仕事を進める上で、クライアントやステークホルダーの方々から「ビジョンは何ですか?」と聞かれることは多いのではないでしょうか?
ビジョンは、企業の価値観、目標、将来性を端的に表すため、非常に重要な要素です。
そこで本記事では、ビジネスにおけるビジョンの意味や策定手順などについて解説していきます。
ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ビジネスにおけるビジョンの意味とは
そもそも「ビジョン」という言葉には、以下のような意味があります。
- 理想像
- 未来像
- 展望
- 構想
つまりビジネスにおけるビジョンとは、企業活動における理想像や展望を指す言葉です。
一般的に企業は「利益を追求する組織」ですが、近年は利益追求だけではなく、持続性や将来性にも関心が集まるようになっています。
また、ビジョンは多くのステークホルダーの関心を集める要素でもあるため、簡潔かつわかりやすいものにすることが大切です。
実際、多くの企業が自社のホームページでビジョンを掲載しているので、ぜひ見てみるといいでしょう。
同業種でもビジョンは異なることがあるので、ある種の差別化要因になり得ます。
ビジョンと目標との違い
ビジョンに近い言葉として「目標」が挙げられます。
目標は「目印となるもの」や「達成を目指す水準」という意味です。
そのため、ビジネスにおける目標は「企業活動における達成水準」となります。
ビジョンと目標の違いとして、ビジョンが「言葉」を用いるのに対し、目標は「数字」を用いることが多い点が挙げられます。
ビジョンは、社会における自社事業の在り方や方向性を指し示すものが多いと覚えておきましょう。
短期ビジョン・長期ビジョンの違い
ビジネスにおいては、しばしば「短期ビジョン」と「長期ビジョン」というように分けて捉えられることがあります。
2つの違いは以下の通りです。
短期ビジョン | 長期ビジョン | |
期間 | 1〜3年 | 5年以上 |
位置付け | 長期ビジョンまでの通過点 | 最終的な目標 |
達成実現性 | 高い | 短期ビジョンをいくつかクリアする必要がある |
基本的にビジョンは長期的な展望を表すことが多く、数十年後を見越したビジョンを掲げる企業もあります。
しかし、あまりにも長期的なビジョンは漠然としすぎていて実感が湧きません。そこで、短期的なビジョンと組み合わせます。
マイルストーン形式で短期ビジョンを設定することで、ステークホルダーに実現可能性を示せるようになるのです。
ビジネスにおいてビジョンが必要な理由
ビジネスにおいてビジョンが必要な理由として、方向性を確立させることの重要性が挙げられます。
ビジョンを明確にすることで、従業員は意思決定の際に正しい判断ができるようになり、企業全体が一体となって行動できます。
また、ビジョンを設定しておくことで、ステークホルダーの方々に自社の価値観や方向性を簡潔に示せるでしょう。
自社の価値観に共感してもらえるステークホルダーを集めることは、企業活動で非常に大切なことです。
ビジョンがもたらすメリット
ビジョンがもたらすメリットは以下の通りです。
- 従業員が一貫した意思決定ができるようになる
- ブランディングに繋がる
- ステークホルダーからの信頼が得られる
明確なビジョンを打ち出すことができれば、多くのステークホルダーに自社の価値観を共有することができ、ビジネスを有利に進められるようになります。
ビジョンは、いわば方角を示すコンパスのようなものです。従業員の意思決定の際に明確なビジョンがあれば、判断に迷わなくなります。
そしてビジョンは、そのままブランディングにも繋がります。ビジョンを強く信じるステークホルダーは、企業に対して長期的に支援するようになるでしょう。
ビジョンがもたらすメリットは、非常に大きいと言えます。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは
近年、多くの企業がミッション・ビジョン・バリュー(MVV)のフレームワークで、自社の経営戦略を明文化するようになりました。
MVVは、元々ピーター・ドラッカーが著書『ネクスト・ソシャエティ』の中で重要視していた要素で、それが現代ビジネスでも引き継がれているようです。
先ほども述べた通り、ビジョンは「未来像」や「展望」という意味を持ちます。一方でミッションは「使命」で、バリューは「価値観」という意味です。
まずはミッションを大々的に掲げ、その中でビジョンが方向性を示し、バリューが具体的な行動基準(価値観)を示すという形が一般的です。
ビジョンを策定する手順
ビジョンを策定する手順は以下の通りです。
- 自社の価値観を明確にする
- 将来の企業環境を推測する
- ビジョンを言語化する
それぞれ詳しく解説していきます。
手順①:自社の価値観を明確にする
まずは自社の価値観を明確にします。
自社がステークホルダーに対してどのように価値を提供し、どのような価値観を共有しているのかを明確にするのです。
価値観を明確にする行為は、これまでの自社の在り方と向き合うことと同義です。
自社がどのような価値観を持って創業されたか深掘りし、これまでの社史を振り返った上で、価値観の原点を探していきます。
自社の価値観を深掘りする際には、従業員やステークホルダーにヒアリングするのもいいでしょう。新しい発見があるかもしれません。
自社の価値観を明確にできれば、これから進むべき道が見えてくるはずです。
手順②:将来の企業環境を推測する
自社の価値観を明確にしたあとは、自社を取り巻く環境を分析していきます。
その際に有効なフレームワークがSWOT分析です。Strength(強さ)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)の4つの視点で、自社の立ち位置を分析できます。
自社を取り巻く環境として、ビジネス社会、社会全体を俯瞰してみる必要があり、法律施工による社会の変化なども見逃せません。
業態によっては政府が既に新法の施行日を公表しているケースもあるので、企業環境の短期的な推測は充分に可能です。
法律だけでなく、国際情勢、経済、テクノロジー、競合他社などの様々な要素で未来を推測していくことが大切です。
特にテクノロジーは進化の速度が速いので、ITに知見のある人材を確保するのがいいかもしれません。
この際に、市場が気付いていない潜在ニーズを掘り起こせればベストです。具体性を持って分析を進めましょう。
手順③:ビジョンを言語化する
将来の企業環境を推測して、自社の目指すべき立ち位置が明確になったら、ビジョンを言語化していきます。
ビジョンを言語化する際は、単純明快にきっぱりと断言するのがいいでしょう。一般的には1行から3行で簡潔に示されることがほとんどです。
逆に、ビジョンが不明瞭になってしまうと、ステークホルダーが不信感を抱くようになります。可能な限り明確に、かつ簡潔に言語化しましょう。
また、ミッション、バリュー、社史との関連性を持たせることも重要です。整合性の取れたビジョンはステークホルダーに安心感を与えます。
多くの企業がビジョンを公表しているので、文章の使い回しなどを研究して、ステークホルダーに響くフレーズを研究してみるといいでしょう。
従業員が賛同するビジョンを策定するポイント
ビジョンは社内の従業員にとっての指針でもあるので、従業員からの賛同が得られるビジョンを策定する必要があります。
策定にあたってのポイントは以下の2つです。
- 明確かつ具体的であること
- 倫理的であること
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント①:明確かつ具体的であること
従業員が賛同するビジョンを策定するポイントとして、まず挙げられるのが「明確かつ具体的であること」です。
例えば「AIで世界を変えます」と言われても、具体的にどのように変えて、どのような社会を実現させようとしているかが明確に見えてきません。
これが「誰もがAIを簡単に使えるように」や「身近なところにもAIを」であれば、ある程度の具体性が出てきます。
「誰もがAIを簡単に使えるように」であれば、従業員は「多くの人にとって使いやすいAIを設計しよう!」というようにモチベーションを発揮できるようになるでしょう。
抽象的でふわっとしたビジョンでは、従業員からの信用を失います。可能な限り明確かつ具体的なビジョンを策定しましょう。
ポイント②:倫理的であること
従業員が賛同するビジョンを策定するポイントとして「倫理的であること」が挙げられます。
大量消費社会による弊害が顕著になっている現代では、ビジネスに「倫理」が求められるようになっています。
例えば「最大の利益を追求する」や「市場の完全支配」などのビジョンは、倫理的ではありません。
もちろん、利益も市場シェアもビジネスにおいて重視すべき数字です。
しかし、それをビジョンに据えてしまうと「お金稼ぎのための企業」というように認識されてしまいます。
ビジョンを設定する際は「倫理的であること」を重視した方がいいでしょう。
そして、倫理的なビジョンを策定するには、国際社会や貧困などに対する理解が必要不可欠です。経営層のリテラシーが問われます。
ビジネスにおいてビジョンを示すのに最適なシーンとは
ビジネスにおいてビジョンを示すのに最適なシーンとしては、以下が挙げられます。
- 社員研修
- 株主総会
- 決算報告
- 経営計画発表会
- SNS
何かを広く周知させることの基本は、人が集まる場所で告知することです。
従業員が集まる社員研修や、多くのステークホルダーが集まる経営計画発表会でビジョンを発表するのが効率的だと言えます。
また、SNSで日頃からビジョンをアピールするのもいいでしょう。
自社のビジョンに関するニュースがあったら、それをリツイートするなどして、自社のビジョンを少しずつ普及させていきます。
著名企業のビジョン例
ここでは世界的に有名な企業のビジョンを解説していきます。
世界トップに位置する企業は、いずれも強烈なビジョンによって成長したと言っても過言ではありません。
著名企業のビジョンから学べることは多いです。ぜひ参考にしてみてください。
例①:Tesla
まず紹介するのは、イーロン・マスクが率いるTeslaです。
Teslaは「世界のエネルギーをクリーンにする」をビジョンに掲げ、数多くの事業でビジョンを実現させようとしています。
Teslaと言えば電気自動車や自動運転が有名ですが、それ以外に太陽光電池や蓄電池事業にも積極的に力を入れています。
電気自動車も、言わば「大容量蓄電池を搭載した自動車」です。
ビジョンでも分かるとおり、Teslaは自動車企業というよりは「エネルギー企業」の方が正しい認識だと言えます。
Teslaが自動運転を積極的に進めているのも、自動車台数の総数を減らすためだと考えられます。
このようにTeslaのビジョンが詰まった事業はいずれも魅力的で、多くのステークホルダーからの注目を集めるのも当然かもしれません。
例②:Amazon
次に紹介するのはEC最大手のAmazonです。
Amazonのビジョンは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」で、顧客第一至上主義を徹底的に貫いています。
その最たる例が、Amazon Primeです。
ユーザーはプライム会員になることで送料が無料になるだけでなく、映像配信サービスや写真用のストレージなどのさまざまなメリットを享受できます。
創業者のジェフ・ベゾスは「地球上で最も豊富な品揃え」もビジョンに掲げており、実際、Amazonで買えないものはほとんどないと言っていいでしょう。
徹底的に消費者の利便性を追求した結果、Amazonは書店を始めとする多くのビジネスを潰してきた過去があります。
しかしそれは全て「顧客第一主義」を徹底した結果に過ぎないのです。
少なくとも多くの消費者にとって、Amazonが無くてはならないものになっているのは間違いありません。
例③:Apple
最後に紹介するのはAppleです。
Appleには実は明文化された経営理念が存在せず、ビジョンらしきものもありません。
その代わり、世界的なカリスマであるスティーブ・ジョブズの考え方が今でも強く浸透しています。
ジョブズが残した言葉は、どれも印象的ですが、その中でもAppleのビジョンと呼べそうなのは「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」が挙げられるでしょう。
ただテクノロジーを進化させるだけでなく、そこにリベラルアーツ(教養)を掛け合わせることが、Appleにおいて非常に重要な考え方となっています。
その結果、Apple製品はどれも洗練されたデザインで、OSも非常に使いやすいです。そしてApple Vision Proのように、世界を変えうるプロダクトも開発していきます。
今回紹介したTeslaやAmazonも、1人の創業者による強いビジョンが、企業を成長させる原動力になっているように感じられます。
これは世界的な大企業に限った話ではないでしょう。経営者の強いビジョンが、企業を大きく成長させるのではないでしょうか。
まとめ
本記事では「ビジョン」について解説してきました。
これからの社会は「変化が非常に激しくなる」と言われています。ビジョンを明確にしておけば、意思決定で迷うことも減ってくるでしょう。
逆に明確なビジョンがないと、従業員の意思決定がブレてしまい、会社全体の統一感が失われる可能性があります。
簡潔かつ具体的なビジョンを策定できるといいでしょう。