最近、マーケティングなどの領域で、KPIという単語をしばしば聞くようになりました。
KPIとは何でしょうか?KPIは「Key Performance Indicator」の略で、日本語に訳すと「重要業績評価指標」となります。
要するに、目標の達成具合を測るための重要な指標です。そしてこのKPIを利用したマネジメントをKPIマネジメントと呼びます。
しかしながら「KPIマネジメント」と言われてもいまいちピンとこない方も多いのではないでしょうか。
今回の記事ではこのKPIマネジメントにスポットを当て、基礎的なところから実践に至るまでを幅広く解説していきます。
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目次
KPIマネジメントが必要とされる理由
KPIという言葉の意味が理解できても、「それではなぜそのKPIマネジメントが有用なのか?」と疑問に思う方は多いと思います。
KPIマネジメントが必要とされる理由は、3つのポイントに絞ると分かりやすくなります。
時代は目まぐるしく変わっていくものですし、それに伴って最適なマネジメント方法も変わってきます。
以下の文章では、そのポイントについて深掘りしていきます。
ビジネス環境が複雑化していること
まず大きな理由としてあげられるのが、「ビジネス環境の複雑化」です。
人類はより「快適なもの」「素晴らしいもの」を生み出そうと努力します。そしてそのために複雑なシステムを構築します。
数々の偉人たちが繰り返し述べているように、そのシステムを乗り越えていくためにさらに複雑なシステムが作られ、それを繰り返していくことによって歴史が前転してきたのです。
私たちは今までの歴史の中でもっとも複雑性に満ちた時代を生きています。
ひとつひとつの分野が複雑になり、分野を跨いで活躍することは非常に困難になっています。キャリアという視点で見れば、従来のゼネラリスト志向から、スペシャリスト志向へと変わっています。
専門性を幾つか作り、そして有効な掛け算をする。これがビジネスの鉄則のひとつです。このように現代では、様々な分野に精通することはほとんど不可能になっているのです。
それから現在は「不確実性の時代」とも言われています。
それだけに、自分たちのビジネスの現在地点をしっかりと把握し、どのような戦略を打ち立てていくかが重要になってきます。
そこで役立ってくるのがこのKPIマネジメントです。KPIを設定することによって、より長期的な視座を得ることができ、組織を最適化することができます。
生産性の向上が必要なこと
それから生産性の向上という意味においても、KPIマネジメントは重要なものになってきます。
筆者が前に勤めていた組織では、無駄な会議というものがよくありました。わざわざ皆で同じ時間に集まって、メッセージなどで済むようなことをだらだらと話し合うのです。
当然自分がやっていた仕事は止まってしまいますし、ひいてはチーム全体のパフォーマンスの低下にも繋がります。
果たしてこれは極端な例でしょうか?
「無意味な会議」「無駄な残業」などの悪しき風習はいまだに根強く、それに疑問を感じている人は多いはずです。当然生産性が上がるとも思えません。
昨今のテレワーク問題でもしばしば論じられますが、「生産性をどのように向上させるか」はかなり重要な問題です。
そしてそこに切り込んでいくのがこのKPIマネジメントであり、業績管理の指標をしっかりと設定することによって、生産性の向上に繋げられると期待されています。
人材が多様化していること
人材の多様化とKPIマネジメントの関わりも大きいでしょう。
現代の一つのテーマが「多様性」であることはよく知られています。
男女問題で考えれば、かつては「男=外で稼いでくる」「女=家を守る」という定式がありました。現代ではこの価値観は古いとされ、女性活躍が推進される一方、男性も家事をしっかりとやるべきだという意見も散見されます。
それから定年を迎えた方の再任用という雇用も近頃では増えています。海外からやって来る人の雇用も多いです。
このように会社にとって重要なリソースである「人材」も多様化しており、それに対応する必要が出ているのです。より多様な人材リソースを活用できれば、企業間競争力で優位に立つことができます。
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KPIマネジメントを実践する上で覚えておきたい用語と使い方
KPIについて具体的に見ていく前に、知っておきたい関連用語を解説します。聞き慣れた単語もあるかとは思いますが、おさらいとして見ていきましょう。どれもKPIマネジメントを理解するための重要なワードです。
KGI
KPIについて見ていく際に重要になってくるのが、このKGIという単語です。KGIは、「Key Goal Indicator」の略であり、「重要目標達成指標」と呼ばれます。
KGIは、要するにビジネスのゴールある指標になります。例えば売上高や利益率などです。
KPIとの違いは明確で、KGIは最終目標の指標であり、KPIは目標に達成するまでの過程の指標です。
スマホゲームなどを考えてみると分かりやすいかもしれません。現代のスマホゲームのほとんどは、ユーザーからの課金によってビジネスが成り立っています。
もちろん運営側は、より多くのお金を落としてもらえるように、魅力的なコンテンツを発信し続けています。
このスマホゲームの売上高が「KGI」であり、ユーザーの課金率が「KPI」なのです。
CSF
CSFは「Critical Success Factor」の略であり、日本語に訳すと「重要成功要因」となります。
KGIやKPIが定量的なものだったのに対して、CSFは管理項目を示したものになります。
一見するとKPIと似たもののように見えますが、両者はまったくの別物です。
論理的な流れとしては「KGI→CSF→KPI」となっており、「KGIを達成するための重要な項目としてCSFがあり、そしてその業績を定量的に評価するためにKPIがある」というイメージです。
PDCA
PDCAという用語自体はかなりメジャーなので、聞いたことがある人がほとんどだと思います。
一応おさらいしておくと、PDCAは「Plan」「Do」「Check」「Action」の頭文字を取ったものです。日本語に直すと「計画」「実行」「評価」「改善」になります。
これらをひとかたまりのサイクルとしてとらえ、これを継続することによって業務を改善しようというのがPDCAです。
さて、これがKPIとどのように関連してくるのでしょうか。
KPIは先ほども書いたように重要業績評価指標です。あくまでこれは指標であって、設定するだけでは意味がありません。
KPIで指標を設定し、PDCAを回すことによって、初めて目標の達成に寄与するのです。
トップダウンとボトムアップ
トップダウンとボトムアップは要するに「意思決定の流れ」を指します。トップダウンは経営層などの上層部が意思決定をし、下部に実行を指示する方式です。ボトムアップは逆に現場の意思決定を上層部が承認するという形になります。
もちろんどちらにもメリット・デメリットはありますが、企業の意思決定方式としてはこの二つに大別されます。
KPIマネジメントをするにあたって、このトップダウン方式を採用するか、ボトムアップ方式を採用するかという問題があります。
先ほどの話から考えれば、トップダウン方式においては、まず上層部が全体のKPIを設定し、それから下部組織や各部門へ広がっていきます。ボトムアップ方式はその逆です。
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KPI設定の手順とやり方
用語の整理ができたら、実際にKPIの話に突入していきます。
まずはKPIの設定についてです。実際にKPIをどのように設定すれば良いのか、ということについて深く見ていきます。
設定の手順やポイントなどにスポットを当てつつ解説していきます。
KGIを確認する
まず重要なのはKGIをしっかりと設定しておくことです。先ほども書いたように「KGI=最終目標」「KPI=過程」なので、まずはKGIがしっかりと設定されている必要があります。
先ほどのスマホゲームの例で考えれば、まず売上高などの目標を設定します。そして「ユーザーの課金率は売上に直結する重要な指標だ」ということで、課金率をKPIに設定するのです。
何事もまずは大まかな目標をしっかりと確認しておくのが重要です。中間目標であるKPIが達成されなければ、最終目標ではあるKGIもまた達成されないのです。
KPIはあくまで「過程」を考える指標なので、まずはKGIに関する精査を怠らないようにしましょう。
KGIとのギャップを把握する
KGIをしっかりと確認するのは重要ですが、もちろんそれは全工程における第一段階に過ぎません。
次にしなければならないことは、KGIとのギャップを確認することです。目標を設定する以上、現状と目標の間には必ずギャップが存在するからです。
KGIを確認した後は、「その目標とのギャップがどれくらい開いているのか」をしっかりと把握することが重要になります。
もちろんここで考えなければならないのが、「そのギャップは埋めることが可能かどうか」です。目標は高いに越したことはありませんが、あまりにも高すぎると意味を失います。
ギャップをしっかりと確認し、「それを埋めることが可能かどうか」を見極めることが大切なのです。
ギャップを埋める戦略を考える
もちろんギャップをしっかり把握することは大事なのですが、それで終わりではありません。確認作業が済んだら、今度はそれを埋めるための戦略を考えていきます。
それではどのように戦略を考えていけばいいのでしょうか。重要なキーワードは「要素の分解」です。
つまり、ゴールまでの要素を分解し、どのようなアクションを行うべきかを想定するのです。
KGIから逆算して、「どのような意思決定を行えば目的を達成できるか」を考え、実際に施策を実行していきます。
CSFを設定する
CSFは先ほども見てきたように「重要成功要因」です。KGIをしっかりと確認した後に、「それを達成するためのアクション」としてCSFを設定します。
流れとしては「KGI設定→ギャップを把握→ギャップを埋めるための戦略を考案→様々に検討した中から最も重要な要素としてCSFを設定する」というものです。
「CSFをどのように設定するか」はもちろんそれぞれの考えによりますが、現状分析から問題解決策を探し、できる限りCSFを絞り込んでいくのが定石です。
現状分析によく用いられるのはSWOT分析です。SWOTは各要素である「Strength」「Weakness」「Opportunity」「Threat」の頭文字を取ったものです。企業の置かれた外部環境や内部環境を、「強み」「弱み」「機会」「驚異」の4つに分けて分析を行うものになります。
KPIを設定する
目標をしっかりと確認し、目標を達成するためのアクションを考察したら、いよいよKPIを設定していきます。
例えば先ほどのスマホゲームの例で言えば、売上高〇〇円ということを目標に据える(KGI)。そしてそれを達成するためにユーザー課金システムを考える(CSF)。
ゴールまでの道筋が分析できたら、ここで「ユーザー課金率」というKPIを設定します。これにてKPIは設定完了です。
もちろんKPIを設定して終わりではありません。重要なのはKPIなどをもとに業務を改善し、目標を達成することです。
次の章ではそうしたKPIマネジメントのポイントについて解説していきます。
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KPIマネジメントの5つのポイント
KPIの設定方法を踏まえた上で、KPIマネジメントの5つのポイントを確認していきます。
KPIと各指標の整合性を確認する
当たり前ですが、KPIと各指標の整合性を確認しておくことは重要です。ここでの整合性とは要するに、KPIの数値が変化した時に、それがしっかりと各指標に反映されるかどうかということです。
スマホゲームの例で言えば、「ユーザー課金率」というKPIが変化したら、「売上高」というKGIも変化するはずです。
もしもKPIが変化しているのにも関わらず、KGIがまったく変わらないとなれば、両者には整合性がないということになります。その場合は早急にKPIを見直す必要があります。
KPIマネジメントの前に、まず「設定されたKPIが適正かどうか」は必ず確認しておきたいです。
達成度を評価する仕組みを作る
KPIマネジメントの意思決定をするのが上層部であっても、実際に業務を行うのは現場の従業員です。
そうした従業員のモチベーションのためにも、KPIの達成度を評価する仕組みを作っておくことが重要です。どれだけ意思決定がしっかりとしていても、現場が動かなくては意味がありません。
たとえば毎月設定した目標と実際の数値を照らし合わせ、「目標を達成した」「後もう少しで目標を達成できる」「目標にまったく届いていない」などの評価をしつつ、社内やチームで共有することができます。
もし目標を達成できていなければ「もう少し頑張らなければならない」と心を入れ替えることができます。
従業員にいわゆる「現在地点」を把握させることはとても重要です。達成度の評価システムを作ることによって、従業員のエンゲージメントをより高めることができるのです。
達成できない場合も想定しておく
もちろん業務を続けていれば目標を達成できない場合もあります。そうなった場合のリスクヘッジをしっかりしておくことは大事です。
例えば「目標数値を10%以上下回った場合」などの基準を設け、意思決定の権限を割り振っておきます。
実際に達成できない状況になったら、基準に照らし合わせ、最終責任者の判断で意思決定をします。この「最終責任者を誰にするか」ということも事前に決めておきましょう。
数値の設定について合意を取る
当然ながらKGIやKPI、CSF、各種数値の設定に関しては関係者間で合意を取っておく必要があります。
先述の達成度評価システムや責任者、リスクヘッジなど、前もって決めておかなければならないことは多いです。
この辺りの合意をしっかりとしておかないと、意思決定に齟齬が生じてしまいます。マネジメントについては事前にしっかりと話し合っておきましょう。そして合意が得られた場合、社内全体にアナウンスしておくことも大事です。
上層部がどんな決定をしたにせよ、実際に業務を行うのは現場の人間ですから、従業員や関係者への周知も忘れないようにしましょう。
もちろん現場の声に耳を傾けることも忘れてはいけません。現場にしか見えないことは沢山あります。より緊密にコミュニケーションを取ることを意識しておきたいです。
定期的な振り返りと改善を行う
達成度を評価するという話と若干重複しますが、定期的にパフォーマンスを振り返り、適宜改善を促していくことは非常に重要です。
PDCAのところでも解説した通り、計画して実行した結果をしっかりとチェックし、改善していくというプロセスの反復が、いずれ目標へと繋がっていきます。
例えば目標を達成できなかった場合、「どうして達成できなかったのか」を分析することが重要です。
それこそマネジメントの腕の見せ所で、しっかりと分析→改善のプロセスを迅速に行えるかどうかで、組織の強度はまったく違ってくるのです。
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KPIマネジメントの3つの失敗例
もちろんKPIマネジメントは意識的に取り組まなければ失敗してしまうことも少なくありません。ここでは失敗例を3点に絞って解説します。
KPIが複数設定されている
KPIマネジメントで散見される失敗例のひとつが「KPIを複数設定する」ことです。
目標を達成するためにKPIを設定することは大事ですが、複数設定をしてしまうと業務の柔軟性が失われ、逆に従業員のモチベーションを下げてしまいます。
そもそもKPIの本質は「一番重要だとされる数値に絞って、プロセスの正当性を確かめる」もので、複数設定するようなものではないのです。
KPIは必ず一つに絞るようにしましょう。
KPIマネジメントが行きすぎている
それからKPIマネジメントが行きすぎていることも問題です。
KPIを設定するのは上層部かもしれませんが、実際に業務を行うのは現場の従業員です。あまりにもKPI偏重の戦略を取ると、会社にとってマイナスになってしまうことが多いです。
例えば「クレーム発生率」をKPIとして設定したとしましょう。それは業績評価にも紐づけられ、よりクレーム発生率の少ない担当者に良い評価が与えられるとします。
担当者はクレーム発生率をゼロにするために奮闘しますが、果たして、クレーム発生率をゼロにすることにどれだけの意味があるでしょうか。
例えば現在のクレーム発生率が5%だったとして、それを0%に近づけていくためにリソースを割くとします。そのリソースはもっと有効に使うことはできないでしょうか?
このように従業員の行動ひとつひとつをKPIで縛り付けてしまうと、従業員はKPIのことだけを考えて業務を行い、もっと大切なことを忘れてしまうのです。
KPIは確かに有効ですが、行きすぎたマネジメントは禁物です。
ビジネス環境の変化にKPIが対応していない
ビジネス環境の変化にKPIが対応していないのもよくある失敗例です。
先述のようにKPIは一つに絞らなければなりません。それこそ「鍵」になる数値を選び取らなければならないのです。
KPIの設定を間違えれば、環境の変化にまったく対応できず、会社に悪影響を与えてしまうことになりかねません。「どの数値をもっとも重視すべきか」を考えるのは非常に難しい作業です。会社の成長に直結しなければ無意味ですし、時には大胆さも求められます。
常にビジネスへの関心を持ち、徹底した分析を継続することによって、「どの数値に注目すべきか」がリーダーに求められています。
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まとめ ポイントを抑えたKPIマネジメントを意識しよう
以上、KPIの基礎的なところから、マネジメントの実践までを概観していきました。
これまで解説してきたように、KPIマネジメントは、企業の成長にとって重要な意味を持ちます。しかし運用をしっかりしなければ、むしろマイナスの影響を与えることになります。
KPIマネジメントで重要なのは、要点をしっかりおさえることです。
自分流で何とかしようとするのではなく、事前のリサーチを徹底し、原則に則った運用を進めていきたいですね。
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参照
中尾隆一郎(2018)『最高の結果を出すKPIマネジメント』フォレスト出版
大工舎宏(2016)『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』日本能率協会