2020/06/08

12兆円の経済損失を生む「2025年の崖」、DXの遅れに経済産業省が鳴らす警鐘

日本企業の大きな課題のひとつとして、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の遅れがあります。
多くの経営者が必要と感じ、様々なデジタル化を図っている企業もあることでしょう。
しかし、そのほとんどは経営改革になっていないと経済産業省は指摘しています。

 

このままでは2025年に12兆円の経済損失

 

経済産業省は2018年に「DXレポート」を公表し、DXの遅れがいかに大きなリスクであるかを指摘しています。
このレポートが、最近再び注目されつつあります。

その内容は
「多くの企業がこのまま既存のシステムを使い続けると2025年には最大12兆円の経済損失が生まれる可能性がある」
というもので、経済産業省はこれを「2025年の崖」と呼んでいます。

レポートでは、「2025年の崖」に直面する理由はこのような現状があるためと指摘しています[1]。

・既存システムが、事業部門ごとに構築されていて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化

・経営者がDXを望んでも、データ活用のために既存システムの問題を解決し、そのためには業務全体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている。

→この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性。

かつ、現状を放置した場合、2025年までに、このような経営面の損失が続くと説明しています。

既存のブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用ができない場合、

1)データを活用しきれず、DXを実現できないため、

  市場の変化に対応して、ビジネスモデルを柔軟・迅速に変更することができず

  →デジタル競争の敗者に

2)システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上に(技術的負債)

3)保守運用の担い手不足で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブ  ルやデータ滅失などのリスクの高まり

ビジネスの変化のスピードに対応できない、維持管理費がかかる、人材不足などのリスクが一気に噴出した時の損失は計り知れない。
まさに「崖から落ちてしまう」という警告でもあります。

それぞれの項目について、すでに起きている問題を見ていきましょう。

 

データ活用不足が業務の足かせに

 

下の図は、DXが先行している企業とそうでない企業の間で、どの分野でDXに見合った経営ができているか(経営視点指標)、あるいはDXの基盤になるシステム構築ができているか(IT視点目標)を比べたものです。


出所:「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」情報処理推進機構
https://www.ipa.go.jp/files/000082544.pdf p9

指標は1~5で表されていますが、このようなレベル分けになっています。

・レベル0 未着手:経営者は無関心か、関心があっても具体的な取り組みに至っていない

・レベル1 一部での散発的実施:会社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている

・レベル2 一部での戦略的実施

・レベル3 全社戦略に基づく持続的実施:仕組みが明確化され部門横断的に実践されている

・レベル4 全社戦略に基づく持続的実施:定量的な指揮などによる持続的な実施。判断が誤っていた場合に組織・やり方を変え、継続的に改善している

・レベル5 デジタル企業としてグローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル

このうち「レベル3」以上を「先行企業」としていますが、全体的にその差は大きなものになっています。

例えば大きな差が生まれている項目の一つ「スピード・アジリティ」の現状はこのようなものです。

筆者の周辺でよく耳にするのはフロント業務への悪影響です。
営業やマーケティングといった現場は目まぐるしいスピードでの変化を強いられています。それにも関わらず、必要なデータをバックオフィスから即座に抽出できないという状況があります。欲しいデータの格納場所がわからない、などの事情です。

特に手入力に頼っている業務が多い場合には、データ化自体が遅れてしまい、ビジネスそのものが周回遅れになってしまうという現象まで起きてしまいます。

例えばある店で、いくつもの商品を並べたとします。
いくらマーケティングを尽くしても、商品の売れ行きは思うようにいかないことがあるのは当然です。

その時に、すぐさま実績を把握して1週間で商品を入れ替えられるのか、1か月様子を見てしまうのか。その時にはトレンドは変化しています。両者の間に雲泥の差が生まれます。

同時にコスト計算もしなければなりません。在庫も把握しなければなりません。そうなると、迅速かつ正確に「社内横断的」なデータを誰もが手に入れられるようにしなければ、スピードを大きく失ってしまうのです。

こうした影響は、バックオフィスが「システムは動いているから大丈夫」と認識している限り、全く見えてこないのが現状です。

 

維持管理費の高騰と技術的負債

 

次に、DXレポートでは
「既存システムの中には、短絡的な観点でシステムを開発し、結果として、運用費や保守費が高騰している状態のものも多い。これは、本来不必要だった運用・保守費を支払い続けることを意味し、一種の負債と捉えることができる」
と指摘しています。

こうした負債は「技術的負債」と呼ばれます。
技術的負債を抱えているということは、将来に渡ってDX実行に必要となるIT投資に資金や人材を振り向けることが難しくなっているということでもあります。
刷新が遅れれば遅れるほど、将来のDXに大きなコストがかかってしまいます。
潜在的な負債とも言えるでしょう。

導入した時点では最新のものであったとしても、定期的な見直しがなされず新技術が取り入れられていないシステムでは、十分に機能しません。
もちろん、余分なコストも発生し続けています。

また、あまりに老朽化したシステムの場合、データだけは膨大に蓄積されている一方で、全貌を把握できない「ブラックボックス化」したものが多くあります。

ブラックボックス化は大きな出費リスクのひとつです。

DXレポートではブラックボックス化の理由のひとつとして、諸外国と日本の間ではベンダーとユーザー企業の関係性が違うことを挙げています。


出所:経済産業省「DXレポート」
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-3.pdf p10

諸外国では、ユーザー企業は内部にITエンジニアを抱えて開発を主導しています。この場合、導入後も自社の中で高頻度かつ細かいメンテナンスが可能です。ブラックボックス化を防ぐことができます。

一方で日本の場合、開発をベンダー企業に「丸投げ」に近い形で契約してしまうケースが主流になっています。
するとメンテナンスにその都度費用がかかる上、問題が表面化しない限り内部は放置されてしまうこともあります。

こうした状態で運用を続けるうちに内部がブラックボックス化、複雑化してしまうと、ベンダー企業にとってもその発見や改修は容易なものではありません。
「開けてみるまでわからない」という部分が多くあるのです。
その結果、見積もりよりもはるかに多額になってしまうことがあり、トラブルも起きています。

 

人材不足で維持不能に

 

さらに、現在すでにレガシー化してしまったシステムを抱える企業が抱える問題は下のようなものもあります。


出所:経済産業省「DXレポート」
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-3.pdf p10

もっとも多く挙げられている「保守・運用が属人的となり継承が難しい」という事柄に関しては、今後ますます深刻化していきます。

技術面を特定の人物だけに頼ってきた場合、いずれその人は退職していなくなってしまいます。
では外部のベンダー企業に改修を依頼するとなると、先ほどのようなコストの問題が存在しますし、いずれ改修が完全に不可能になってしまう時期が来ます。

中には古い世代の言語で構築されていることもあり、その言語を使える人材がいなくなってしまうこともあるでしょう。
IT業界は現代のシステムメンテナンスやアップグレードで手一杯です。また、世界的な競争もしていかなければなりません。
古いシステムの扱いに人材を回すことは割に合わないため、敬遠されてしまいます。

すると、コストだけでなく、維持そのものが不可能な状態に陥ります。

 

経営者は現場の乖離を埋めよ

 

ここまでが実際に起きている、あるいは今後起こりうる事象ですが、DXが進まない理由として、経営層と現場の意識に大きな乖離があることをDXレポートは指摘しています。

なお、DXレポートによると、DX実現にあたって日本企業が課題と感じているのは以下のようなものです。


出所:経済産業省「DXレポート」
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-3.pdf p5

「ビジョンと戦略の不足」は経営陣の問題とも言えます。

経営者からビジネスのやり方をどのように変えるのか、といった明確な説明がなされないまま「AIを使って何かできないか」という指示だけされても、現場は何もできません。
着手したとしても、それが全社的に最適なものかどうかはわかりません。

DXの必要性を感じているといっても、「何のために導入するのか」を経営者が説明できなければ、経営改革に繋がらないのはある意味当然のことです。
部分的な問題解決ばかりを繰り返していても、それは「守り」の投資でしかありません。

また、現場からの訴えがあったとしても、「業務が変わるわけではない」といった考えでシステムの刷新に消極的になっていることや、「使える限りは修理して長く続けた方が安全だ」という意識もあるようです。

しかしDXにあたって、経営トップにしか解決できない問題があります。部門を超えた全社の意識を統一することです。
事業部門ごとに違うシステムを使っている現状では、いざ新しいシステムを導入するとなった時に、自分たちが現在使っているものに似たシステムがいい、とどの部署も考えます。
また、そもそも業務内容によって、DXが必須だという危機感も違います。

それが結果として抵抗勢力となってしまった場合、反対を押し切るのは経営トップの仕事です。
そのような時に、従業員に説明できないようであれば統率はできません。

一時的なコストや、システム刷新直後は社員全体が不慣れな状況に置かれますが、技術的負債を抱えたまま時間が経過することが最大のリスクといえるでしょう。

また、同じことの繰り返しにならないように、社内でシステムをこまめにマネジメントする体制が必要になります。

現代は「攻め」のIT化に切り替えてこそ初めて競争のスタートラインに立てる時代とも言えます。
この傾向が加速する中では、「守り」にばかり時間と費用を費やし続ける余裕はありません。
経営者はの積極的なコミットがなければ、DXそのものが難しいままになってしまうでしょう。

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参照
[1]DXレポート サマリー(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf