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「年上の部下」をマネジメントする力が必須の能力になる

「年上の部下」をマネジメントする力が必須の能力になる

自分よりも年上の社員をマネジメントしなければならない、となると、それだけで気が重くなりがちな人は多いでしょう。
口を挟みにくい、細かい指示をしづらい、厳しくものを言いづらいといった様々な気苦労が生まれます。

しかし、年上であるからには、その部下から学びたいものもありますし、味方につければ強い存在となります。

かつ、年上をマネジメントする能力は、これからの時代に必須の能力になるので、コツを押さえたいところです。

 

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避けては通れない「大量再雇用」の時代

 

「超」高齢化が今後も進むと見られる日本社会ですが、国立社会保障・人口問題研究所は今後の人口ピラミッドの変化を推計しています(図1~3)。


図1~3 ピラミッドの推移(出典:「人口ピラミッド」国立社会保障・人口問題研究所)
http://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/PopPyramid2017_J.html


現在、生産年齢人口のボリュームゾーンになっているのはいわゆる40代半ば以降の「団塊ジュニア」で、2030年にはこの世代は60歳以上に達しています。そして2040年には65歳以上の「前期老年人口」となり、依然人口のボリュームゾーンであることは変わらぬまま、しかし生産年齢人口の数は増える訳ではありません。

定年を65歳に引き上げる企業は増えつつありますが、年金制度の行方が不透明になりつつある中、高齢者の雇用はより大きな問題になっていくでしょう。

そして、定年後も仕事をしている人の勤務先は、下のようになっています(図4)。

図4 定年直後にしていた仕事の就業形態(出典:「60代の雇用・生活調査結果」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/press/documents/20150130.pdf p7

これは平成27年に公表された調査結果ですが、この段階で「勤務先の会社などで再雇用・勤務延長の形で働いていた」とする人の割合が、特に65歳以上の層で大幅に増加しています。

定年前に大リストラをしたという事情でもない限り、この傾向は進んでいると考えられます。

実際、経済産業研究所が2019(平成31)年1月に公表した調査では、定年後「同一企業で継続雇用制度を利用」していると答えた人の割合は6割を超えています(図5)。

図5 定年後の就業状況
(出典:「定年後の雇用パターンとその評価-継続雇用者に着目して」独立行政法人経済産業研究所)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/19j002.pdf p4

この傾向は、団塊ジュニアの年齢が鍵を握っているとも言えます。この世代の年齢に合わせる形で今後は高齢者雇用対策を進めなければならなくなるでしょう。

そして、定年後の社員の継続雇用や再雇用は、役職を離れ、正社員ではなく契約社員や嘱託社員という形も多いでしょうから、ますます「年上部下」は増えていくと考えた方が良いでしょう。

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定年後再雇用となると、再雇用で働くシニアにとってはかつての部下が上司になり、逆に、かつての上司が部下になる、そういったことが当然のように起きます。
役職定年制度を導入している企業ではすでに年上部下のマネジメントを業務とする人は多いことでしょう。

では、年上部下のモチベーションを上げるには、どうすれば良いのでしょうか。

パーソル総合研究所が行ったミドル(40~54歳)、シニア(55~69歳)の「躍進」についての研究があります。まず「躍進を促す5つの行動特性」として以下のようなものが挙げられています(図6)。

図6 躍進を促す行動特性
(出典:「ミドル・シニアの躍進実態調査」株式会社パーソル総合研究所・法政大学 石山研究室)
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201801311100

これらの要素の中には、「年上部下」になった時にコミュニケーションを取りやすい人になってくれそうな人に共通するものも多いのではないでしょうか。
そして、こうした躍進行動とマネジメントの関係性を示したのが下の図7です。

図7 躍進行動に影響する上司のマネジメント行動
(出典:「ミドル・シニアの躍進実態調査」株式会社パーソル総合研究所・法政大学 石山研究室)
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201807130001

「仕事の仕方に対する尊重・裁量の付与」というのはミドル、シニアを通じて共通のプラス要因になっています。

そして、50代と60代ではプラスに働く要因が異なるのがわかります。

50代については「定期的な会話」を重視する向きがあり、60代になると「上司の自己開示」が求められています。

上の図の中で、「平等な関わり方」「責任のある仕事の割り当て」「上司の自己開示」といった項目については、筆者にもかつて経験があります。

筆者がかつて報道の仕事をしていた30代の時、「年上の先輩に指示を出す」ことが数多くありました。筆者に何か役職があるとか、給与の差があるとかではなく、あくまで運用上の立場としてです。

報道の現場では、平常時は分野ごとに担当記者がいるという形を取っています。しかし一つの分野が炎上状態になると、どうしても全員試合をしなければなりません。

流石に60代の先輩に指示を出すことはありませんでしたが、自分より10歳以上年上の先輩に指示を出す必要性が出てきます。
それも、「知恵を貸してください」という綺麗事ではなく、「今からここに行って何をしてきてください」という内容です。

もちろん、結果が「足りないな」と思ったら「もっとこうしてほしい」と追加の要望も出します。

とにかく時間がないのです。年齢がどうこうなど言っている余裕はありません。

もちろん、「実力主義」「適材適所」で運用されている実態について理解のある人が多い組織だったこと、「指揮してまとめる仕事が一番大変」という共通認識があるのも幸いして軋轢が生じたことはありませんでしたが、今、この原稿のために上の図を見たとき、腑に落ちるものがあります。

「平等な接し方」「上司の自己開示」「責任の割り当て」この効果は大きいと改めて感じます。

平等性というところでは、「とにかく『メンバーの一員として』力を貸してほしい」という純粋な訴えです。

そして「自己開示」については、このような事です。

ひとつの事案について、その日の人員配置をオープンにし、全員で共有することです。
その日の事案に当たって、オンエア時間はもちろんのこと、「部員の誰がどこでこのようなことをしている」「どのような連絡系統を取っている」「今、これが足りなくて困っている」などを開示することで、「自分が補うべき仕事はこれだ」と考えてくれます。

また、「わからないことがあったら相談する」と言ってくれたり、自身の経験から「こんなこともできるよ」「前にこんな取材をしたから映像を使えるかも」とアドバイスをくれることさえあります。そこで「責任感」が生まれます。

中にはとても「人の良い」先輩がいて、「どう考えても今日はあいつは大変だろう」と空気を読んで、自主的に休日出勤してくれた先輩もいました。

年下上司の特技を把握し、「頼りになる助っ人」という認識を持って接してきました。

そして、顔を合わせた時に、具体的に「あの時、あの仕事を手伝ってくれて助かりました」と声をかけるようにしていました。「おだてる」のではなく、心からです。

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今の時代感覚で行けば、「キャリア形成を意識しながら、学びながら働くこと」は当然の風潮ですが、「年上部下」の世代は少し違うものがあるかもしれません。
ちょうど、今のマネジメント世代を分岐点に、「年上」「年下」では仕事に対する価値観が変わる時代背景があります。

いわゆる「バブル世代」と、「不景気が当たり前」の若い世代が組織には混在します。両者の間では、組織への帰属意識も大きく違います。

先を見据えると、この意識のギャップを早い段階から平坦化していく必要があります。

「組織への帰属意識」はシニアの良いところであり、「実力・成果主義に肯定的」なのは若者の良いところです。

それぞれの良さを活かせる組織の方針を持つのが良いでしょう。

そのためにも、定年前から再雇用後の実態を伝えておく必要があります。学習会や講義を開くのも良いでしょう。

年下が上司になるという現実もそうですが、象徴的なのは雇用形態が変わり、賃金が大幅にダウンすることです。このことでモチベーションが下がるシニアは多いことでしょう。待遇については詳細に説明しておいたほうが、後のためです。

また、幅広い部署の現在の現場の様子、変化する時代に対応するための今後の組織の方向性、若い人の意見など、ギャップの大きそうな事柄についてはあらかじめ積極的に開示し、「これまでの延長で働く」こととは違うのだという意識を持ってもらうことが必要です。

言いづらいことやナーバスな話題については、外部講師を利用するのも良いでしょう。

また、「学習の必要性」についても意識してもらいたいところです。これまでのやり方が通用しなくなることが多いでしょうから、固執されるとマネジメントしづらくなります。

実際、学習や自己啓発については、このような傾向があります(図8)。

<自己啓発の実施状況・年齢階級別>

図8 自己啓発をした人の年齢別割合(出典:「平成30年度 能力開発基本調査」厚生労働省)を元に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/104-30b.pdf p48

20代をピークに、自己啓発に取り組んだ人の割合は減少していきます。

取り組んでいない理由として最も多いのは「労働時間が長く余裕がなかった」というもので、他には費用がかかりすぎる、どのようなコースが良いのかわからない、自己啓発の結果が社内で評価されない、と理由は様々です。

しかし定年が近づく立場になると労働時間も減っていくでしょうし、今の会社での再雇用を望む人には会社の方向性としてどのような学習が好ましいかを示すこともできるでしょう。

本人のこれまでのキャリアをゆっくり振り返ってもらう時間も必要です。その上で再雇用という形で会社に対して何ができるか、考えてもらいましょう。

「再雇用は再就職である」ことを理解してもらい、かつ、若者にも示しがつく形のマネジメントが求められます。

もちろん、今の段階で問題行動の多い上司がいれば、それは再雇用の対象外だと割り切る姿勢も必要です。

 

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