事考課のバラツキを解消しようとすると、次のような方法が考えられるでしょう。
1.ベースとなるビジネス戦略を明確にする
2.ビジネス戦略に沿うような組織の機能(ミッションや成果責任)、仕事(成果、人材要件、専門性)を明確にする
3.求められる成果、人材要件、専門性をもとに、被考課者のタレントをマッピングする
4.これをもとに「どう育つべきか」「どう育てるべきか」という育成のコンセプトを固め、考課者間で共有する
こうして「被考課者をどこに向かわせるか」が明確になれば、考課者は「どれだけ目標に近づいたか」を判断するだけで良くなるので、バラツキが改善できる可能性があります。また、被考課者の配置そのものが不適切だと判明すれば、本人とコミュニケーションをとりながら、適切な配置を検討するという選択肢も生まれるでしょう。「人事考課をする」「人材配置を再検討する」どちらにおいても、育成のコンセプトを固めておけば方向性が定まるのです。
用語集リンク:タレント・マネジメント理論