2020/10/02

部下を行動させる時、「納得」を得ようとするのは無意味だ

部下に指示を出し、行動してもらうには、まずその行動の意味を理解・納得させることが必要で、そうでないとやる気は出ない・・・

そう考えるマネジメントは少なくありません。

しかし、本当にそうでしょうか?何事も納得させようとすると、人材育成の上ではマイナスでしかない、というのが事実です。

 

「あの時は正直ムカつきました」

 

筆者がまだ放送局員だった時のことです。

ある日、社内のカフェで休憩していたら、久々に顔を見る後輩が筆者を発見するなり隣にやってきて、軽く話をしました。
直接の部下だった頃から何年か経っていて異動先でも良い評判を聞いていましたし、今や後輩を動かす立場にもなっています。

本人も大変ながら持ち場を楽しんでいるようで安心しつつ、その時彼が言い出したのが、彼が新入社員だった時、筆者に「やらされたこと」の話でした。。
その時は理不尽で「ムカついた」けれど、その経験があって本当に良かったのだと言うのです。

よく覚えているなー、と思うのと、こう言われると先輩冥利に尽きるというものです。

 

とりあえず名簿の「あ」行から順に電話せよ

 

その当時彼が「ムカついた」指示とは、このようなものです。

経済記者をしていた頃です。
ある話題について、都内のある場所で「撮影とインタビューに応じてくれる町工場」を探さなければならないことになりました。

場所は東京・大田区限定です。

彼にとっての初めての「記者らしい仕事」もありました。

そして筆者は、方法まで指示をしました。
それは、関連組合の名簿を印刷したものを渡し、名簿の上から=「あ」行から順に電話をかけて話を聞き、取材交渉をせよという方法です。

彼が「ムカついた」のもよくわかります。
ネット検索をした方が早いのではないか、と思うからです。
なぜこんなアナログなやり方をするのかはその場では説明しませんでした。まず話すと長くなるし、経験しないことには「説明のベース」がないからです。

明らかに遠回りな方法で仕事をさせるとはパワハラではないか、と言われるかもしれませんが、これには他にも明確な意図があります。これを経験しないと彼はその先必ず苦労するからなのです。

というのは、よく事件のニュースで、近所の人のインタビューというのを見ることがあることと思います。
あれは、簡単に撮影できるものではありません。

犯人を知る人や目撃者を探す方法。
それは、近隣の住宅を1軒ずつピンポンして回るのです。
しかも、誰だって取材に応じてくれるわけではない。応じてくれる人の方が少数派であるか、応じてもらえたとしても有力な情報とならなければそのまま放送はできませんので、かなりの軒数を回らなければならないのです


いわゆる「自取り」です。

この方法や「断られる割合」を知ると、最初は「まさかこんな原始的なやり方だったとは」と思われることでしょう。
大の大人たちがこぞってそんなことをやっているのか、とも思われるかもしれません。しかし、現場はその「まさか」なのです。

「上から電話しろ」と言われた彼の気持ちは、この「まさか」に近かったと思います。
しかし、この方法は必ず必要なスキルになるので、「まさか」と思わないようになっておかなければならないのです。

一般に放送局で記者職に就くことができた人たちは、エリート街道を歩んできた人が少なくありません。
いわば、挫折を知らない順風満帆なコースを歩んできた人生です。
そのような「エリート」が、様々な人にお願いを断られまくる。それでも取材対象をひたすら探し続ける。
断られ続けるというストレスフルなことに慣れ、そして耐性を身に着けなければなりません。

併せて、どこまで原始的になれるかというのは、この仕事では重要な要素です。
かつて日航ジャンボ機墜落事故の取材に当たった先輩方の経験は壮絶でした。
墜落現場の特定が困難を極めている中、道があるわけでもなんでもない状況です。
そこで先輩記者たちがやったことは、いろいろなルートから「とにかくけものみちをひたすら上へ上へ登る」ことでした。

それしかできなかったとも言えますが、「いつもの方法が通用しない場所でいかに他のやり方を思いつき、実行するかどうか」は大切なのです。
かつ、楽な方法から順に探すより、原始的な方法から順に探した方が、物事は早いこともあります。

 

木から落ちてきたリンゴ

 

ひと昔前に流行った「アハ体験」というのがあります。

ドイツの心理学者が提唱したもので、日本ではゆっくり変化していく映像を見て「どこが変わっていっているのか」を見つけるクイズがテレビなどで大流行しました。

ニュートンが、木から落ちるリンゴを見て万有引力の法則を閃いたという逸話なども、「アハ体験」の一種と考えて良さそうです。
何かについて考え続けてモヤモヤしていた状態から、急に霧が晴れたように物事に気づくというものです。
このようにして「自分で考え続け、自分である時気づく」ことが「ものを覚える」にあたっては理想型ではないでしょうか。

自分の頭を悩ませることなく「ありがたいお話」を聞いただけで「勉強になった」と錯覚する若者は多くいます。
しかしその「ありがたいお話」を、彼らはいつ思い出すでしょうか。
何か体験で裏付けがされない限り、二度と思い出す日が来ない可能性だってあるのです。

多くの啓蒙書を読む人なら、この現実に直面したことがあるのではないでしょうか。

実際、件の彼が何年経っても筆者に「やらされたこと」を覚えているのは、他の現場で困難に出くわした時にそれを思い出したからです。
そして、「あの指示にはこういう意味があったんだ」と身をもって気づいたのです。

 

結果をどう評価するか

 

部下の「体験」を意識した指示であれば、「わからないかもしれないけどとりあえずやれ」というのは間違いではありません。

別の機会のことですが、この彼と、それより年次が上のもう一人の同僚に、休日に取材を済ませて特集を作って欲しいと依頼したことがありました。

もちろん若い方には交渉が簡単な現場を割り当てますし、先輩には難しい仕事をさせます。

この時、先輩にあたる方の記者の現場では、ほとんど実りがありませんでした。
筆者としてはその可能性は十分に織り込んでいたのですが、放送が終わった日の夜、先輩にあたる方から長い長いメールが送られてきました。

「自分の方が長時間大変な現場にいたのに、なぜ自分の現場の映像を少ししか使わなかったのか」と言うことについて書き連ねたものです。

なぜそのような判断をしたか?答えは簡単です。
結果として、後輩の現場での撮れ高の方が、バリエーションがあってかつ「視聴者の興味をひく」映像だからです。

彼が頑張っていることは知っています。
筆者も「無茶振り」に近いことを頼んだ自覚もあります。
しかし、小難しい経済ニュースは、まず視聴者の目を引く映像を使い「見てもらう努力をするべき」という筆者のポリシーは常々伝えていたつもりです。

そのため筆者は、
「あなたの現場で撮れた映像は視聴者が興味を持つものになっているのか。もう一度VTRを冷静に見て欲しい。視聴者には自分たちの頑張りや割いた時間など関係ない。」

そう指示すると、納得した旨の連絡がありました。

さらに別の機会で「やってみるまで撮れ高の読めない」仕事を再び頼むことがありました。
何日間張り込めば欲しい映像が撮れるかわからないような現場でしたが、彼は見事耐え抜き、自分で情報を仕入れてうまく省力化していました。
何より、楽しそうにやっていたのが印象に残っています。

もちろん、彼が見込みのある人材だったからこそ難しい宿題を課したということも本人には伝えています。

 

上手な「なぞなぞ」を解く楽しみが自己肯定感にも

 

多くの物事は、体験しなければ身につきませんし、体験から何かを学べるのは、そのほかにどのような経験をしているかによります。
経験の少ない人間が得られる「理解」「納得」はどうしても底が浅くなってしまいます。
その浅いところで納得をさせても、将来的にどれほどの価値があるのか疑問が残ります。

気付きとは「点と点が線で繋がる」ことです。
多くの知識と経験が一点に集約されることは、イノベーションの糧にもなるでしょう。

ずいぶん昔ですが、筆者が就職活動をしていた時ある先輩にこう言われたことがあります

「面接する側は学生に専門知識は求めていない。だから知ったかぶりは絶対にしてはいけない」。

近年の就活は事情が違うのでしょうが、この言葉は真実です。

そして注意していただきたい点としては、なんでも「いいからやってみろ」とするのが良いわけではないということです。

目的が見えないことをやらせるとフラストレーションが溜まるのは当然です。

筆者が後輩に課した「あ」行からの電話には、2つの目標設定がありました。
「目先の結果」と「将来的な結果」です。

目先の結果として求めるのは、その日の取材相手を探し交渉を成立させること。
そして、将来的な結果としては、他の経験を通してこの手段の必要性に気付き、思い出した時にはこの手段を応用することなのです。

業務の中には、このような二段構えの要素を含むものが多くあります。

このように考えて動かす限り、「わからないかもしれないけどやってみろ」は非常に有効な手段となるのです。

自分で気付くことの重要性は、野球のルールを知っていてもプレイできないのと同じだとも言えます。
企業が欲しいのは野球評論家ではなく選手ですし、ルールを知っているだけの解説者など、解説者ではないでしょう。

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