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「正しい評価」ができない上司には、部下を育てることができない理由とは?

「正しい評価」ができない上司には、部下を育てることができない理由とは?

評価は難しく厄介なものです。
部下への評価で頭を悩ました経験のない上司などいるでしょうか。

でも、ビジネスの世界では他者による正当な評価は不可欠です。
部下への評価は、上司の極めて重要な任務だといっても過言ではありません。
なぜなら、上司による正しい評価なくしては部下の成長は望めないからです。

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 自己評価と他者による評価にはズレがある

2018年に行われた厚生労働省の調査があります。
対象者は25歳から34歳までの正社員で、この調査時点から遡って1年以内に転職した人。
以下の図1は、前の仕事を辞めた理由で、全25項目のうち上位7項目を抜粋して表しています。

図1 転職者の退職理由(複数回答)
出典:*1 厚生労働省(2018)「第6回21世紀成年者横断調査:結果の概要」を抜粋して筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/judan/seinen09/kekka3-5.html

「能力・実績が正当に評価されなかったから」という退職理由は男女ともに第5位で、男性が21.1%、女性が21.0%と、どちらも5人にひとり強が挙げていることがわかります。

正当に評価されたいと願うのは人の常です。
ところが、この調査結果からわかるのは、自己評価と上司による評価にはズレがあると認識している人が一定数いて、それが退職の理由にさえなっているということです。

 

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 自己評価は難しい

人は正当に評価されたいと願っている。
でも、他者から正当に評価されているとは思えない。

それはなぜでしょうか。
そこには、いくつかの原因が潜んでいると考えますが、ここでは、まず評価される側の問題について考えたいと思います。

プロトレーダーから考える気質効果

プロトレーダーの特徴

自分自身に関することを正しく判断する―それは人間にとって非常に難しいことです。
そのことを、行動ファイナンス分野で詳しく研究されている「気質効果」と呼ばれる問題を通して考えてみましょう。

例に挙げるのは、プロのトレーダー [1]。
彼らの仕事は、絶え間なく変動する株価や債券、為替の動向を正確に把握し、買い時と売り時を的確かつ瞬時に判断することです。

現在では株の売買には AI が導入され、金融業界にも変化が訪れていますが、プロのトレーダーは業界の花形でした。
なぜなら、冷静かつ論理的な判断に基づく行動が要求され、しかも、巨額の取り引きに関わることもある―有能な人材にしか担えない、重大な責務を負うポストだからです。

安く買って高く売る。

株売買の基本自体は実にシンプルです。
単純にいえば、値上がり株と値下がり株の両方を持っていた場合、値上がり株をキープして値下がり株を手放すのが定石です。

もちろん、実際の株売買は単純どころか種々の要素が絡み合い、一筋縄ではいきません。
だからこそプロのトレーダーには存在価値があるのです。

有能な人材の宝庫であるプロトレーダーですらハマる罠

ところが、そのプロのトレーダーでさえ、
「勝ち株より負け株の方を約25%も長く持ち続ける」
という調査結果があります。

それは、一般的に投資家が、
値下がり株を持ち続けてしまう
その一方で、値上がり株は逆に早く売りすぎてしまう
という調査結果と重なります。

なぜでしょうか。

その株を持ち続けている間は「損失」は可能性でしかない。
でも、その下がり株を売却した途端、「損失」がリアルな現実になってしまう。

それは、自分の判断ミスが確定することを意味します。
値下がり株を長く持ち続けてしまうのは、そうした心理が働くからだと考えられています。
つまり、自分の判断が間違っていたという事実を受け入れたくないがために、「いつか値上がりす
るだろう」という希望を抱いて下落した株を持ち続けてしまうのです。

一方、値上がり株は、逆に早く売りすぎてしまいます。
早く利益を手に入れて、自分の判断が正しかったという証拠を得たいがためです。

これは、実際の損益より、自尊心、自己正当化の方を優先させてしまうという、私たち人間の心のありようを如実に表しています。

百戦錬磨のプロのトレーダーでさえ、そうしたバイアスから逃れられないことが証明されているのです。

有能な人ほどハマりやすい自己保身バイアス

いえ、むしろ、有能だと考えられている人々ほど自己保身のバイアスが強い。
例えば、冤罪や医療過誤には、エリートと呼ばれる法曹界の人々や医師のバイアスが影響していることが指摘されています。
自分の判断に誤りはない、という強いバイアスです。
こうした意味で、有能な人ほど危ないというのは、ビジネス界にも当てはまります [2]。

なぜなら、自分の判断ミスを認めれば、自分自身で思っていたほど自分は有能ではなかったということを認めるざるを得なくなってしまうからです。
そう考えると、失うものが多い人ほど、自分に不都合な事実から目を逸らす傾向が強いというのは頷けることです。

このことから、
「有能な人材であれば、正当に自己評価し、自分の間違いを認め、自分に欠けているものを認識することができる」
などとは、到底いえないことがわかります。

自分が努力を注いだ結果に対しても同様です。
努力のために費やした時間やエネルギーが多ければ多いほど、また期待値が高ければ高いほど、それが無駄だったと認めるのは誰にとっても辛いことだからです。

自己評価と他者による評価の間のズレは、こうしたバイアスに起因している可能性があります。

 

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 他者による正しい評価が成長を促す

では、次に、他者による評価の有用性について考えてみたいと思います。

次にご紹介するエピソードは、「ハドソン川の奇跡」 [3]。
映画化もされた有名なエピソードですが、ここでは、その奇跡がなぜ起こったのか考えたいと思います。

2009年1月15日午後3時25分。
USエアウェイズ1549便はニューヨーク・ラガーディア空港の滑走路を離陸しました。
それから2分も経たずに、ジェット機はガンの群れに遭遇します。
あまりに突然で、避けることができなまま、2羽のガンが右エンジンに、少なくとも1羽のガンが左エンジンに巻き込まれました。

いきなりのエンジン停止。
ニューヨーク上空3,000フィート(約910メートル)にあった機体は落下し始めます。

管制は、空港に引き返すか、数キロメートル先のテターボロ空港への着陸をアドバイスしました。
しかし、機体の落下スピードは速く、一刻の猶予もないと判断したサレンバーガー機長はハドソン川に着水することを決意します。

冷静な判断と抜群の操縦テクニックで、彼は70トンにおよぶジェット機をハドソン川に無事に着水させ、機体の浸水が始まる中、全乗客の脱出を確認して回りました。
死亡者はゼロ。

瞬く間に機長は英雄となり、マスメディアにもてはやされます。

しかし、機長は謙虚そのもの。
航空専門家も冷静でした。
機長個人の功績ばかりでなく、システム全体に目を向けていたからです [4]。

鳥との衝突後、機長はすばやく機体をコントロールしました。
副操縦士は緊急マニュアルをチェックして、機長が正確に状況認識できるように、スピードや高度など、必要な情報を可能なかぎり機長に伝え続けました。

緊急マニュアルのチェックリストは、1930年代に起こった一連の事故を経て作られたものです。
この事故の際にも役立ったと思われるコックピットの人間工学デザインは、B-17戦略爆撃機の悲惨な着陸事故を契機に考案されました。
航空事故に備えたCRM(Crew Resource Management)訓練もユナイテッド航空173便の事故を教訓に生まれました。

航空事故が起こると、航空会社とは独立した調査機関、パイロット組合、監督行政機関が、緻密な調査を行います [5]。
2つのブラックボックスが回収され、データ分析が行われ、機体やその残骸なども調べられます。
調査終了後、報告書は一般公開され、航空会社には報告書に記載された勧告を履行する責任が生じます。
さらに、世界中のパイロットは自由にその報告書にアクセスすることができ、そこから教訓を得ることが可能なシステムが構築されています。

こうした徹底的な検証と分析から、その都度、その時点で不足していることを明確に把握し、改善する。
その結果、航空業界は驚異的な安全性を誇っています。
 IATA(国際航空輸送協会)に加盟している航空会社に限れば、事故率は830万フライトに1回 [6]。

「ハドソン川の奇跡」を産んだのは、以上のような検証と改善の積み重ねだといっていいでしょう。

このように、事実をありのままに捉え、そこから学ぼうとする姿勢はビジネスにおいても不可欠です。
そうした姿勢がなければ、ビジネスパーソンの成長も企業の成長も望めません。

しかし、先ほどみたように、人間は正しく自己評価することができない存在です。
部下の評価は上司がするしかないのです。

 

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 部下を正しく評価するためには

 

先ほどお話ししたように、部下が上司からの評価を正当なものだと受け入れられない理由はいくつか考えられます。

そのうち、評価される側のバイアスについては既にみました。
ここでは、評価する側の問題点となりがちなことを、留意点として考えてみましょう。

 

~評価の目的とは~

まず、評価の目的はなんでしょうか。

それは、部下が現在の自分にできていることと不足していることの双方を正確に認識することです。
それができれば、その認識を拠り所として、適切に次の目標を立てることができます。

そうしたサイクルを繰り返すことによって、不足していたことが徐々にできるようになり、部下は確実に成長します。
上司からの評価は部下の成長に欠かせない重要なマネジメントなのです。

したがって、評価基準をどう設定するかは非常に重要な問題です。

 

~成果を評価基準にし、部下と共有する~

何を評価し、何を評価から外すのか。
まず考えなければならないのは、このことです。

でも、それは、成果を設定すれば自ずと見えてきます。
部下のパフォーマンスにおいて、何を成果として期待するのか、まずゴールを決めるのです。
そして、それをできるだけ具体的に、できたら数値で示して、評価基準にします。

なぜなら、数値で表せば、上司と部下とが評価基準を正確に共有することができるからです。
また、数値であれば、上司が感情や感覚を排して、客観的に評価することもできます。
これも大きなポイントです。

はじめの方でみた、「能力や実績を正当に評価してもらえなかったから」という退職理由も、実は評価基準が曖昧だった、あるいは上司と部下で共有できていなかった―そんなところに原因があるのかもしれません。

目指すべき成果が具体的に把握できれば、部下はそれを目標にして成果に適切にアプローチする
ことができ、さらにその後の評価によって、目標に届かなかった部分を正確に認識することができます。

 

~努力とプロセスは評価してはならない~

成果とは反対に、評価から外すべきものはなんでしょうか。
それは、部下の努力とプロセスです。

まず、努力を評価してはいけない理由は2つあります。

1つ目の理由は、上司は部下の努力をすべて感知することができないからです。
上司が把握できる部下の努力は、上司の目の届く範囲に限られています。
水面下で懸命に足を動かす水鳥のように、上司の見えないところで必死に努力している社員がいたとしても、上司にはそれが見えません。
したがって、目に入る部分だけで部下の努力を評価するのは、公平性を欠くことになります。

2つ目の理由は、努力を測る客観的な尺度がないからです。
何をどう頑張ることがどの程度の評価に値するのか、その答えは人によってさまざまでしょう。
したがって、その基準は主観的なものに過ぎず、上司と部下の間でズレが生じてしまう可能性があります。

次に、プロセスを評価すべきではない理由もシンプルです。
プロセスの何をどう評価するのか、それを客観的に測る術がないからです。
したがって、その基準も主観的なものになってしまい、正しい評価ができません。
また、プロセスを評価基準にしてしまうと、部下は何を目指せばいいのか混乱してしまいます。

部下は結局、成果によってしか会社に貢献することができません。
努力やプロセスは評価せずに、あくまで成果を評価することが大切です。

 

~正しい評価はいつか信頼につながる~

繰り返しになりますが、評価の目的は、自分には何が達成できたのか、何が欠けているのかを、節目節目で部下が正確に認識することです。

ときには厳しい評価を下さざるを得ない場面があるかもしれません。
それでも上司は社員におもねず、正しい評価を繰り返すことが重要です。

上司は部下より少し先の景色を眺めています。
部下には上司より少し手前の景色しか見えません。
見えている景色が違うのですから、部下がリアルタイムで上司の意図を理解するのは容易なことではないでしょう。

でも、正しい評価は、部下の正しい成長につながります。
成長した部下は、上司の眺めていた景色にいつか辿り着き、成長を促してくれた上司への信頼を深めるに違いありません。

 

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参照
*1厚生労働省(2018)「第6回21世紀成年者横断調査:結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/judan/seinen09/kekka3-5.html
*2マシュー・サイド(2016)『失敗の科学』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン(デジタル版)

[1]*2:「第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む>その「努力」が判断を鈍らせる>バイアスからは誰も逃れられない」
[2]*2:「第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む>その「努力」が判断を鈍らせる>「自尊心」がっ学びを妨げる」
[3]*2:「第1章 失敗のマネジメント>すべては「仮説」にすぎない>USエアウェイズ1549便の危機」
[4]*2:「第1章 失敗のマネジメント>すべては「仮説」にすぎない>「個人」ではなく「システム」を見よ」
[5]*2:「第1章 失敗のマネジメント>「完璧な集中」こそが事故を招く「上下関係」がチームワークを崩壊させる」
[6]*2:「第1章 失敗のマネジメント>「ありえない」失敗が起きたとき、人はどう反応するか>なぜ、航空業界は奇跡的に安全なのか」

 

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